「五月病」とその周辺(PDF:689KB) - 日本学生支援機構

●論文●
﹁五 月 病 ﹂ と そ の周 辺
山崎
久美子
(
早稲 田大学人間科学学術院 教授)
受 験 形 態 を 複 数化 し 、 カ リキ ュラ ムを 組 み直 し た 。 一九 九
一年 七 月 、 大 学 設置 基 準 が 改 正 さ れ、 一般 教育 と専 門教 育
育 ユーザ ー の量 的 な増 加 と質 的 な 変化 によ って、世 間 で は、
な った こと は 指摘 す るま でも な いだ ろう 。 こう した 高等 教
学 教育 機 関 が 新 た な ニーズ や多 様 な 学 生 を抱 え 込 む こと に
わ が 国 の大 学 教育 が大 衆 化 し て久 し く 、 そ れ に伴 い、 大
大 学 に よ っては 、 フ ァカ ル テ ィ ・デ ィ ベ ロ ップ メ ント のた
工夫 など 、さ まざ ま な 取 組 が行 わ れ たと 言 って よ いだ ろう 。
門教 育 の前 倒 し、 少 人 数 教育 の導 入 、各 科 目 の配 当 年 次 の
に乗 り 出 し た こと は 記 憶 に新 し い。 一貫 教育 への移 行 、 専
場 にな る こと が求 め ら れ 、 全 国 の大 学 が こぞ って教 育 改 革
一 大学 の変 革 期 の真 只 中 で
大 学 環 境 の整 備 の立 ち 遅 れ や学 生 のニー ズ や資 質 の多 様化
め の 研修 や オ フィ ス ・ア ワ ー の設 置 が 組 織 的 に 整 備 さ れ
の区 分 が 撤 廃 さ れた 。 大 学 は 学 生 にと っても っと 魅 力 あ る
等 の諸 問 題 が 取沙 汰 さ れ る よう に な って い った 。 そ し て、
た。
大 学 の個 性 化 の時代 と も 捉え ら れ る が、 教 育 改革 の成 果
す で に始 ま って い る 一八歳 人 口 の減少 が促 進 し 、 まも な く
大 学 への全 入時 代 が や ってく ると 言 わ れ て いる。
呼 ん で いる 。受 験 戦 争 に勝ち 抜 いて大 学 に合 格 した 大 学 生
は 最 低 一〇 年 の単 位 で評 価 し な け れ ば な ら な いであ ろう
し 、 そう か と い って学 生 に よ る授 業 評 価 だ け でそ の成 否 を
が 、 合 格 に より 目 標 を 失 い、上 京 や大 学 生活 と いう 新 し い
各 大 学 は 生 き 残 り を 賭 け て、 大 学 教 育 の中 身 を 点 検 し 、
決 め るわ け にも いか な い であ ろう 。 評 価 のあ り 方 が き わ め
環 境 に対応 が でき な か ったり 、 緊 張 の続 いた環 境 か ら 解 放
確実 に言 え る こと は 、 こう した 時 代 の到来 を 厳 粛 に受 け
て難 し い。
は 、若 者 の目 標 は受 験 競 争 に勝 ち 抜 く こと に置 かれ て いる。
の 五月 に多 く みら れ る と 説 明 し て いる 。 現代 の学 歴 社 会 で
あ る。 こう し た こと に言 及 す る のは 、 学 生 のメ ンタ ル ヘル
そ し て、 小 田 は、 五月 病 が精 神 的 ・肉 体 的負 担 か ら 解 放 さ
さ れ た り し て起 き る のが合 格 う つ病 で、 入学 し て 一か 月後
スは 、学 生 の側 の要 因 に のみ帰 属 さ せ て論 ず る のは 不 十 分
れ た た め に起 き る荷 お ろしう つ病 の症 例 と重 な る こと を指
止 め て 、行 政当 局 も 各 大 学も 熱 心 に対応 し たと いう こ と で
であ り 、 変 動す る教 育 状 況 への キ ャ ンパ ス側 の対 応 と いう
間は、常 に心 のどこかに憂 う つな気分があ った。 一生懸命 受験
五月病とはよく聞かれる言葉だ が、大学 に入 ってまさか自分
もそうな るとは思 ってもみなか った。連休明けから二∼三か月
︻
学 生 Aさ んの場合︼
を 紹介 す る。
読 者 の理解 を 助 け る た め に、 こ こに 二名 の 五月 病 体 験談
摘 し て いる。
五月 病 の学 生 は いる の か
要因 も 考 慮 に入 れ る こと が重 要 か つ不 可欠 だ から であ る。
二
五月 病 は マス コミが 名 づ け親 であ り 、 かな り 以 前 か ら皆
の知 ると こ ろと な って いる 。山 崎 (一九 八九 a) は 、 一部
勉強を して合格 ・入学した大学な のに大学 ってこんなも のだ っ
たのかと、空虚な気分になり 、意欲がなくな った。何を 目標 に
の学 生 にお いて 一過 性 のう つが 五月 連休 明 け 頃 か ら 観察 さ
れ る こと を報 告 し た 。 松 原 (一九 八 七 ) によ ると 、 五 月病
したらよ いのかもわからなか った。また、楽しそう にして いる
原因 であ ったよう な気 がする。
と ころが、初め ての試験 が近づき 、忙しくな ってきたため、
こと、自由 にな って時間がありすぎた ことなどが、私の場合 の
人ば かりが目 について、余計憂う つにな った。馴染めな か った
は苛 酷 な受 験 競 争 を 通 り抜 け て入 学 し てき た 大 学 生 が 、試
験 の緊 張感 から 解 放 さ れ 、あ る いは大 学 の講 義 内 容 に失 望
し、 五月 頃 ス ラ ンプ に 陥り 、 無 為 怠惰 な状 態 にな る こと を
いう 。 ま た 、小 田 (一九 八七 ) は 、 五 月病 を 合 格う つ病 と
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環 境 の変 化 へ の支 援―
特集 ・五 月病―
環 境 の 変 化 へ の 支 援―
特 集 ・五 月病―
い つま でも そ んな に ク ヨ ク ヨし て は いられ な いと 思 い、大 学 に
馴 染 もう と し た。 そ し て、 ア ルバイ トを 始 め たり 、 趣味 の時 間
を 作 る な ど 、 いろ い ろな こ とを す るう ち に、 ま た 目標 に向 か う
意 欲 が湧 いてき た 。
よう に使 って い いか も わ か ら な い。 時 間 をも てあ ま し て い
る こと が よく わ か る 。 受 験 生と し て の ノ ル マを 果 た す 生 活
は 上手 に でき ても 、 自 分 か ら主 体 的 に マネ ージ メ ント し な
これ は 、大 学 合 格 を 知 らず 知 ら ず のう ち に目 的 にし てき た
け れ ば な ら な い大 学 生 活 は かえ って重 荷 に な る のだ ろう 。
僕 自身 も 五月 病 にか か った。 五月 病 にか か る者 の多 く は そ の
︻
学 生 B君 の 場合 ︼
こと に よ ると いえ る 。 した が って、新 たな 目 標 を 見 つけ る
さ て、 B君 の話 か ら は、 五月病 の背 景 に荷 お ろ し状 況 が
ま では 生 き 生き と キ ャ ンパ スラ イ フを 楽 し めな い。
下 地 と し て、 な ん ら か の燃 尽き 現 象 を 起 こ し て いるも のと 思 わ
れ る 。受 験 が ま さ に そう であ る。 初 め のう ち は解 放 感 にと き め
いて いるが 、 し ば ら くす ると 言 いよ う のな い虚 脱 感 、 無 気 力 感
あ る のが み てと れ る。 彼 は 燃 尽き 現象 と 称 し て いる が、 解
に襲 わ れ る。 こ の状態 から 抜 け 出 す た め に 、 やり が い のあ るも
のを 求 め て、 アル バ イ ト、 サ ー ク ル活動 、ま た は 異 性 と の つき
放 感 のあ と の言 いよう のな い虚脱 感 や無 気 力 感 は荷 お ろし
疲 れ て い て、 入学 後 ま も な く無 気 力 に陥 る 。 な んと か 過 剰
験 勉 強 に没 頭 し てき た た め 、身 体 的 にも 精 神 的 にも ひど く
抑 う つと 思 わ れ る。 そ れ ま で合 格 を 目 的 にガ ム シ ャラ に受
あ いを す る が 、 しば しば 人 間 関 係 に お いて大 失 敗 を し て、 精神
状 態 は 一時 的 に泥 沼 に陥 る 。
こ んな こ とを 繰 り 返 し て いるう ち に 、自 然 に自 分 自 身 で 精神
状 態 を コ ント ロー ル でき る 能 力 を身 に つけ 、 心 の病 気 に か から
適 応 し よう と いろ いろ な 試 み を し 、 彼 な り に頑 張 っても 、
エネ ルギ ー 切 れ でう ま く いかな い。 試 行 錯 誤 の末 、 や っと
な い抗 体を 作 り あ げ る 。こ う し て大 人 に な った と 思 う 。
こ の 二人 の学 生 が語 る と こ ろを みる と 、 五月 病 は 受 験と
最 近 の大 学 内 の学 生相 談 室 は ど こも 予約 待 ち のよう であ
精 神 状態 が安 定 し た よう に、 自 分 を 取 り 戻す の に いく ぶ ん
っと 大 学 へ の入 学 を 果 た し 、 一息 つ い た 五 月 の 連 休 明 け 頃
る 。 精神 科 や心 療内 科 の敷 居 が 低 く な った こと か らも わ か
関 係 が あ る 心 の病 気 の よ う で あ る 。 偏 差 値 の レ ー ル の 上 を
に 憂 う つ に な る 。 A さ ん は 目 標 を な く し て し ま った よ う で
る よう に、 学 生 相談 室 に自 分 の精 神衛 生 上 の問 題 を相 談 し
時 間 と試 練 が 要 る こと が わか る 。
あ るし 、自 由 な 時 間 を与 え ら れ ると 自 分 か ら は そ れを ど の
り見 え 、 学 生 は そ れを 参 考 に自 分 の時 間 割 を 作 成す る。 ま
考 え も な く 走 り 続 け て 、 激 し い受 験 戦 争 を く ぐ り 抜 け 、 や
に行 く学 生 が多 く な っ
た 、大 学 か ら 指 定 さ れ る科 目 の数 は減 り 、 学 科 や学 部 の垣
学 生 課 や教 務 課 や 生協 も サ ー ビ スの質 を あ げ て いる。 学
た こ と は 理 解 でき る 。
自 分 の不調 の原因 を お
生 生活 を 支 援 す る各 種 情 報 の提 供 や情 報 のイ ンタ ーネ ット
根を 低 く し て、自 分 の履 修 し た い科 目を 学 習 でき る機 会 が
お よ そ自 覚 でき て いる
を介 した 配 信も 充 実 し 、 一年 次 に は懇 親 の機 会 を 設 けた り 、
し か し 、 こ こ で言 う よ
場 合 も多 いの で、 カ ウ
担任 機能 を 強 化 す る など の力 の入 れ よう であ る 。 こ れ ら は
用意 さ れ て いる。 他大 学 と の単位 互 換 制度 も あ る 。
ンセ ラーな ど の専 門家
大 学 生 にま で 及 ん だ学 校 不 適応
五 月病 対 策 とも いえ よう (
表 )。
起 こさ な いよ う に思 わ
れ る 。真 の大 学 生 にな
るた め の通過 儀 礼 のよう な も の であ る 五月 病 の克 服を 通 し
スも 進 ん で いる。 筆 者 が大 学 生 であ った約 三 〇年前 は、 数
大 学 側 の学 業 支 援 や キ ャン パ スに適 応 す るた め のサ ービ
いえ る の で、 む し ろ こ の体 験 を 味 わう こと に大 き な意 味 が
失する。 ﹁
プ チう つ﹂ と の つき あ い方 を 習 得 す る機 会 と も
精神 医 学 的 にも あ ま り 問題 にな らず 、自 然 と う つ気 分 は消
一過 性 に 過ぎ て いく ﹁
プ チ う つ﹂と も いえ るう つ気 分 は 、
行 の科 目 紹介 の冊 子 であ った が 、 今 は学 生 に シ ラバ ス (
授
あ る。
て、 彼 らは キ ャ ンパ スに適 応 し て いく と考 え る。
業 計 画 ) が示 され る よう にな った 。年 間 の講 義 の スケジ ュ
三
に援 助 を求 め る行 動 を
う な 五 月 病 の場 合 は 、
山崎 久 美子(1989b)
出典
「
五 月病 チ ェ ック リス ト」の 結 果
単位
(%)
表
明 確 にさ れ て いる の で、 これ によ って学 習 の目 標 が は っき
か じ め 学 生 に知 ら せ て いる。 そ の科 目 が何 を 提 供す るか が
ー ルや毎 回 の テ ー マ、授 業 方 針 、 成 績 の評 価 の仕方 を あ ら
学 生 の学 校 不 適 応 の研究 が 行 わ れ て いる。 男 子 に 不適 応 状
生 や 中学 生 を 対 象 に し た研 究 が多 い のだ が 、 最 近 は 一般 大
つぎ に取 り 上 げ る の は、 学 校 不適 応 の問 題 であ る 。小 学
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環 境 の 変 化 へ の 支 援―
特 集 ・五 月病―
環 境 の 変化 へ の支 援―
特集 ・五 月病―
鈴 木 他 (一九 九 八) は ﹁
友 人 関係 の不 調﹂ ﹁授 業 への興 味
を 測 定 す る尺 度 の開発 も進 めら れ て いる。主 な も のと し て、
高 いと いう 報告 も あ り 、 さま ざ ま であ る 。大 学 不 適 応 状態
態 が有 意 に高 いと いう 報 告も 、女 子 に不適 応 状 態 が 有意 に
主義 的 ﹂ ﹁自 己愛 的 ﹂ な 学生 が 増 加 の 一途 を 辿 って いる。
く 、 ﹁ボ ー ダ ー ライ ン的 ﹂ ﹁攻 撃 的 (
自 己破 壊 的 )﹂ ﹁個 々人
岡 (
二 〇 〇 二) や市 橋 (二 〇 〇 〇) の指 摘 を 待 つま でも な
時 代 が 到 来 した と 考 察 し た。 そし て、 現 代 の青 少 年 は 、安
﹁
自 己 中 心 主 義 的 ﹂ ﹁享 楽 主 義 的﹂ ﹁外 罰 的 ﹂ な 学 生気 質 の
同 一性 形 成を 果 た さ な け れば なら な い大 学 生 は、 発 達 的
入 学 後 に陥 る 同 一性 形 成 の危 機
興 味深 く 、 他 の心 理変 数 と し ては社 会 的 スキ ルを 挙 げ てお
に同 一性 の危 機 状 況 に陥 る こと も あ る。 専攻 を めぐ る き わ
四
低 下﹂ ﹁大 学 への所 属 意 識 低 下﹂ ﹁
学 業 意 欲 低 下﹂ か ら成 る
尺 度 を 作 成 し て おり 、 大 久 保 ・青 柳 (二 〇 〇 三) は 、 ﹁居
心 地 の良 さ の感 覚 ﹂ ﹁
被 信 頼 ・受 容感 ﹂ ﹁
課 題 ・目的 の所在 ﹂
﹁拒 絶 感 のな さ﹂ か ら成 る 尺度 を 作 成 し て いる 。 いず れ も
り 、援 助 の方向 と し ては 、友 人と 親 密 な 関係 を 築 い て いく
め て深 刻 な 問題 で、 学 生 相談 室 に持 ち 込 ま れ る主 訴 の上位
︻
事 例 C君 の 場合 ︼
う 。 こ こに事 例 を 紹介 す る。
科医 と 連 携 を 図 り つ つ、慎 重 な 対応 が求 めら れ る と いえ よ
de
p期
re
m態
oに
o突
d 入す る学 生 が いる。 多 く は 精神
一定
間s
、s
抑e
うdつ状
﹁関 係 維 持 ・向 上 行 動 ﹂ への介 入 の重 要 性 が 示 唆 さ れ て い
w(
i
抑t
うh
に挙 が って いる。 入学 早 々、自 分 の将 来 の進 路 を め ぐ り 、
disorder
る。 これ ら の不適 応 が 比較 的 短 期 間 に 収束 す れ ば 、 精神 医
学 的 には、Adjustment
つ気 分を 伴 う 適応 障 害 )と 診 断 さ れ るだ ろう 。
﹁
学 校ぎ ら い﹂ や ﹁不 登 校﹂ は も っぱ ら 義 務教 育 期 間 や高
ャ ンパ ス にも 持 ち 込ま れ、 ほ ぼ 時を 同じ く し て大 量 留 年 者
地方から上京 して歯学部 に入学を果たしたC君 は、入学後ま
もなく、 ﹁
僕は、友達 の交 通事 故に遭遇し て、救急医療を して
校 で のみ 問題 と な って いた の であ る が 、 こ の問 題 が大 学 キ
が 生 ま れ る こと に な った 。 安 藤 (一九 七 五 ) は 、 こ の背 景
いきた いと思 って いました。学力 の関係 で、歯学部 に入学した
のですが、どう しても諦めることができません﹂と い って相談
に学生 気 質 の変 遷 を想 定 し 、それ ま で の ﹁社 会 中心 主 義的 ﹂
﹁禁 欲 主 義 的 ﹂ ﹁内 罰 的 ﹂ な 学 生 気 質 の時 代 が 終 わ っ て、
生 はど こ の大 学 にも 相 当 数 いる 。 一九 九 六 年 、 筆者 の卒 業
によ ってど ち ら かと いう と 一方 的 に与 え ら れ た価 値 観 、 人
し、 職 業 を 決定 しな け れ ば な らな い大 変 な 時期 であ る。 親
す る時 期 であ り 、自 分 の生き 方 、価値 観 、人 生 観 な どを 見 直
は 、ライ フサ イ ク ルと いう 観 点 か ら み れば 、 同 一性 を 形 成
さ て、C君 であ るが 、自 分を 賭 け た 闘 いにな った 。大 学 生
聞 に結 果 を公 表 し て いた 。
数 近 く が 回 答 し たと いう 驚 く べき 結 果 が 大 学 の発行 す る新
満 足 でき ず ﹁転 部 ・転 科 を 考え た こと が あ る﹂ と全 体 の半
し た大 学 が 在 校 生 に ア ンケ ー ト し たと こ ろ、 自 分 の学 科 に
に や ってき た 。 他 大学 に入 学 し 直 す 可 能 性 のあ る C君 は 下 宿 に
電話 も 引 か ず 、 悶 々と し て いた 。 や っと自 分 の気 持 ち を 両 親 に
伝 え たと こ ろ、 父 親 の大 反 対 にあ い、 父 親と 争 う よ う にな って
しま った 。 母親 も 父 親 の考 え に賛 成 した 。
C君 は な ん と か 両親 を 説 得 し よ う と 躍起 にな って いた ので あ
る が 、出 口が 見 つか らず 、 ま も な く 抑う つ状 態 を 呈 し た 。 両親
は息 子 のね ば り 強 い申 し出 に 一度 限 り な らと 許 可 を 出 す に 至 っ
た。 抑 う つ状態 が 強く な った の で、 C君 は精 神 科 医 と 相 談 のう
え 、 休 学 し て の再受 験 を 考 え る こ と に な った 。 地 元 の新 設 の医
大 を 受 験 し よう と 考え て いた C 君 は 、今 度 は 看 護 師 で あ る 姉 の
そう か と い って 現在 の学 部 でや って いこう と いう 決 心 も つかな
大 反 対 に あ い、混 乱 し て しま った 。医 者 への思 いを 断 ち 切 れ ず 、
生 観 など か ら 一度 自由 にな って、自 分 をも う 一度 見 つめ 、新
ば 、援 助 が必 要 であ る。残 念 な がら 、学 生 の青 年 期 的な 不安
機 状 態 で あり 、そ れ が そ の学 生 の自 我 を脅 かす ほど にな れ
し い自 分 を 形成 しな け れば なら な い。 こ れ は 、心 理 的 な危
いC 君 に ﹁
と に かく も う 一度受 験 を し て みた ら い い。 新 設 の医
大 に行 く か 、歯 学 部 で や って いく か は、結 果 が 出た ら 考 えよう﹂
と いう こ と で合 意 し、 休 学 の手 続 き を し た 。 結 果 は 不 合格 だ っ
た が 、 踏 ん 切り を つけ ら れ 、歯 学 部 で や って いく こ と を受 け 入
C君 のよう に不 本 意 入 学を した 学 生 は 、 こ の問 題 に 対 し
決 す べき課 題 に多 大 な影 響を 及 ぼす と考 える べき であ ろう 。
え る だ け にと ど ま ら ず 、 同 一性 形 成 と いう 人 生 にお いて解
にそ こ で の対 人 関 係 や学 業 への意 欲 と い った面 に影響 を 与
れ る こ と が でき た 。
て 心 理 的 に 決 着 を つけ る と いう 課 題 に 入 学 後 ま も な く 直 面
や葛藤 に多 く の大 学教 師 は 関心 が な いが 、不 本 意入 学 は、単
す る 。 不 本 意 入 学 と は 、 希 望 す る 大 学 や 学 部 ・学 科 に 入 学
す る こと が でき ず 、 差 し当 た り 合 格 し たと こ ろに 籍を 置 い
て い る 状 態 や 葛 藤 し て い る 状 態 を 表 し て い る 。 こ の種 の 学
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環境 の 変化 へ の 支 援―
特 集 ・五 月病―
環 境 の 変 化 へ の 支援―
特集 ・五 月病―
五
わ が 国 の笠 原 が 概念 化 した 退却 神 経 症
一九 六 一年 、 ハー バ ード 大 学 のウ ォル ターズ は 、大 学 生
いと の葛 藤 を 経 験 し て いて、 優 劣 に 非 常 に敏 感 と な ってお
り 、 優劣 が明 ら か に な る競 争 場 面 か ら は さ っさ と 撤 退 し て
し ま う と いう こと を 説 明 した 。 のち に 、 笠 原 (一九 八 四)
は こう し た 現象 を ﹁退却 神 経 症﹂ と し て概念 化 し た。
き と や って いると いう 現象 を 報 告 し た 。 ウ ォ ルタ ーズ の論
た、 学 業 と は直 接 関 係 のな い領 域 にお いて はむ し ろ生き 生
一方 で、 ア ルバイ ト やサ ー ク ル活 動 ・ボ ラ ン テ ィ アと い っ
あ る 日 、 ﹁学 業 ﹂ に対 し て ほと んど 無 気 力 、 無 関心 と な る
と 述 べた 。多 く は 、 元 来 優 秀 な 成 績 を 収 め て いた 学 生 が 、
て入 学 し た新 入 大 学 生 が 、新 し い環 境 のな か で、 現 実 に直
た 。 甘 い期 待 や認 識 をも って、 あ る いは敗 北 の意 識 を も っ
価 お よ び 他 者 と の比 較 に 非 常 に敏 感 な 学 生 像 が 見 え て き
新 入 大 学 生を 対 象 にし た 調査 (一九 八 九 b ) から 、 自 己 評
汲 々と す る守 勢 一方 の弱 力 性﹂ を 挙 げ て いる 。山 崎 によ る
﹁と き に は 幻 想 的 な自 信 過 剰 ﹂ ﹁⋮ (
略 ) ⋮ 体 面 の維 持 に
広 瀬 (一九 七 七) は ア パ シー とう つ病 の中 間様 態 と し て
文 の紹 介 者 でも あ り 、 わが 国 にお い て大 学 生 の精 神衛 生 問
面 す る こと によ って容易 に自 我 感 情 を傷 つけ 、 自 信 を な く
に みら れ る 無 気 力 ・無 関 心 を 主 症 状 と す る 特 有 の状 態 を
題 の第 一人者 でも あ る笠 原 (一九 七 六 ) は、 そう し た ア パ
し て いる姿 が 想 像 さ れ た。 一種 の フ ァ ンタジ ーが 破 れ 、意
﹁逃 避 型 抑 う つ﹂ を 論 じ て お り 、 そ の中 で、 逃 避 型 抑 う つ
シ ー の本態 と し て、自 分 の自 尊 感 情 に密 接 に関 わ り があ る
気消 沈 し て いる 軽 い 一過 性 の ﹁五 月病 ﹂ の状 態 か ら 、 こ こ
﹁スチ ュー デ ント ・ア パ シ ー ﹂ と 呼 び 、 これ ら の 症 状 は 、
と 当 人 が 感 じ る特 定 の競 争 場 面 か ら は 逃 避 し よう と す る
に 言 及し た ﹁退 却神 経 症 ﹂ へと 発 展 し て いく 学 生も いる の
の病 前 性 格 と し て、 ﹁特 有 の甘 い現実 認 識﹂ と そ れ ゆ え の
﹁選択 的 退 却 ﹂ の心 性 を指 摘 し た 。 さ ら に 、 こ う し た 学 生
で はな いかと 推 察 さ れた 。
ご く特 定 の生 活 領域 に限 定 さ れ た ﹁選 択 的﹂ なも の であ る
は 、 一見 怠 け 者 に見 え る生 活 態度 と は逆 に、 そ の性 格 は き
な 体 制 の整 備 を お願 いし た いと こ ろ であ る。
注 意 が 必 要 であ る 。 早 期 に援 助 の手 が差 し の べら れ る よう
学 では 、 こう した 学 生 は見 過 ご さ れ やす いの で、 と り わけ
に出 ず 単位 未 修 得 のま ま学 年 が 上 が る シ ス テ ム の大 規模 大
下宿 生 の場合 は親 が 気 づく こと も 遅 れ る傾 向 にあ る 。授 業
単 位 が 順 調 に取 得 でき て いな いこ と で わ か る こ と が 多 く 、
ラ ス担 任 や学 生 担 当 職 員 の勧 め であ る こと が 多 い。 こ れ は
に相 談 にや ってく る こ と は ほと ん ど なく 、 来 談 の経路 は ク
減 退 やそ れ に伴 う 学 業 不振 に関 し て深刻 に悩 ん で、自 発 的
れ と 同時 に、 過去 にお いて卓 越 した 能 力 の両親 やき ょう だ
わ め て 几帳 面 で真 面 目 、 し か も完 全 主 義 者 と さえ 言 え 、 そ
が ては彼 ら に深 く 関 わ った 教 員 ま で波 及す る こと が 経験 的
な く な い。 彼 ら の病 理 は ク ラ ス やサ ー ク ルを 巻 き 込 み 、 や
も つも のと も 指 摘 さ れ 、 これ ら の構 造 をあ わ せ も つ者も 少
ー スも少 な く な い。境 界 例 心 性 と 自 己愛 心 性 は 多 く の者 が
って、自 己愛 性 パー ソナ リ テ ィ障 害 の症状 を 露 呈 さ せ る ケ
し てく る ケ ー ス や、 不本 意 な 入 学 や 試 験 の失 敗 が 契 機 と な
契 機 と な って、 境 界 性 パ ー ソナリ ティ 障害 の症 状 が 顕在 化
が 開 始 さ れ る こと が多 いと 聞 く 。 失 恋 や友 達 か ら の絶交 が
し な いと いけ な いだ ろう 。 内 因 性 う つ病 と 誤 診 さ れ て治 療
パ シ ーと 見 立 て ら れ るよ う な 学生 は、 勉 学 に 対 す る意 欲 の
安 藤 (一九 八九 ) も 述 べる よう に、 スチ ュー デ ント ・ア
に 知 られ て いる。
自 分 の思 う よう に いかな く な った 現実 に怒 り を 覚え て暴
元 来自 我構 造 が 脆 弱 で ス ト レ ス に柔軟 に対 処 でき な い人 間
発 達 上 の 一過 性 の混 乱 状 態 で は な いと 主 張 す る 。 そ し て、
マスタ ー ソン (一九 六 八) は 青年 期 の混 乱 が 決 し て単 に
引きこもり (
撤 退 )、 強 迫 (
完 全 癖 ) が 出 現 す る こと が あ
的 な 自 己 が 傷 つく と 、 う つ (
落 ち込 み )、 怒 り (
切 れ る )、
気 づ か れ やす いとも いえ よう 。 ま た 、 思 い描 い て いる 理想
ま と わ り つき と い った 行 動 を し て しま う こ と が多 い の で、
パ ー ソナ リ テ ィ障害 の抑 う つ
が 、 青年 期 にお け る種 々 の葛 藤 状 況 下 で混 乱 状態 に陥 る場
る 。 素 人 には 一見 わ か り づ ら い ので 、 ﹁理 由 の見 え な い暴
六
合 が多 く 、 こ のよう な状 態 を 精 神障 害 によ る と し な いで単
力 に訴 え た り 、 淋 し さ のた め にリ スト カ ット や食 べ吐 き や
に 一時的 な 発 達 上 の問 題と し て捉え るな ら ば 、 治療 的 介 入
いると いう 報 道 が あ った のは 記憶 に新 し い。
力 、 言葉 が 届 か な い﹂ と 学 校 現 場 で は悩 み の タネ に な って
パ ー ソ ナ リ テ ィ の問題 は 言 語 が 成立 す る以 前 に根 っこが
が 遅 れ状 況 を悪 化 さ せ てし まう 危 険 が あ ると 警 告 した 。
パー ソナ リ テ ィが 関与 し て いるう つを 見 逃 さ な いよう に
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環 境 の 変 化 へ の 支 援―
特 集 ・五 月病―
環 境 の変 化 へ の 支 援―
特 集 ・五 月病―
あ る の で、 な かな か 対 処 でき ず 、 専 門家 に よ る援 助 が 必要
と な る。 ﹁大 丈 夫﹂ 感 覚 の希 薄 化 、 手 応 え のあ る大 人 の非
存 在 、 自 己 不信 の テー マが横 た わ っており 、 薬 は ほと んど
効 か な いの で、 精 神療 法 に精 通 し て いる精 神 科医 や こ の種
のケ ー ス の治 療 に経 験を 積 んだ カ ウ ン セ ラー の面接 治 療 が
必 要と な る 。
︻
文献 ︼
安藤延男
一九 七 五 、 わ が 国 学 生 の価 値 観 の ア メ リ カ ニゼ イ シ
ョ ン、 教 育 と 医 学 、 二三 (
六 )、 五 二七− 五三一
一九 七 七 、 ﹁逃 避 型 抑 う つ﹂ に つ いて 、 宮 本 忠 雄 編
安 藤延男
一九 八 九 、 スチ ュー デ ント ・ア パ シ ー 、 山 崎久 美 子
編 集 大 学 生 の メ ン タ ル ヘ ル ス、 四 七− 五 五
広 瀬徹也
﹃
躁 う つ病 の精 神 病 理Ⅱ ﹄、 弘 文 堂
市 橋 秀 夫 二 〇 〇 〇、 一九 七 〇年 か ら 二 〇 〇 〇年 ま で に我 が 国
で ど の よう な 価 値 観 の 変 動 が あ った か 、 精 神 科 治 療 学 、 一五
(一 一)、 一 一一七−
一一二 五
笠 原 嘉 ﹃精 神
カウ ンセリ ング研究 、
一九 八 四 、 ﹃ア パ シ ー ・シ ンド ロ ー ム: 高 学 歴 社 会 の
笠 原嘉
一九 七 六 、 スチ ュー デ ン ト ・ア パ シ ー
科医 の ノー ト ﹄ 三− 一五、 みす ず書 房
一九 八 七 、 大 学 生 の 五 月 病
青 年 心 理 ﹄、岩 波 書 店
笠 原嘉
松原達 哉
二 〇 〇 二 、 大 学 生 の学 校 不 適 応 と 社 会
二 〇 (一)、 四 四− 四 六
美 和 健 太 郎 .岡 安 孝 弘
●論文●
七
的 スキ ル 、 性 格 特 性 の 関 係 、 日 本 健 康 心 理 学 会 第 一五 回 大 会
情 報 ・知 識 イ ミ ダ ス
個 人− 環 境 の適 合 性 の視 点 か ら−
大
﹃学 生 の情 緒 問
パー ソナリティ研
二 〇 〇 三 、 大 学 生 用 適 応 感 尺 度 作 成 の試
一九 八 七 、 メ ン タ ル ヘル ス
発 表 論 文 集 、 三 四 四 ⊥ 二四 五
小 田晋
み−
一、集 英 社
大 久 保 智 生 ・青 柳 肇
究 、 一二 、 三 六− 三 七
石 井 完 一郎 他 監 訳 、 一九 七 五
題 ﹄ 一〇六− 一二 〇 、 文 光 堂
一九 八 九 b 、 いわ ゆ る ﹁五月 病 症 候 群 ﹂ に 関 す る
山崎 久美子
一九 八 九 a、 五月 病 症 候 群 、 山 崎 久 美 子 編 集
学 生 の メ ン タ ル ヘル ス 、 三 七− 四 六
山崎久 美子
一九 九 七 、 大 学 教 育 現 場 に お け る スト レ ス の諸 問
研 究− 新 入大 学 生 の抑 う つ傾 向 と 不 本 意 入 学 と の 関 連 も 含 め
て− 、 社 会 精 神 医 学 、 一二 、 三 六 七− 三七 四
山崎久美 子
(
リ ス ト カ ット ) の意 味
題 、 スト レ ス科 学 、 一二 (一)、 一五− 一九
山 崎 久 美 子 二 〇 〇 五 、 う つ対 策 、 心 の健 康 ニ ュー ス二 九 六 号 、
一、少 年 写 真 新 聞 社
安 岡誉 二 〇〇二、青少年 の手首自傷
浩志
す る も の 、 こ こ ろ の 臨 床 ア ・ラ ・カ ル ト 、 二 一 (一)、 三
一−三 五
別 れ ・喪 失 体 験 と し て の 五 月 病
早坂
く 五月 、 六 月 頃 に増 え る 心身 の 不調 の通称 であ り 、 精 神医
ご存 知 の方も 多 いと 思 う が 、 五月 病 と は医 学 用 語 では な
いや不 満 を感 じ て いる こと ﹂ と いう テー マで 一、 二年次 の
共通教育科目において ﹁
大 学 に入 って良 か った こと 、 戸 惑
いる学 生 の体 験 文 は 、 筆 者 が岩 手 大 学 で担 当 し て いる全 学
(
岩 手 大 学 保 健 管 理 セ ン タ ー助 教 授 ・カ ウ ン セ ラ ー )
学 、臨 床 心 理学 的 には ﹁適応 障 害 ﹂ と か ﹁スト レ ス への反
学 生 に書 い ても ら った 小 レポ ート か ら の引 用 であ る 。
適応 と は あ る 環境 ・状 況 に合う よう に自 ら を 変 化 さ せ る
適 応 す る こ と は別 れ 、喪 失 す る こと
応 ﹂ の 一種 と し てと ら え ら れ て い る。 つま り 新 入 生 や新 入
社員 を は じ めと す る、 四 月 に大 き な 環境 の変 化 を 経 験 し た
者 が、 新 し い環 境 にう ま く適 応 でき な いた め にう つ症状 が
現 れ た り 無 気 力 に 陥 った 状 態 と す る見 解 が 一般 的 であ ろ
う。
いく 場合 は、 別 れ や喪 失 の体 験 と し てと ら え る観 点 も 重 要
を経 験 し 、 そ れ ら に関 す る 新 し い態 度 や価 値 観 そ し て行 動
人 間 関係 と い った いく つか の面 に お いて大 き な 環境 の変 化
こと であ る 。新 入学 生 の場合 、た とえ ば 一人 暮 ら し、修 学 、
であ る。 本 稿 では こ の こと を 論 じ学 生 の支 援 に つ いて考 え
を 学 習 し 獲 得す る よう に求 め ら れ る。 こ の適応 のプ ロセ ス
た だ 、 五月 病 の語 源 でも あ る大 学新 入 生 の支援 を考 え て
て いき た い。 な お 、本 稿 の中 で いく つか 例 と し て紹 介 し て
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環境 の 変化 へ の 支援―
特 集 ・五 月病―
環境 の変 化 への 支援―
特 集 ・五 月病―