EAI社内発表

BPM
認知科学的アプローチによる
ビジネスプロセスモデリング
-Language/Action Perspectiveを適用したBPR-
専修大学 ネットワーク情報学部
小林 隆
[email protected]
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BPM
Terry Winograd
• Born: February 24, 1946
• Employment: Computer Science Department, Stanford University
• 人工知能 (1968-1977)
– SHRDLU 積木世界の自然言語処理システム
– Understanding Natural Language (1972)
• フローレスとの共同研究 (1976-1996)
– Language/Action Perspective
– Understanding Computers and Cognition
- A New Foundation for Design (1986)
– Action Workflowの開発と会社経営
• Human-Computer Interaction (1991-present)
– 人間と計算機の共同システムのデザイン
– Bringing Design to Software (1996)
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デカルトなんかいらない
BPM
• デカルトの心身二元論
– 世界=モノ(客観的物理世界)+ココロ
(主観的精神世界)。
– モノ=表象モデル(属性を持った対象)
で表される。何者の解釈に依存すること
がない客観的事実。
– 認識=モノの表象モデルが我々の思考
や感情に登録される過程。
– 行動=ココロによって引き起こされる身
体の物理的動作。
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デカルトなんかいらない
BPM
• LAPの反論
– 認識は各人の信念に基づく解釈である。
• 犬が可愛いか怖いかはその人が生きてきた歴史に依存する。
– 認識は表象を介して行われない。
• 金槌を使うとき金槌の属性を気にすることはない。
– 行動によって新しい対象や属性を作り出す。
• 質問や提案により新しい問題がクローズアップされる。
「世界中の表象を計算機に組込めば人工知能ができる」
というのはトンデモナイ間違い。
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オートポイエーシス
H. R. マトゥラーナ & F. J. バレーラ (1980)
BPM
• 生物は絶えず自己を産出し続けることによって特徴づけられ
る。
• 認識とは、環境から受ける再現的な撹乱に対して自らの構造
(例えば神経系)をカップリングさせること。
→「盲点」の実験。
• 構造的カップリングは、短期的には学習、長期的には遺伝とい
う形態で行われる。
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言語行為論
J. L. オースチン & J. R. サール (1960年代)
BPM
• 真偽を問う発話でなく、約束、依頼、命令といった行為につなが
る遂行的発話を扱う。
• 発話されたコンテキストにおいて適切か不適切かで評価。
• 発話行為が成功する大前提は、話し手が自身の言ったことに
対して責務を負い、聞き手の信頼を得ること。
うるさ型ね。文句
無しの最高級品
を売るわ。
気に入る服が
見つかるまで
は帰らないわ。
私に合う服を
見せてちょう
だい。
はい、かしこ
まりました。
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BPM
LAPのめざすこと
• 認識を表象モデルで考えるのをやめよう。
• 認識を人間と環境との適合(カップリング)と考えよう。
• カップリングは遺伝と学習の産物であり、コンピュータ
には困難。
• カップリングが破綻(ブレイクダウン)したときにコン
ピュータを活用する。
• “人間を代行するコンピュータ”から“人間の道具として
のコンピュータ”へ方向転換する。
「AI(Artificial Intelligence)からIA(Intelligence Amplifier)へ」
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LAPとは -カップリングとコミットメント-
BPM
• 人間は言語を通じて環境とカップリングする生物である。
• 話し手と聞き手が相互にカップリングする、再現的な会話(言語
行為)パターンがある。
• 話し手は発言に対して責務を負い(コミットメント)、それによっ
て聞き手の信頼を得る。
再現的
会話パターン
愛してるよ
私も。。。
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LAPとは -ブレイクダウン-
BPM
• 話し手の意図と聞き手の解釈が矛盾して会話が破綻(ブレイク
ダウン)した場合、厳密な単語を使った話合いが始まる。
• うまく会話を進めるには、ブレイクダウンを予期し、それを回避
できるように会話パターンを設計することが必要。ここに、コン
ピュータが威力を発揮する。
再現的
会話パターン
週末にドライブに行こう
ショッピングがいいわ
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BPM
行動のための会話
• 2人の話者のうち、一方が他方に何かを依頼する場合の会話。
今日中に
お願いします
準備
承知しました
交渉
引受けられません
できました
ありがとう
実行
合意
考え直して
やり直して
ください
ください
それで
もういいです
お願いします
もういいです
明日まで
できません
ならやります
辞退
再交渉
引受けられません
撤回
満足
取消
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CNモデルの考え方(プロセスモデル)
BPM
• ビジネス(プロセス)は会話である
– 依頼者と実行者の一連の会話が実行すべきタスクを示す。
• ○○でお願いします(依頼)、△△ならば可能です(交渉)、××で引受けま
しょう(受付)、…
– 第三者に仕事を委託することにより会話の輪が拡大。
• 委託、命令、指示、下請、アウトソーシング、…
○○でお願いし
たいのですが。
××ならば引受
けましょう。
依頼者
実行者
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CNの考え方(プロセス改善)
BPM
• ビジネス会話にはパターン性がある
– 会話には認知科学的な再現性がある。
• 依頼の会話、議論の会話、宣言の会話、勧誘の会話、…
– ブレイクダウンを回避すべく会話パターンを設計。
• 申請漏れ、契約違反、作業遅延、交渉決裂、失注、…
明日の朝までにお
願い![依頼]
今、急ぎの案件が
あってね。[交
渉]
仕方ない、夕方ま
で待とう。[代
案]
わかった、やりま
しょう。[同意]
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BPM
3つの基本要素
責務
期待
③合意条件
①カスタマ
仕事の依頼主
仕事の仕様
(期限を含む)
②パフォーマ
仕事の実行責任者
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BPM
4つのフェーズと状態遷移モデル
①準備
②交渉
カスタマがパフォーマ
代案提示
に業務を提示する
要求
カスタマ
満足
カスタマとパフォーマ
が実行条件に同意する
同意
完了報告
パフォーマ
受入拒否
④合意
③実行
カスタマが業務の成果
を受入れ評価する
パフォーマが業務を実
行し完了を通知する
: カスタマの行為
: パフォーマの行為
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BPM
マップ
ネゴ
計画
準備
交渉
商品開発
合意
評価
実行
設計
開発
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BPM
ビジネスプロセス改善
Phase 1: 現行ビジネスプロセスの分析
– 対象ビジネス領域で使われている言語を調査
– 共通的な会話パターンを抽出
– 発生するブレイクダウンを予期
Phase 2: 新ビジネスプロセスの設計
– ブレイクダウンの解決策を考案
– 会話パターンを改善
Business
Process
Modeling
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クレジットカード申請審査プロセスの事例
BPM
申
デ
信
信
審
カ
カ
デ
入
結
請
|
用
用
査
|
|
|
会
果
カ
ー
ト
゙
会
社
お
客
様
書
タ
調
調
準
ド
ド
タ
審
登
(
流
れ
作
業
)
受
入
査
査
備
作
送
検
査
録
付
力
1
2
成
付
査
納
期
:
2
週
間
<
問
題
点
>
サ
イ
ク
ル
タ
イ
ム
が
長
過
ぎ
る
(
2
週
間
)
案
件
の
進
捗
状
況
が
掴
め
な
い
作
業
の
位
置
付
け
が
見
え
な
い
煩
雑
な
単
純
作
業
に
う
ん
ざ
り
膨
大
な
書
類
が
溢
れ
て
い
る
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言語の調査
BPM
<申請書受付>
申請書受付は,受付係が顧客から受け取った申請書の不備チェックを行ない,
不備がなければ,データ入力会社で申請書の情報を電子化してもらい,電子化
した情報にミスがないかをチェックする。
<審査>
審査は,顧客の信用情報と申請書に記載された情報をもとに入会可否を判定す
る。信用情報は,消費者金融・民間金融機関のものと銀行・流通関係のものの
2つに分類でき,それぞれ信用調査会社1と信用調査会社2に調査を依頼する。
審査を実施するメンバには,審査を担当する審査官,決裁を担当する審査長,
審査の準備を行なう審査アシスタントがいる。
<カード発行手続き>
審査長の決裁が終了した案件について,入会が承認された場合はカード発行手
続きを行なう。新規入会者のデータを管理するためにデータ登録をする。次に
カード作成を外部業者へ依頼する
<審査結果通知>
審査結果通知では,顧客へ審査の結果を知らせる。決裁で承認された場合は,
クレジットカードを送付する。決裁で承認されなかった場合には,謝絶状を送
付する。
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Phase 1: 現行ビジネスプロセスの分析
BPM
フェーズ分析
• SWFの配置。
調査手配係
顧客
申請書受付
申請書 受付
信用調査1
信用調査会社1
審査
受付係
調査手配係
信用調査2
入力手配係
データ入力
信用調査会社2
?
データ入力会社
審査準備
? データチェ ック チェ ック係
審査
?
審査アシスタント
審査長
審査部
入会審査1 審査班1
審査長 入会審査2
審査班2
?
顧客
クレジットカード 発行
審査結 果通知
審査結果通知
送付係
審査長
?
?
顧客
決裁
カード発行手 続き 受付業 務部
?
データ登録
登録係
カード発行手続き
作成手配係
カード作成 カード作成会社
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Phase 1: 現行ビジネスプロセスの分析
BPM
リンク分析
• PWF、SWF間のリンクの設定。
調査手配係
顧客
申請書 受付
信用調査1
信用調査会社1
受付係
調査手配係
信用調査2
入力手配係
データ入力
信用調査会社2
?
データ入力会社
審査準備
? データチェ ック チェ ック係
審査
?
審査アシスタント
審査長
審査部
入会審査1 審査班1
審査長 入会審査2
審査班2
?
顧客
クレジットカード 発行
決裁
審査長
?
審査 結果=O K
?
顧客
審査結 果通知
カード発行手 続き 受付業 務部
?
送付係
審査 結果=O Kの場合 :カード送付
審査 結果=N Gの場合 :謝絶 状送付
作成手配係
データ登録
登録係
カード作成 カード作成会社
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Phase 2: 新ビジネスプロセスの設計
BPM
新ビジネスプロセスの設計結果
不備 チェ ック
顧客
申請 書受付
入出力処理の自動化
受付 係
審査 部
・OCR読込
受付 係
関連作業の統合
信用 調査1
信用 情報調査 依頼1
データチェ ック チェ ック係
・入力 データチェ ック
・修正
案件 DB登録
信用 調査1取得
並列実行
審査 部
信用 調査2 信用 調査会社 2
信用 調査2取得
パフォーマの見直し
顧客
クレ ジットカード発行
合意条件の見直し
リアルタイム処理化
信用 調査会社 1
信用 情報調査 依頼2
審査 部
審査 ワークフロー開始
カード作成 依頼
審査 部
審査
並列実行
審査 長
審査 長
審査 結果登録
入会 審査1 審査 班1
並列実行
カード送付 情報登録
顧客
審査 結果通知
謝絶 状送付情 報登録
送付 係
審査 部
カード発行 手続き
審査 部
受付 業務部
リアルタイム処理化
カード作成 係
審査 長
決裁
入会 審査2 審査 班2
審査 長
入出力処理の自動化
カード作成 カード作成 会社
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BPM
小林のLAP応用研究の分類
分類
研究テーマ
内容
成果物
ビジネスプロセス ビジネスプロセス CNモデルの階層性を利用し 方法論
て、本質的なプロセスを抽出。
の保守性と再利 パターン
用性の向上
ワークフロー業務 プロセスパターンを利用して、 サービス製品
テンプレート
総務系業務ワークフローパッ
ケージを開発。
EAIソリューション プロセスパターンを利用して、 ソリューション
SCMミドル導入パッケージを 製品
開発。
ビジネスプロセス ビジネスプロセス CNモデルのフェーズに応じた 方法論
改善の方法論 改善パターン
改善パターンを提案。
ゴール・シナリオ ブレイクダウンパターンを仲
カップリング
介として、業務目標とシステ
ム目標のギャップを解消。
方法論
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BPM
Winogradによる展望
<LAPの現状>
• 現在のところ、LAPは情報システム開発の主流ではない。
• 当面は、BPM、CRM、インタラクションデザインなどの行為の調
整が必要な分野に有効である。
<LAPの将来>
• 現在主流の開発方法論はそのうちコモディティ化し、新たな人
間中心の考え方が必要となる。
• 将来的には、ユビキタスネットワーキングと携帯端末を活用した
大規模な教育、エンタテインメント、商売などに貢献する。
• LAPは必ずやデザインのための新しい基礎(A New Foundation
for Design)となる。
– “情報はコミュニケーションである”+“言語は行為である”
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BPM
参考文献(LAP)
• Winograd, T. and Flores, F., Understanding Computers and
Cognition - A New Foundation for Design, Addison-Wesley (1985)
(平賀譲訳,『コンピュータと認知を理解する』,産業図書 (1989))
• Winograd, T., “A Language/action Perspective on the Design of
Cooperative Work”, Human-Computer Interaction, Vol. 3, No. 1,
pp. 3/30 (1987) (西垣通訳,「協調活動の設計における言語/行為パース
ペクティブ」,『思想としてのパソコン』,NTT出版 (1997))
• Denning, P., Dargan, P. A., "Action-Centered Design", Winograd,
T. (ed.), Bringing Design to Software, Addison-Wesley, pp.
105/127 (1996) (瀧口範子訳,『ソフトウェアの達人たち』,アジソンウェスレ
イ (1998))
• Weigand, H., Goldkuhl, G., et al., Two Decades of the LanguageAction Perspective, CACM Vol. 49, No. 5, pp. 44/76 (2006)
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