05/02 anaロg - タテ書き小説ネット

05/02 anaロg
熊と塩
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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読書の秋にはまだ程遠く。
anaロg
︻小説タイトル︼
05/02
︻Nコード︼
N6500BE
︻作者名︼
熊と塩
︻あらすじ︼
一日一話・第二日
1
小鳥のさえずりを聴きながら、カードキーをかざした。木の葉を
揺らして吹き抜けていく風の音と共に、シャッターはなめからに開
いた。
﹁やあ、来たね﹂
いつも通り、彼女は真ん中の席に一人きり陣取って、本を開いて
いた。
図書室には他に誰も居ない。誰も、紙媒体なんていう過去の遺物
と、その墓場などに興味が無いからだ。テキストを読みたいと思う
ならネットからデータで取得する。しかし彼女は、この人工太陽光
が目に優しいんだと言って、気に入っている。確かに、森の一角を
模し、木の葉を透けて落ちてくる陽の光や、揺らめく影までエミュ
レーションしたこの部屋は、皮肉にも人が少ないが故に落ち着ける。
私から言わせれば、その影がチラついて読書の妨げになるが。
﹁またそんなものを読んで﹂
彼女の読み物の表紙を覗き込んで、つい口を突いて出るのはそん
な言葉だ。タイトルは私も聞いた事があるという程度だが、ゼロ年
代を特徴する暴力描写の強いスリラー。この穏やかな空間には似付
かわしくないものだし、彼女と比べても、同じ事が言える。
﹁なら何故君は源氏物語を読むんだい? あれだって見ようによっ
ては官能小説だ。面白いものは面白い、それで良いじゃないか。歴
史があるかどうかなんて問題じゃないし、新しいものを封鎖したら
次の歴史が生まれない。どうしてそこが解らなかったんだろうね、
かつての大人達は﹂
﹁君の小説に対する愛情はよく解ったよ﹂
彼女は理屈っぽくていけない。多くの人は彼女を嫌う事だろうが、
私はどうも、嫌いになれない。だから彼女に会いに、わざわざ休み
時間を使ってやって来てしまうのだ。
2
﹁それはここの蔵書じゃないね﹂
﹁ああ、買ってきたんだよ。ちょいと大人びた服を着て、成人コー
ナーへ﹂
﹁危ない橋を渡る。捕まっても知らないよ﹂
﹁ご安心を。例え捕まっても、どっちにしろ君には関わり無い事だ﹂
身も蓋も無い事を言うものだ。
﹁でも、友達でしょう?﹂
﹁友達﹂
私の言葉をリピートして、しおりも挟まずパタリと本を閉じる。
そして再び﹁友達ね﹂と繰り返した。
﹁毎日の様に読書の邪魔をするのが?﹂
﹁そりゃ、そういう側面もあるだろうけど。代わりに毎日話してる﹂
﹁ふむ。じゃあ、煩わしいものなんだね、友達というのは﹂
﹁それも側面。本を読むのと同じだよ。時間や意識は取られるけれ
ど、その分実りはある﹂
﹁成る程ね、それなら納得だ。かねてから疑問だったんだよ。何故、
人は群れるのか。そうして時間を浪費したい訳だな。この本と同じ
様に﹂
やれやれ、だ。これだから、よっぽどのもの好きで無ければ彼女
と話したがらない。
私が溜息を吐くと同時に、彼女がすっくと立ち上がった。休み時
間が終わるまでまだ数十分はある。﹁どうしたの?﹂と尋ねると、
﹁いや、バッテリーが足りないんだ。読書というのはリソースを食
う作業だから。しかし目を通して文章を取り込まないと、読んでい
る気がしない。デジタルデータでは味気無いし﹂
﹁リチウムイオンなんて使っているからだよ。新型のに換えたら?﹂
﹁うちにそんなお金は無いよ。それに⋮⋮﹂
一瞬そこで言葉を切って、私をちらりと見る。
﹁先程からエラーが出てる。君が友達と言い出した時からだ﹂
﹁嬉しいなら嬉しいって言ったら?﹂
3
﹁<嬉しい>がエラーになるもんか﹂
机に本を残したまま、立ち去ろうとする。呼び止めると、﹁それ
は貸すよ﹂と答えて、早歩きに出て行ってしまった。
彼女が去った後の図書室で、ふと空を見上げる。悠々と流れてゆ
く雲は嘘っぱち。ちょっと外に出れば同じ物があるのに、どうして
作らなければならなかったんだろう。
デスクに、トンと小鳥が舞い降りてきた。おいでと指で呼ぶと、
その通りに飛び跳ねて、私の指に乗る。重みの無い幻影は、私の顔
を仰ぎ見て、首を傾げた。
﹁君くらい簡単なプログラムなら良いのにね。複雑だと素直じゃ居
られないんだ﹂
それが面白いんだけど。
﹁ああ、お腹減った﹂
4
︵後書き︶
一日一話・第二日。
5
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n6500be/
05/02 anaロg
2012年10月18日14時14分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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