投資の利子弾力性

2009年度 慶應霞会 経済理論勉強会
IS曲線
貯蓄と投資の関係 消費政府支出の影響
担当者:商学部1年 高崎 展行
◎投資と貯蓄
今回注目するIS曲線のIとはINVESTMENT(投資)を表し、SとはSAVING (貯蓄)を表してい
る。企業の調達する資金は主に銀行からの借入金、社債、株式などが挙げられる。そして
それらの資金と貯蓄は大きく関係している。今回はその投資と貯蓄に注目する。
・投資(I)と貯蓄(S)の数的関係
Y=C+I+G+X-M(国民所得=消費+投資+政府支出+輸出-輸入)であるが、
仮にその国に政府支出が存在せず、貿易をしていないとすれば、
Y=C+I…①(国民所得=消費+投資)
と書くことができる。
また、家計の立場にたって考える。
家計は今期得た収入を全て消費しなければ、残りは貯蓄に回されるため…
Y-C=S…②(国民所得-消費=貯蓄)
と書くことができる。
ここで①を②に代入すると
(C+I)-C=S→I=S
I=S(投資=貯蓄)が成立する←重要
◎投資費用と投資収益
企業が投資、例えば工場を建設・投資する際、投資にかかる費用とその投資から得られる収
益を比較して、投資を実行するか否か決める。
(注釈)企業の投資には設備投資、在庫投資などがあるがここでは設備投資(イメー
ジとして企業の持つ工場が機械を買うこと)に注目する。
・投資費用
ある企業が工場を建てるために銀行から100億円を年利子率10%の利率で借り入れたと
する。
この場合、企業は100億円の10%の10億円を利子費用として負担しなければならないの
で、投資にかかる費用は110億円である。
・投資収益
今、銀行から借りた100億円で工場を建設し、一年後、その工場で製造された製品の総
売上げが120億円であると予想する。この時、120(億)÷100(億)=1,2(収益率20%)を投資
の収益率(資本の限界効率)と呼ぶ。この時は
費用負担率10%(利子率)<収益率20%(資本の限界効率)
であるため、投資は実行される。
◎投資費用と投資収益
企業は、収益率が費用負担率を上回ったとき、投資が実行される。通常なら、企業は
収益が大きい(=収益率大)設備投資を優先的に行う。
そのため、投資の額が増えるほど、収益率は低下していくと考えられる。下にある資
本の限界効率曲線(資本がどれだけ企業に満足をもたらすか)は右下がりの曲線で
描くことができる。
e
投
資
の
限
界
効
率
(
)
利子率rが10%の
とき、投資は実行
される。
20%
収
益
率
利子率rが10%の
とき、投資は実行
されない。
12%
9%
7%
5%
資本の限界効
率曲線
投資(I)
◎IS曲線の導出②(投資関数)
・投資関数について
投資額は利子率r(=費用負担の割合)をもちいると
I =-ar+I₀(I=投資、a=定数、r=利子率)…①
と書くことができる。
←つまり、毎期一定額(I₀)は投資に回されるが、利子率(r=費用負担率)が高いと、
企業は(-ar)の分だけ投資を控え、最終的に投資額(I)はI₀からarを引いた値に決定
されるということである。その時
I=-ar+I₀
を投資関数と呼び、
投資Iは利子率rの減少関数(rが増加するとIは減少する)である、ということ
ができる(←重要)
◎IS曲線の導出
利
子
率
(
r
)
前回の消費関数:C=cY+C₀…②
(消費=消費性向×所得+基礎消費)
これをY=C+I+G(国民所得=消費+投資+政府支出)に
①、②を代入する。(輸出入は省略)
IS曲線
⇒Y=(cY+C₀)+(-ar+I₀)+G
⇒ar=-(1-c)Y+C₀+I₀+G
(注)0<c(=限界消費性向)<1であるため
∴1-c>0
この時、1-c=s(限界貯蓄性向)と呼び、
限界消費性向c+限界貯蓄性向s=1が成立する。
国民所得(Y)
rはYの減少関
数である。
◎IS曲線の導出
IS曲線は横軸に国民所得(Y) 縦軸に利子率(r)をとると、左下のようなグラフを描くこと
ができる。
利
子
率
(
r
)
r₁
IS曲線
⇒利子率(=費用負担率)の減少
⇒投資が活発化
⇒生産量の増加
⇒国民所得の増加(Y₀→Y₁、②)
⇒消費が増加
⇒財市場の需要増加
⇒財市場均衡(需要=供給)
①
r₀
(証明)
ある日、利子率がr₁→r₂に低下したとする。(①)
利子率の低下=投資(I)上昇
⇒財市場が不均衡(需要<供給)(=供給超過)
②
(まとめ)
Y₀
Y₁ 国民所得(Y)
IS曲線は右下がり(←重要)
◎IS曲線の性質(財政政策の効果)
IS曲線は政府支出(G)の増加で右にシフトする。(重要)
前のページよりIS曲線の式は
利
子
率
(
r
)
この式より、r切片は
この時、政府支出(G)をG₀→G₁に増加させ
ると、左図のように上(右)にシフトする。
IS”
これは、政府支出(政府の購買活動)の
増加で、企業の売上が増加し、そのぶん
国民所得(給料、賃金)が増えるとイメー
ジしたらよい。
IS
国民所得(Y)
(まとめ)IS曲線は政府支出(G)の増加で右
にシフトする。
◎IS曲線の性質(財政政策の効果)
IS曲線は政府支出(G)の増加で右にシフトすることは45度線分析からも説明できる。
45度線の復習もかねて詳しく説明する。
需要量(C)
供給量
供給曲線
需要曲線
需要関数(=消費関数)は
全体消費
=民間消費(C)+投資(I)+政府支出(G)
=cY+C₀+I+G
(輸出、輸入は省略、C₀=基礎消費)
ここで、政府支出(G)をG₀→G₁増加させる
と、需要曲線が上にシフトする。
需要曲線
政府支出(G)の増加
⇒需要曲線が上にシフト(∵左図)
⇒国民所得(Y)の増加
C₀+I+G₁
C₀+I+G₀
45度
Y₀
Y₁ 国民所得(Y)
政府支出(G)の増加は利子率(r)の値に
関係なく、Yは増加する。
つまり、IS曲線は右にシフトする。
◎IS曲線の性質(投資の利子弾力性)
では今度はIS曲線の傾きに注目してみる。IS曲線の傾きが(ⅰ)急な時(ⅱ)緩やかな時、と
ではどのような違いがあるのか、説明する。
利
子
率
(
r
)
利子率r(費用負担率)がr₀→r₁に上昇したとする。
⇒国民所得(Y)の減少が緩やか(IS曲線が急な時)
これはつまり、r₀→r₁に上昇したとしても、投資
活動があまり阻害されないため、国民所得の
減少少ない、ということである。
②
r₁
経済的には、IS曲線が急な時、投資の利子弾
力性(利子率rが1%増加したとき、投資が何%
減少するか)が小さい、と表現する。
①
r₀
IS
Y₀
Y₁
国民所得(Y)
(まとめ)
IS曲線が急な時は投資の利子弾力性
が小さい。
◎IS曲線の性質(投資の利子弾力性)
では今度はIS曲線が(ⅱ)緩やかな時、とではどうなのか、説明する。基本的には(ⅰ)急な
時、とそのまま逆にしたら良いと考えてよい。
利
子
率
(
r
)
利子率r(費用負担率)がr₀→r₁に上昇したとする。
⇒国民所得(Y)の減少が大きい(IS曲線が緩やかな時)
これはつまり、r₀→r₁に上昇したとしても、投資
活動が大きく減少するため、国民所得は大き
く減少する、ということである。
②
r₁
①
r₀
IS
Y₀
Y₁
国民所得(Y)
経済的には、IS曲線が急な時、投資の利子弾
力性(利子率rが1%増加したとき、投資が何%
減少するか)が大きい、と表現する。
(まとめ)
IS曲線が急な時は投資の利子弾力性
が大きい。
◎IS曲線の性質(投資の利子弾力性のまとめ)
IS曲線
利
子
率
(
r
)
②
①:投資の利子弾力性=0(非弾力的)
利子率r(費用負担率)が増加しても、投資
は減らず、国民所得(Y)は減少しない
①
②:投資の利子弾力性が小さい
利子率rが増加しても、投資の減少は僅か
で
、国民所得の減少は小さい
③:投資の利子弾力性が大きい
利子率rが増加したら、投資の減少は大き
く
、その分国民所得の減少も大きい
③
④
④:投資の利子弾力性が無限大(弾力的)
利子率rが増加したら、投資は限りなく減少
し、国民所得も限りなく減少する。
Y₀
Y₁
国民所得(Y)
◎IS曲線の性質(総まとめ)
最後に投資やIS曲線の性質について要点をまとめておく。
(POINT)
利
子
率
(
r
)
IS曲線
・企業は投資をするか否かは…
費用負担率(利子率)<収益率(資本の限界効率)
のとき、投資を実行する
費用負担率(利子率)>収益率(資本の限界効率)
のとき、投資は実行されない
・IS曲線は右下がりのグラフ。
=rはYの減少関数
・IS曲線は政府支出(G)の増加で右にシフトする。
数式↓
・IS曲線の傾きは
(ⅰ)緩やかなとき、投資の利子弾力性が大きい
(ⅱ)急な時、投資の利子弾力性が小さい
国民所得(Y)
◎節約のパラドックス(補論)
I=s’Y+C₀
投資
貯蓄
I=sY+C₀
節約のパラドックスとは、「すべての家計
が限界消費性向を高めても、結果的には
貯蓄総額は変化せず、GDPが減少する」
というものである。」
I=S(Y)
=Y-C(Y)
=Y-(cY+C₀)
=(1-c)Y-C₀
=sY-C₀
I
国民所得(Y)
Y₁
C。
Y₀
このとき、企業の投資額が一定のとき、限
界消費性向をいくら上げても、投資額と貯
蓄額は均衡する。
⇒限界貯蓄性向sの増加
⇒限界消費性向cの減少(c+s=1)
⇒財市場の需要低下
⇒企業の生産量(GDP)減少
⇒国民所得(Y)低下