電磁気学C

電磁気学Ⅱ
Electromagnetics Ⅱ
7/9講義分
電気双極子による電磁波の放射
山田 博仁
遅延ポテンシャル
空間領域 V の中の電荷分布 ρe(x’, t’)または電流分布 ie(x’, t’)が、時間的に激しく
変動すると、周りの空間に電磁波が放射される。
x ϕ(x, t)
その時、領域 V から離れた点 x での遅延ポテンシャルは、
A(x, t)
e ( x' , t' )
1
3
 ( x, t ) 
d
x'
 (1)

V
4 0
x  x'
r
R = | x - x’|
0
i
(
x
'
,
t'
)
3
e
A( x, t ) 
d
x'
 (2)

V
4
x  x'
ρe(x’, t’)
ie(x’, t’)
x  x'
R
O x’
t
 (3)
ここで、 t'  t 
V
c
c
で表された。
ただし、電荷や電流分布が存在しない場所は真空としている。
そこで、式(1)および式(2)の右辺の積分を実行すれば、電磁ポテンシャルが求まる。
しかし、多くの場合、この積分を解析的に実行することはできない。
そこで、静電場の時と同様に、電荷や電流が分布している領域に比べて、観測点
が十分に遠くにあると仮定した遠方解を求めることにする。 ⇒ 電気双極子近似
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
図に示す様に、電荷分布の存在する領域が、原点 O を中心とする半径 a の球内
に限られているとし、観測点 x の原点 O からの距離 r = |x| が r≫a の条件を満た
していると考えて、式(1)の被積分関数を x’/r のベキに展開する。
ϕ(x) x
このとき、
 x  x' 
R  x  x'  r 2  2 x  x ' x '2  r 1  2 
 (4)
r


従って、
r
R = | x - x’|
1
1
1  x  x' 

 1  2 
 (5)
と近似できる。
R x  x' r 
r 
a
静電場の場合と違って、距離 Rは電荷分布 ρe(x’, t’)の中の
O x’
t’ にも含まれるので、これを展開して、

R
1
x  x'  
x  x' 

   e  x' , t   r 
    e  x' , t0 

c
c
r
cr





 ( x' , t0 ) x  x '
  e ( x' , t0 )  e


t0
cr
r
ただしここで、
と置いた。
t0  t 
 (7 )
c


 e  x' , t 
 (6)
補) 式(4),式(5)の導出
 2 x  x '   x ' 
R  x  x'  r  2 x  x ' x '  r 1 
    
r

r r
2
2
 x '   2 x  x '   x ' 
f    1 
    
r
r
  
r r
2



2



1
2
1
2
と置き、マクローリン展開すると、
2
3
x'
 x' 
 x' 
 x' 
f    f (0)  f (1) (0)   f ( 2) (0)     f (3) (0)     
r
r
r
r
f (0)  1
f
(1)
 2 x  x'   x' 
 x'  1 
    
   1 
r
2
r

 
r r

2
2

1
2

x' 
  2x
2 
 
r

  r
3
1 2 x x'
 x' 
 x' 
 x' 
f    1
  f ( 2) (0)     f (3) (0)     
2 r r
r
r
r
x'
 1
r
x'
より、  
r
2
より、
となる。
x  x'
 x' 
以上の高次の項を無視すると、 f    1  2
となる。
r
r
式(5)も同様に、x << 1 の時、 f ( x)  1  x のマクローリン展開の高次の項を無視
1
すると、 f ( x)  1  x1  1  x
となる。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
式(7)の t0 は、原点 O から発信された電磁波が時刻 t に観測点 x に到達するた
めに、原点 O を出発しなければならない時刻を表している。
式(5)および式(6)を式(1)に代入し、x’/r に関して1次までを考慮し、それ以上を無視
すると、
 e ( x' , t' )
1
3
 ( x, t ) 
d
x'
4 0 V
x  x'
 1  x  x'  

 e ( x' , t0 ) x  x '

d x'  1  2    e ( x' , t0 ) 

  
4 0 V
r
r

t
cr

0

 
1 1
1 x
3
3


(
x
'
,
t
)
d
x'


x
'

(
x
'
,
t
)
d
x'
e
0
e
0
3
4 0 r V
4 0 r V
1

3
 e ( x' , t0 ) 3
x

x
'
d x'  
2 V
4 0 cr
t0
と書かれる。
1
 (8)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
ここで、右辺第1項の
Qe    e ( x' , t0 )d 3 x'
V
 (9)
は、領域 V 内に存在する全電荷量を表しており、伝導電流が V 内のみに存在する
ことから、V の内外への電流の出入が無いため、時間 t に依存しない一定値となる。
次に、右辺第2項の
p(t )   x' e ( x' , t0 )d 3 x'
V
 (10)
は、広義の電気双極子モーメントである。
また、右辺第3項では

V
である。
x'
大田さんの教科書 p.21、式(2.38)参照
非相対論では、t0 も t も同じように時間が流れるので
e ( x' , t0 ) 3
dp(t0 )
d
d x'   x'e ( x' , t0 )d 3 x' 
t0
dt V
dt
 (11)
式(9), (10), (11)を用いると式(8)は、
 ( x, t ) 
と表される。
1 Qe
1 x  p(t0 )
1 x  p (t0 )



3
2
4 0 r 4 0
r
4 0 cr
ここで、 p (t )  dp(t ) dt である。
 (12)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
このように近似されたスカラー・ポテンシャルを、電気双極子近似におけるスカラー・
ポテンシャルという。
次に、式(2)のベクトル・ポテンシャルは R を r に置き換えることにより、
 1
 p (t0 )
A( x, t )  0  ie ( x' , t0 ) d 3 x'  0
 (13)
V
4 r
4 r
と近似される。
⇒
この式の導出は、各自でやってみて下さい。
このような電磁ポテンシャルに対する近似式(12), (13)を用いて、
A( x, t )
 grad  ( x, t ) および
t
より電磁場 E(x, t)および B(x, t)が求まる。
E ( x, t )  
B( x, t )  rot A( x, t )
式(12)の右辺第1項は、点電荷 Qeのつくる静電場を与えるだけであるから、以下で
はこの項からの寄与は考慮する必要はない。まず、grad ( x, t ) を求めるために第2
項を x について微分すると、
 x  p(t0 ) p(t0 ) x   1 

 x



p
(
t
)

x

p
(
t
)



0
0  3
3
3
3
x r
r
x  x r 
 x
 r
p (t ) 3x
 x  x  p (t0 )
 x 3 0  5 p(t0 )  x    
 (14)
3
r
r
 cr  r
となる。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
従って式(14)から、
 grad
である。
x  p(t0 )
p(t0 )
x ( x  p(t0 )) x ( x  p (t0 ))



3

3
3
5
r
r
r
cr 4
 (15)
次に式(12)の右辺第3項を x について微分すると、
 x  p (t0 ) p (t0 ) x 1
 1 x 




p
(
t
)

x
 2   2  p (t0 )
0
2
2
x cr
cr
x c
x  r  cr x
p x (t0 ) 2 x
x x  p(t0 )



p(t0 )  x 
 (16)
cr 2
c r4
cr cr 2
となるから、
 grad
x  p (t0 )
p (t0 )
x ( x  p (t0 )) x ( x  p(t0 ))



2

cr 2
cr 2
cr 4
c2r 3
 (17 )
また式(13)より、

 1
 1 
 1
A( x, t )
(t  r / c)
 0
p (t0 )   0
p (t0 )
  0 p(t0 )
t
4 r t
4 r t0
t
4 r
 (18)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
そこで式(15), (17), (18)を以下の式に代入すると 電場 E(x, t)は、
A( x, t )
 grad ( x, t )
t
1  p(t0 ) 3 x ( x  p(t0 )) p (t0 ) 3 x ( x  p (t0 )) p(t0 ) x ( x  p(t0 )) 

 3 


 2 
5
2
4


4 0  r
r
cr
cr
cr
c 2r 3

E ( x, t )  
 (19)
で与えられる。
一方、磁場 B(x, t)は次のように計算される。
B( x, t )  rot A( x, t ) 
0
4
 x  p (t0 ) x  p(t0 ) 

3

r
cr 2 

⇒
 (20)
この式の導出も、各自でやってみて下さい。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
電気双極子近似における電磁場式(19), (20)とを、 p, p および p に比例する部分
に分割し、それぞれの部分の電磁場を E(0)と B(0), E(1)と B(1)および E(2)と B(2)で表
すと、それらは次式のように書き表される。
E ( 0 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) 3 x( x  p(t0 )) 
 3 


4 0  r
r5

B(0) ( x, t )  0
 (22)
1  p (t0 ) 3 x( x  p (t0 )) 



4 0  cr 2
cr 4

 p (t0 )  x
B (1) ( x, t )  0
4
r3
E (1) ( x, t ) 
E ( 2 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) x( x  p(t0 )) 
 2 


4 0  c r
c2r 3

B ( 2) ( x, t )  
 (21)
0 x  p(t0 )
4
cr 2
 (23)
 (24)
 (25)
 (26)
電磁場の物理的意味
ここで、これらの電磁場の物理的意味を考える。
電場 E(0)(x, t)は、電気双極子 p(t0)が観測点 x に作る電場
(何故なら、教科書 p.23 における電気双極子の作る静電場の式(2.45)から
容易に類推可能)
電場 E(1)(x, t)は、電荷分布の移動によって作られる電気双極子にもとづく電場
磁場 B(1)(x, t)は

B ( x, t )  0
4
(1)

V
ie ( x' , t0 )d 3 x'  x
r3
 (27)
と書き直されるので、定常電流に対するBio-Savart の法則の観測点を遠方に
おいたときの近似式に他ならない。
電場 E(2)(x, t) および磁場 B(2)(x, t)が、遠方まで伝搬可能な電磁波である。
電磁場の物理的意味
今、電気双極子 p(t)が角周波数 ωで振動しているとすると、それに伴って発生す
る電磁波の波長 λは 2πc/ ω で与えられる。この時、式(21)~(26)の電磁場は、各
項の大きさを吟味するとだいたい次の程度の大きさをもつことが分かる。
ヒント: |x| = r や μ0 = 1/ε0c2 の関係、 x と p のなす角 θに対して、sinθや cosθは、
0 ~ 1の範囲にあることなどを用いている。
E ( 0) ~
1
1
p
3
4 0 r
E
~ cB
( 2)
電気双極子近似では、静磁場はゼロ
1 2 p
4 0  r 2
誘導電磁場
1 4 2 p
~
4 0 2 r
放射電磁場
E (1) ~ cB(1) ~
( 2)
静電場
今、r≫λ の条件を満たしているとき、つまり、原点 O から観測点までの距離 r が
電磁波の波長 λ に比較して非常に大きいときを考える。このような領域を波動域
(wave zone)といい、この領域でも残るのは放射電磁場だけであることが分かる。
放射電磁場
波動域における電磁場の性質を調べる。波動域における電磁場は、
E ( 2 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) x( x  p(t0 )) 
 2 


4 0  c r
c2r 3

 x  p(t0 )
B ( 2) ( x, t )   0
4
cr 2
 (25)
E(2)(x,
 (26)
x ( x  p(t0 ))
2
( 2)

4

c
r
E
( x, t )
0
2
r
B(2)(x, t)
 (25' )
式(25’)を式(26)に代入し、 x×x = 0、また 00 = c-2 であ
ることを考慮すると、
1
B ( 2) ( x, t )  e  E ( 2) ( x, t )
c
t)
x
式(25)を書き直すと、
p(t0 ) 
e
O θ
p(t0 )
 (28)
ここで、e = x/r であり、これは図に示すように、原点 O から観測点 x に向く
単位ベクトルを表している。従って、観測点 x における磁場 B(2)(x, t) は電場
E(2)(x, t) および e に直交していることが分かる。
放射電磁場
次に、p227 付録Aのベクトル公式 A  ( B  C )  B( A  C )  C ( A  B) を用いると、
x  ( x  p)  x( x  p)  r 2 p
 (29)
であるから、式(25), (26)より、
E ( 2 ) ( x, t )  cB ( 2) ( x, t ) 
x
 cB ( 2) ( x, t )  e
r
 (30)
が成立する。つまり、E(2)(x, t) は B(2)(x, t) および e と直交している。即ち、
E(2)(x, t), B(2)(x, t) および e は前のスライドの図にあるように互いに直交している。
また、 E(2)(x, t), と B(2)(x, t) によって作られるポインティング・ベクトル S(x, t)=
μ0-1E(2)(x, t) × B(2)(x, t) の方向は、e の方向に一致しているから、 e の方向に
電磁波は進行する。即ち、この電磁波は横波になっている。
また、これら電場と磁場の大きさの間には、|E(2)(x, t)| = c|B(2)(x, t)| の関係があ
り、式(25), (26)で表される放射電磁場が自由空間を伝わる電磁波と全く同じ性
質を有することが分かる。
放射電磁場
波動域おける電磁波が、観測点 x において e に垂直な単位面積の断面を通って
単位時間当たりに運ぶエネルギーを求める。(単位時間当たりに運ぶエネルギー
= 電力 P のこと) これを求めるには、ポインティング・ベクトル
e
(2)
E (x, t)
1 ( 2)
S ( x, t ) 
E ( x, t )  B ( 2 ) ( x, t )
 (31)
0
x
B(2)(x, t)
を求めればよい。
式(30)より、
S ( x, t ) 
c
0
( B ( 2 ) ( x, t )  e )  B ( 2 ) ( x, t )
 (32)
ここでまた前のスライドで用いたベクトル公式を用いて、
e と B(2)が直交していることに注意すると、
B( 2)  ( B( 2)  e)  B( 2) ( B( 2)  e)  e( B( 2)  B( 2) )  e( B( 2)  B( 2) )
従って、 S ( x, t ) 
c
0
式(26)を代入すると、
B
( 2)

2
( x, t ) e
S ( x, t ) 
O θ
p(t0 )
 (33)
 (34)
0
(e  p(t0 ))2 e
2
2
(4 ) cr
 (35)
放射電磁場
ここで図のように p の方向と e の方向のなす角を θ とすると、
観測点 x において、単位時間に観測される電磁波のエネル
ギー流の強さ(電磁波の電力) S(x, t)は、
S ( x, t )  S ( x, t )  e 
0
2
2




p
(
t
)
sin

0
2
2
(4 ) cr
E(2)(x,
e
t)
x
 (36)
B(2)(x, t)
原点 O を中心とする半径 r の球面を通って、流出する電磁波
の電力 P は、全立体角に渡り S(x, t) を積分して、

0
2
2




p
(
t
)

2

sin
  sin d
0
2

0
(4 ) c
0
0
4
2
2










2


p
(
t
)

p
(
t
)
 (37)
0
0
2
(4 ) c
3
6c
P(t )   S ( x, t )r 2 d 
O θ
p(t0 )
原点 O を中心とする θ の方向の単位立体角内に放射される電磁波の電力 P(θ) は、
S(x, t)が θ 方向の単位面積を通過する電力であることを考えると、半径 r の球の体
積は 4πr2 であり、球の全立体角は 4π だから、
0
4 r 2
2




P( )  S ( x, t )
 S ( x, t )r 2 
p
(
t
)
sin 2 
0
2
4
(4 ) c
 (38)
双極子放射パターン
P( ) 
0
2
2




p
(
t
)
sin

0
2
(4 ) c
 (38)
放射される電磁波電力の方向分布は、図のように p に直交する方向に強く放射
される 8の字パターンとなる
放射電力の強さ
S(x, t)
p
e
θ
dθ
dΩ
θ
p(t0 )
r
O
p
双極子放射電力の方向分布
線状微小ダイポールアンテナ
図に示すような長さ d の線状微小アンテナ(電磁波の波長に比べてアンテナ素
子の長さ d が十分に短い、従って素子全体に渡って流れる電流は同相)から放
射される電磁波の電力を計算する。アンテナの中央部分には給電点があり、そ
こから周期的な電流を与えてアンテナを励振する。
その電流が
 2z
I e ( z, t )  I 0 1 
d

z

 sin t


 (39)
d
2
 (40)
0
e
で表されるものとする。 すると、
I e ( z , t )
2 sin t
  I0
z
d
である。ただし、複号は z > 0 のとき負、 z < 0 の
とき正である。
電荷保存則により、
 e ( z , t )
I ( z , t )
2 sin t
 e
 I0
t
z
d
x

 (41)
y
d
2
線状微小ダイポールアンテナ
これを積分することにより、単位長さ当りの電荷密度は、
e ( z, t )  
2I 0
cos t
d
 (42)
で与えられることが分かる。これから、アンテナの電気双極子モーメント p(t) は、
d 2
d 2
0
2I
I d
p(t )   z e ( z, t )dz  0 cos t   zdz   zdz    0 cos t
 (43)


d 2
0

d
2


d
2
である。これから、
I0d
 cos t
 (44)
2
となる。これを式(37)に代入することにより、放射される電磁波電力は、
p(t ) 
 I d
P(t )  0  0   2 cos2 t0
6c  2 
2
 (45)
で与えられることになる。そこで、(45)の振動の1周期 2π /ω に渡る平均を求めると、
 I d

P  0  0  2 
6c  2 
2
2

2 
0
  I d 
cos2 t0  dt0  0  0 
12c  2 
2
となる。これがアンテナから放射される電磁波の平均電力である。
 (46)
ダイポールアンテナの放射パターン
線状微小ダイポールアンテナと θ の角度をなす方向に位置し、距離 r 離れた所に
ある観測点 x において、アンテナのある方向に対して垂直な単位面積に到達する
電磁波電力は式(36)より、
x
S(x, t)
S ( x, t ) 
0
2
2




p
(
t
)
sin

0
2
2
(4 ) cr
0  I 0 d  2
2
2

  cos t sin 
2
2 
(4 ) cr  2 
2
θ
r
0 I 02 d 2 2
2
2

cos

t
sin

2
2
64 cr
 (47)
従って、電磁波電力は、アンテナからの距離の2乗に
反比例して小さくなり、またアンテナに流れる電流の2
乗、周波数の2乗に比例する
θ
ダイポールアンテナからの放射パターンは、素子に
垂直な方向で強度が最も強くなるような 8の字パ
ターン