伝聞証拠

2012年度冬学期「刑事訴訟法」16
伝聞証拠
ポイント
○伝聞と非伝聞との区別
○供述証拠とは何か
○要証事実との関係
伝聞法則と憲法上の証人審問権
○伝聞法則は,本来,証拠法に固有の考慮に基づいて生成
⇒検察側提出証拠にみに限らず
被告人側提出証拠にも妥当
○自己に不利な供述をする証人と対面し,反対尋問することは
防御上重要
⇒特に被告人側のそれについて,憲法上の権利として保障
=証人審問権(憲法37条2項)
伝聞法則の趣旨(1)
○供述の特性
人
供
述
表
現
(
叙
述
)
覚知
憶記
実事
誤りの可能性
判定者(=裁判所)の面前における反対尋問によるチェック
供述からその内容である事実の存在を推認
伝聞法則の趣旨(2)
○伝聞証拠
証
言
書
面
(
録
取
書
)
書
面
(
供
述
書
)
公判廷
第
三
者
話
す
原
供
述
原
供
述
者
書
く
公判廷での反対尋問でチェック
できるのはどこまでか?
実事
伝聞証拠とは
○公判廷で反対尋問でチェックする必要があるのは
事実を体験した原供述者の原供述
⇒それができないのは,公判外の供述
○チェックの必要があるのは
その供述(原供述)から供述内容である事実の存否を
推認(証明)しようとする場合
伝聞法則で証拠とすることが禁止される伝聞証拠=
公判外の供述を
(それを聞いた第三者の公判廷での供述
またはそれを記述した書面を介して)
その供述内容である事実の真実性(存否)の証明に
用いる場合
非伝聞
○原供述について
1)知覚・記憶・表現過程の誤りの可能性が極めて小さいため反対尋問による
チェックの必要がない場合
・・・自然発生的・反射的言動
2)誤りの可能性が表現過程のみに限定されているため,反対尋問以外の方
法でも確認できる場合
・・・内心の思想・意思や感情(精神状態)を表す言葉
*内心の意思・感情等を表す言葉の場合には,表現過程の誤りの可能
性があるため,伝聞ではあるが伝聞法則の例外とする説も
⇒現行法のいずれかの例外規定に当たるか?
○原供述があったこと自体を証明しようとする場合
ex. 名誉毀損や恐喝を構成する発言・文書の記述
⇒要証事実(証明すべき事実)との関係で決まる。
〔例〕 教室で学生Aが,「I教授は,成績不良の学生の親から賄賂をもらって,
及第点を与えた。」と公言したのを聞いた学生Bの証言
・I教授がそのとおりの行為を行った事実を証明する場合
・AがI教授に対し名誉毀損行為を行ったことを証明する場合
要証事実の如何による伝聞・非伝聞の別
○最(二)判昭和30年12月9日・刑集9巻13号1699頁
Xは,Aに対する強姦致死の罪で起訴
・Aと話したところ,「Aは,『Xにつけられていけない。・・・自分はおそろしく
て飛んで帰った。」,「あの人はすかんわ,いやらしいことばかりするん
だ』と言っていた」というWの証言
【第一審】Aの供述⇒《XがかねてからAと情を通じたいとの野心を持って
いたこと》を証明
【原審】Aの供述⇒《AがXに対し嫌悪の情を抱いていたこと》(Aの内心の
状態)を証明 ⇒そうだとして,それで最終的に何を証明しようとするのか?
【最高裁】第一審はWの供述を第一審のいうような要証事実を認定する証拠
としている=伝聞証拠
その趣旨は?
①Aの供述⇒②供述内容である《XがAに対しいやらしいことばかり
していた》という事実の証明⇒③Xが野心を持っていたことを推認
という過程を経るとすると,①⇒②は伝聞証拠としての用い方
原審のような捉え方ができる場合はあるか?
共謀メモ(百選83参照)
○共謀の成立を証明しようとする場合
作成者(原供述者)
メ
記
憶
知
覚
(
モ
(
証
拠
)
表
現
共
謀
の
成
立
事
実
)
証明(推認)
○精神状態(意図等)を証明しようとする場合
メ
モ
(
証
拠
)
作成者(原供述者)
他の関与者
意
図
等
意
図
等
表
現
証明(推認)
推認可か?
共謀メモ(2)
○別途,合意の事実が証明された場合
共謀
作成者(原供述者)
メ
モ
(
証
拠
)
他の関与者
推認③
意
図
等
表
現
推認②
証明(推認)①
○閲覧・署名がなされた場合
合意の事実の証明
関与者全員による当該メモの作成=共謀行為
メ
メモの存在自体
が共謀成立
の証拠
モ
関与者A
閲
覧
・
署
名
意
図
等
共謀
閲
覧
・
署
名
関与者B
参考文献
①大澤裕「伝聞証拠の意義」
刑事訴訟法の争点(第3版)182頁以下
②川出敏裕「伝聞の意義」
刑事訴訟法判例百選(第8版)180頁以下
③井上弘道「伝聞の意義」
刑事訴訟法判例百選(第9版)174頁以下