伝聞証拠(2)

2012年度冬学期「刑事訴訟法」17
伝聞例外
今回のポイント
○伝聞例外規定の概要
各例外規定の位置付けと異同
○刑訴法321条1項2号後段の相反性と特信性
○同321条3項・4項(検証調書・鑑定書)
立会人の指示説明の記載
私人の観察結果,鑑定類似の報告
○同328条の趣旨
証拠能力の要件
○写真,録音テープ,ビデオテープの証拠能力
犯行再現・被害状況再現の模様の写真・ビデオ
伝聞例外(1): 理由となる要素
○必要性
その相関
○特信性
① 一般的・類型的に信用性が極めて高いもの
⇒無条件で許容 (ex. §§321②,323)
② 一般的・類型的に信用性が高いもの
⇒必要性のみで許容 (ex. §321①1号)
③ ②に準じるもの
⇒高度の必要性のみ (ex. §321①2号前段)
or 必要性+特信性 (ex. §321①2号後段)
④ ①~③以外のもの
⇒高度の必要性+高度の特信性 (ex. §321①3号)
伝聞例外(2-1): 現行法
○法321~328条
○例外の基本的形態
書面について規定( 321①3号)⇒伝聞供述に準用(324条)
供述不能(高度の必要性)
+
(絶対的な)信用性の情況的保障(特信性)
⇒同2号(検察官面前調書)
・前段・・・供述不能
・後段・・・自己矛盾供述(対照の必要)
+(相対的な)信用性の情況的保障
⇒同1号(裁判官面前調書)
供述不能
供述書と供述録取書
供
述
録
取
書
供
述
(
記
述
)
供
述
書
録
取
者
伝 聞
読み聞け+署名押印
で代替
供
述
(
記
述
)
原
供
述
者
供
述
伝 聞
事
実
伝聞例外(2-2): 現行法規
○§321②~④
特性のある書面(鑑定書,検証調書等)についてその特性に応じた例外要件
○§323 (信用すべき書面)
性質上,一般的・類型的に特信性が認められる書面
○§322 (被告人の供述書・供述録取書)
原供述者が被告人の場合⇒特信性の要件
・不利益な事実の承認+任意性 or
・特信情況
⇒ 被告人の供述を内容とする被告人以外の者の伝聞供述
に準用(§324①)
伝聞例外(2-3): 現行法規
○§325(任意性の調査)
⇒証拠能力の要素 or 証明力の要素?
○§326(証拠とすることの同意)
⇒その性質は何か?
・反対尋問権の放棄
・証拠能力付与行為
・証拠能力を争うこと(責問権)の放棄
別途,原供述者の証人尋問が認められるか?
○§327(合意書面)
○§328(供述の証明力を争うための証拠)
⇒弾劾証拠としての使用に限られるか?
署名押印が必要か?
調書等についての証拠調べ請求の手順
(
検
察
官
)
検
面
調
書
の
取
調
請
求
(
裁
判
所
)
被
告
人
側
の
意
見
聴
取
(
被
告
人
側
)
同
意
不
同
意
(
裁
判
所
)
証
拠
調
べ
決
定
検
察
官
の
意
思
確
認
(
検
察
官
)
調
書
取 証
調 人
請 尋
求+問
の 請
撤 求
回
(
裁
判
所
)
証
拠
調
べ
決
定
証
拠
調
べ
証
人
尋
問
(
検
察
官
)
検
面
調
書
の
取
調
べ
請
求
(
裁
判
所
)
証
拠
採
否
の
決
定
証
拠
調
べ
被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
についての適用条文
○自白を内容とする場合
・§319① ⇒ 任意性
・§322① ⇒ 伝聞例外
○自白以外の不利益な事実の承認を内容とする場合
・§322① ⇒ 伝聞例外
・同但書
⇒ 任意性
○その他の供述を内容とする場合
・§322① ⇒ 特信情況 ⇒ 伝聞例外
321条1項2号前段の検面調書
○検察官に証人確保義務ないしその努力義務あるか?
証拠能力付与の前提 or 「供述不能」の要因? or
被告人側の証人審問権の軽視⇒証拠禁止?
○供述者が入管法違反により退去強制の対象となる場合
証人尋問決定済みの場合に退去強制になったときは,検面調書は常
に証拠能力が認められないのか or 事情の総合判断?
退去強制自体を検察官が停止させること可能か?
法改正は可能か・・・対象者の人権保護との関係
他の方途は?
・被告人側による証拠保全⇒被疑者が未特定の場合,弁護人がい
ない場合は?
・検察官による刑訴法226条ないし227条の証人尋問請求
⇒要件に当たるか?
被疑者・弁護人の立会いは裁判所の裁量
321条1項2号後段の検面調書(1)
○「相反する」か「実質的に異なった」供述
・1号の「前の供述と異なった」
=証明力や詳細さに差がある場合でも可
・本号=前の供述とは異なった事実を推認させ,あるいは前の供述か
らの推認を妨げたり,弱めたりする可能性のあるもの
321条1項2号後段の検面調書(2)
○特信性(特信情況)
・3号の特信情況=調書に録取された供述について独自に必要
供述の主体に関する事情(ex.利害関係のない者の自発的供述)や,供述の際の情
況(ex.信用性が担保されるような場所・機会・手続)等から特信情況ありといえる必要
⇒過去の出来事のため,認定容易ではない
・本号の特信情況=
公判等での証言と比べて,どちらの供述の方が情況的にみて
信用性が高い or 低いかという比較(相対的特信性)
⇒何を手がかりにして判定するか?
321条1項2号後段の検面調書(3)
○特信性(特信情況)の判定
◇調書に録取された供述内容を考慮してよいか?
・証明力の比較だから可とする考え方
⇒証拠能力の判断と証明力の評価の逆転?
・専ら外形的付随事情によって判断すべきだとする考え方
⇒過去の出来事のため十分な情報得られず,判定困難?
相反性の判定のためには供述内容を考慮すること不可避?
・供述の際の状況を推認する資料とする限りで可とする考え方
321条1項2号後段の検面調書(4)
○特信性(特信情況)の判定〔承前〕
◇実際上は,前の供述の際の状況より,公判等での証言の方に問題があるか
がポイント
⇒それとの比較で,前の供述に問題がなければ,特信情況ありとされ易い
⇒証人が前の供述と異なった証言をしたとき,検察官(必要に応じ裁判官も)
が前とは異なっている点を問いただしたり,供述が変更わった理由を追及する
などし,それに対する証人の返答やその際の態度等をも踏まえて,信用性を疑
わせる点がないかを判断
328条の「証明力を争うための証拠」
○非限定説(あらゆる伝聞証拠も可)
⇒公判等での証人等の証言と,その伝聞証拠のいずれが信用でき,証
明力が高いかの判断に帰着し,その伝聞証拠を直接の証拠として
採用したのと等しくなってしまう(伝聞法則の回避)?
○限定説(当の証人等の自己矛盾供述に限る)
別のところで異なったことを言っていたという事実を証明し(⇒伝聞証拠
としての使用ではない),公判廷等での証言等の証明力を減殺するこ
とを許すもの
= 328条は,伝聞法則の例外を設けたものではなく,伝聞証拠として
の使用ではないことを確認したもの。
百選90判例
○328条により証拠とすることができるのは,自己矛盾供述に
限られる=限定説
○証人等が別の機会に矛盾する供述をした事実自体は,厳格
な証明が必要
当人の供述書,供述を録取した書面(当人の署名・押印があるもの),
供述を聞いたとする者の公判等での供述またはこれらと同視し得る証拠
による証明の要
⇒・訴訟法上の事実(証拠の証明力に関する補助事実を含む)については,
自由な証明でよいはずではないか?厳格な証明が必要とする根拠は?
・「同視し得る証拠」としてどのようなものが考えられるか?
・別の機会に異なった供述をしたこと以外の,証明力を減殺する補助事実
(ex.供述者の資質,能力,偏見,利害関係)を証明するためにも厳格な証
明が必要か?
写真・録音テープ・ビデオテープ
○写真
人・物・情景等を機械的(光学的・電子的)にフィルムその他の媒体に記録,
それを(現像等を経て)印画紙等にプリントアウト
⇒すべて機械的に行われ,人の供述の過程について問題とされ得るよう
な誤りのおそれなし⇒非伝聞
偽造・変造等のおそれは?⇒関連性の問題?
○録音・ビデオ
・録音・ビデオ撮影と再生の過程については,写真と基本的に同じ=非伝聞
・供述や言語的動作が録音・撮影されている場合
◇当の供述・動作がなされたという事実を証明する証拠=非伝聞
◇その供述・言語的動作の内容である事実の存在・不存在を証明する証拠
⇒伝聞証拠(供述書と同じ。供述録取書のような二重の伝聞ではない)
☆「現場録音」,「供述録音」の別によるものではない。
文書(ex. 日記帳)を撮影した写真についても同じ
参考文献
①的場純男「検察官面前調書」
刑事訴訟法の争点(第3版)186頁以下
②堀江慎司「証人審問権と検面調書」
法学教室256号34頁以下
③古江頼隆「私人作成の火災原因に関する報告書の証拠能力」
平成20年度重要判例解説(ジュリスト1376号)214頁以下
④成瀬剛「刑訴法328条により許容される証拠」
ジュリスト1380号136頁以下