Nara Women's University Digital Information Repository Title *一滴でも飲まなかった/*飲んだ Author(s) 吉村, あき子 Citation 言語, Vol.29, No.11, pp.52-58 Issue Date 2000-11-01 Description URL http://hdl.handle.net/10935/882 Textversion publisher This document is downloaded at: 2016-05-03T07:26:08Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 村 あ き 子 E E t 本 精 管 定 環 境 の意 味 論 的 階 屈 性 特集 ▼[ 例解] 否定の意味論 「 * 一滴でも飲まなかった/*飲んだ」 - 吉 否定と肯定は'嘉 形式上'果たして薫 と区別されているだろうか。 否定と肯定の中間、否定とも9E定ともつかない形式の存在が証明されれば、 両者は'段階的に写り変わる連積体を成していることになる. に ・ 脚 のような文 にも現 れる.notのあ る否定文 ほど強 くな は が、やはりこのような文も否定極性を持 っているのである。 fu S Jan er es edtore c e i v ea n y presentsf r o mh i m. n y等が3 実際、否定文 典型的 に現れる否定 極 性 項 目 の a され て いるよう に思われる。し かし、筆者 は高校時代 に英語 否定極性項 目が現れ る様 々な否定環境が、弱 いも のから強 否定文それとも肯定文? を勉強 し て いた時、次 のよう な文 に出会 って、肯定文 と いう いも の へと階層をなし て いることを指摘 ・定義 し、各否定環 一 べきか否定 文 と いう べき か、判断 に迷 った経 験 があ る。not 境 と 極 性 項 目 と の関 係 を 論 じ た の は van der W ouden い のようなは っきりとした否定辞 がな いので、形 の上 では肯定 ( ) 997) であ る.本稿 では、彼 の分析 を日本 語 の否定環境に 適用し、意味論的視点 から見 ると、否定 と肯定 は段階的 に移 全 ての文 は肯定文 か否定文 のど ちらかであ るt と普通理解 文 のよう に見え る のだが、 そ の意味 は否定的 だ から であ る。 3 り変 わる連続体をなし て いること'日本語 には、肯定文 にも F ew pe opl eha vean yi nt e r e s ti nt hi s . 幻 Hei st o ob u s yt oh e t pa n y bo d y. 52 れる 「1帝 でも」 のような両極項目が存在することを示そう 否定文にも現れず、その中間 の比較的弱 い否定環境 にのみ現 「 男」を含 む㈲ aが成り立 てば、そ の部分集合 の 「 父親」を な否定文 ( 否定 辞 の作 用域)で は、反 対 に、上 位 集 合 の 加( mo n o t o n et ncrea s i ng﹀MI)と いうO l方、仰 のよう i ng, 太郎は丸剤 である。1 b 太郎は矧 である。 M D)という。 mono t one de c r e as ・ 含む㈲bも成り立 つ。 これを単調減少 ( と思う。 ここで、用語 の確 認を し ておきた い。本稿 では、英語 の notや日本語 の 「 ∼な い」 のような、明示的否定辞を持 つ文 仙a ㈲a 花子は矧 ではな い。1 b 花子は矧親 ではない。 そ して 'この単調減少という特性は、糊 のような明示的な否 否定の文を否定文と呼び、それを含めても っと広-否定極性 肯定文 には現れな いが否定文 には現 れる表 現は否定極 性項 定辞を持 つ否定文だけでな-、否定極 項目が現れる広 い意 を持 つ文を否定環境 ( 否定文脈)と呼 ぶことにする。また' 目、否定文 には現れな いが肯定文 には現れるも のは肯定極性 味 での否定環境 に共通する特性 であることが知られている。 性 項目と呼ばれる。 v andero Wu d en (1997) の貢献 の 1つは'この単調減少 という意味性 特を持 つ広 い意味 での否定環境 には、弱 い否定 三 否定環境 の階層性 に、Ladus a w ( ) 9 7 9)等 によ って、肯定 環境 は単 調増加' 環境 から強 い否定環境まで'否定 の強 さにおいて三 つの階層 〓 肯定環境と否定環境 の意味特性 否定 環境は単 調減少 と いう特性を持 つことが指摘 され て い ( 弱 い方 から monot onede c r e as i ng [ M D] 、ant i ・a ddi t i ve 肯定環境 と否定環境を大 き-分 ける特性 に ついては、既 る。 この特性 に ついて簡単 に述 べておこう。例えば、「 父親」 [ A A] 、a nt i mo r p を与えたことである。この否定文脈 の各階層 の特性を日本語 学の領域 で用 いられている既存 の概念を用 いて各階層 に定義 h i c[ AM] )があることを示し、来 本数 の外延 は 「 男」 の外延 の部分集 合 であ る。脚 に示し たよう に、肯定文 では、部分集合 の 「 父親」をむ 含叫 aが成り立 て 。これを単調増 ば、上位集合 の 「 男」を含む仙bが成り立 つ r .I 帯でも飲まなかっ た/. 飲んだJ 構築▼[ 例解]否定の意味論 ∼な い」「 ∼を拒否す る」「 もし∼なら Sが成立するので、「 現 に関してAA特性が成立す るかを調 べると、㈱a・ Cでは MD)特性 第 一は、全 ての否定環境 に成立する単調減少 ( ば」はAA特性を持 つのに対して、㈲dではSが成立しな い に当 てはめながら確認しょう。 で、これだけが成立するも のは最も弱 い否定環境である。糊 ∼ はせ いぜ いnだ」は、A ので、「 Y )o f ( X)and は 「∼ な い」 や f (Y 「∼ ) を 拒 U.(X o rY) ) った o ) ) 誉 V( X)andf( Y) ) は V( X orY) ) もし君が英語 か数学で満点を 取 れば 'お母さん めてくれるだろう。 V( X)a ndf( Y) ) d 歌 っているか踊 っている女 の子はせ いぜ い十 人 だ o さんは誉 めて-れるだろう. るだろうし、もし君が数学 で満点をと っても、 お母 ‡もし君が英語 で満点を取れば お母さんは誉めて-れ C ‡彼は歌う ことを拒否するし'踊るこ と も 拒 否 す る 。 V( Xo rY)) b 彼 は歌 ったり踊 ったりするこ と を 拒 否 す る 。 U. ( X)andf( Y Oその犬は吠えなか ったし、噛まなか ㈱ a その犬は吠えたり噛んだりしなか った。 A 特性を持たず、MD特 で確 認 した 「 ∼な い」はMD特性 を持 つも のであ った。 性しか持たな い最も弱 い否定環境であることが分 かる。 他 に'「 ∼を拒否する」「 もし∼ならば」「 ∼ はせ いぜ いn ( 数 詞)だ」等も、㈲ に示すよう に、その作用域 において上位集 可 を飲 むことを拒否する0 合から部分集合 への推論を許すので、全 てMD特性を持 つO 脚 a 彼は、列引 1彼 は、日 1 叫を飲 むことを拒否する。 b もし矧 が来れば、我 々は助 かるだろう。 1もし矧樹 が来れば、我 々は助 かるだろう。 に参加した父兄はせいぜ い十人だ. C 運動会 で親樹 に参加した父兄はせいぜ い十人だ。 1運動会 で引 このMD特性 は、もう 一つ別 の素性を加 え ること によ っ f or お いて 、 否する」と い った否 て'S のような、中間 の強さの否定文脈を与えるAA特性 に なる。 に S i (X S 定環境を与える表現に対応するO右記 のMD特性を持 つ四表 U( Xo rY)) U. ( X)an df( Y) ) も歌 っている女 の子はせいぜ い十人だし、踊 って い る 女 の子もせいぜ い十人だo さら に、このAA特性 にまた別 の素性を加えると桝 のよう なAM特性 になる。 X orY)o f(X)a ndf( Y) ㈱ f( かつ U.( X )o rf( Y )) b 彼は歌 いか つ踊ることを拒否す る 。 。 ) ) る Y V( X and す 母 さ V( Xa ndY) ) もし君が英語と数学 の両方 で満 点 を 取 れ ば 、 お U. ( X) o rf( Y) ) も彼 は歌うことを拒否するか'踊る こ と を 拒 否 C んは誉めて-れるだろう。 る と 見 な さ れ る 。 ㈱ で A A であ る こと が明 ら かにな った a ndY) o f( X)orf( Y)が成立すれば、それはAMであ X られた素性である.この素性が成立する上に、後半 のf ( 前半 の f ( Xo rY) of(X )an df(Y )は、AAの定義 に用 い だ」は弱 いMD否定文脈を与える 定文脈、「 ∼ はせ いぜ い n 「 ∼を拒否する」と 「 もし∼ならば」は中間 の強 さ のAA否 以上 のテストから、「 ∼な い」は強 いAM否定 文 脈を与え' お母さんは誉めて-れるだろう. U. ( X) off( Y) ) るだ ろう、ある いは、もし君が数学 で満点を取れば ≠もし君が英語 で満点を取れば お母さんは誉めて-礼 否する」「もし∼ならば」に ついて、AM f( XandY) o f (X )orf( Y) 「 ∼な い」「 ∼を拒 も のであることが分か ったO )) 比 べて、日本語 の否定極性項目が現れる環境はかなり制限さ A、MD否定文脈など にも多く の否定極性項目が現れるのに 英語 では、強 いAM否定文脈はもちろん、それより弱 いA 四 否定 の階層性と極性項目 ∼な い」はAMで 特性を持 つかどう かを調 べると、㈹ は'「 な Y 濁るが、T を拒否する」「 もし∼ らば」はAMではないこ とを示しているO ㈹ a その犬は吠えてか つ噛むことはなか った。 U. ( X and ‡その犬は吠えなか ったか噛 まなか った 。 r] 滴でも飲まなかっ た/. 飲んだ」 れ、概して、 「 ∼な い」を伴う文否定 の環境 に現れることは、 e w.s e l l これまで繰り返し指摘されているO例えば、英語 の f don,wi t hout等 は明示的否定辞を含まな いが、それ に対 応 する日本語は'それぞれ 「ほどんど∼な い」「め ったに∼な い」「 ∼なし で」と い ったよう に、明示的否定辞 を含 む表現 になるも のが多 いこともその 1国だろう。 しかし'否定辞 のな い環境 に否定極性項目が全-現れな い わけではな い。 ここで、前節 で見た各否定文脈と 「 証 にも」 「一滴も」「 決して」 のような'代表的な日本語 の否定極性項 目 の関係を簡単 に見ておこう。 否定極性項目は、そ の定義 からも明ら かなよう に、「 ∼な い」などを伴う最も強 いAM否定文脈 においては全 て容認さ れる。それより弱 い否定環境 における結果は次 のよう にな っ た。 ㈹ 内弱 いMD否定文脈︾「 ∼はせ いぜ いnだ」 a. 被害者 の中 で、観山. 引相談 したのはせ いぜ い3人 だo b * 女性 の中 でアルコー ルを」 矧州 引 飲んだ のはせ いぜ い 3人だ った。 特集 ▼[ 例解]否定の意味論 C * 決して妥協したのはせいぜ い3人だ。 ㈹ ︽中間 の強さのAA否定文脈﹀「 もし∼ならば」 な いo a* もし観山引相談したら、良 い考えが浮 かぶかも知れ b * もし花子がアルコールを」淵引 飲 めれば、忘年会も 楽しくなるだろうO 話すことを拒否し c *もし太郎が謝Uや 妥協したら、皆驚くだろう.0 脚︽ 中間 の強さのAA否定文脈︾「∼を拒否する」 a 花子は、その件 に ついて、習 ている。 * 太郎は、習 妥協をすることを拒否した。 飲むことを拒否した。 b?花子は、体調が悪 か ったので'アルコールを」. 滴引 C は、 弱 M いMD否定文脈では、上記 の極性項目は全て容認さ れな いことを示している。 一方、中間 の強さのAA否定文脈 n de r では、佃 と脚 のよう に'結 果 が異な った。もし、va e n9 ( 9 1 7 ) の提案する三 つの否定文脈 の階層性が、そ W oud の まま日本語にも当てはまるのであれば、同じAA否定文脈 を構成する 「 もし∼ならば」と 「 ∼を拒否する」において' 56 7 )が 結果は、他 にお いては全 ての否定極性項目が容認されな いの 極項目とは、否定極性項目と肯定極性項目 の両方 の性質を合 オランダ語 に認めている両極項 ((99 に対して、佃 にお いては、㈹ aは容認され、㈹bは?。 この わせ持 つも ので、弱 い否定極性項目としての性質を持 つため 同じ否定極性項目は同じ容認性を示すはず である。しかし、 よう な違 いは、吉村 ( 一 九 九 九 )が 指 摘 し て いるよ う に、van に、肯定文 ( MI) では容認されな いが、 MD、AA文脈 で に 「で」 の加 わ った 「一滴 でも」 のよう な表 現 は、否定 文 さら に興味深 いのは、㈹b の 「一滴も」 のような極性項目 の量を表す否定極性項目 に 「で」が加わ ったも のは同様 の振 「1度 でも」や 「二言でも」 '「1本 でも」等 のような、最小 持 つため、文否定 のAM文脈 では容認 されな いのであ る。 ら れ る 。両 階層 de rW o ude n( ) 9 9 7) の提案する三特性以外 に、否定 の は容認される0 1万弱 い肯定極性項目としての性質も合わせ 「l滴 でも」 のような表現は、 Van derWouden 目に当たると考え 性に貢 献する 別 の特性が存在する可能性を示唆する。 ( 最も強 い否定文脈AM) でも肯定文 ( MI)でも容認 され る舞 いを示す。 このような両極項目は、オランダ語や日本語 以上、限られた例を吟味するにとどま ったが、日本語 の否 五 まとめ 飲めば、忘年会 も楽しく 定環境 にも va nde rW oude n( ) 9 9 7 ) のt t 一 宇フ否定 の階層性が ( AA) たところでは'見当たらな い。 な いが、その中間 に位置するAA文脈tMD文脈 では容認さ ( AM) には存在するが、英語 には、少な-とも筆者が これまで調 べ u引 飲まなか った。 れることを、Mは示している。 Ma * 花子はお酒を表 もし花子がお酒覇 b 花子はお酒を. 一 . 滴 や引飲 むことを拒否したO C ( AA) 見られること、意味論的視点から見ると、否定と肯定はその なるだろう。 d 女性 の中 でお酒を■習 引 飲んだ のは、せいぜい5 強さが段階的 に移り変 わる連続体をなしていること、日本語 には、肯定文と否定文 の中間値 にあたる比較的弱 い否定環境 ( MD) 人だ った。 e* 花子はアルコールを. 頭 U引 飲んだ。( MI/肯定) 「 二 滴でも飲まなかっ た/. 飲んだ」 に の み現 れ る両 極 項 目 が存 在 す る こ と を 示 し た。 高 校 時 代 に 否 定 か肯 定 か で迷 った の は、 理 由 の な い こ と で は な か った の で あ る。 ︻ 参考文献︼ Ka t o,Yas uh ) ko ( 1 9 8 5 ) Nqal l VeSenk, nce s 1 ' n Ja pan e s e ,o Sp h I ea Li nB ul S t i c aL 9 .Mo n o g r a ph,Tokyo︰Sophla Untverst y t La d u s a w, W1 1 1 i a mA ( ) 9 7 9 )Po l a n . a ,Se n s t t 1 e V l &aSI nh e r e ntS c o p e Re l a i 1 . O n S,PhD dS l S e r t a t 1 0 n , Unt ve r s l t yO fTe x a s .DJ s t r ) but e d by t h el n d i ana UnlVerSityLi ngv) s t l C SC) u b McG) O h n , Naom lHanaok a(1976) 。Negation " ,) n Sh)bata n l ,M ( e d)S y nt a r andSe ma nt l CS 5]Ja P a ne s eG eneratweG7 17 mmW , Ne wYo r k ・ Ac a d e mt cPr e ss va nd e rWouden.To n( )997)Negat l V eC o nt e x L s ,Lo n d o n . Routl e d g e 吉村あき子 ( 1 究 () 「 英語における否定環境の意味論的階 層性」大阪 学院大学外国語論集第喜号 1 三 〇 ・1 五1 貢、大阪学院大学外国語学会 吉村あき子 ( l 九 託) r 否定極性現象﹄英宝社 吉村あき子 ( 一 一 〇 ロ 0 ) 「 日本語 の否定環境」 ﹃ 藤井治彦先生退官記念論文 集︼ 宍 丁九 三頁、英宝杜 ( よ し む ら あ き こ/ 意 味 論 ・語 用 論 ) 特集 ,︻ 例解] 否定の意味論 一5
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