Page 1 CD われわれが、一般に漢文を訓読するとき、「必」の字は、「か

﹁必 ﹂ 字 考
わ れ わ れ が 、 一般 に 漢 文 を 訓 読 す る と き 、 ﹁必 ﹂ の 字 は 、 ﹁か な ら
ず ﹂ と 読 み 、 ﹁き っと ﹂ ﹁間 違 い な く ﹂ な ど と 訳 し て い る 。 次 の よ う
國
金
海
二
いな いL と いう よ う な 積 極 的 な 判 断 を 示 す 語 であ る か ら であ り 、 ω
ω に お い て は ﹁ど う し て も ﹂ と 訳 し て も あ ま り無 理 な 解 釈 で は な い
が、 ㈲ で の ﹁必 ﹂ は㈲ ω と 同 じ よ う 語 義 とし て は 解 釈 で きず 、 訳 文
中 に 入 れ づ ら い。
﹁王 必 し
﹁必 し 已 む を 得
仮 定 の ﹁も し ﹂ で あ る と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 ㈱ は
も
そ し て こ の三 例 に お け る ﹁必 ﹂ は 、 必 定 の ﹁か な ら ず ﹂ では な く 、
ず し て 去 ら ば ⋮ ⋮ ﹂、 ω は ﹁王 必 し 人 無 く ん ば ⋮ ⋮ ﹂、 ㈲ は
な場合 である。
如 有 復 我 者 、 則 吾 必 在 波 上 矣 。 (論 語 、 雍 也 )
﹁必 ﹂ に は 本 来 二 つ の 意 味 が あ った が 、 訓 読 で は ﹁か
事 実 に つ い て 認 定 し 、 行 為 を 命 じ 、 あ る いは 判 断 を 下 す にあ た っ
に は 次 の よ う に述 べ て い る 。
(注 )○日 本 語 の ﹁か な ら ず ﹂ に つ い て 、 ﹃日 本 国 語 大 辞 典 ﹄ (
小学 館)
な ら ず ﹂ と いう 読 み方 に 固 定 し て し ま った。
こ の よう に
長 く 漢 中 に 王 た ら ん と 欲 せ ば ⋮ ⋮﹂ と 読 む のが よ いであ ろう 。
奪項 王天下者、 必沛公也。 (
史記 、項羽本紀 )
し か し ﹁必 ﹂に は 、 ﹁か な ら ず ﹂ と は読 む が、 異 な る 意 味 を も つ次
㈲ 、 必 不 得 已 而 去 、 於 斯 三者 、 何 先 。 (
論 語、顔淵)
のよ う な ﹁必 ﹂ が あ る 。
ω、 王必無 人、臣願奉璧往 使。 (
史記、廉 頗藺相如列 伝)
㊥、 王必欲 長王漢中、無 所事信。 (
史記、 淮陰侯列伝 )
て 間 違 いな く そ の事 実 が 認 定 で き 、 行 為 が実 行 さ れ 、 判 断 が成 立 す
る こ と への 、 確 言 、 強 制 、 確 信 を 表 わ す 。 間 違 いな く 。 確 実 に 。 た
﹁必 ず 已 む を 得 ず し て 去 ら ば ⋮ ⋮ ﹂ と 読 み ﹁ど う し て も や む
し か に。き っと。必ず し も。 必ず とも 。必ず も。 必ず や。
励は
と 読 み ﹁ど う し て も 適 当 な 人 物 が い な い な ら ば ⋮ ⋮ ﹂ と 訳 し 、 ㈲ は
を 得 ず に 捨 て る な ら ば ⋮ ⋮ ﹂と 訳 し 、 ω は ﹁王 必 ず 人 無 く ん ば :⋮ .
﹂
の義 疑 な き 意 也 と も い へり ⋮ ⋮ 。
必 を よ み 紀 に 要 を よ め り 仮 な ら ず の義 也 と い へり 一説 に 歟 な ら ず
カリ
○ ﹃
和 訓 栞 ﹄ の ﹁か な ら ず ﹂ の項 に は 次 の よ う に あ る 。
ひ
﹁王 必 ず 長 く 漢 中 に 王 た ら ん と 欲 せ ば ⋮ ⋮ ﹂と 読 み ﹁王 が い つま で も
漢 中 の 王 で い た い の な ら ば ⋮ ⋮ ﹂ と 訳 す の が 一般 的 で あ る 。
こ れ は 日 本 語 の ﹁か な な ら ず ﹂ が 常 に ﹁疑 い な く ⋮ ⋮ と な る に 違
(1)
○ ﹃
俚 言集 覧﹄ に は次 のよう にあ る。
必 を 訓 り 不 仮 の義 な る べし 、 ⋮ ⋮ か さ し 抄 の 傍 注 キ ット チ ガ ヒ ナ
シ 、 キ ハメ テ の義 と せ り 。
前 述 のよ う に ﹁か な ら ず ﹂ と いう 読 み 方 (11訓 読 11訳 読 ) に 固 定
﹃辞 海 ﹄果 真 、 仮 使 。 [史 記 、 廉 頗 藺 相 如 列 伝 ]王 必 無 人 、 臣 願 奉 璧
往使。 [
杜甫 、丹青引] 将軍尽善蓋有 神、必逢 佳士亦写真。
﹃辞 源 ﹄ 如 果 。 [史 記 、 廉 頗 藺 相 如 列 伝 ] 同 例 。
﹃漢 語 大 字 典 ﹄ 連 詞。 表 示 仮 設 関 係 、 相 当 于 ﹁仮 使 ﹂、 ﹁如 果 ﹂。 [左
伝 、 昭 公 十 五 年 ] 必 求 之 、 吾 助 子 請 。 [唐 、 杜 苟鶴 、 題 会 上 人 院 ]
必 能 行 大 道 、 何 用 在 深 山 。 [史 記 、 廉 頗 藺 相 如 列 伝 ] 同 例 。
貢 問 政 。 子 日、 足食 、 足 兵 、 民 信 之 矣 。 子 貢 日 、 必 不 得 已 而 去 、
﹃漢 語 大 詞典 ﹄連 詞 。 表 示 仮 設 関 係 。 個 若 、 如 果 。 [論 語 、 顔 淵 ]子
ち か ごろ 出 版 さ れ た 次 の辞 典 類 お よ び 虚 字 に関 す る 専 書 に よ って
於 斯 三 者 何 先 。 日、 去 兵 。 [史 記 、 項 羽 本 紀 ]吾 翁 即 若 翁 、 必 欲 烹
し た ﹁必 ﹂ を 、 中 国 で は ど のよ う に解 釈 し て い る か を み た い。
﹁必 ﹂ の語 に つ い て の解 説 と 用 例 を 挙 げ る。 (
字 典 類 は 、 き わ め て詳
而 翁 、 則 幸 分 我 一杯 羹 。 [宋 、 梅 堯 臣 、 題 老 人 泉 寄 蘇 明 允 詩 ]淵 中
為 ﹁必 定 ﹂、 ﹁一定 ﹂、 ﹁果 真 ﹂ 等 。
必 有 魚 、 与 子 自 悄 佯 、 淵 中 苟無 魚 、 子 特 翫濆 浪 。
を の せ、 ﹁大 王 果 真 没 有 合 這 的 人 、 臣 愿 意 奉 璧 前 往 (
秦 国 )﹂ と 現
細 に意 味 区 分 を 行 って いる も のも あ る が 、 本 論 に関 す る 事 項 の み に
﹃辞 海 ﹄ (一九 八 九 年 )
﹃辞 源 ﹄ (一九 七 入 年 )
代 語 訳 し て い る。
限 定 し てと り あ げ る 。 以 下 す べ て同 じ )
﹃漢 語 大 字 典 ﹄ (一九 八 六 年 )
﹃漢 語 大 詞 典 ﹄ (一九 八 入 年 )
﹃文 言 文 虚 詞 大 詞 典 ﹄ 連 詞 、 如 、 若 、 仮 若 。 仮 設 相 連 。
﹃古 漢 語 虚 詞 用 法 詞典 ﹄ 表 示 対 動 作 行 為 、 性 状 的 肯 定 或 強 調 。 可 訳
﹃古 漢 語 虚 詞 用法 詞 典 ﹄ (一九 八 八 年 )
記 ﹄廉 頗 藺 相 如 列 伝 を 挙 げ 、 そ れ ぞ れ ﹁如 果 迫 不 得 已 在 這 (
糧食 ・
こ のよう に説 明 し 、 例 文 と し て 前 記 し た ﹃論 語 ﹄ 顔 淵 篇 と ﹃史
こ の よう に説 明 し 、 ﹁果 真 ﹂ の例 とし て ﹃史 記 ﹄廉 頗 藺 相 如 列 伝
﹃文 言 文 虚 詞 大 詞 典 ﹄ (一九 入 八 年 )
こ れ ら の辞 典 類 に お け る ﹁必 ﹂ の解 説 では 、 こ の語 に は 二 つ の用
第 一は 、 e に挙 げ た ﹃論 語 ﹄ 雍 也 篇 な ど に みら れ る 用 法 であ り 、
必 不 用其 爪 牙 、 ⋮ ⋮ ﹂を 引 き 、 ﹁老 虎 豹 子 如 果 不 運 用弛 的 爪 子 、 牙
派 遣 )、 ⋮ ⋮﹂ と 現 代 語 訳 し て い る。 他 に ﹃韓 非 子 ﹄八 説 の ﹁虎 豹
軍 備 ・民 衆 信 心 ) 三 項 之 中 去 掉 一項 、 ⋮ ⋮ ﹂ ﹁君 王 如 果 没 有 人 (可
た と え ば ﹃辞 海 ﹄で は ﹁一定 、 定 然 ﹂と説 明 し 、 例 文 と し て こ の ﹃論
﹃
戦 国 策 ﹄ よ り の文 を 挙 げ て い る。
歯 、 ⋮ ⋮ ﹂ と 現 代 語 訳 し て いる 。 さ ら に参 証 例 句 と し て ﹃史 記 ﹄
法 があ る と し て いる 。
語 ﹄ の文 を の せ て いる 。 こ れ は 、 日本 語 の ﹁き っと ﹂ ﹁間 違 いな く﹂
と も 宋 代 ま で は ﹁も し ﹂ の 意 と し て も 用 い ら れ て い た こ と が わ か る 。
こ れ ら 字 典 、 専 書 の 諸 例 を み る と 、 ﹁必 ﹂は 古 く は も ち ろ ん 、 少 く
に当 た る の で、 訓 読 す る場 合 に ﹁か な らず ﹂ と読 ん でも 、 意 味 と の
間 に何 ら 問 題 は な い。 他 の辞 典 類 に つ いて も 、 こ の用 法 に関 し て は
ほ ぼ 同 様 な の で 省 略 す る。
第 二 は 、 ﹁も し ﹂ とす る 用 法 であ る 。
(2)
⇔
次 に口 に記 し た著 作 以 前 の字 典 お よ び虚 詞 の専 書 で は 、 ど の よう
専執 也
専也
果也
期必也
審也
に 述 べら れ て い た か を 、 そ れ ぞ れ主 な も の に つ い て時 代 順 に み る。
﹃字 彙 ﹄ (
梅 膺 祚 、 一六 一五 年 ) 定 辞 審 也 然 也 専 也
﹃康 煕 字 典 ﹄ (陳 廷 敬 等 、 一七 一六 年 )定 辞 也
果也
﹃辞 海 ﹄ (
舒 新 城 等 、 一九 四 七 年 版 ) 決 定 辞
これ ら の字 典 に は ﹁果 也 ﹂と いう 説 明も あ る が ﹃康 煕 字 典 ﹄ ﹃辞 海 ﹄
と も そ の用 例 に ﹁信 賞 必 罰 ﹂ を 引 い て いる の で ﹁も し﹂ の意 で は な
い 。
﹃助 語 辞 ﹄ (
盧 以 緯 、 = 二二 四 年 以 前 ) 断 然 決 定 不 易 之 意
﹃助 字 弁 略 ﹄ (劉 淇 、 一七 一 一年 ) 審 也 決 定 之 辞
決 也 。 今 言 ﹁必 定 ﹂
﹃経 詞 衍 釈 ﹄ (呉 昌 瑩 、 一八 七 七 年 ) 必 、 果 也 、 果 、 若 也 。
﹃詞 詮 ﹄ (
楊 樹 達 、 一九 二 八 年 ) 表 態 副 詞
﹃古 書 虚 字 集 釈 ﹄ (
裴 学 海 、 一九 三 二 年 ) ﹁必 ﹂猶 ﹁如 ﹂也 。 鮓 .
如或、
者 は 表 態 副 詞 の ﹁必 定 ﹂ の例 と し 、 後 者 は ﹁如 ﹂ の例 とし て い る。
こ れ は 一九 四 〇 年 代 ま で は 、 こ の語 に 二 つの 用法 が あ る と いう 認 識
が ま だ普 通 に行 わ れ て いな か った こ と を 示 す も の であ ろ う 。
ち な み に、 ﹃辞 海 ﹄にも 前 に 記 し た よう に 一九 四 七 年 版 に は ﹁も し ﹂
と し て の用 法 は 載 って いな い。
㈲ 、 ﹃古 書 虚 字 集 釈 ﹄ で は、 次 のよ う に ﹃史 記 ﹄ と ﹃論 衡 ﹄ の文 を 比
較考 察す ること (
例 文① ② ③ ) や 、 ﹃史 記 ﹄ に お け る ﹁使 (仮 定 )﹂・
﹁必 ﹂の語 の 用 いら れ 方 (
例 文④ )な ど によ る 、 多 角 的 な 方 法 で "﹁必 ﹂
猶 ﹁如 ﹂ 也 " の論 拠 と し て いる 。
能 至者。 (
史記 、孟嘗君列伝 )
① 、 文 日、 必 受 命 於 天、 君 何 憂 焉 、 必 受 命 於 戸 、 則 高 其 戸 耳 、 誰
② 、必受命 於天、君何 憂焉、如受命 於戸、 即高其戸、誰能 至者。
(
論 衡、四諱篇 )
衡、福 虚篇)
③ 、如 在 天 、 君 何 憂 也 、 如 在 戸 、 則 宜 高 其 戸 耳 、誰 而 及 之 者 。 (
論
④ 、公 子光日、使以 兄弟次邪、季 子当立、 必以子乎、 則光真適嗣 、
の意 と し て の み の説 明 であ る が 、 そ れ よ り 少 し 前 の ﹃経 詞 衍 釈 ﹄ に
㈲ 、 ﹃詞 詮 ﹄ に は ﹁も し ﹂ の意 があ る と は記 さ れ て お ら ず 、 ﹁必 定 ﹂
た よ う であ り 、 こ れ が定 着 し た解 釈 と な って いる が、 わ が 国 で は、
と ﹁如 果 ﹂ と いう 二通 り の意 味 が あ った こ と が 研 究 さ れ は じ めら れ
以 上 の よう に 、 中 国 で は 十 九 世 紀 末 ご ろ よ り ﹁必 ﹂ に は ﹁一定 ﹂
当立。堰 t
蜘 い
靉 U (史 記 、 刺 客 列 伝 )
は 、 ﹁論 語 、 必 不 得 已 而 去 、 言 若 不 得 已 也 ﹂な ど と ﹃論 語 ﹄を は じ め
ど う で あ る か を 、 ﹃論 語 ﹄ 顔 淵 篇 の ﹁必 不 得 已 而 去 ⋮ ⋮ ﹂ を 例 に し
これ ら の専 書 か ら 考 え ら れ る こと を 列 挙 す る と次 の ごと く で あ る 。
﹃
左 伝 ﹄ ﹃史 記 ﹄な ど か ら 例 を 挙 げ 、 ﹁も し ﹂の意 のあ る こ とを 述 べ て
て 、 ﹁抄 物 ﹂ な ど 、 お よ び最 近 の著 作 に よ って調 べて み る。
食 ト 兵 ト ノ 三 ア ルヤ ウ ニ ハナ ラ ヌ時 ア ル ヘシ。 ヤ ム
コト 得 ス シ テ 三 ノ 内 ヲ 一ツ 指 置 ヘキ ナ ラ バ、 イ ツ レ先 略 セ ン ト 云 。
子 貢 日-
㈲ 応 永 二 十 七 年 本 ﹃論 語 抄 ﹄ (一四 二 〇 年 成 立 )
お り 、 こ の頃 よ り 、 二 つの意 のあ る こ と が 注 目 、 研 究 さ れ は じ め た
の で は な い か。
ω 、 ほ ぼ 同 時 代 の ﹃詞 詮 ﹄ と ﹃古 書 虚 字 集 釈 ﹄ に は 、 同 じ 文 ﹁王 必
欲長王漢 中、無所事 信﹂ (
史 記 、 淮 陰 侯 列 伝 )が引 か れ て い る が 、 前
(3)
イ ハク
⋮⋮ 日 必不得ー
マ マ 子 貢 云 、食 ト ノニ モ 叶 カ タ キ コト ア ル ヘシ。必
不 レ得 レ止 シ テ ニ ノ 内 ヲ モ 一ツ ス テ 置 ヘキ ナ ラ ス何 ヲ 略 ス ヘキ ソ
ト云。
ω ﹃論 語 聞 書 ﹄ (一四 五 入 年 ∼六 入 年 の間 成 立 )
又 問 タ 此 ノ ヤ ウ 三 ニノ ソ ロウ コト ハ稀 ノ コト 三 カ ソ ロ バサ ラ ン
時 ハ此 中 テ ハ何 ヲ ノ ケ ン ソ
㈲ 成 簣 堂 本 ﹃論 語 抄 ﹄ (一四 七 五 年 以 前 成 立 )
若 コノ 三 ノ物 ヲ、 一サ ケ ハ、 ヰ ヅ レヲ カ ス テ ヲ カ ン⋮ ⋮ 若 コノ
ニ ヲ、 一ツサ ヶ ハ、 ヰ ヅ レヲ カ 、 ス テ ント ト ウ
Q⇒ 足 利 本 ﹃論 語 抄 ﹄ (一五 六 〇 年 前 後 成 立 )
子 貢ー 是 ヲ 三 ツナ ガ ラ バ、 我 ニ ハヱ行 マイ 、 三 ノ 中 二何 ヲ カ
ナ ケ レト モ、 三 ノ 中 テ 何 ヲ 云 ン也 ⋮ ⋮ 日 必i
不 得 已 ト ハ、 一向
取 テ ノ ケウ ソト 問 申 ス也 ⋮ ⋮ 不 得 已 ト ハ、 三 ツ ナ ガ ラ 行 マイ テ ハ
皆 ヱ行 マイ テ ハナ イ ソ、 ア レ モ此 ニ ノ 中 テ 何 ヲ 取 テ ノ ケ ンソ ト 云
也
イキ ホ ヒ
ヒ ツヂ ヤ ウ
さ れ ど も し 変 にあ ひ 、 勢 に せ ま り 、 必 定 や む こ と を 得 ず し て、
㈲ ﹃論 語 示 蒙 句 解 ﹄ (中 村 楊斎 、 一七 〇 一年 自 序 )
シ
㈲ は 、 ﹁必 定 ﹂ と し て い る 。
い 。
す
以 下 、 現 代 の いく つか の著 作 の 訳 文 を み る。 これ ち はす べ て ﹁か
な らず ﹂ と読 ん で い る。
や
﹃
論 語新釈﹄ (
宇 野 哲 人 、 一九 二 九 年 )
も し 事 変 が 起 って必 ず 已 むを 得 ず 去 てな け れ ば な ら ぬ 場 合 に は、
こ の食 兵 信 の三 つの中 で何 を 先 に 去 てま す か。
﹃論 語 の講 義 ﹄ (
諸 橋 轍 次 、 一九 五 三 年 )
ど う し て も や むを 得 な い事 情 のた め に、 こ の三 つの中 ど れ か 一
や
つを 捨 て 去 ら ね ば な ら な い とす れ ば ⋮ ⋮ 。
﹃論 語 ﹄ (
吉 田賢 抗 、 一九 六 〇 年 )
国 家 の現 状 か ら し て 已 むを 得 ず し て こ の三 者 の中 か ら 一つを や
治 、 一九 六 三 年 )
め ね ば な ら ぬ と いう こと にな った ら ⋮ ⋮。
﹃論 語 ﹄ (
金谷
どう し て も や む を え ず に捨 て る な ら ⋮ ⋮ 。
﹃論 語 ﹄ (
吉 川 幸 次 郎 、 一九 六 九 年 )
-も し 、 ど う し て も や むを 得 ず し て、 ど れ か を 捨 て 去 ら ね ば な ら
ノ ソク
ぬ場 合 ⋮ ⋮ 。
キ
ヲ
ず ﹂ を そ のま ま 用 い て い る、 ⇔
﹁ど う し て も ﹂ と 訳 す 、 日
﹁必 ﹂ を 訳 文 中 に 入 れ な い 。
﹁も し 、
そ し て こ れ ら の 著 作 は ﹁必 不 得 己 ﹂ を 仮 定 の 句 と し て お り 、 ﹁必 ﹂
どう し て も ﹂ と 訳 す 、 四
﹁必
す つる こ とあ ら ば 、 三 つ の中 に て、 いつ れ を か ま つ す て ん と 。
ヤ ム コトヲ
ラ
又 問 フ 、 三 条 ノ 内 、 不 レ得 レ已 シ テ 何 ヲ カ 可 レ除 ヤ ト 。 又 問 フ 、 若
ヤ ム コト ヲ
、 二 条 ノ 中 二於 テ 又 去 レ 一バ 、 何 ヲ カ
他 の 著 作 も だ いた い こ の よう であ る。 す な わ ち、 訳 に は、 e
㈲ ﹃論 語 俚 諺 鈔 ﹄ (
毛 利 貞 斎 、 一六 九 入 年 成 立 )
シ
事 ノ 変 甚 ク シ テ 不 レ得 レ已
去 ン。
㈲ で は 、 ﹁ヤ ム コ ト ヲ 得 ス シ テ ﹂ ﹁必 不 レ得 レ已 シ テ ﹂ と あ り 、 必 ず
を ﹁も し 、 ど う し て も ﹂と い う 意 に と っ て い る よ う で あ る が 、 ﹁か な
ら ず ﹂ と 読 む こ と に よ り 、 ﹁も し ﹂ の 意 よ り も ﹁ど う し て も ﹂ の 意 に
﹁必 ﹂ を 訳 出 し よ う と は し て い な い 。
よ り 強 く ひ か れ て い る の で は な いか と 考 え ら れ る 。 従 って
しも
ω ω で は 、 ﹁必 ﹂ を 訳 出 し て い な い。
﹁も し ﹂
㊥ ㈲ で は 、 ﹁若 ﹂ と あ る が 、 文 脈 上 ﹁必 ﹂ を 訳 し た と は 考 え ら れ な
(4)
と 読 ん で い る も の は な く 、 抄 物 な ど と 同 じ よ う な 読 み ・訳 で あ る 。
国
ナカ フ
モシ
トク
ツヰ ニ
カナ フ
ナラフ
モシ
アキラカナリ
シカモ
カナ ラ ス
モ ハラ ス
ナラ フ
トク
アキラ カ
サタ
次 にわ が国 の古 辞 書 に は 、 ﹁必 ﹂が ど のよ う に 記 載 さ れ て い る か を
みる。
カナ ラ ス
﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ (
観 智院本、 院政期成 立)
必
マル
コト コト ク
﹃字 鏡 ﹄ (
世尊寺本 、院政期 成立)
必
こ の 二書 に は ﹁カナ ラ ス﹂ な ど と と も に ﹁モ シ﹂ の 訓 も と ら れ て
いる 。
﹃色 葉 字 類 抄 ﹄ (
尊 経 閣 本 ・黒 川 本 、 鎌 倉 初 期 以 前 成 立 )
﹃倭 玉 篇 ﹄ (
夢梅本 、室町初 期成立)
﹃節 用 集 ﹄ (
天 正本 ・易 林 本 、 室 町 中 期 成 立 )
これ ら 三 書 を み る と、 ﹁必 ﹂ の訓 は ﹁カ ナ ラ ス﹂ ﹁カ ナ ラ ズ ﹂ の み
で あ り 、 ﹁モ シ﹂ の訓 は ﹁若 ﹂ ﹁如 ﹂ な ど に付 さ れ て いる だ け であ る。
て も L の意 味 を も も た せ る よ う に な った と 考 え ら れ る。
因
サキ
ヒ トモ
セ ント
ヒヨ
向 ヲ極 メ テ 云 辞 ナ リ
セ
ラン
江 戸 時 代 の虚 字 に つ いて の専 書 のう ち 、 関 係 す る と 考 え ら れ る も
の に つ い て み る。
[
用必 法] ゼヒナリ
﹃太 史 公 助 字 法 ﹄ (
皆 川 淇 園 、 一七 六 〇 年 刊 )
必 ハ、 カ ナ ラ ズ ト 訓 ジ 、 是 非 共 ト 訳 ス 。
ゼ
㈲ ﹃訓 訳 示 蒙 ﹄ (
荻 生 徂 徠 、 一七 一五 年 刊 )
Gり
㊥ ﹃左伝 助 字 法 ﹄ (
皆 川 淇 園 、 一七 六 九 年 刊 )
[
用 必 法 ] ゼ ヒ ニナ リ
ノ
ル
﹃助 辞 訳 通 ﹄ (
岡
白 駒 、 一七 六 二 年 序 )
皆 ソノ義明
俚語 ノ ゼヒト
ル ハ、 ゼ ヒ ニ東 シ ス ル コ ト ヲ 欲 ス ト 云 コト ナ ラ バ ナ リ ⋮ ⋮
⋮ ⋮ 史 記 淮 陰 侯 伝 二、 王 計 必 欲 レ東 、 能 用 レ信 、 信 即 留 、 ト イ ヘ
ノ
o⇒ ﹃助 字 詳 解 ﹄ (
皆 川 淇 園 、 一入 一四 年 刊 )
㈹
必字、定辞也 ト訓ズ
又 後 来 ヲ 期 ス ル辞
㈲ ﹃文 語 解 ﹄ (
釈 大 典 、 一七 七 二 年 刊 )
引 証 ス ル ニ及 バ ズ
又 既 往 ノ事 イ ツ モカ ク ア リ シ ト 云 辞 ト ナ ル
必 ヵオ.ズ決 定 シ タ ル辞 ナ リ
モナリ
こ こ で注 目 さ れ る こ と は 、 院 政 期 成 立 の古 辞 書 ﹃字 鏡 ﹄ に 採 録 さ
れ て い る十 一の訓 (こ れ ら は す べ て ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ に採 ら れ た 六 つ
ナリ
ル
定 辞 ト 注 ス⋮ ⋮ 又懸 断 ノ辞 ト 注 シ テ 必 定 サ ア ル ベ キ コト ト
ル
必 ヵナラズキ ツ ト ト 訳 ス
ヒツ
㈲ ﹃助 語 審 象 ﹄ (
三 宅 橘 園 、 一入 一七 年 刊 )
必 ハ、 定 辞
専也ト訓 ス
⑦ ﹃
詩 家推敲﹄ (
釈 顕 常 、 一七 九 九 年 刊 )
云 二用 ウ
必
㈲ ﹃助 辞 鵠 ﹄ (
河 北 景 碵 、 一七 入 六 年 刊 )
の訓 と 重 復 し て いる ) が、 室 町 期 以 後 成 立 の ﹃倭 玉 篇 ﹄ ﹃節 用集 ﹄な
ど に は ﹁カ ナ ラ ス﹂以 外 は表 れ て こな い こと であ る 。 (﹃色 葉 字 類 抄 ﹄
の成 立 は、 そ の境 目 にあ り ﹁カナ ラ ス﹂ の み を 採 った と思 わ れ る)
これ は 、 こ の時 期 が語 のも つ意 味 を 自 由 に 日本 語 化 し て いた 翻 訳
調 の訓 読 がす た れ 、 訓 読 が 固 定 化 す る 時 期 と ほ ぼ 同 じ であ り 、 語 の
読 み 方 も 多 く 読 ま れ て いる も の に 一元 化 し 、 そ れ にそ の語 のも つ他
﹁必 ﹂ の場 合 、 ﹁き っと ﹂ の意 味 の ﹁カ ナ ラ ス﹂ に ﹁も し 、 ど う し
の意 味 を も も た せ る よ う に な った た め では な か ろう か。
(5)
マヘ
ヂヂヤウ
後 ノ コト ノ間 違 ザ ル ヲ前 以 テ 治 定 ス ル義 ナ
マチガ ハ
@ ﹃助 字欒 ﹄ (
釈 介 石、 一八 六 一年 刊 )
必 ハキ ツト ト 訳 ス
リ
こ れ ら の著 作 か ら 次 の こ と が 言 え る。
e 、 す べ て が ﹁カ ナ ラ ズ ﹂ と 読 む。
口 、 ﹁ゼ ヒ ト モ﹂ ﹁ゼ ヒ﹂ ﹁ゼ ヒ ニ﹂ ﹁キ ット ﹂ な ど と 口語 訳 し て い る。
え 方 が ﹁カナ ラ ズ ﹂ と いう 読 (
訓 ) み方 を 定 着 さ せ た ので は な い か。
㊨ 、 ﹃字 彙 ﹄ の ﹁必 、 定 辞 ﹂を 引 いた も の が多 く 、 そ れ を 基 と し た考
四 、 ﹃文 語 解 ﹄の序 で ﹁学 者 旧来 ノ 倭 読 二泥 テ義 意 ニク ラ キ コト 多 シ ﹂
﹁一字 一
二 訳 ア リ テ 相 当 ル ハ論 ナ シ或 ハ 一訳 多 字 ニア タ ル或 ハ 一字
二多 訳 ア リ﹂と 述 べ て いる 釈 大 典 ま で が 、 ﹁カ ナ ラ ズ﹂と 読 み必 定 の
意 の み と し て い る。
な お 、 ﹃助 字 詳 解 ﹄ の例 文 に は 、 外 に ﹃史 記 ﹄淮 陰 侯 列 伝 の ﹁王 必
欲 長 王 漢 中 ⋮ ⋮ ﹂ が あ り 、 ま た ﹃詩 家 推 敲 ﹄ に は例 と し て杜 詩 の句
﹁必 逢 佳 士 亦 写 真 ﹂が 採 ら れ て いる が、 こ れ ら は 中 国 の現 行 辞 典 類 な
ど で は仮 定 の例 と し て 挙 げ ら れ て い るも の であ る。
ヲ
ノ
ナリ
團 凹の
こ のよう に江 戸 期 の専 書 に は 、 仮 定 の意 と し て いる も の は な いと
ント
思わ れるが、﹃
用字格 ﹄ (
伊藤東涯 、 一七 〇三年序)の圍
項 に ﹃後 漢 書 ﹄ 鍾 皓 伝 の ﹁明 府 欲 三必 得 二其 人 一、 西 門 亭 長 陳 寔 可 。﹂
な ど の文 を 引 いて ﹁此 モ苟 欲 欲 苟 ト 同 例 ナ リ ﹂と あ る 。 ﹁必 ﹂を ど の
よ う に 読 ん だ か は 明 ら か で は な い が、 仮 定 の意 と し た とも 考 え ら れ
る。 (ち な み に、 ﹃経 伝 釈 詞 ﹄の ﹁苟 ﹂の項 に は 、 ﹁苟 猶 若 也 ﹂とあ る )
以 上 のよ う に 、 わ が国 では 、 ﹁必 ﹂を ﹁モ シ﹂と 訓 じ 、 仮 定 の意 に
と る こ と は ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ な ど の 古 辞 書 以 外 に は な か った よ う に み
え る 。 (﹁カ ナ ラ ズ ﹂ と 読 み、 文 脈 上 ﹁も し 、 どう し て も ﹂ な ど と解
し かし 、 古 辞 書 に ﹁モ シ﹂ の訓 が 存 在 す る の は、 古 く は 漢 文 中 の
し て い るも のは あ る)
モ
﹁必 ﹂に必 定 の意 の外 に 仮 定 の意 も あ る こ と を 理 解 し て いた に ち が い
な く 、 仮 定 の句 に お い て は ﹁若 ﹂ ﹁如 ﹂と 同 じ よう に ﹁必 シ﹂を 読 ん
で は、 本 邦 人 が奈 良 時 代 、 漢 文 で著 述 し た も の に 仮 定 の意 と し て
だ であ ろう が 、 訓 点 資 料 な ど に も 表 れ て いな いよ う で あ る 。
ニ
ミ ツヲ
ナ ウ カ バ セ ソ ロ ロ
[熱 ]
マシ
(仁 徳 天 皇 =
(
垂仁 天皇、三 四年)
ヲ
年)
遇 二先 皇 }而 仕 歟 。 (
垂 仁 天皇 、 ニ
ハヤ ク マヰ テ イ タ マ シ カ バ
ノ
ニ へこ エ ヨ こヘヅ
マウ テ キ タ ラ マ シ カ バ [熱 ]
必 速 詣之。
テ
マテ
用 いた 例 の有 無 を ﹃古 事 記 ﹄ ﹃日本 書 紀 ﹄ ﹃風 土 記 ﹄ に つ いて み る と 、
﹃日 本 書 紀 ﹄ と ﹃風 土記 ﹄ にわ ず か な がら 次 のよ う な 例 が み ら れ る。
ニ
ニ
◎ ﹃日 本 書 紀 ﹄ (
国史 大系本)
シテ
㈹ 、 汝 不 レ迷 レ道
年 細注)
ハ
ハム [熱 ]
ト
ヲ
⑧ 、 必 遇 二其 佳 人 一。 道 路 見 レ瑞 。
ナラバ
オ モ へ [前 ]
◎ 、 必 欲 レ得 レ我 者 。 沈 二是 匏 一而 不 レ令 レ泛 。
三 例 はす べ て会 話 文 中 にあ る。 直 接 関 係 のな い傍 訓 は 省 略 し た
も の があ る 。
傍 訓 の [熱 ] は熱 田 神 宮 所 蔵 本 、 [前 ] は前 田 家 所 蔵 本 。
三 例 と も 、 ﹁必 ﹂に は 傍 訓 がな い の で、 加 点 者 はな ん と 読 ん だ か は
不 明 であ る が 文 脈 上 、 仮 定 の ﹁必 ﹂ であ る と 考 え ら れ 、 さ ら に各 例
に つ いて は 次 の こ と が 言 え る。
㈲ 、 ﹁必 速 ﹂ の下 を ﹁⋮ ⋮ マシ カ バ ⋮ ⋮ マシ﹂ と 読 ん で いる こ と は、
加 点 者 も ﹁必 ﹂ を 仮 定 の語 と と った と思 わ れ る。
⑧ 、 ﹁遇 ﹂ の ﹁ハ﹂ は 、 接 続 助 詞 (バ) で あ ろ う 。 従 って、 加 点 者 も
こ の句 を 仮 定 、 ﹁必 ﹂ も 仮 定 の語 と 解 し た と思 わ れ る。
(6)
⑥ 、 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の 仮 定 の 句 に 多 く み ら れ る ﹁若 ⋮ ⋮ 者 ﹂ と 同 じ 形 を
草 を 敷 け る が 如 く 生 ひ む 、 と のり た ま ひき 。
○判 り て 云 り た ま ひ し く 、 汝 の 田 の苗 は、 必 ず 草 を 敷 かず と も 、
ノ
の 二 つ の意 味 のあ る 語 と し て 用 いら れ て い た。 ﹁如 果 ﹂の意 に 用 いら
﹁必 ﹂ は、 中 国 に お いて は 少 く と も 宋 代 以前 に は ﹁一定 ﹂ ﹁如 果 ﹂
むすび
と っ て お り 、 こ の ﹁必 ﹂ は ﹁若 ﹂ の 意 と し て 用 い た の で あ ろ う 。
オモ へ
⑧ ⑥ 、 ⑧ の 熱 田 神 宮 本 の ﹁遇 ハン﹂、 ⑥ の前 田 家 本 の ﹁欲 ﹂ の 訓 読
は 、 ﹁必 ﹂を ﹁カ ナ ラ ズ ﹂と 読 む こ と か ら 生 じ た も の であ ろう が文 脈
ち な み に、 日 本 古 典 文 学 大 系 本 ﹃日 本 書 紀 ﹄ (坂本 太 郎 等 校 注 )、
れ る こと は、 ﹁一定 ﹂の意 と し て 用 いら れ る よ り は は る か に少 な か っ
上 奇 異 に感 じ ち れ る。
日 本 古 典 全 書 本 ﹃日 本 書 紀 ﹄ (
武 田 祐 吉 校 註 )で は 、 左 記 のよ う にす
た よう であ る が 諸 書 に使 用 さ れ て いる。
れ る よう にな る と 、 ﹁必 ﹂は ﹁如 果 ﹂ の意 と し て は 用 いら れ な く な り
し か し ﹁若 ﹂ な ど の語 が ﹁如 果 ﹂ の意 を 表 す 語 と し て多 く 用 いら
べ て ﹁カナ ラ ズ ﹂ と読 み 、 仮 定 の句 と し て いる 。 (よ み がな 省 略 )
へた てま つら ま し 。
㈲ ○汝 、 道 に 迷 は ず し て 必 ず 速 く 詣 れ ら ま し か ば 、 先 皇 に 遇 ひ て仕
現 在 に 至 って いる と 考 え ら れ る 。
のま ま で は な い。
小 論 に直 接 関 係 の な い引 用 文 の表 記 は、 必ず し も 引 用 原 拠 の表 現
関 連 に お い て考 え な け れ ば な ら な い訓 み の 一つであ ろう 。
そ し て ﹁必 ﹂ は き ま って ﹁カ ナ ラ ズ ﹂ と 読 ん で いる 。 日 本 語 と の
﹁も し ﹂ の意 を 含 ん だ語 と し て解 釈 し て い る よう であ る。
﹁か な ら ず ⋮ し よう とす る な ら ば ﹂ ﹁どう し て も ⋮ で あ る な ら ば﹂ と
日本 語 の ﹁かな らず ﹂ に は ﹁も し ﹂ の意 は な い に も か か わ ら ず 、
し ま った よう であ る 。
ナ ラズ ﹂ と いう 訓 み 方 に埋 も れ 、 訓 読 の固 定 化 と と も に 統 一さ れ て
﹁モ シ﹂ と いう 訓 み は、 圧 倒 的 に多 い ﹁き っと ﹂ の義 とし て の ﹁カ
い た だ ろう こ と の痕 跡 が み ら れ る だけ で あ る 。
はな く 、 ﹃日本 書 紀 ﹄ ﹃風 土記 ﹄ の前 記 諸 例 に ﹁モ シ ﹂ の意 に解 し て
理 解 さ れ て は いた だ ろ う が、 古 辞 書 以 外 に は ﹁モ シ ﹂ と 訓 ん だ記 録
一方 、 わ が国 に お い ても ﹁カ ナ ラ ズ ﹂ と ﹁モ シ﹂ の二 義 があ る と
○汝 、 道 に 迷 は ず し て か な ら ず 速 く 詣 ら ま し か ば 、 先 の皇 に遇 ひ
て 仕 へ奉 ら ま し を 。
⑧ ○必 ず 其 の佳 人 に遇 は ば 、 道 路 に 瑞 見 え よ。
○か な ら ず そ の佳 き 人 に 遇 はば 、 道 路 に瑞 見 れ む 。
◎ ○必 ず 我 を 得 む と 欲 は ば 、 是 の匏 を 沈 め て な 泛 せ そ 。
必 雖 レ不 レ敷 レ草
如 レ敷 レ草 生
○か な ら ず 我 を 得 ま く 欲 ほ さ ば 、 こ の匏 を 沈 め てな 泛 ば し め そ 。
汝 田苗 者
◎ ﹃風 土 記 ﹄ (日本 古 典 文 学 大 系 本 )
判云
校 注 者 秋 本 吉 郎 は、 日 本 書 紀 古 訓 な ど を 訓 例 と し て、 次 のよ う
に 訓 み下 し て いる 。
判 り て云 り た ま ひし く 、﹁汝 が 田 の苗 は、必 ず 、草 敷 かず と も 草
敷 け る が如 生 ひ む ﹂ と のり た ま ひ き。
こ れ も 文 脈 上 、 仮 定 の意 で あ ろ う 。 ま た ﹁雖 ﹂ は ﹃助 字 弁 略 ﹄ な
ど に も ﹁仮 令 之 辞 ﹂ と あ る よう に仮 定 の語 と し て 用 いら れ る も の で
あ り 、 ﹁必 雖﹂ 二 語 で 仮 定 と し た と も 考 え ら れ る 。
日本 古 典 全 書 本 ﹃風 土 記 ﹄ (
久 松 潜 一校 注 )は、 次 のよ う に訓 読 し
て いる。
(7)