姫君について - タテ書き小説ネット

姫君について
tsura
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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︻小説タイトル︼
姫君について
︻Nコード︼
N9773DC
︻作者名︼
tsura
︻あらすじ︼
ミゼルにとって他人から好かれることは日常的で、彼女が本気を
出せば落とせない男はいない。しかし彼は政略結婚によって誰もが
羨む女を手に入れたというのに、彼女を支配しようとも束縛しよう
ともしなかった。
本編はこちら↓﹃姫君と下僕﹄
1
︵前書き︶
※番外編/本編よりも前の話。
2
ミゼル=ノエンナ・ハスニカを嫌う貴族は決して少なくはない。
ノエンナ領主ハスニカ家の長女である彼女の微笑みは誰をも魅了す
るが、誰に対しても向けられるものではないからだ。彼女は身の回
りに寄ってくる者を選ぶ。自分が認めた相手とそうでない相手、も
しくは利用する価値もない相手に対する態度があまりにも露骨であ
るため、魅力的な笑顔を与えられなかった者は彼女を貶めることで
自分を慰めるしかなかった。男は﹁いくら魅力的でもあんなわがま
ま女にはつき合えない﹂とこき下ろし、女は﹁相手によって態度を
変えるなんて感じが悪い﹂とひがむ。しかし彼女が地元の有力貴族
を誘惑して領地をまとめ上げたのも、権力者に媚びることによって
敵対領地の貴族を大人しくさせたのも事実だったので、むしろ陰口
を叩く側が無能な敗北者と後ろ指を差されるのが現実だった。彼女
は聖女でも偽善者でもないのだから。
それほどまでに魅力的なミゼルが結婚をした。領地を守るための
政略結婚だ。相手はかねてより親交があり、急速に力をつけてきた
有力貴族ツァイト家の次男。なぜ長男でなく次男を選んだかという
と、家同士の力関係で妥協した︱︱わけでは決してなく、単純に自
尊心の強い長男より次男の方が間が抜けていて言いなりになりそう
だと思ったからだ。跡継ぎという有力株を見すごす事情はもちろん
他にもあったのだがそれはまた別の話。目論見通り、夫は妻のお願
いには逆らわなかったし、わざとらしく甘えて笑顔を振りまけば顔
を赤らめて従った。ミゼルにとって好かれることは日常的で、彼女
が本気を出せば落とせない男はいない。夫のことは好きでも嫌いで
もなかった。外見は至って普通、童顔は可愛げがあるかもしれない
が群衆に紛れたら見つけ出すのは困難に違いない。主体性がなく衝
突を避けるようにころころと意見を変える。毒にも薬にもならない、
3
という言葉が当てはまるだろうか? ただし素晴らしい長所がある。
彼は政略結婚によって誰もが羨む女を手に入れたというのに、それ
を自らの手柄と勘違いして驕ることはなく、妻を支配しようとも束
縛しようともしなかった。つまり身のほどを知る程度には謙虚で卑
屈だった。焦れったくなった彼女の心をほんの少し、動かしてしま
うくらいに。
﹁ねえダスト様、どちらにいらっしゃるの? 今日はずっと邸にい
るって仰っていたのに⋮⋮まさか気が変わって私を置いて出かけた
りしてないわよね﹂
使用人に呼びに行かせたものの、いつまで経ってもやってこない
夫に痺れを切らしたミゼルは自分の足で探していた。そもそも待た
されるという境遇に彼女は慣れていない。趣味も性格もまったく違
う二人が日中同じ場所にいることは珍しく、こんな貴重な休みは滅
多にないというのに。支配しない、束縛しない、ということは裏を
返せば構ってくれないという意味にもなる。こんなに魅力的な女を
妻にしておきながら一体どういうつもりなのか。彼女は夫の予定を
把握してから他の男との約束をすべて断っている。
﹁十分に有り得るわ、身体を動かしてないと落ち着かないんですも
の。だからといって私を放っておいて良い理由にはならないけれど﹂
外に出れば手がかりがあるかもしれない。というよりも、後であ
ちこち探し回ったと文句を言うために捜索範囲を広げるつもりだ。
機嫌を損ねた妻に夫がぺこぺこと頭を下げるのはもはや日常茶飯事
︱︱玄関に向かったところで外から戻ってきた使用人と鉢合わせた。
﹁ああ、奥様、ちょうど良かった。お庭にいらっしゃいましたよ﹂
﹁ありがとう。一人で大丈夫よ、ご苦労様﹂
ミゼルは使用人に対しても惜しみなく笑顔で魅了する。彼らを便
利に扱うにはそうするのが一番楽だと分かっているからだ。
4
夫は陽の当たる区画で蔦の這う外壁にもたれかかってうたた寝を
していた。眠っているといつもよりずっと表情が子どもっぽい。周
りに彼の上着が散らばっている。きっと運動でもして汗をかいたの
だろう。外周を走ったりしたのだろうか?
﹁風邪を引いてしまうわ﹂
陽射しは暖かいといっても風がある。ミゼルは脱ぎ捨てられた上
着を拾って軽く埃を払うと夫の肩にかけてやった。そして隣に腰を
下ろして横顔を覗きこむ。疲れて眠ってしまうほど身体を動かすな
んて、そんなに邸の中は退屈なのだろうか。
⋮⋮この私がいるのに。
誰もがミゼルの笑顔を求めて我先にとやってくるのに、彼はあま
り自分からは近寄ってはこない。高嶺の花を遠くの崖の下から﹁綺
麗だね﹂と笑って、ただそれだけ。
ミゼルは彼のことが好きでも嫌いでもなかった。お互いを良く知
らないまま結婚したのだから当たり前だ。しかし。
﹁可愛い寝顔﹂
指先でつん、と頬に触れてみる。声が届いたのだろうか。きっと
眠りが浅いのだろう。う∼んと小さくうなった後、彼は夢の中から
彼女に応えた。
﹁⋮⋮きみのほうが、ずっとかわいいよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ばか﹂
ミゼル=ノエンナ・ツァイトは夫のことが好きである。理由なん
て、知らない。
5
︵後書き︶
︻終︼
6
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n9773dc/
姫君について
2016年5月27日03時51分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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