電力中央研究所報告 電 気 利 用 家庭用エアコンの選定に関する調査と多様な住ま い方を考慮したエアコン選定支援ツールの提案 キーワード:エアコン,熱負荷,住まい方,エアコン選定支援ツール 背 報告書番号:R12008 景 生活者がエアコンを購入する際、畳数めやす(設置部屋の広さ)で冷暖房能力を決める ことが一般化している。しかし畳数めやすによる冷暖房能力の選定は、部屋の熱負荷 値から求められる冷暖房能力よりも過大な能力が選定され、消費電力量、CO2 排出量 の増大につながることが指摘されている 1)。年間電気代等、畳数めやす以外の判断材料 も示されているが、省エネに寄与する適切なエアコンを選定できる方法は存在しない。 目 的 従来のエアコン選定方法に関する課題を抽出する。また、その結果に基づき新たな エアコン選定方法を提案する。 主な成果 1. 従来のエアコン選定方法に関する課題の抽出 (図 1) 生活者のエアコン選定の判断材料のもとになっている規格や制度等に関する調査お よびメーカや家電量販店へのヒアリング 2)を行い、以下の課題を抽出した。 ・ 畳数めやすの基となっている熱負荷値は、1964 年に制定されて以降は改正されてお らず、現在の住宅断熱水準に当てはめると過大な値である。さらに畳数めやすでは、 多様な住宅仕様を考慮することができない 3)。 ・ 年間消費電力量や年間電気代の算出に用いるエアコン使用条件は実状と乖離した 1 条件のみであり 4)、多様なライフスタイルを考慮することができない。 ・ 多機種の中から合理的かつ簡単に選定できる方法がない。 ・ エアコンの設置部屋や使い方の多様性を考慮した選定方法が無いため、メーカや 家電量販店は安全サイドである大きめの冷暖房能力の機種を勧める傾向にある。 2. 多様な住まい方を考慮したエアコン選定支援ツールの提案(図 2) 上記の課題をふまえ、以下の特長を持つエアコン選定支援ツールを考案した。 ・ 多様な住宅仕様(設置部屋の広さや壁などの断熱性能)を考慮できる。 ・ 多様なライフスタイル(家族構成やエアコンの使い方等)を考慮できる。 ・ 生活者の嗜好(環境性、温熱快適性、経済性)の重視度合いを考慮できる。 ・ タブレット等のデータベースにアクセスすることで、迅速に結果が提示される。 このエアコン選定支援ツールにより、生活者は多様な住まい方に関する情報を入力 すると、自動的に順位付けされた生活者に合ったエアコンを選択することができる。 今後の展開 多様な住まい方を考慮した、生活者に合ったエアコン選定支援ツールのプロトタイ プを開発する。 空気調和・衛生工学会 HASS108/109(規格) 年 冷暖房負荷値の計算方法と 室の冷房負荷の算出方法 1964 原案 1965 制定 1989 日本電機工業会 JEM 1447(規格) 冷暖房能力に対する室の 冷房及び暖房面積値の 算出基準と表示方法 日本冷凍空調工業会 JRA 4046(規格) 省エネルギーセンター 省エネラベリング制度(任意) 日本工業標準調査会 JIS C 9901(規格) エアコンの定義や 運転性能等の規定 ルームエアコンの 期間消費電力量の算出基準 年間電気料金めやすや 省エネ性能等の表示制度 省エネルギー基準達成率の 算出方法と表示方法 制定 単位床面積当たりの熱負荷値 室の冷房負荷の算出式を規定 制定 エアコンの冷暖房能力と 畳数の関係を初めて規定 (=畳数めやす) SHASE112に移行 2000 2005 JIS C 9612の参考資料を元に 期間消費電力量※2の 算出方法と表示方法を規定 参考資料として 単位床面積当たりの熱負荷値 室の冷房負荷の算出式を記載 制定 改正 1999 日本工業標準調査会 JIS C 9612(規格) 改正 畳数めやす 参考資料であった APF※1の算出方法を規定 2006 制定 期間消費電力量 制定 省エネ性能 5段階評価※4 年間電気代 2009 省エネルギー 基準達成率※3 APF 改正 評価指標変更(COP→APF) 2010 課題 ① 畳数めやすの基となる冷暖房負荷値が 1964年から改正されておらず、 住宅仕様の多様性が考慮されていない 課題 ② エアコン使用条件が 実状と乖離しており、 ライフスタイルの多様性が 考慮されていない 課題 ③ 市販機種の中から 生活者が合理的、簡単に 選定できる仕組みが無い 課題 ④ 住宅仕様やライフスタイルの 多様性を考慮した選定方法が無いため、 メーカや家電量販店は安全サイドの 大きめの冷暖房能力の機種を 勧める傾向にある 現在 ※1 APF = 期間総合負荷/期間消費電力量 ⇒ 通年エネルギー消費効率のこと。 ※2 冷房期間消費電力量と暖房期間消費電力量との和 ⇒ 「一日18時間(6∼24時)、東京を対象」をエアコン稼働条件として求める。 ※3 省エネ基準達成率(%) = (APF/目標APF) ×100 ⇒ 2000∼2009年はCOPを使用。 ※4 省エネ基準達成率に基づいて表記される。 ※5 表示と関連のない事柄の改正 図1 生活者がエアコンを選ぶ際の主な判断材料と従来の選定方法の課題 住宅仕様に 関する DB ライフスタイル に関する DB 市販エアコン に関する DB 全ケースに対し計算 ライフスタイル 嗜好 多様な住まい方 住宅仕様 初期 コスト 熱負荷計算 生活者への 質問項目 入力 環境性 (CO2排出量) 温熱快適性 (室温到達時間) (室温安定性) 経済性 (運用コスト) 生活者が入力した情報から4つの項目を点数化し 生活者に合ったエアコンを順位付け※6 出力 生活者に合った エアコンは… ① ○○○○ ② □□□□ ③ ◇◇◇◇ 意思決定手法の1つである階層分析法を用いる ※6 図2 今回提案したエアコン選定方法 注 1)荻野他(空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集) 、細井他(日本建築学会環境系論文集)、坂本他(日本建築 学会大会学術講演梗概集)、下田他(日本建築学会大会学術講演梗概集)などで指摘されている。ただし北海道 において畳数めやすで選定すると、過少な容量となる場合がある。 2)エアコン製造メーカ 3 社と全国の大型家電量販店 29 店舗に対するヒアリング調査による結果。 3)木造/平屋(220W/m2)か鉄筋/集合住宅(145W/m2)の 2 つの住宅構造しか選択肢が存在しない。 4)18 時間/日とされているが、最近のアンケート調査では実使用時間は平均約 3 時間/日と報告されている。 研究担当者 安岡 絢子(システム技術研究所 需要家システム領域) 問い合わせ先 電力中央研究所 システム技術研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected] 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] © 2013 CRIEPI 平成25年5月発行 12−007
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