企業年金の経済学 企業年金を取り巻く企業・労働者の行動と公共政策のあり方 平成12年10月31日 年金理論研究会 小野正昭 1 はじめに プレゼンテーションの目的 米国企業年金にみる年金制度形態の変化の概観 米国の企業年金にかかる公共政策の提言 企業年金関連法導入にかかる我国政策へのインプ リケーション 2 主張 年金制度は企業にとって生産性を向上させる というビジネスの1つである。 年金政策は少なくとも就労と貯蓄に中立的で あるべき。そのために一貫した課税政策の実 現を。 資産移管の措置により引退貯蓄への弊害を排 除すべき。 3 1.給付建て年金制度と労働者の 就業行動 暗黙的契約としての給付建て制度 雇用継続年金・雇用打切年金・年金キャピタルロス Pa baWReiRa baWa P baWa e * a 図1 年金制度の雇用打切コスト 金額(実質額) i R a 50,000 40,000 W : 賃金、 a : 年齢・勤務年数、 R : 引退年齢、 30,000 i : 利子率、 b : 給付水準 20,000 10,000 表 1 年齢 55 歳における勤務年数の決定要因 独立変数 賃金雇用打切コスト 平均値 0.59 年金雇用打切コスト 1.05 その他の変数 R2 従属変数の平均値 標本数 企業数 雇用継続年金 雇用打切年金 雇用打切ロス 個人の賃金上昇 0.012 (1.32) 0.191*** (10.57) X 0.168 2.57 6,416 109 企業の賃金上昇 0.001 (0.13) 0.161*** (12.81) X 0.140 2.57 6,416 109 0 5 10 15 20 25 30 勤務年数 :有意水準 0.01 *** 4 給付建て年金制度と労働者の 就労行動 早期引退給付と米国における引退年齢の若齢化 企業年金制度における早期引退給付 早期引退制度の普及:0.51歳の低下(’65~’85年) 社会保障年金制度と引退年齢 社会保障制度の変化:0.6歳の低下(’70~’85年) 表 4 引退に関する統計(1955 年~1985 年) 年 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 55~64 歳 男子の労働 力率 (1) 86.4 86.8 84.6 83.0 75.6 72.1 67.9 変動幅 男子平均 引退年齢 変動幅 (2) (3) (4) 男子の新 規裁定基 礎給付額 (5) - 0.4 -2.2 -1.6 -7.4 -3.5 -4.2 - - 66.5 66.2 65.1 64.8 64.1 - - - -0.3 -1.1 -0.3 -0.7 388 386 358 398 494 582 580 変化率 (%) (6) - 0.0 -7.2 11.2 24.1 17.1 0.0 《企業年金》 表 6 年金給付の支給要件年齢 年 1963 年 1983 年 満額給付 年齢 60 歳以前 平均年齢 (1) (2) 8% 63.8 47% 60.2 減額給付 某かの若い年齢 平均年齢 (3) (4) 75% 59.0 97% 55.4 5 2.掛金建て制度の隆盛 米国における掛金建て制度隆盛の通説 産業構造の変化 規制を通じた給付建て制度の管理コストの上昇 課税政策における掛金建て制度の相対的優遇 給付建て制度の市場占有率 1979年→1991年 89.6% 66.3% 23.3%のうち12.8%が労働の移動で説明される 6 掛金建て制度の隆盛 管理コストの比較 課税政策の違い 表 9 管理費用 加入者数 年 15 75 500 10,000 $161 455 $115 259 $56 133 $19 53 20 22 26 17 4 -36 -9 86 58 -24 70 2 2 5 3 8 36 27 39 47 61 34 -2 -2 -2 -4 -1 7 6 16 16 16 14 給付建て制度 1981 1991 給付建て制度の費用-401(k)制度の費用 図 8 信託基金残高:給付建て制度対掛金建て制度 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 45 49 116 64 156 103 80 289 342 220 227 150%完全積立限度 1.5LT 150% $1 t ei ( Rt ) 1.5LT : 150%完全積立限度、 t : 勤務年数、 i : 利子率、 R : 引退年齢 7 掛金建て制度の隆盛 401(k)制度導入による年金市場の変化 需給関係の変化(より安価な給付建て代替制度) 401(k)制度の特徴と給付建て制度の代替可能性 労働者が任意の掛金を拠出 企業が任意掛金に補助掛金を拠出 1991年における401(k)制度の占有率:21.7% このうち労働力の移動によるものが8.0% 残り13.7%のうち 伝統的な掛金建て制度からの移行は3.1% 給付建て制度からの移行が10.6% 《401(k)制度における賃金政策》 w 1 d y m*v 1 d (低割引者) 1 d y (高割引者) w : 賃金、 d : 低割引者の付加価値増加、 y : 高割引者の付加価値の減少、 v : 任意掛金、 m : 補助率 8 3.低割引者と年金制度 低割引者の労働者としての質 疾病休暇の取得 →疾病休暇まったく使用しない労働者は、疾病休暇全て消化する労働者より 賃金水準が約15%高い。 喫煙 →年齢50歳で喫煙していない労働者は、50歳で喫煙している労働者より 賃金水準が3.8%高い。 貯蓄に関する投資ホライズン →10年の財政計画期間を持つ労働者は6ヶ月の期間の労働者より 賃金が5.4%高い。 内部割引率の概念: 1 log1 1 r n : 経済的損益、 : 行動単位、 : 選好の尺度、 : 将来の経済的価値、 n : 経過年数、 r : 内部割引率 9 4.企業年金に関する公共政策 完全積立限度の廃止 《貯蓄の現在価値》 包括的所得課税: PV 1 t e1t i y ei y 消費課税: PV 1 e 1 t e i y iy 1 t PV : 現在価値、 t : 限界税率、 i : 利子率、 y : 経過年数 表 10 貯蓄にかかる実効税率 貯蓄年数 限界税率 40% 25 10 限界税率 20% 25 10 利子率 5% 10% 64% 51% 78% 60% 38% 28% 52% 35% 非差別規則の廃止 •公共政策の観点からは高割引者対策として意義があるが、効果は限定的 •効率性を追求する企業の政策には障害となる 個人引退勘定にかかる規制の撤廃 企業年金に与えられる税の優遇措置は、個人引退勘定にも拡張すべき。 10 5.我国企業年金政策への インプリケーション 掛金建て制度:補助掛金の導入 企業型年金の特徴 (a)一律加入、(b)企業拠出、(c)一律的掛金、 (d)即時100%の受給権賦与(法案第4、9、19条) 給付建て制度代替 機能の確保 総合的な年金課税政策の実現 支出課税型の体系で統一 DB・DC一体化した課税政策 個人の転職等に対応した資産移管の措置を 可能と思われる資産移管 • DC制度内(企業型⇔企業型、企業型⇔個人型) • 厚生年金基金(厚年基金⇔厚基連) 新企業年金においても厚基連や個人型DCが活用できないか? 11
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