自然現象記録媒体としての 13世紀古記録の分析 小山研究室 2年 瀬戸 遥 ① 研究目的 歴史時代の地震史を正確に復元するためには、 古記録中に残る天変地異記述を収集・解析する 作業が欠かせない。これまでの文献史料にもと づく研究の多くは、原史料から抜き出された記録 をもとにして行われ、その記録件数や内容から各 時代の自然災害の特徴や盛衰が検討されてきた。 →記録の乏しい時代の史料の記録媒体としての 特性を明らかにし、分析を行うことで地震史の復 元に役立てる。 ② 13世紀を対象とすることの意義 発生史を見ると東海地震、 南海地震は約100年~150 年間隔で起きているが、13 世紀ごろは空白となっている。 →地震があったのでは? 13世紀の古記録を分析し、 地震の有無を明らかにする。 図1東海・南海地震の震源域と地震発生年表 小山(2006) 上段の日本地図の数値はフィリピン海プレートの移動速度 ③ 史料の存在 飛鳥時代末から平安時代前期にかけて、 朝廷よって編纂された6つの連続する編 年体歴史書である「六国史」(~887年) 以降の古代~中世にかけては、公的機関 による全国規模の系統的な歴史記録は 残っていない。このため、中世の古記録を 分析することで未知の地震の歴史が明ら かになる可能性がある。 ④ 研究内容 情報量調べ 古記録がどれだけの情報量をもっているのかを、 年別、月別のページ数をカウントし、文字数に 換算する。 基礎カレンダーの作成 各史料の記述分布や、具体的にどの年のどの 月が記録の欠落記にあたるかを明確にするた めに、情報量調べの結果を用いて、全史料合 計の文字数を、各年の月別にカウントし、13世 紀記録の全体像をまとめる。 ⑤ 記録年表 情報量調べは、記録年表(皆川.1984) にもとづいて行った。記録年表は、年別に 、何ヶ月分の記述があるかを史料別に まとめたものである。そこからとくに情報 量の多い史料を選び、研究の対象とした。 ⑥ 研究対象とする史料 後12世紀~13世紀の史料17編。 ・『鶴岡社務記録』 ・『明月記』 ・『玉蘂』 ・『実躬卿記』 ・『葉黄記』 ・『中臣祐明記』 ・『中臣祐定記』 ・『中臣祐賢記』 ・『中臣祐春記』 ・『民経記』 ・『猪隈関白記』 ・『三長記』 ・『建治三年記』 ・『経俊卿記』 ・『勘仲記』 ・『業資王記』 ・『平戸記』 ⑦ 作業結果(1) 史料別情報量調べ 各史料がどのくらいの情報量を持っているかを、年 ごとに月別のページ数をカウントし、文字数に換算する。 例) 明月記→1P=1092文字 二段構成 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 総ページ 総字数 1201年 11.5 4 10.5 5 5.7 6 7 4.5 2.7 0.2 0.5 0.5 58.1 63445 1202 10.5 8.5 4.6 2.5 4.2 2.7 5.5 7.8 4.7 5.5 10.7 12 79.2 86484 1203 12.5 4.5 3.8 3.2 2 5 3 6 1.5 0.7 10.3 6.7 62.4 68141 1204 8 5.3 8 5.5 2.5 3 5.4 3.6 1 1.7 4.5 11.5 60 65520 3.5 7.5 5.3 9 6.2 6.6 5 3.4 46.5 50778 (月) 1205 ⑧ 表1. 集計結果 (※は行でカウントしたもの) 史料名 総年数(年) 総月数(ヶ月) 総ページ数(P) 総字数(文字) 鶴岡社務記録 114 297 ※209 2717 明月記 35 281 1741 1901390 実躬卿記 11 81 391 252195 葉黄記 6 18 272 159237 玉蘂 13 66 518 387464 中臣祐明記 6 36 35 24499 中臣祐定記 8 73 240 169030 中臣祐賢記 13 112 574 403955 中臣祐春記 4 27 164 115456 平戸記 9 45 472 347392 猪隅関白記 18 113 1113 660240 民経記 30 133 1669 1001640 三長記 9 23 280 199382 建治三年記 1 12 ※260 2600 経俊卿記 23 54 443 340070 勘仲記 19 106 895 730238 業資王記 5 52 ※550 12650 ⑨ 集計結果より 表2 史料によって文章形式や情報量 に大きく違いがある。 途中欠落している年、月が多い。 合計文字数(字) 最多 1901390 『明月記』 2600 総月数(ヶ月) 297 12 総年数(年) 114 平均文字数(字) 441000 平均記述月数(ヶ月) 90 (〃) 平均記述年数(年) 19 (〃) 『鶴岡社務記録』 『鶴岡社務記録』 (一史料あたり) 最少 1 『建治三年記』 『建治三年記』 『建治三年記』 ⑩ 作業結果(2) 基礎カレンダーの作成 情報量調べの結果を用いて、全史料合計の文字数 を、各年の月別にカウントし、13世紀記録の全体像 をまとめる。(1992年~1301年まで) 茶、赤、橙、黄 グレー:年間100字以下 西暦 和暦 年 1192 建久 3 1193 建久 4 1194 建久 5 1195 建久 6 1196 建久 7 1197 建久 8 1198 建久 9 1月 2月 13 3月 4月 5月 8203 8749 1092 717 2112 492.8 6月 7月 8月 9月 10月 39 153.8 26 352 6403.2 109.2 546 9282 6006 5460 109.2 4045 9208 2684 4478.4 3667.2 3000 30000 57770.8 28862 4200 9667.2 7800 2924 422.4 16928 1538.4 704 11月 12月 39 1337.6 1472 1860 774.4 総字数 18135 1408 70.4 7840.4 39 546 585 5520 10672 11586 52607.2 13 11996.8 9347.2 42869.4 6960 4320 3218.4 74979.4 1310.4 113238.4 ⑪ 分かったこと 各史料の記述分布が明らかになった。 13世紀全体で、5箇所の欠落期が存在 する。時期はばらばら。 13世紀半ばは記述が少ない。 1200~1213年はほぼ全ての月にお いて記述があり、情報量も多い。 1295~1299年はどの月においてもほ とんど記述がない。
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