『世界経済の謎』 第10章 ねずみ講とバブルの理論 ねずみ講とバブルの理論 • ねずみ講は欧米でも別の名称で存在する • 「チェイン・レターズ」、「ポンジーのゲーム」、 「ピラミッド方式」など。 • アメリカでは「ポンジーのゲーム」と呼ばれる が、これは1920年代のボストンで、ねずみ 講を始めた人物、チャールズ・ポンジーの名 前からきている。 • ポンジー(Ponzi)は何をしたの? ポンジーの発見 • ヨーロッパで1セントで売られている「国際返 信用クーポン」を購入すると、アメリカで10セ ントの切手と交換することができる。 • ポンジーはこれを始めた(安く買って高く売る ことを裁定という、英語ではarbitrage) • ところが、儲けを得るのが大変、理由は郵便 局では切手を現金化してくれない。切手がた まるばかり、、、。そこで・・・ そこで、ポンジーは • この事業の出資者を募った – 「たった3ヶ月で50%の収益を保証!」 • すると、出資者はどんどんやってくる • ポンジーは新しい出資者が出したお金で、古 い出資者に収益を支払うことで、事業を動か した。もう国際返信用切手の換金問題は問題 ではなくなった。新しい出資者が来ればよい。 • しかし、それが命取り。 ポンジーのゲームの終わり • とある郵便局員は思った – 『ポンジーの事業がこんなに発展しているならば、 国際返信用クーポンはたくさん売れているはずに 違いない。』 – ところが、クーポンの販売は増加していない – 報告→警察の捜査→ポンジーのビジネスの崩壊 ピラミッド型組織 紙=「入会証明書」 100万円 100万円の得 100万円の損 100万円の損 孫1 子1 100万円 親 紙 孫2 紙 子2 孫3 孫4 しかし、子が親と同じように孫1・孫2から100万円ずつ集めれば、 収入は100万円、支出は親に払った100万円、差し引きで利益は 100万円となる。では、孫は?ひ孫が必要。ひ孫は…。 ピラミッド型組織 • 次から次へと下の世代を集められれば、世代 の人口が成長しつつ、その連鎖が続く限り、 会員全員がもうけられる仕組み。 • 「世代の連鎖が続く限り」という仮定が、ねず み講の成功・不成功を決めるまさに決め手で ある。 • もし、無限の継続があれば、参加した全員が 得をする。(~p.182) 合理的な予測 • たとえ、極めて大きくても有限の数の世代で 連鎖が終われば、この仕組みは、他の全世 代の利益に相当する損失を最後の世代に押 し付けたことにしかならない。 • そこで、最後の世代が、上記を合理的に予測 すれば、ねずみ講に参加しないはずである。 • そうであれば、結局は講じたいが成立しない はずである。 ねずみ講は合理的に成立するか① • 仮定:ねずみ講に参加する最後の世代は100代目 • 仮定:そのことを誰もが合理的に予測 • 100代目世代の立場 – 99代目に100万円払っても、次の世代がいないので、損 するだけである。 – であれば、ねずみ講には参加しない=100代目は存在し ない • では、99代目世代の立場 – 100代目は存在しないので、自分が最後の世代になって しまう ねずみ講は合理的に成立するか② • では、99代目世代の立場 – 100代目は存在しないので、自分が最後の世代になって しまう – とすると、自分は98代目にお金を払うだけなので、ねずみ 講には参加しないはずである • では、98代目世代はどうする? – 同じ論理で参加しないはずである • では、97代目世代はどうする? – 同じ論理で参加しないはずである • どの世代も次の世代が無い限りは、ねずみ講には 参加しない ねずみ講は合理的に成立するか③ • つまり、合理的な予測のもとでは、世代の連 鎖が無限に続かない限りは、ねずみ講は存 在しない • 無限の数と、きわめて大きな有限の数(例え ば、999兆)との間に決定的な違いがある – 無限の連鎖⇒ねずみ講は合理的に存在しうる – 有限の連鎖⇒合理的に存在しない しかし、現実は・・・ • 人口わずか300万人のアルバニアでねずみ 講が発生してしまう • おそらく、最後の世代が何代目になるかを正 確に予測できないことを利用して、「ロシアン・ ルーレット」のようなゲームが演じられていた • 「ロシアン・ルーレット」:拳銃に実弾を1発だけ こめて、二人(以上)のプレーヤーがお互いに 自分の頭にあてて、拳銃の引き金を引くゲー ム ロシアン・ルーレット① • 生き残りを賭けた、拳銃で行うルーレット 回転弾倉(シリンダー) ロシアン・ルーレット② • 脱線ですが、、、 • 映画史上、「ロシアン・ ルーレット」シーンが最 も有名な映画は『ディ ア・ハンター』(監督:マ イケル・チミノ、主演:ロ バート・デニーロ)だと 言われています。 • ベトナム戦争映画の名 品です。 ロシアン・ルーレットとねずみ講 • ロシアン・ルーレット – 何発目に実弾が装填されているか、事前に合理 的にわかっていれば、ロシアン・ルーレットは成立 しない – 実弾発射の確率は次第に高まる • ねずみ講 – 何世代目で破綻すると合理的にわかっていれば、 ねずみ講も成立しない – ねずみ講破綻の確率も次第に高まる ロシアン・ルーレットの実現可能性 • 人間が危険回避という性向を持っているので あれば(第5章)、ロシアン・ルーレットの実現 可能性を説明することは困難。 • すると、ねずみ講はなんで起きるのか? • ねずみ講の歴史を観察すると – 前の参加者が大儲けをしたのを見て、同じ儲けを 狙いたくなった参加者が集まるようである 資産価格の実勢とバブル(p.184) • ねずみ講の成立条件 – 「世代の連鎖が無限に継続すること」 • われわれにとって身近な経済現象や経済制 度のなかにも、同じ条件が必要な事象がある • 第一に、資産価格のバブルである。 資産価格のバブル • 1986~90年頃=「バブルの時代」 – 株式や土地などの資産価格が大幅に上昇した時 代 • 91年以降=「ポスト・バブルの時代」 – 株式や土地などの資産価格が下落したり、低迷 したりした時代 Japan:Share P rices 2000=100 180 166.1 160 140 120 100 82.1 80 60 40 20 0 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 出所: IMF, International Financial Statistics. 1985 1990 1995 2000 2005 ちなみに、このデータは バブル(bubble)の意味 • 世間での意味 – 資産価格の急上昇 • 経済学での意味 – 資産価格の実勢との乖離 • 「実勢」ってなに? なぜ株式を買うの? • 「好きな企業のオーナーになりたい」、「経営 に関わりたい」という理由を除くと、 • 株式を買う理由は「利殖」=金儲けである • 株式を買ってどうやって儲けるの? – ①株式発行企業から配当をもらう – ②将来に株式を株式市場で売って、買ったときよ りも高い値段で売る(この利益のことを「キャピタ ル・ゲイン」と言う) 株式の価値 • ある会社の株式の価格を考える • 投資家は株式を最後までずっと持っていると仮定 • 1枚の株式に対して、今年、来年、再来年にはそれ ぞれ100ドルの配当が支払われる。 • 会社は4年目に無価値になる(清算) • さて、この株式の価値はどうなる? • 現在価値を考える必要がある – 現在価値=present value 現在価値とは? • 今日の1万円と、一年後の1万円は、今日か ら見て同じ価値か? • たとえば、利子率が10%の資産を仮定しよう – 今日の1万円を投資すると、一年後に1万1千円 になる – とすると、今日の1万円と、一年後の1万1千円は 等価値になる • つまり、今日の1万円と、一年後の1万円は 利子率が10%の時には等価値ではない! 現在価値とは? • 利子率10%のもとで、一年後の配当100ドルは、 現在の価値で何ドルか? • 1年後の100ドルを(1+利子率)で割ればよい 1年後の配当 100ドル 約91ドル (1 利子率) (1 0.1) 2年後の配当の現在価値は? 1年後の配当 100ドル 約91ドル (1 利子率) (1 0.1) 2年後の配当 100ドル 約83ドル 2 2 (1 利子率) (1 0.1) 株式の実勢価値=ファンダメンタルズ価 格 株式の実勢価値 =今年の配当+1年後の配当の現在価値 +2年後の配当の現在価値 100 91 83 274 今年の配当=100ドル 1年後の配当 100ドル 約91ドル (1 利子率) (1 0.1) 2年後の配当 100ドル 約83ドル 2 2 (1 利子率) (1 0.1) もし利子率がゼロだったら? • 現在価値を計算するために、割り引く必要が 全く無い • ファンダメンタルズ価格は100+100+100= 300ドルになる • 将来の利子率と、ファンダメンタルズ価格は 密接に関連 – 将来の利子率↓⇒ファンダメンタルズ価格↑ – 配当↑⇒ファンダメンタルズ価格↑ ファンダメンタルズ価格とは • 投資家は株式を最後まで持っていると仮定 • つまり、ファンダメンタルズ価格は、投資家が 株式を売らずに(つまり、投機を狙わずに)い る場合のきれいな(クリーンな)価格である • では、投機(=安く買って高く売って儲ける) 目的で、株式を取り引きする場合には、キャ ピタル・ゲインを狙う場合だが、このときには 株式価格はファンダメンタルズ価格から乖離 する可能性がある 株式のバブル! • 株式価格はファンダメンタルズ価格から乖離 する可能性があるとは、つまり、バブルが発 生するということである • 株式市場において、投資家が投機目的で売 買を行うときには、株価はファンダメンタルズ 価格から乖離してバブルが起きる可能性が ある 推理法の違いで生まれるバブル(p.187) • いろんな種類の投資家が存在して、それぞれに違っ た種類の考え方(推理法)をもっていると仮定する • ファンダメンタルズ価格に違いが出る 株式発行企業の発表 投資家の種類 「高い配当」 「低い配当」 「一定」タイプ 1500ドル 1480ドル 「落差」タイプ 2000ドル 1200ドル タイプの違い • 「一定」タイプ – 企業の業績は、悪いときもあれば良いときもある だろうから、低い配当の次には高い配当が来る だろうと想像するタイプ • 「落差」タイプ – 企業の業績は、いったん悪くなるとそれが継続す るから、低い配当が出ると、低い配当のままだろ う、逆に高い配当が出ると、高い配当のままだろ うと想像するタイプ 「低い配当」の発表 • 「一定」タイプの心の中 – 私のファンダメンタルズ価格は1480ドルである – しかし、「低い配当」の次の期は「高い配当」が発 表されるであろう – すると、「落差」タイプは、そのときには2000ドル で株式を買うに違いない – とすると、今、1480ドル以上(2000ドル以下)で 買っておいても、次の期に儲けられる可能性は高 いであろう • 「一定」タイプは2000ドル近くで買おうとする 「低い配当」の発表 • 「落差」タイプの心の中 – 今期に買った株式は来期にいくらになるだろうか – 来期に「高い配当」の発表だったら、2000ドル近く になると私は思う – 来期に「低い配当」の発表だったら、「一定」タイプ は2000ドル近くで買いにくるのだから、やっぱり 今、2000ドル近くで買っておいてもいい • 「落差」タイプも2000ドル近くで買おうとする • 結局、どちらのファンダメンタルズ価格をも超 えてしまう⇒バブルの発生 二つのタイプがいるという仮定は長期 的に正しいか? • 長期的には、どちらかのタイプが優越して生 き残っていくのではないか • つまり、全ての投資家が同じデータから、平 均的には正しいファンダメンタルズ価格を計 算するような場合には、バブルは発生するの だろうか? • 合理的にバブルは発生するのか? 理論的な結論 • ①取引が有限回数の場合には、合理的な予想のも とでバブルは起きない • ②取引が無期限の場合でも、取引相手の数が有限 ならば、合理的な予想のもとでバブルは起きない • 連鎖の最後に「他人の儲けに対応する損失を一手 に引き受ける主体」が必要になるが、そんな主体は 合理的ではない⇒①と② • バブルが起きるのは、取引回数と取引相手の数が 共に無限大の場合⇒無限時点の彼方に先送り ねずみ講とバブル 紙=「入会証明書」=ファンダメンタルズ価格がゼロの紙 100万円 100万円の得 100万円の損 100万円の損 孫1 子1 100万円 親 紙 孫2 紙 子2 孫3 孫4 しかし、子が親と同じように孫1・孫2から100万円ずつ集めれば、 収入は100万円、支出は親に払った100万円、差し引きで利益は 100万円となる。では、孫は?ひ孫が必要。ひ孫は…。 ねずみ講の可能性 • 取引回数と取引相手の数が無限だと思える 場合には、ねずみ講もおきる可能性があるの だ • いつかはクラッシュするけれども、、、。 マークシートのアンケート (HBの鉛筆を使用します) 書き込んでください。 解答に使用します。 学年とクラスの指定を無視して、 10桁の学籍番号を左から埋めてください。 問題① • 経済学におけるバブルとはどういう意味です か? 1.シャボン玉の泡 2.資産価格の急上昇 3.資産価格の実勢との乖離 4.インフレーション 5.デフレーション 問題番号の1の下の1~5までの選択肢から一 つをマークしてください。 問題② • 将来の利子率が10%のときに、来年の価格 が11000円である資産の現在価値を答えな さい。 1.12100円 2.11000円 3.10000円 4.9800円 5.6500円 問題番号の1の下の1~5までの選択肢から一 つをマークしてください。 問題③ • ロシアン・ルーレットでは何を使いますか? 1.カジノのルーレット台 2.トランプ 3.刃物 4.拳銃 5.地雷 問題番号の1の下の1~5までの選択肢から一 つをマークしてください。 マークシート用紙を後ろから集 めてください
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