人工膝関節全置換術後 1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子の検討

第48回日本理学療法学術大会(名古屋)
P-A運動-177
人工膝関節全置換術後 1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子の検討
牛島 武 1), 上原 一輝 1), 久木元芳輝 1), 鉄田 直大 1), 阪本 真琴 1), 米村 美樹 1), 當利 賢一 2),
坂田 大介 1), 東 利雄 1), 三宮 克彦 1)
1)
熊本機能病院 ,
2)
介護老人保健施設清雅苑
key words 変形性膝関節症・人工膝関節全置換術・杖歩行自立
【はじめに、目的】当院では変形性膝関節症(以下、膝 OA)に対する人工膝関節全置換術( 以下、TKA )後に、リハプログ
ラム進行の効率を図るためクリニカルパスを導入している。入院期間は 4 〜 6 週であり、退院基準のひとつとして杖歩行
の安定をあげている。今回、1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子を調査し、検討することを目的に、本研究を行った。
【方法】2011 年 4 月〜 2012 年 3 月までに当院にて TKA を施行した 112 例 150 膝を対象とした。内訳は男性 21 名 28 膝、女
性 91 名 122 膝、平均年齢 75.9 ± 7.7 歳であった。術後 1 ヶ月時点において、院内移動能力が杖歩行自立群(以下、自立群)
と杖歩行非自立群(以下、非自立群)との 2 群間に分け調査を行った。調査項目は、年齢、罹患関節(片側・両側)
、入院時
Body Math Index(以下、BMI)
、入院時・1 ヶ月時・退院時の膝関節伸展・屈曲角度、障害高齢者の日常生活自立度判定基
準、認知症老人の日常生活自立度判定基準、FIM 項目(セルフケア・排泄コントロール・移乗・移動・コミュニケーション・
社会的認知・総合計)とし、それらの関連について Mann-Whitney test、t 検定、χ 2 検定を用いて検討した。更に有意差あ
りの項目について、術後 1 ヶ月時の杖歩行自立の有無を目的変数とし、その他の変数を説明変数とした多重ロジスティッ
ク回帰分析(変数増減法)を行い詳細な因子を検討した。統計学的有意水準は危険率 5%未満とした。
【倫理的配慮、説明と同意】
当院の臨床研究審査委員会の承認に基づき行った。
【結果】自立群および非自立群の入院時膝関節伸展角度において、− 9.3 ± 7.8°/ − 13.5 ± 9.2°:p<0.01、1 ヶ月時膝関節伸
展角度− 3.2 ± 4.6°/ − 5.0 ± 4.7°
:p<0.01、退院時膝関節伸展角度− 3.2 ± 4.9°/ − 4.9 ± 4.2°:p<0.01、1 ヶ月時膝関節
屈曲角度 120°/110°
:p<0.05 と有意な差が見られた。また、入院時の BMI25.4% /26.6%:p<0.01 と差があった。多重ロジ
スティック回帰分析の結果、1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子として、入院時の膝関節伸展角度オッズ比(以下、OR)
1.05、95%信頼区間(以下、95% CI)
:1.00-1.10、1 ヶ月後の膝関節屈曲角度 OR:1.03、95% CI:1.01-1.05、入院時 BMI OR:
0.90、95% CI:0.83-0.99 の 3 項目が抽出された。モデルの判別的中率は 66.07% であった。
【考察】1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子として、入院時膝関節伸展角度、1 ヶ月時膝関節屈曲角度、BMI の 3 項目に関
連を認めた。非自立群は、入院時に膝関節伸展制限・1 ヶ月時膝関節屈曲制限があること、BMI の数値が高いことが関与
したと考える。非自立群の入院時膝関節が伸展しないのは、膝 OA の病態である屈曲拘縮の影響と思われる。屈曲拘縮を
認める膝 OA 患者は、重心が後方化し歩行時に膝関節へのストレスを増大させている状態である。TKA 後、外科的介入す
るも入院時に認めた伸展制限因子の一部は残存し、TKA 後も膝関節屈曲位歩行をきたしやすい。そのため、歩行時の膝関
節へのストレスは持続し膝関節伸展筋群の筋緊張亢進、筋柔軟性を低下させる。BMI が高値であることが膝関節へのスト
レスをさらに強め、1 ヶ月時の膝関節屈曲角度に関与したと考える。よって、早期の膝関節伸展可動域の改善が有用とな
る。BMI が高値の患者の特徴として、澤田らは関節位置覚が低下していたと報告している。位置覚の低下は下肢協調性に
影響を及ぼし、double knee action や立脚後期の足関節底屈運動が欠如した stiff knee gait を招くことが考えられる。これ
らの歩容の継続が膝関節伸展可動域の改善を遅延させ、1 ヶ月時の膝関節屈曲制限に関与したと考える。今回の結果より、
TKA 後 1 ヶ月時の杖歩行自立に関与する因子が明らかとなった。術前・術後リハでは、膝関節伸展・屈曲可動域を改善さ
せ、膝関節への負担を考慮した体重コントロールを行い、歩容を改善していくことが有用である。
【理学療法学研究としての意義】早期に杖歩行を自立するためには術前リハの介入、早期の膝関節伸展・屈曲可動域の改善、
ウエイトコントロール、固有受容器へのアプローチを行い、歩容の改善を進めることが有用である。