金銭トラブルを抱えた従業員の処遇について ~自己破産した従業員を解雇できるのか!?~ こんにちは。 社会保険労務士の西尾隆と申します。 今回は金銭トラブルを抱えた従業員の労務管理上の注意点についてです。 「自己破産した従業員を解雇することはできるのか?」 金銭トラブルを抱えた従業員の処遇についてどう対応していけばよいのか。 従業員がローン会社やクレジット会社等から多額の借金をして支払不能の状態に陥り、 自己破産の申立てをすることは少なくないと思われます。 しかし、従業員が自己破産を申立て、破産宣告を受けたとしても、そのことのみを理由と して当該従業員をただちに解雇することはできません。 たとえ就業規則において自己破産を普通解雇事由と定めていた場合でも、判例は「普通解雇 事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のも とにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認す ることができないときには、解雇権の濫用として無効になる」としており、 解雇にあたっては合理性と社会的相当性を満たす必要があるからです。 (高知放送事件・最高裁第2小法廷昭 52.1.31 判決 労働判例 268 号 17 頁) ●業種や職種により解雇が認められる場合 以下、わかりやすく物語調で解説していきます。 くわしく話を訊くと、不動産会社に勤める従業員が借金でニッチもサッチもいかなくなっ たので裁判所へ自己破産を申立てました。 その従業員は宅建士(旧宅地建物取引主任者)として登録しており、顧客に対して重要事項 説明を行っていました。 しかし、自己破産手続きの申し立てにより、宅建士の資格を失うこととなったのです。 (正確には資格制限ですが・・・) ■神戸ビジネスメールマガジン ― KCCI■ 宅健士の資格を失ったことで、その従業員は不動産会社の重要業務である顧客に対する 重要事項説明を行うことができなくなりました。 「宅健士の資格を保有していることを条件で採用したのに、資格を失ったのならクビだ!」 と社長は考えているようです。 はたして当該従業員を解雇することは可能なのか? 資格を失っても、もともと職種を特定していなかった場合には、配置転換などをして雇用を 継続する義務が会社にはあります。 その場合、職種変更によって給料を下げたとしても、労働条件の不利益変更に該当しない かぎり法的には問題ありません。 しかし、これらの資格がなければ、雇用契約に定められた本来の労務の提供ができないので あれば、解雇事由にはなりえるのです。 たとえば、生命保険会社の歩合給の外交員として採用し、生命保険の営業職として職種限定 の雇用契約を締結しているケースです。 自己破産申立で生命保険外交員資格や損害保険募集人資格の制限を受けたことで、 保険営業の仕事ができなくなった場合には、当然に解雇事由に該当します。 では、この不動産会社の従業員も解雇できるのか? 当該従業員の場合、職種限定の雇用契約を締結していたわけではありません。 また、資格を失ったといっても、自己破産手続きから免責許可決定までの6か月~1年だけ の期間なのです。 (破産管財人事件の場合、免責許可決定までの期間は長くなります) 免責許可決定が確定すれば、制限を受けていた資格は復権するのです。 したがって、免責許可決定が確定するまでの間に、配置転換させるなどして、他の業務を行 う事が可能な状態であれば、当該従業員を自己破産したからという理由だけでは解雇する ことは難しいのです。 ●従業員の配置転換について 自己破産を申立てた従業員の業務が、経理・財務あるいは集金業務など金銭を取り扱うもの である場合は、そのまま当該業務を担当させることによって会社の信用維持や企業運営等 ■神戸ビジネスメールマガジン ― KCCI■ において重大な支障が生じることが十分に考えられます。 よって、事故や不利益の発生を予防するため、配置転換によって当該従業員を他の職場へ 異動させることや、降格処分により当該従業員の職務権限に制限を加えたりすることは 可能です。 判例は、 「職種限定の合意が明示または黙示に成立したものとまでは認めることができず、 上告人らについても業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに 職種の変更等を命令する権限が被上告人に留保されていた」場合には、 「労働力配置の効率 化及び企業運営の円滑化の見地からやむを得ない措置として容認しうる」としています。 (日産自動車村山工場事件・最高裁第 1 小法廷平元.12.7 判決 労働判例 554 号 6 頁) したがって、雇用契約において当該従業員の職種を限定する旨の特約がある場合や、当該 従業員を退職させることを意図して行うような恣意的な場合には、配置転換は認められま せん。 自己破産の申立てを行うことは、本来私生活の問題であり、従業員の私生活上の問題に 対する懲戒処分については、慎重であるべきと考えます。 よって、従業員が自己破産の申立てをするに至る前に、会社は債務の整理について当該従業 員を指導し、早急に処理するように努力させるとともに、やむを得ない場合を除いて解雇 処分とはせずに、配置転換等によって対応することが望ましいでしょう。 ********************* 西尾隆社会保険労務士事務所 社会保険労務士 西尾 隆 〒657-0817 神戸市灘区上野通 1-2-15-311 ℡ 078-778-4288 FAX 078-881-8736 Email [email protected] Web http://www.srsr-t240.jp ameblo http://ameblo.jp/srsr-t240/ ********************* ■神戸ビジネスメールマガジン ― KCCI■
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