海洋若手会 夏の学校 2006.07.27 潮流によって形成される海底境界層の 不安定とその混合効果 (II) ○坂本圭、秋友和典 (京都大学大学院・理学研究科) 1 はじめに(1) 背景 世界海洋の深・底層の多くを占める南極底層水: 南極大陸陸棚上の海水や沖側の海水などの水塊が混合して形成 (Foster and Carmack 1976, Foldvik et al. 2004) 潮汐:混合を引き起こす主要な要因の1つ(Pereira et al. 2002) ・内部波の砕波 ・陸棚波 ・潮流によって形成される海底境界層(潮流海底境界層)のシアー不安定 (Foster et al. 1987, 数値実験:Robertson 2001, Pereira et al. 2002) 潮流海底境界層の鉛直スケール: σ:潮流振動数、ν:粘性係数 Rot:時間ロスビー数(潮流周期/慣性周期) 極域では慣性周期がM2潮周期に近く、Rot~1 →Htideの増大 →不安定による混合が海底からはるか上方まで及ぶ (バレンツ海の観測:Furevik and Foldvik 1996) 1 はじめに(2) これまでの研究 潮流の振動と地球の回転の効果が同程度となるRot~1の場合も含めて、両 者が存在する下での、境界層における乱流の振る舞いは明らかでない そこで2004年度夏の学校では、まず鉛直2次元数値実験によって境界層の安 定性を調べた 結果:Rotに応じて異なるタイプの不安定が起こる 定常流エクマン層での変曲点不安定 (Rot<1.0) 非回転系・振動流によるストークス層での変曲点不安定 (Rot>1.1) 特に1.0 < Rot < 1.1では ・コリオリ力が本質的な不安定が引き起こされる ・弱い潮流でも境界層は不安定 1 はじめに(3) 目的 乱流状態:本質的に3次元構造 これまでの2次元モデルでは、乱流の特性・混合の性質を調べられない そこで新たに、3次元モデルを用いた数値実験を行った 本報告の内容: 1. 不安定の成長段階 (3節) 2. 乱流段階 (4節) 3. 乱流による混合効果 (5節) 2 領域、支配方程式系 モデル領域 回転の下でのLx×Ly×Hの矩形 海領域。 支配方程式系 密度一様、非圧縮、非静水圧、リジッド・リッド条件。 変数を基本潮流場(vtide、後述)と擾乱場(v)に分ける。 運動方程式 連続の式 渦粘性係数 ν =1cm2/s (等方) 、標準密度 ρ0=1.027g/cm3 2 境界条件、初期条件、差分 境界条件 海面:リジッド・リッド、非粘着 海底:粘着条件 水平:周期条件 初期場:微小擾乱 積分期間:12潮流周期 実験領域とグリッド間隔: (Htideで無次元化した値) Lx=Ly=64, H=256 ⊿x=⊿y=0.125 ⊿z=0.02-10 (160グリッド) 不安定の成長段階に関する3節では Lx=Ly=128, H=64, ⊿x=⊿y=1.0, ⊿z=0.1-18 Htideと潮流振幅を用いて方程式を無次元化して、実験を行う。結果も無次元 で示す。 2 実験ケース、基本潮流場(無次元) 時間ロスビー数Rot(慣性周期/潮流周期)に対する依存性に注目 潮流振幅は全て一定(8.53cm/s) ケース: Rot Htide (m) レイノルズ数 エクマン層 Ek 0 1.2 1000 A 0.5 B 0.95 1.2 1000 5.1 4350 潮流構造に大きな違いはない ケース: Rot C 1.05 D 2.0 厚さ (m) レイノルズ数 5.4 4580 1.7 1410 ストークス層 St ∞ 1.2 1000 3 結果: 不安定成長段階 赤:上昇流 青:下降流 擾乱に伴う鉛直流 ケースA Rot=0.5 エクマン層 変曲点不安定 C Rot=1.05 コリオリ型 不安定 x どのケースでも2次元擾乱、波長は約15 2次元実験で調べたパラメータ依存性と一致 Rot < 1.0: エクマン層変曲点不安定 1.0 < Rot < 1.1: コリオリ型不安定 1.1 < Rot : ストークス層変曲点不安定 D Rot=2.0 ストークス層 変曲点不安定 4.1 乱流状態 渦運動エネルギーEKEの時間発展 ▼ 準定常 解析に用いる ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 4.1 各ケースの乱流場 (w) Ek A B C z 全層に及ぶ乱流 x D St 4.2 乱流特性1 渦運動エネルギーEKE EKE (領域・時間平均) どのケースとも海底付近 (z=0.1~0.3)で最大 ケースEk,A,D,Stではz~20まで に急激に低下 ケースB, Cでは広い範囲にわ たって大きいEKEが維持 Rot~1でのEKE上昇の原因 1.レイノルズ数の上昇 2.慣性波の励起・伝播 ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 4.2 レイノルズ数の影響 EKE (領域・時間平均) 対数表示 0<z<40で指数関数的に減少 ケースB,Cの減少率は、Ek, A, D, St の約1/4 エネルギーが一定値に落ち着く 上層では、Re=1000でもRot~1で エネルギーレベルが1桁上昇 破線:RotはケースB, Cと同じ ただし、レイノルズ数を他ケースと 同程度(1000)に下げた実験 指数関数的に減少する範囲での 減少率はEk, A, D, Stと同程度 ケースB,CのEKE減少率の低下の原因 レイノルズ数の増大に伴う、粘性によ るエネルギー散逸の低下 ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 4.2 慣性波 ケースC EKE水平平均の、t-zダイアグラム 慣性波群速度での、エネルギーの上方への輸送と反射 Rot~1での顕著な慣性波の励起・伝播は、最も大きな渦の 時間スケールが慣性周期に近づくためと考えられる。 4.3 乱流特性2 渦の空間スケール 積分スケールl: wの相関を鉛直積分した値 ただし相関が正の範囲のみで積分 zに対してほぼ線形に増大 最大2倍のばらつきはあるもの の、EKEほどの違いはない ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 5 乱流混合の評価 鉛直に線形な初期値を持つトレーサーの 時間発展を計算する →「見かけの鉛直拡散係数」κapを評価 する C:トレーサー濃度 乱流拡散理論の通り、κapは渦の長さ スケールlとEKE1/2の積にほぼ比例 0<z<40 B, Cの値は他ケースの2~3倍 より上方に極大が存在 ←レイノルズ数の増大により、lの大き い上層でも強い乱流が維持 40<z B, Cでは境界から離れても0.02~0.04 ←慣性波の砕波か ケース: Ek, A, B, C, D, St(点線) 6 まとめと課題 3次元数値実験によって、潮流海底境界層の不安定とそれによる混合効果を 調べた。 不安定の発達は2次元実験と同様に時間ロスビー数Rotに依存して変化する。 乱流状態になると、 1. Rot~1において、渦運動エネルギーは全層にわたって強められる。この原 因として、1.境界層の鉛直スケールHtideの増大に伴う粘性による散逸の 低下と、2.強い慣性波の励起・伝播が挙げられる。 2. 形成される渦の空間スケールに大きな違いはない(有次元ではHtideに比 例する)。 3. その結果、Rot~1の時に、全層に及ぶ強い乱流混合が引き起こされる(有 次元で100~500cm2/s)。 課題 1. 高レイノルズ数実験(潮流振幅の増加、分子粘性を用いる) 2. 成層効果
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