2012年度冬学期「刑事訴訟法」10-1 被疑者・被告人の権利(1) 黙秘権(自己負罪拒否特権) ポイント ○憲法38条1項で強要が禁止される「自己に不利益」な供述の 意味 ・刑事免責制度の根拠 ・ロッキード事件での不起訴宣明と自己負罪拒否特権消滅の有無 ・宣誓供述書の証拠能力否定の根拠 ○権利の効果 ・黙秘からの不利益推認の可否 自己に「不利益」な供述とは ○自己の刑事責任の追及,処罰に繋がるおそれのある供述 ・有罪(無罪)判決が確定している事件 ・恩赦の対象となった事件 ・公訴時効が完成している事件 =自己負罪拒否特権はもはや存しない ⇒供述を(間接強制などにより法的に)強制すること可 刑事免責制度 ○その供述が供述者本人の処罰に繋がることがおよそなけれ ば,供述を強制しても自己負罪拒否特権には反しない ⇒免責の宣明によりそのような状態を創り出し,対象者の自己負罪拒 否特権を消滅させて,その者に供述を強制 =刑事免責(immunity)制度 ・・・アメリカなどで採用 ○免責の種類・範囲 ・行為免責(transactional immunity) 供述した事件については一切訴追・処罰されない ・使用免責(use immunity) 当の供述およびそれを基にして発見・獲得された証拠は, 供述者本人に不利な証拠としては使用され得ない ロッキード事件各裁判所の考え方 ○不起訴宣明=公訴権放棄ととらえる考え方 ・・・東京地決昭和53年9月21日・刑裁月報10巻9=10号1256頁 (小佐野ルート半谷決定) ○不起訴宣明=起訴猶予処分ととらえる考え方 ⇒起訴猶予処分には再起を遮断する法的効果なし ◇起訴の可能性は事実上皆無に等しい(外国に所在+不起訴宣明) ・・・東京地決昭和53年12月20日・刑裁月報10巻11=12号1514頁 (丸紅ルート岡田決定) 東京地決昭和54年10月30日・刑裁月報11巻10号1269頁 (全日空ルート金決定) ◇対外的確約=違反したときは国際慣習・信義の違反として公訴棄却 ⇒訴追のおそれなし ・・・東京高判昭和62年7月29日・高刑集40巻2号77頁 (丸紅ルート控訴審) ◇対外的確約=国際的に遵守義務(法的拘束力)⇒訴追のおそれなし ・・・東京高判昭和59年4月27日・高刑集37巻2号153頁 (小佐野ルート控訴審) 東京高判昭和61年5月14日・高刑集39巻2号37頁 (全日空ルート控訴審) ロッキード事件(丸紅ルート)最高裁判決 〔百選71〕 ・刑事免責制度はわが国では採用されていない ⇒それによって得た供述を証拠とすることは許されない ・立法によりその制度を採用することは憲法上許容される ⇒公正な刑事手続の観点からの当否 国民の法感情から見て公正感に合致するか 黙秘の事実からの不利益推認 ○不利益推認が許されない理由 ○黙秘(弁明しないこと)の理由様々 ⇒不利な事実があるから黙秘していると当然には推認できない ・・・アメリカ判例 ○権利行使 ・権利を行使しているにすぎない・・・百選64第一審 ・権利が与えられていることの趣旨を没却・・・百選64札幌高裁 ・権利行使にペナルティーを科すことになる・・・アメリカ判例 ○検察官の立証に対して被告人が何らの弁明もしないため,検察官の立証ど おりの事実認定がなされてしまうこととの差異は? ○黙秘の事実から一般的に不利益推認をするのではなく 被告人が知っていて当然と認められる状況がある場合において 被告人がその事実を明らかにしないとき,あるいは,後になってから主張し だしたとき ⇒このようなときも不利益推認は許されないか? ○被告人が黙秘(しかし,有罪となった場合) ・悔悟・反省なしとして量刑上不利な事情として考慮することは? ・積極的に否認していたことを量刑上不利に考慮することは? ・自白し,反省の情を示したことを量刑上有利に考慮することは? 参考文献 ①笹倉宏紀「自己負罪拒否特権」法学教室265号103頁以下 ②井上正仁「刑事免責と嘱託証人尋問調書の証拠能力(1)(2)」 ジュリスト1069号13頁以下,1072号140頁以下
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