自然現象記録媒体としての 中世史料の分析

自然現象記録媒体としての
中世史料の分析
小山研究室
2年 瀬戸 遥
古記録の分析
歴史時代の地震史を正確に復元するためには、古記録中に
残る天変地異記述を収集・解析する作業が欠かせない。
これまでの文献史料にもとづく研究の多くは、原史料から抜
き出された記録をもとにして行われ、その記録件数や内容か
ら各時代の自然災害の特徴や盛衰が検討されてきた。
しかし厳密には、史料自体の欠落期間や、自然現象に対する
史料の記録特性が把握されていなければ、その時代の自然
災害発生状況を正確に知ることは困難である。
(小山,1999)
→自然災害記録媒体としての古記録の信頼性を吟味し、適
切なものを選び、分析する。
分析の方法
古記録は完全な記録媒体ではない。
→情報量、時代変遷を調べ、自然災害記録媒体としての性
能を知る必要がある。
●史料の信頼性を推し量るポイント
・原史料か二次史料か
・いつか書かれたか(地震からどれくらい後か)
・誰が書いたか(体験者、直接の伝聞、噂、別の史料から)
・他の信頼すべき史料と矛盾がないか
・記述が地質学的・考古学的証拠などと矛盾がないか
(「はじめての史料地震・火山学」 小山・早川)
十分な検討をほどこし、事例に即した選択基準を定める。
史料地震学研究の問題点
①史料吟味・選別の立ち遅れ
②震央位置・地震規模・地震テクトニクス推定の
不確かさ
③研究用データベースの不在
④歴史地震の日付表示の問題
⑤記録欠落の問題
⑥記録媒体特性の考慮不十分
⑦後継者の不在
(「日本の史料地震学研究の問題点と展望」 小山)
①史料吟味・選別の立ち遅れ
日本の地震史を全国的・網羅的に収集・分析をおこなった
ものとして「大日本地震史料」、「新収日本地震史料」があ
る。これらはあらゆる地震史料を集めただけのいわゆる生
データ集であり、大量の「ノイズ」をふくんでいる。
また、史料の吟味・選別・解読・地震学的考察・地震像の考
察までおこなった「被害地震総覧」は、史料の吟味結果だ
けが書かれており、その方法や過程の詳細が明らかでな
い。さらに、個々の記述がどの史料に準拠したものである
かが書かれていないため、記述に疑問を持っても、確か
めたり、さらなる調査・考察をしたりする手がかりが与えら
れない。
→引用元の原史料の出自・性格が十分吟味され、低質史料
の記述を除いた「精選地震史料集」や、記述解釈までおこ
なった「歴史地震カタログ」が作られたうえで、研究者に公
開されることが望ましい。
②震央位置・地震規模・地震テクトニクス推定の不確かさ
「被害地震総覧」に掲載された地震規模のうち、かなりの
ものが史料不足のために過小評価されている可能性が
つよい。震央位置もあいまい。
そもそも震源断層モデルや地震テクトニクスの観点が希
薄である。
→主要な歴史地震について、震央位置、規模、震源断層モ
デルもふくめたテクトニクス的意味を原史料から客観的
に見直す必要がある。
⑤記録欠落の問題
古代から近世初期にかけての歴史記録欠落ははなはだ
しい。「データ欠落期間」の詳細は、明らかになっていな
いため、地震史料の不在が必ずしも現実の大地震の不
在を意味しない。これまで地震がなかったとされてきた期
間の中に巨大地震が隠れている可能性もある。記録の
欠落問題をつねに意識することが必要。
→具体的にどの地域のどのが歴史記録自体の欠落記に
あたるか、あるいは記録自体は現存するが地震記録が
ない日かを区別した基礎カレンダーを作成する。
(「日本の史料地震学研究の問題点と展望」 小山)
⑥記録媒体特性の考慮不十分
記録媒体である個々の史料自体が、自然現象に対してど
のような記録特性を持っていたかが重要。
従来の研究において、地震記述の信頼性チェックのため
に原史料の素性や性格に多少立ち入った研究がなされ
たことがあっても、地震記述部分以外の史料全体にわ
たって自然現象に対する記録特性が綿密に検討されたこ
とはほとんどなかった。
→時代変遷や虚偽の記述があることに注意しながら記録特
性を明らかにしていく。
研究目的・方向性
●記録の乏しい時代の史料の記録媒体としての
信頼性・特性を明らかにし、分析を行うことで歴史
時代の地震活動史を復元する。
→13世紀を対象に
13世紀を対象とすることの意義
●東海地震の発生史
684年
白鳳の南海・東海地震
887年
仁和の南海・東海地震
1498年
明応東海地震
1096年
永長東海地震
1605年
慶長の東海・南海地震
1099年
康和南海地震
1707年
宝永地震
1854年
安政の東海・南海地震
~
~
12世紀~13世紀の間が空白
→この間に巨大地震があったのでは?
●史料の存在
飛鳥時代末から平安時代前期にかけて、朝廷に
よって編纂された6つの連続する編年体歴史書
である「六国史」(~887年)以降の古代~中世
にかけては、公的機関による全国規模の系統的
な歴史記録は残っていない。
→中世の古記録を分析することで未知の地震の
歴史が明らかになる可能性がある。
研究対象とする史料
記録年表中世を参考にした、とくに情報量の多い
以下の史料。(後12世紀~13世紀)
・鶴岡社務記録
・明月記
・中臣祐明記
・三長記
・猪隅関白記
・業資王記
・玉蘂
・仁和寺次日記
・岡屋関白記
・民経記
・吉続記
・平戸記
・勘仲記
・中臣祐定記
・建治三年記
・葉黄記
・実躬卿記
・経俊卿記
・中臣祐春記
・太神宮司神事供奉記
・深心院関白記
・大乗院具注暦日記
・外記日記
・歴代天皇御記
・中臣祐賢記
現在行っている作業
●史料の所在チェック
●史料の情報量調べ
・一年のページ数
・およその文字数
明月記→1P=1092文字 二段構成
1192年・・・3月7.5P 4月8P 5月1P 計16.5P
1194年・・・12月0.5P 計0.5P
1195年・・・12月0.5P 計0.5P
1196年・・・2月0.1P 3月0.5P 4月8.5P 5月5.5P
今後の課題
●情報量調べをすすめる。
●信頼性の吟味をする。
●史料を選択し、分析する。