香ばしいマクロ経済の理論と実証 ー回帰分析を使ってー ランダムに変動する経済データ その中にどんな秩序がはたらいているのでしょうか? 回帰分析を使って、理論を実証するコツと厄介な問題をさがす旅にご案内します 2005年度 山名ゼミフルメンバー 2005.2.16卒論発表会の後 2005.6.18 QA サロン「お金の おもしろ話」 目 次 1.モデルは何のため? (中村、藤井望) 2.一般式は何のため 所得定義式(松内) 消費関数(大束) 投資関数(谷) 純輸出関数(中野) 貨幣需給均衡式(弘重) 3.回帰式の説明―実際の日本データ(195 5~2000年)を入れると 消費関数(細田、王) 投資関数(須賀、藤井(薫) 純輸出(田村、野村) 貨幣均衡(大北、清水) (所得定義式) (琳琳) 4.均衡値の求め方(北橋、陳) 乗数効果 不況対策がわかる (工藤、吉岡) まとめ モデルとは何のため?~理論と実証~ ある現象yがある主因xの変化に依存している場合、それは数学的には y=f(x)なる関数で表されます。これはある現象を数学的にモデル化した ものです。したがって、経済理論を数学の関数で表したものは、経済理 論モデルと呼ばれることになります。 経済理論モデルは、現実の正確な描写というより、市場の「見えざる手」 の機能がどれだけのものかを説明しようとする仮説です。 この理論モデルに実際のデータを投入して証明する、計量分析を紹介し ましょう。 エコノミストはこうした理論と現実の緊張関係の中で、有効な結果を求め ています。 では、私たちの実験はどうなることか、おそろしや。 2-① 所得定義式 y≡c+ⅰ+g+x(X- IM) y: 所得…国民総生産額=総支出 c: 消費…一般家計の購入する財・サービス i: 投資…家計と企業の投資購入 g:政府支出…政府の財・サービス X: 輸出…財・サービスの輸出 IM: 輸入…財・サービスの輸入 y≡c+ⅰ+g+x(X- IM) この式は需給一致式です。 需給一致式とは… 事後的に需要=供給になることをいいます。 つまり、左辺のyは供給で、右辺のc, i,g,x は需要ということになります。 わかりやすく説明すると… 左辺 y :どれだけ売った(儲けた)か? =供給 右辺 c,i,g,x :何に使ったか?だれが買ったか? =需要 y≡c+ⅰ+g+x(X- IM) y≡c+ⅰ+g+x(X- IM) なぜ輸入額を差し引くかと言うと… 輸出(X)から輸入(IM)をひいたxは純輸 出である。つまりxは貿易黒字または赤字 の状態を示しています。 2-② 消費関数とは 消費関数とは 所得と消費の関係を表す式 であり、 そして消費関数によって 消費が所得にどれだけ依存しているか がわかります 式で表してみると… C=a+bY C : a : b : Y: 消費 独立消費 限界消費性向(0<b<1) 可処分所得(所得ー税金) グラフで表してみると… 要点 独立消費(切片)と限界消費性向(傾き)は 正の数です。 同じ所得の中でもどれだけ消費するかは 限界消費性向に依存するものであり、 単純に所得が増えれば消費が増えるわけ ではないのです。 例えば貯蓄をたくさんする国としない国では 変わってきますね。 おわりにゃん ☆ 2-③ 投資関数 I=+eーdr I=eーdr I:投資 e・d>0:係数 r:利子率 式より、利子率が下がれば投資が増え ることによって、r(利子率)の係数が負と なることがわかります。 でも、なぜ利子率が投資に影響を与えるの? 生産者 機械設備や工場を拡張するため、 設備投資をしよう! でも、膨大な資金が必要なんだなぁ。。。 設 備 しかし 銀行から投資のために借りたはいいけど、 将来返さないといけない。。それに 加えて利子も支払わないと・・・(ToT) だからといって 投資を自己資金からまかなったとしても、 投資のために用いなければ 得たはずの利子所得をあきらめなければならない。 要するに 利 子 率 利 子 率 利子率が高ければお 金 を借りたくない 利子率が低ければ お金を借りたい 投 資 投 資 結果 投資は利子率の影響を受ける。 I=eーdr 2-④ 純輸出関数:x=f-my-nr x=f-my-nr において x:純輸出 y:所得 r:利子率 f,m,n>0:定数 純輸出関数:x=f-my-nrの意味は 純輸出関数とは輸出-輸入の式です。 利子率rが上がると純輸出xが下がりま す。その理由は、その国の利子率が上 がると、その国の通貨の価値が上がり、 例えば日本の場合だと円高になります。 すると輸出商品の価格が上がるため、 輸出が減少します。また国内所得yが上 がると純輸出xは下がります。これが一 般的な現象となります。 2-⑤ 貨幣の需給均衡 市場での貨幣の需要供給の均衡を表す式。 式で使う各記号をそれぞれ M=名目貨幣供給 P=価格水準(物価) M/P=実質貨幣供給 y=所得(生産) r=利子率 と定義します。 貨幣需給均衡式 前の条件から M/P=ky-hr *k>0、h>0は係数 左辺が供給、右辺が需要を表します。 所得が増加すれば貨幣の需要は増えるので正、一 方利子率が高いと需要は減るので負になります。 3 理論モデルに実際のデータを入 れると あら不思議 ! RとR2とは? t値とは? R・・・式の当てはまりの良さ Rは重回帰式で予測される値と実際の観測値との相関係数 。 1.0≧|R|≧0.7 :高い相関がある 0.2≧|R|≧0.0 :ほとんど相関がない ↓ 説明力を求める際にはRを二乗する。(自由度修正済決定係数) 70%以上なら説明力があります。 t値・・・係数、定数の当てはまりの良さ 回帰係数と標準誤差の比のこと。このt値によってそれぞれの回 帰係数の有意水準が検定される。(t値は絶対値が1より大きく ないと当てはまりが良いとは言えない) なお、有意水準は5%を満たしていなければその変数は削除し たほうが良いと考えられます。 3-①消費関数 C=-2435.85+0.600277y (-2.28) (161.33) R2=0.998 ー分析ー 説明力は自由度修正済の決定係数から99% であることが分かる。絶対値を見ても1を超え ているので、この回帰式は信頼度が高いとい えます。 3-② 投資関数 一般式 i = +e – d・r 変数:i(投資)、r(利子率) 符号が同じ!(一般式と同じ) 係数:e>0、d>0 i = +1455684 – 14955.7r (12.9) (-8.98) 上式の説明力→R2=0.639 回帰式 しかし、説明力が63%程度しかない。このことの意味は実物投資が利子 率から受ける反応が弱いという日本の事情を示している(アメリカは逆)。こ れは垂直に近いIS曲線というケインジアンの想定に近い経済と言える・・大 切! なぜR2が低いのか? 今回の回帰式では利子率だけしか考慮して いないが、実際の投資は前期の市況に影響 されると言われています。 前期の市況に影響されるとはどういうこと か? 前期の市況が好調なら・・・ 前期の投資に対しての利益が大きくなる。 もっと投資したらいっぱい儲かるかも!? →今期の投資を増やす 経営者 Aさん 前期の市況が不調なら・・・ 前期の投資に対しての利益が小さい または、赤字になる。 経営者 Bさん 今期も投資しても儲からないかも・・・ →投資を減らす 結論 前期の市況が良ければ投資は増え、悪けれ ば減ることになります。 このことを「前期の市況が上方へ下方への不 安定性を累積させる。 」と言います。 先ほどの式では前期の投資を考慮していな いため説明力が不足しているのです。 前期の投資を考慮して回帰分析を行えば、 説明力不足は補えます! 3-③ 純輸出関数 回帰式 x = 3530.762 + 0.013497y - 473.491r (1.06) (3.13) (-1.25) R2 = 0.613 (この回帰式の説明力:61.3%) x:純輸出(輸出ー輸入) y:国民所得(国民総支出、国民総生産ともいう) r:利子率 これを言い換えると・・・・ 純輸出関数 純輸出(輸出ー輸入)= 3530.762 + (0.013497×国民所得) ー (473.491×利子率) ☆符号に注目☆ 国民所得が増える 利子率が増える 純輸出が増える 純輸出が減る 純輸出関数 決定係数について R2=0.613→説明力が61.3% →他の関数より少ないのはなぜ?? 海外の景気を考えていないため 為替レートも考慮するべき 他には・・・? 純輸出関数 ここでちょっと気になることが・・・ 一般式 : x = f – my – nr 符号が違うぅ( ̄□ ̄;) 回帰式: x =3530.762+0.013497y-473.491r x:純輸出関数(輸出ー輸入) y:国民所得(国民総支出・国民総生産) r:利子率 なぜでしょう。。。( ̄~ ̄?) 純輸出関数 国民所得(国民総生産・国民総支出)↑ 投資↑ ものを作って売る↑ 輸入↑ 輸出↑ 純輸出↓ 純輸出↑ 純輸出関数 つまり・・・ 国民所得は輸入にも輸出にも影響する ということですねd( ̄▽ ̄*)☆ 輸出にも影響力があるため そして、日本は輸出>輸入なので 符号が+になった と考えられるのです。 理論が適用できない、日本経済独特の問題です。 3-④ 貨幣の需給均衡 M/P=1610924+9.238409yー473.491r (5.35) (25.03) (-6.51) R2=0.988 R2の値、t値ともに十分な値を持っていてモデル式と 同じ形になっているのでこの式は信頼度が高いと思 われる。 この式は国民総支出が増えると貨幣の供給量が増 え利子率が上がると貯蓄をする人が増えるので貨 幣の供給量が少なくなることを表している。 3-⑤ 所得定義式とは? Y≡C+I+G+X(回帰分析 してもこの式そのまま成立します。も し回帰分析すればR2は当然1になり ます。) G政府支出 Y:所得 C:消費 I:投資 G:政府支出 X:純輸出 C消費 X純輸出 I投資 事後的には需給一致 C+i+g+x Y 需要と供給一致じゃないと、均衡状態にならない。 4 均衡値の求め方と 経済政策 4-① 逆行列による均衡値の求め方 4-①’ 連立方程式による均衡値の求め方 4-② 政府支出を増やした場合 4-③ 貨幣供給量を増やした場合 4-① 均衡値を求めるには逆行列 を使う便利な方法があります 5つの式の連立方程式を解くことによって、 均衡値(y、r、c、i、x)を求めることができますが、この方程式を解くには時 間がかかります。 そこで、逆行列を使うことで簡単に均衡値を求めることができます。次に 逆行列を使った均衡値の出し方を説明しましょう。ここが大切! 5本の連立方程式を行列表示すると、 AX=B と表せます Aの逆行列A-1が存在するならば 両辺にA-1 を左からかけると、 A-1AX=A-1 B 左辺は A-1AX=IX=X となることから、Xがずばりもとまります (Iは単位行列です)。 X=A-1B 逆行列 EXCELを使うことでより簡単に均衡値を求め ることができます。 MINVERSE関数(逆行列を求める)や MMULT関数(2つの行列の積を求める)など を使うことで均衡値を求めることができます。 逆行列を求める手順① 1. 2. 逆行列の値を記録するセル範囲B18:F12 を選択状態にしてから、標準ツールバーのf m「関数貼り付け」ボタンを左クリックする。 関数貼り付けダイアログボックスが表示さ れたら、「関数の分類(C)」リストボックスで 「数字/三角」の分類を選択して、「関数名 (N)」リストボックスからMINVERSE関数を探 す。 逆行列を求める手順② 3. 4. MINVERSE関数の入力ダイアログボックスが表示 されてから、引数(MINVERSE関数では「配列」)に、 セル範囲がB2:F6を選択して、ctrlキーshiftキー を押しながらEnterを押すと、セル範囲B8:F12に逆 行列の値が記録される。 均衡値を記録するセル範囲B15:B19を選択して、 標準ツールバーの「関数貼り付け」ボタンを左ク リックし、「数字/三角」関数の分類からMMULT関 数を選択する。 逆行列を求める手順③ 5. MMULT関数の引数入力ダイアログボックス のところに、配列1にB8:F12,配列2に G2:G6を入力して、同じようにctrlキーshift キーを押しながらEnterを押すと、選択セル 範囲に連立方程式の解を得られる。 一般式 所得定義式 y=c+i+g+x 消費関数 c=a+by 投資関数 i=e-dr 純輸出関数 x=f-my-nr 貨幣の需給均衡式M/P=ky-hr 回帰式 所得定義式 消費関数 投資関数 純輸出関数 貨幣の需給均衡 y y=c+i+g+x c=-2435.85+0.600277y i=145568.4-14955.7r x=3530.762+0.0135y-473.5r M/P=1610924+9.738409y-222942r 変数 国民所得:y 消費:c 投資:i 純輸出:x 利子率:r 政府支出:g= 84337.7 名目貨幣供給:M=6545682 価格水準:P= 1 -1 1 0 0 0 -1 0 1 0 0 -1 0 0 1 0 0 0 14955.7 473.5 222942 定数項 84337.7 -2435.85 145568.4 3530.762 -4934758 逆行列 0.94322592 0.56619683 -0.6161956 -0.0067753 4.1201E-05 0.943226 1.566197 -0.6162 -0.00678 4.12E-05 0.943226 0.566197 0.383804 -0.00678 4.12E-05 0.943225923 0.566196828 -0.6161956 0.993224693 4.12014E-05 -0.06528 -0.03918 -0.02444 -0.00165 1.63E-06 1 -0.6003 0 -0.0135 -9.7384 均衡値 y c i x r c i 540017.575 321724.28 123823.057 10132.538 1.45398362 x r 均衡値(単位:10億円) 国民所得y:540017.575 消費c:321724.28 投資i:123823.057 純輸出x:10132.538 利子率r:1.45398362 4ー①’ 連立方程式による均衡値の求め方 ー本当は逆行列をつかって求めてもいいですがー ☆ 5本の方程式のまとめ☆ ・y=c+i+g+x ・c=-2435.85+0.600277y ・i=145568.4-14955.7r ・x=3530.762+0.0135y-473.5r ・M/P=1610924+9.738409y-222942r ー① ー② ー③ ー④ ー⑤ ①の式に、②③④を代入して解くと、 r=0.00003978y+14.97167786 ⑤の式を解くと、 r=0.000043681y-22.13471665 これら2つの式をグラフにしてみると どうなるでしょうか? r r IS LM r* 1.4539% 0 y y* 0 y 5,400,160億円 r=0.00003978y+14.97167786 r=0.000043681-22.13471665 出た!実際のデータを入れたIS-LM式だ!! ISーLM分析とは? IS曲線は財の需給一致 需 Y=C+I 供 Y=C+S LM曲線は貨幣の需給 一致(=⑤式) この式もyとrの関係式 I(投資)=S(貯蓄) Iはyに依存し,Sはrに依存 している. このyとrの関係がIS曲線. つまり,yとrの2つの関係式から 経済状況を分析するのがIS-LM 分析である. では、不況対策のつぼを考えましょうね 外生変数(政策変数とも呼ばれます)の2つを変化させて、現実的に見てみましょ う。お分かりのように、全ての係数・定数値が変わらない下でのシミュレーション です 4-② 政府支出を増やした場合 IS’ r gを10%UPしてみ ると・・・ ΔY=7954.95(約 8兆円の増加) ΔY/Δg =0.943225294 ただし国債の発行 などの良くない問 題もあるのよ。 LM IS r’ r* 0 Y* Y’ y 4-③ 貨幣供給量を増やした場合 Mを10%UPする と・・・ ΔY=42728.76 (約43兆円の増加) ΔY/ΔM =0.06527778 ただしインフレーショ ンという良くない問 題もあるのよ r LM LM’ IS r* r’ Y* Y’ y まとめ さっきあった、垂直に近い利子率の変化に鈍感な日本の実物投資を反映したIS曲線は どうしても古い形の財政出動(つまり、政府への依存)をもたらします。 ・・・ケインジアンのスタイル また、極端な輸出依存型経済は先進国の一般論を裏切っていることがわかります。 構造改革路線(成果主義賃金をふくむ大改革)は水平に近いIS曲線と垂直に近いLM曲 線という(日本とは逆の)アメリカ的体質への転換を図ろうというものです。・・・マネタリスト のスタイル また、所得分配の公平不公平の問題を取り入れることも可能です。 こうした方法で、アメリカや中国などの国との比較を試みて、その奥に流れる体質を追究 したり、比較することができます。 私たちがやがて入っていく市場。生産・分配・支出がマクロに影響し、逆に影響されます。 市場での人々の行動が、どのようなIS-LMをつくるのか?経済は何を基準に動くのかを分 析するのが経済学です。これを知っていないとビックリさせられるだけじゃないですか? 再び、理論へ戻って <ケインジアンのIS-LM> 利子率 <マネタリストのIS-LM> IS 利子率 LM LM IS 国民所得 国民所得 しかし、両者は2つの曲線のある形状の部分での経済状態を説明しているともいえよう(下図)。 利子率 IS LM各種 国民所得 おわり
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