60 大気・海洋環境 日射による壁面加熱がストリートキャニオン内の流れ および大気拡散に及ぼす影響に関する風洞実験 背 景 建物にはさまれた半閉鎖空間であるストリートキャニオン内の風の流れは、建物による巻き込みの影響を 受け、キャニオン内で排出された大気汚染物質は複雑な拡散挙動を示す。キャニオン内における汚染物質の 拡散を予測するためには、複雑に変化する風の流れの影響を明らかにすることが重要である。特に、実際の 都市では日射によって建物の表面が加熱されることにより風の流れや汚染物質の拡散は強い影響を受ける ものと考えられ、これらの熱的影響を解明することが重要である。 目 的 壁面を加熱できる建物模型を用いた風洞実験を行い、ストリートキャニオン内の流れおよび大気拡散に及 ぼす壁面加熱の影響を明らかにする。 主な成果 都市郊外の市街地を模擬した 3 次元の風洞実験を行い注 1)、キャニオン内の流速を粒子画像流速測定法 (PIV)により計測した(図 1、図 2)。また、地表より放出したトレーサガスの濃度を高速炭化水素測定装 置により計測し、キャニオン内の流れおよび大気拡散に及ぼす壁面加熱の影響を調べた。 1.キャニオン内の流れに及ぼす壁面加熱の影響(図 3) キャニオン風上側建物の壁面加熱時には、キャニオンから上空に向かう大規模な上昇流が形成される。本 実験で得られた風上側建物加熱時の流れ場は、これまで行われた 2 次元の数値シミュレーションによる結果 と大幅に異なり、キャニオン側方からの流入など流れの 3 次元性がキャニオン内の渦形成に大きな影響を与 えることが明らかとなった。一方、風下側建物の壁面加熱時には、加熱壁面近傍において熱浮力にともなう 上昇流により反時計回りの渦が形成され、キャニオン内には逆回転の渦が共存することが実験的に初めて確 かめられた。 2.キャニオン内の大気拡散に及ぼす壁面加熱の影響(図 4) 風上側建物加熱時には、キャニオン内で排出された汚染物質は大規模な上昇流により鉛直上方へ輸送され、 建物近傍の濃度は非加熱時より低くなる。ただし、キャニオン内の風速低下の影響により地表付近に汚染物 質が滞留するため、煙源近くでは高濃度となる。風下側建物加熱時には、上空から流入する流れが熱浮力に よる上昇流に遮られキャニオン下層まで到達しないため、キャニオン下層の濃度が大幅に上昇する。 今後の展開 壁面加熱を考慮したストリートキャニオンを対象に 3 次元数値シミュレーションを行い、風洞実験結果と の比較により、数値モデルの精度検証および改良を行う。 主担当者 環境科学研究所 大気・海洋環境領域 主任研究員 佐藤 歩 関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です) ・集合住宅周辺の気流・熱拡散に関する風洞実験〔V08055〕 ・都市キャニオン内の流れと拡散に関する屋外および風洞実験〔V08027〕 ・日射による壁面加熱がストリートキャニオン内の流れおよび大気拡散に及ぼす影響に関する風洞実験 〔V09017〕 注 1)模型縮率は 1/100 とし、実規模換算の風速 1.6m/s、壁面と気流の温度差約 10℃を想定して実験を行った。 「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2009 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2010 60 Nd:YAGレーザ 炭化水素 測定装置 トラバース 装置 風洞気流 粗度ブロック ……… ・ トレーサガス 加熱ヒータ CCDカメラ 図 1 風洞実験の概要 図 2 PIV 計測の様子 粗度ブロックにより都市郊外の市街地を模擬し、 PIV では、風洞内に添加した煙粒子にレー その風下にストリートキャニオン模型を設置し ザ光を照射し、CCD カメラで撮影すること た。ストリートキャニオン模型は加熱ヒータによ により瞬間的な流れ場の変化を計測する り壁面を加熱することができる。 ことができる。 鉛直方向高さ/建物高さ 非加熱 風上建物加熱 W(m/s) 0.12 0.09 0.06 0.03 0 -0.03 -0.06 -0.09 -0.12 1.5 1 風下建物加熱 W(m/s) 1.5 0.12 0.09 0.06 0.03 0 -0.03 -0.06 -0.09 -0.12 1 0.5 0.5 0 0 0 0.5 1 0 0.5 0.12 0.09 0.06 0.03 0 -0.03 -0.06 -0.09 -0.12 1 0.5 0 W(m/s) 1.5 1 0 0.5 1 流れ方向距離/建物高さ 図 3 キャニオン内の流速ベクトル、流線、鉛直風速の分布 建物壁面が加熱されていない状態では、キャニオン内には単一の循環渦が形成される。壁面が加熱さ れることにより壁面近くで上昇流が発生し、キャニオン内の流れ場は全体的に大きく変化する。 鉛直方向高さ/建物高さ 非加熱 風上建物加熱 CU∞HL/Q 1.5 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 1 0.5 0 風下建物加熱 CU∞HL/Q 1.5 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 1 0.5 0 0 0.5 1 CU∞HL/Q 1.5 320 300 280 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 1 0.5 0 0 0.5 1 0 0.5 1 ◆:煙源 流れ方向距離/建物高さ 図 4 キャニオン内のトレーサガス濃度分布 建物壁面が加熱されていない状態では、循環渦によりガスは風上側の建物に向かって運ばれる。壁面 が加熱されることにより地表付近の風速が低下し、煙源の近くの濃度が上昇する。 「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2009 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2010
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