当科における疾患の治療方針・ 外来管理のチェックポイント ー膝関節疾患ー 福島県立医科大学医学部整形外科 膝クリニック 沼崎広法 手術件数(最近4年間) • • • • • • • • ACL再建術 TKA Revision TKA MPFL再建術 半月板切除術(単独例) 半月板縫合術(単独例) 単顆型人工膝関節置換術 高位脛骨骨切り術 100 150 50 20 120 8 12 4 ACL損傷 • 身体的に若いスポーツ競技者のACL完全断裂 ⇒ACL再建術を行うことが多い • 反復する膝くずれは、半月板および軟骨損傷を引き 起こす ACL再建術 ー骨付き膝蓋腱(BPTB)による手術 ー • Surgen favarite OP? – ゆるい膝にはなりにくい • 骨孔内治癒:骨と骨の癒合である • 骨と腱のdirect insertionが温存される – スポーツレベルの高い症例やMCL損傷合併例など、特に頑強なタイプの男性には、自信をもっておすすめできる。 – 欠点: • 移植腱採取部の疼痛が残りやすく、跪く動作が困難となりやすい。 • HTに比べて、若干Stiff kneeになりやすい。 ACL再建術 -ハムストリング腱(HT)による手術- • Patient favorite OP? – 移植腱採取部の疼痛がBTBより圧倒的に少ない – 欠点 • 深屈曲での膝屈曲筋力が低下する – バレエダンサーや柔道の技などで支障となりうる • 2ルートでの手術となりやや煩雑 • ゆるみが出やすい心配の種が、BTBよりもある – 骨孔内治癒:骨と腱の癒合(sharpy fiberによる)、骨と腱のindirect insertionとなる。バンジージャンプ 効果 ACL再建術の後療法 • 入院期間:3日~7日 • 術後リハビリスケジュール – 荷重制限なし(痛みに応じて) – 屈曲制限なし(痛みに応じて) – 伸展は3週間程度は無理しない – 2~3カ月でジョギング – 4~5カ月でジャンプ・ダッシュ・スポーツ動作 – 最短6か月で競技復帰 ACL再建術の治療成績 • 90%は「正常」または「ほぼ正常」 – IKDC (international knee documentation committee)評価にて • 再断裂:5% ACL再建術後の外来 • リハビリスケジュールを守っているかどうかの確認。 – 術後時期につき設定された目標ROM達成の確認。 – 筋力訓練の遂行状況、達成状況の確認。 • 関節液の貯留や炎症の遷延がないかどうかの確認。 • Stabilityに問題がないかどうかの確認(慎重なLachman testによる評価)。 • BPTBでは伸展制限が問題となることがある。 • BPTBではkneeling painが問題となることがある。 • HTでは、屈曲ラグが問題となることがある。 • 早すぎる復帰による再断裂の危険性がある。 • スポーツ復帰後の半月板損傷の可能性 • 抜釘+関節鏡は、術後1年で行うことが多い。 • 特に問題がなくても、術後2年は経過観察を行う。 TKA • 適応 – 保存療法にもかかわらず、歩行時の疼痛が強く、 そのために日常生活に制限・支障をきたしている 中期~末期の関節症 – 年齢は50代後半ぐらいから(できれば65歳以上) • RAなら50歳以下でも行うことあり 術前 当科でのTKA • 通院で自己血貯血 400~800ml (貯血なしで可能の場合も) • 硬膜外麻酔あるいは大腿神経・坐骨神経ブ ロックを併用し、積極的に除痛を図る • 入院期間:3週間程度 • 6週~3カ月で歩行改善・疼痛改善 TKA 外来チェックポイント • DVTではないか? – 症候性DVTであれば下肢の腫脹が出るが・・・ – 無症候性のDVTが、PTEを引き起こすことも。 – 通常、入院中であることがほとんど。 – 診断は造影CT TKA 外来チェックポイント • 感染ではないか?(1%) – 術後より続く痛み。慢性の経過をたどる、はっきりしな い感染 • 通常、術後3カ月ごろは疼痛は改善し、手術の満足感が得ら れてくる時期。 • それにも関らず痛みがある場合は感染を念頭におき、血液検 査を躊躇せず繰り返す。 • CRP高値あれば積極的に疑う(OAの場合)。 – 感染を疑い、厳重な滅菌操作のもとに関節穿刺して培養。通常、C RPは術後1カ月で正常化しているはず。 – 安易な抗菌薬の経験的投与は行わない。検体採取を最優先。 – 感染の場合は、二期的再置換術が適応となる » 第1期手術:インプラント抜去+デブリドマン+抗菌薬入りセメ ント » 第2期手術:デブリドマン+再置換術 TKA 外来チェックポイント • 遅発性感染への注意を促す – 歯科治療、他部位感染巣からの波及の可能性があ ることを説明し、医療行為を受ける際には、人工関節 があることを医師に告げるように指導する。 – 血行性感染の急性発症時 • 高熱、膝痛、膝腫脹(激しい臨床経過)などありうる • 抗菌薬投与まえに必ず検体採取を – 関節液培養 – 血液培養2セット:必須 • 早急に入院し、手術 • 抗菌薬投与+人工関節を温存したデブリドマン TKA 外来チェックポイント • TKAのゆるみ・摩耗・破損はないか? – インプラントに不具合が生じても、早期は症状に乏し い。症状が出るころには高度の破壊が起きているこ とが多い。早期発見・早期手術が重要。 – 術後1年以内は、3カ月ごとのX線チェック • 3方向(立位正面、臥位側面、スカイライン撮影) – 術後1年以降は、半年~1年ごとにX線チェック • 3方向 • RLZ・ゆるみ – 1mm以内で、進行性・拡大傾向がなければ経過観察。 – 拡大傾向にある全周性のRLZはゆるみ。放置すると、巨大骨欠 損やメタローシスを引き起こす。 • ポリエチレンインサートの摩耗・破損 – 放置するとポリエチレンによる骨溶解やメタローシスを引き起こ す。 術後15年 骨溶解が これほどに 進行する前なら、 インサート交換 のみで済んだ 可能性 幸い皮質骨が 温存できたので、 Constrained type 同種骨移植 で対処できた 術後3年 術後7年 術後7年 同種骨移植 腓骨脛骨に ワイヤリング 手術時間4時間 術後感染併発 ⇒デブリドマン で幸い治癒 術後3年 この時点で 対処すれば ラク 膝蓋骨脱臼 • しばしば見逃すことあり – 脱臼は自然整復されていることが多い – 訴えがはっきりしないことが多い – 単純X線で2方向しかとらないことが多い • 膝が45度曲がれば、スカイライン撮影も。 – MRIで横断像を撮らないことが多い • MRIは必ず横断像(axial)もとること。 初回膝蓋骨脱臼 • 30~50%は反復性膝蓋骨脱臼に移行する • 原則として保存療法の適応 – 急性炎症が治まるまでは安静 – その後、装具療法や運動療法 • 手術適応 – MPFL付着部の裂離骨折 – Tangenital osteochondral fractureの合併 – Sports levelの高い症例はprimaryにMPFL再建 する場合も。 反復性膝蓋骨脱臼 • 脱臼を2回以上繰り返す場合 – 保存療法 • 装具療法や運動療法 – 手術療法 • 多くはMPFL再建術単独で対処可能 • MPFL再建術+脛骨粗面内方移動術の場合もある 反復性膝蓋骨脱臼 • 術式の変遷 – 以前は、脛骨粗面(前)内方移行術(ET変法) • 再脱臼 10%、脱臼不安感 30%など、限界があった。 ⇒内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)再建術に術式を変更 • • • • • • 関連病院での手術症例も含め、20例 経過観察期間1年~4年 再脱臼 5% 脱臼不安感 5% 術後の疼痛が軽い 短期ではあるが、非常に良好な結果が得られている。 反復性膝蓋骨脱臼 • MPFL:膝蓋骨外側脱臼の 一次制御機構 反復性膝蓋骨脱臼 • ハムストリング腱 によるMPFL再建 術 術前 術前 術後 MPFL再建 外来チェックポイント • 後療法 – – – – • • • • 荷重制限なし(痛みに応じて) ROM制限なし(痛みに応じて) 3カ月でジョギング 6か月でスポーツ完全復帰 炎症は消退してきているか? リハビリの施行状況は? 可動域の回復は良好か? 筋力の回復は良好か? – リハビリ達成確認、単純X線チェック時期は、ACL再建の術後 に準ずる。 • 術後早期は、大腿四頭筋筋力の低下による膝折れに注 意必要。 • 脱臼不安感のチェック 半月板損傷 • 半月板切除術:変性あり。血行ない部位。 • 半月板縫合術:変性なし。バケツ柄状断裂。 血行のある部位(辺縁1/3~1/4)。 鏡視下半月板切除術 • • • • • 入院2泊3日(または1泊2日) 翌日より全荷重歩行、可動域制限なし 3週間 重労働制限 スポーツ完全復帰:2カ月~ 外来でのチェックポイント – – – – 筋力訓練は施行されているか?回復は順調か? 炎症は消退しているか? ROMは良好か? 注意:早すぎるスポーツ復帰による骨壊死。術後2~ 3カ月で遷延する関節水症や痛みがあればMRIで BMLをチェックする 鏡視下半月板縫合術 • • • • • 入院2泊3日 4週間松葉杖歩行・可動域制限 2~3カ月:ジョギング 4~5ヶ月:スポーツ完全復帰 再断裂・癒合不全 20% • 外来でのチェックポイント – 切除術と同様に筋力やROMの回復程度、炎症の消 退の有無を注意深く確認する – スポーツ復帰後に疼痛再発・持続あれば、MRIや関 節鏡が必要なことあり 高位脛骨骨切り術(HTO) • 適応 – 比較的若いOA患者(50~60代以下) – 活動性が高くTKAの早期ゆるみが危惧さ れるような場合 – 内側コンパートメントに限局した変性で、 関節裂隙が消失していないもの – 後療法に耐えられる、理解できる 術前 HTO • • • • 入院期間:1~2カ月 部分荷重:2~4週後より 全荷重:6~8週後より 症状改善し患者の満足が得られるまで半年~1 年を要する。 • Locking plateの使用により、上記より後療法は 短縮の傾向 • 術後外来チェックポイント – 感染、骨癒合、アライメント保持の確認 – 時期的にはTKAと同様に定期観察を行っていく 単顆型人工膝関節置換術(UKA) • 適応 – 内側(or外側)コンパートメントに限局した変性 – アライメント変化が少ない – 高齢(70歳以上) – 肥満がない – 屈曲拘縮15度以下 – 靭帯不全がない 術前 UKA • • • • • TKAに比し手術侵襲が少ない 入院2~3週間 ROMが良い 長期的にはTKAよりやや劣る 外来チェックポイントはTKA同様。ただし、 – 他医で手術され、早期にゆるみを生じた症例が 数例あり。Revsion TKAが必要になりうる。 – インサート脱転例の報告(mobileの場合) • 当科ではfixed type使用のため脱転はあり得ない。
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