日本救急撮影技師認定機構による脳血管障害を考慮した 脳CT撮影条件

第15回 日本臨床救急医学会総会 学術集会
日本救急撮影技師認定機構による脳血管障害を考慮した
脳CT撮影条件アンケートの報告
日本救急撮影技師認定機構 救急撮影技術データベースの構築WG
慶應義塾大学病院 中央放射線技術室
長谷川 雅一
奈良県立奈良病院 中央放射線部
澤 悟史
札幌医科大学附属病院 放射線部
平野 透
札幌医科大学附属病院 放射線部
鈴木 淳平
国立大学法人 北海道大学病院 診療支援部
笹木 工
誠光会草津総合病院 診療技術部放射線科
岡田 裕貴
大阪府立泉州救命救急センター 放射線科
藤村 一郎
大阪府立泉州救命救急センター 放射線科
坂下 惠治
背景
2010年10月に日本放射線技術学会より放射線医療技術叢
書として「X線CT撮影における標準化 ∼ガイドライン
GuLACTIC ∼」が発刊された.X線CT撮影の標準化を目指
したものである.しかし,各施設の夜間勤務時間帯における
検査の実状はいかなるものであろうか?
目的
脳血管障害は脳梗塞・くも膜下出血・脳内出血の3種類が
あり,撮影を行う機会が多い疾患の一つである.単純CTの
結果次第では脳血管CTAを依頼される場合がある.夜間勤務
時間帯における救急患者で,脳血管障害を考慮した脳CT撮
影条件の多施設アンケートを収集する機会を得た.実態の把
握や各施設における撮影時の工夫などについて報告する.
方法
アンケート作成: Google Document
アンケート期間:2011年11月∼2012年2月
対象者:日本救急撮影技師認定機構
救急放射線技術メーリングリスト登録者
回答施設数:68施設
アンケート収集は日本救急撮影技師認定機構の
倫理委員会において承認を受けた研究である
アンケート項目
脳血管障害を考慮した単純CTとCTAについて
回答者全てに共通
撮影条件・留意点・CTAを行うか,など
SAH(くも膜下出血)でCTAを行う施設のみ
操作担当者はCTAができるか・造影剤注入方法,など
結果:装置メーカー・実検出器列数
装置メーカー
実検出器列数
50%
25%
0%
1列
3%
7%
15%
2∼4列
29%
6∼10列
7%
12∼16列
18∼32列
25%
3%
40∼64列
51%
80列
9%
1%
128列
320列
GE
日立
Siemens
PHILIPS
東芝
6%
43%
結果:管電圧・回転速度・画像スライス厚
管電圧
X線管回転速度
画像スライス厚
50%
0%
4%
1%
21%
3%
3mm
6%
4mm
25%
4%
8%
44%
5mm
35%
35%
94%
6mm
4%
7mm
3%
8mm
1%
10mm
1%
テント上で変える
その他
120kV
130kV
140kV
0.5 s/rot
1 s/rot
2 s/rot
0.75 s/rot
1.5 s/rot
3%
32%
結果:撮影方法・ヘリカルスキャンでのビームピッチ
撮影方法
ヘリカルスキャンでのビームピッチ
0%
24%
25%
0.5未満
50%
0.5∼0.7
76%
0.71∼0.99
1以上
ヘリカルスキャン
コンベンショナルスキャン
50%
31%
19%
ビームピッチ:X線線束幅に対する 寝台移動距離
結果:AEC未使用の管電流とAEC使用のSD値
AEC未使用 47施設:管電流設定値
AEC使用 21施設:SD設定値
50%
60%
25%
0%
30%
0%
16%
100∼200mA
2.0未満
2.0以上2.5未満
201∼300mA
11%
46%
2.5以上3.0未満
301∼400mA
401∼500mA
15%
4%
AEC:Automatic Exposure Control
(管電流自動調節機能)
53%
3.0以上4.0未満
4.0以上
32%
5%
SD:Standard deviation
(CT値のバラツキの程度を示す)
結果: 工夫点・留意点
脳CT基準線に整位できない場合の対処法
クッション等で整位
可能な限りガントリーを傾ける
ヘリカルスキャンを行うか最小スライス厚で再構成しMPR出力
留意点など
嘔吐の可能性がある場合は固定しない
下顎呼吸で静止できない場合はタイミングをみて撮影
時間優先のため位置決め撮影は行わない
結果: SAH判明後にCTAを行うか?
SAH判明後にCTAを行うか?
行わない(行えない)理由は?
脳外科がない.脳外科常勤医がいない.
SAHが判明した時点で他院へ転送される.
40%
MRAが第一選択,次にAngiographyが基本
60%
Angiographyがすぐに行える
脳外科の方針でAngiographyを行う
行わない(行えないを含む)
行う
結果: 操作担当技師は全員CTAができるか?
60%
30%
0%
54%
全員操作可能
複数名操作可能
29%
複数当直で一人は必ず対応可能
当番呼び出し
その他
10%
5%
2%
その他:撮影は全員対応可能.VR作成は救命センター医師の作成・診断
結果: 使用造影剤濃度と注入方法
使用造影剤濃度(造影初回を想定)
32%
造影剤注入方法
25%
49%
2%
75%
17%
300mgI/mL
350mgI/mL
320mgI/mL
370mgI/mL
固定
体重等で可変
結果: 造影剤注入方法
注入方法固定:注入速度と注入時間
10秒未満
3mL/s
3.5mL/s
4mL/s
4%
2%
4%
2%
6%
10秒
4.5mL/s
10秒超えて15秒未満
2%
4%
14%
2%
15秒
4%
2%
6%
2%
15秒を超える
12%
10%
14%
範囲に合わせて
独自に決定
2%
4%
6%
結果: 造影剤注入方法
体重で可変する場合:単位時間・単位体重あたりの投与ヨード量
30%
15%
0%
20未満
20以上22未満
10%
10%
30%
22以上24未満
24以上26未満
30%
26以上28未満
28以上30未満
30以上
[mgI/kg/s]
20%
結果: 撮影タイミングとモニタリング位置
モニタリング位置
撮影タイミング
0%
35%
70%
0%
撮影開始位置
10%
時間固定
BT使用・自動
BT使用・目視
63%
Test injection
16%
63%
頸部(C1,C4 etc.)
15%
12%
BT:ボーラストラッキング
頭蓋内
その他
35%
70%
16%
6%
その他:頭蓋内圧亢進の程度で頭蓋内か頸部を決定
結果: CTA時の管電圧とSubtractionの有無
CTA時の管電圧
Subtractionの有無
100%
50%
0%
80kV
12%
2%
90kV
100kV
2%
120kV
83%
32%
56%
135kV
140kV
7%
その他
5%
行っている
行っていない
Subtraction:単純と造影を撮影.造影の画像から単純の画像を減算すること
適宜判断
結果: 画像処理・留意点
VRを含めた画像処理
マニュアル通りに画像作成する
動脈瘤付近の拡大再構成を行う
術式を考慮した角度の画像を作成する
マニュアル以外の画像は後日CT staffが作成
SAHでCTAを行う場合の留意点
全脳撮影が基本.造影剤注入総量は多めに設定
単純CTを確認し,脳圧が上がっていることが予想される
場合は,モニタリング位置を頭蓋内に,モニタリング時間を
長めに設定しておく
考察:資料 - GuLACTIC 脳CT 推奨条件
急性期脳虚血ではearly CT signの描出
白質・灰白質のコントラストが十分であること
脳室・脳溝が明瞭であること
単純CTでも主要血管がある程度同定できる
※
120kV,400mAs程度 , 1s/rot以上
5mm厚(テント上10mm)
※ 基底核レベルでSD=3∼5となる設定が必要
(脳梗塞などがわかるような線量設定)
考察:単純脳CT
91%の施設でX線管回転速度は1秒以上
半数を超える施設で1.5秒以上
テント上でスライス厚を変更
AEC使用でSD=3未満の施設が64%
救急撮影であるが,GuLACTICの推奨条件を
満たすように配慮されている.
考察:資料 - GuLACTIC 脳動脈瘤CTA 推奨条件
大後頭孔から前頭洞上端
造影剤総量 500mgI/kg以下.注入時間:25秒
撮影時相:動脈相 20秒.スキャン時間:15秒以下
Recommendation
造影剤総量 400mgI/kg以下.20秒注入
Bolus Tracking,Test Injectionの使用.
option
Subtractionの利用.病変部の拡大再構成
考察:脳CTA
CTA対応可能な技師が6割を超えている
造影注入時間・注入量を長く多めに設定
撮影範囲を広く設定している
脳圧の程度を考慮しモニタリング位置を変える
回答対象者:JERT 救急放射線技術mailing list 登録者
救急撮影に関して意欲的
救急患者の病態特性を理解し,工夫してい
る
まとめ
脳血管障害の疑いがある救急脳CT撮影において,
GuLACTICに準拠しようとする配慮がされていた.
また,救急撮影という特殊性・専門性を考慮し
各施設で創意・工夫がなされていた.
結語
多施設からの回答により,夜間勤務時間帯における脳
CT撮影検査の実状および一定の傾向を把握することが
できた.今回の結果から,脳血管障害を考慮した脳CT
検査に対する新たな資料になり得ると考える.
謝辞
本アンケートにご回答いただきました
68施設の皆様に深謝いたします.
日本救急撮影技師認定機構 救急撮影技術データベースの構築WG 一同