ベクトル解析 演習問題 12 2014 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ※レポートを提出したい人は、以下の注意点を守って提出して下さい。 (ⅰ) 必ず分かるところに学籍番号、学科、氏名を書いて下さい。 (ⅱ) A4 の紙を用いて、複数枚になる場合はホチキスや針無しステープラーで綴じて下さい。 (ⅲ) 提出期限は 次回の講義の開始前迄 とします。 問題 12-1. 以下の設問に答えなさい。ストークスの定理を用いた場合には、何処で用いたのかが分かる様に答 案に明記すること。 (1) xyz 空間内の 3 点 P (2, 0, 0), Q(0, 1, 0), R(0, 0, 3) を結んで出来る三角形の辺上を P → Q → R → P の順に進む経路 C を考える。 (a) 3 点 P , Q, R を通る平面 Π の方程式 (パラメータを含まないもの) を求めなさい。 (b) 三角形 P QR を曲面 S とするとき、境界 C = ∂S に上記の様な向きを誘導する様な S の 向き付けを与える S の単位法線ベクトル n を求めなさい。 ∫ {(x + y + z) dx − (x2 + z 2 ) dy + 3xy dz} を計算しなさい。 (c) 線積分 C (2) 回転放物面 S : z = 1 − x2 − y 2 , z ≥ 0 を z 成分が常に正となる様な単位法ベクトル場で向き y ∫ 付ける。このときベクトル場 A(x, y, z) = z に対して面積分 rot A · dS を計算しな x S さい。 問題 12-2. f, g : R3 → R を 2 階偏微分可能な空間スカラー場とし、その 2 階偏導関数は全て連続であると仮 定する。このとき以下の設問に答えなさい。 (1) ベクトル場の等式 rot (f grad g) = (grad f ) × (grad g) が成り立つことを証明しなさい。 (2) (1) の結果とストークスの定理を利用して、xyz 空間の任意の (区分的に滑らかな) 閉曲線 C に対して ∫ (f grad g + g grad f ) · dr = 0 C が成り立つことを証明しなさい。 1 【略解】 問題 12-1. −2 −2 −→ −−→ (1) P Q = 1 , P R = 0 に注意しよう。 0 3 (a) Π の法線ベクトルとして −2 −2 3 −−→ −→ 1 × 0 = 6 PQ × PR = 0 3 2 が取れる。したがって Π 上の点 (x, y, z) はベクトル方程式 3 x−2 6 · y = 0 2 z を満たす。整理すると : 3x + 6y + 2z = 6 となる。 Π 3 1 1 (b) 単位法線ベクトル 6 が S の境界 C = ∂S に誘導する向きは、 6 の真上か 7 7 2 2 ら見て反時計回りの方向である (講義中にした説明を参照)。これは、もとから C に与え 3 られた向き P → Q → R → P と一致する (各自図を描いて確認すること)。したがって 3 1 n = 6 となる。 7 2 x+y+z 2 2 (c) A(x, y, z) = −(x + z ) とおくと 3xy ∫ ∫ {(x + y + z) dx − (x + z ) dy + 3xy dz} = 2 C C 3x + 2z A(x, y, z) · dr 2 である。rot A(x, y, z) = 1 − 3y であるから、ストークスの定理により −2x − 1 3x + 2z −3y + 1 · dS. A · dr = C S −2x − 1 ∫ ∫ 3 −−→ −→ −−→ −→ である。また、r u (u, v) = P Q, r v (u, v) = P R なので、P Q × P R = 6 であったこ 2 2 とを思い出すと ∫ ∫∫ 3x + 2z 3(2 − 2u − 2v) + 2 · 3v 3 −3y + 1 · dS = · 6 dudv −3u + 1 S (u,v)∈D −2x − 1 −2(2 − 2u − 2v) − 1 2 ) ∫ u=1 (∫ v=1−u = (8v − (28u − 14)) dv du u=0 u=1 v=0 ∫ du [4v 2 − (28u − 14)v]v=1−u v=0 = u=0 ∫ u=1 (32u2 − 50u + 18) du = [ u=0 32 3 = u − 25u2 + 18u 3 ]u=1 = u=0 11 . 3 【別解】 C を以下の三つの経路に分割する: 2 −2 2 − 2t C1 : r C1 (t) = 0 + t 1 = t (0 ≤ t ≤ 1) 0 0 0 0 0 0 C2 : r C2 (t) = 1 + t −1 = 1 − t (0 ≤ t ≤ 1) 0 3 3t 0 2 2t C3 : r C3 (t) = 0 + t 0 = 0 (0 ≤ t ≤ 1). 3 −3 3 − 3t −2 0 2 ′ ′ このとき r ′C1 (t) = 1 , r C2 (t) = −1 , r C3 (t) = 0 だから、 0 3 −3 ∫ {(x + y + z) dx − (x2 + z 2 ) dy + 3xy dz} C1 ∫ t=1 {((2 − 2t) + t + 0) · (−2) − ((2 − 2t)2 + 02 ) · 1 + 3(2 − 2t) · t · 0} dt = t=0 ∫ t=1 = t=0 ∫ [ 4 (−4t + 10t − 8) dt = − t3 + 5t2 − 8t 3 ]t=1 =− 2 t=0 13 , 3 {(x + y + z) dx − (x + z ) dy + 3xy dz} 2 C2 ∫ t=1 {(0 + (1 − t) + 3t) · 0 − (02 + (3t)2 ) · (−1) + 3 · 0 · (1 − t) · 3} dt = t=0 t=1 ∫ = ∫ 2 t=0 [ ]t=1 (9t2 ) dt = 3t3 t=0 = 3, {(x + y + z) dx − (x2 + z 2 ) dy + 3xy dz} C3 ∫ t=1 {(2t + 0 + (3 − 3t)) · 2 − ((2t)2 + (3 − 3t)2 ) · 0 + 3 · 2t · 0 · (−3)} dt = t=0 ∫ t=1 = t=0 [ ]t=1 2(3 − t) dt = −t2 + 6t t=0 = 5 3 と計算出来るので、結局 ∫ {(x + y + z) dx − (x2 + z 2 ) dy + 3xy dz} C = 3 ∫ ∑ i=1 =− {(x + y + z) dx − (x2 + z 2 ) dy + 3xy dz} Ci 13 11 +3+5= . 3 3 (2) S の境界は S と平面 z = 0 との交線である円 C : x2 + y 2 = 1, z = 0 であり、C に誘導され る向きは z 軸の正方向からみて反時計回りの向きである (各自確認せよ)。したがって C のパ ラメータ表示として cos t r(t) = sin t , 但し 0 ≤ t ≤ 2π 0 − sin t に注意すると、ストークスの定理より がとれる。r ′ (t) = cos t 0 ∫ ∫ rotA · dS = A · dr ∫ t=2π sin t − sin t 0 · cos t dt = t=0 cos t 0 ∫ t=2π ∫ t=2π 1 − cos 2t 2 =− sin t dt = − dt (半角の公式) 2 t=0 t=0 [ ]t=2π 1 1 = −π. = − π − sin 2t 2 4 t=0 −1 【別解】 先ずは rot A = −1 であることに注意しよう。回転放物面のパラメータ表示を −1 S C u cos θ r(u, θ) = u sin θ 1 − u2 (0 ≤ u ≤ 1, 0 ≤ θ ≤ 2π) ととっておこう*1 。このとき cos θ r u (u, θ) = sin θ , −2u *1 −u sin θ r θ (u, θ) = u cos θ , 0 2 2u cos θ r u (u, θ) × r θ (u, θ) = 2u2 sin θ u 回転面のパラメータ表示の作り方については、國分さんの教科書の 例 2.14 を参照して下さい。 4 となる。回転放物面 S は z 成分が常に正となる様な単位法ベクトル場 n で向き付けられてい ru × rθ であることが従う。したがって、 |r u × r θ | 2 ∫ ∫ u=1 ∫ θ=2π −1 2u cos θ −1 · 2u2 sin θ dθdu rot A · dS = S u=0 θ=0 −1 u ) ∫ u=1 (∫ θ=2π = (−2u2 cos θ − 2u2 sin θ − u) dθ du たので、特に n = ∫ u=0 u=1 = ∫ u=0 u=1 = u=0 θ=0 [ ]θ=2π −2u2 sin θ + 2u2 cos θ − uθ θ=0 du [ 1 (−2πu) du = −2π u2 2 ]u=1 = −π. u=0 【解説】 ストークスの定理の計算問題。一応標準的なものを取り揃えました。ストークスの定理と いうと、よく「閉曲線の線積分を曲面の面積分に変換して計算出来る」という解説を目にしますが、 既に面積分の練習問題を難題も解かれている方ならご承知の通り、面積分は非常に手間がかかります し、しかも回転ベクトル場の計算自体も一般的には非常に面倒なものですので、「線積分を面積分に 置き換えたから計算量が格段に減る」、ということはじつはあまり多くはありません (その辺りはグ リーンの定理やガウスの発散定理とは大分状況が違うところです)。現に (1) の計算は試しに境界上 の線積分も計算して【別解】としてありますが、回転ベクトル場の計算や面積分の準備の分を考える と面積分も線積分も手間としてはそう変わらないことが伺えるのではないかと思います。 ストークスの定理は「曲面上の回転ベクトル場の計算が境界上での線積分で計算出来る」と い う 今 ま で と は 逆 の 方 向 で も 用 い る こ と が 出 来 ま す 。今 回 の (2) は ま さ に そ う い っ た 例 で 、 回転放物面のパラメータ表示を知らなくとも 境界が xy 平面上の単位円であることさえ分かれば、単 位円周上での線積分は簡単ですから、結果として題意の面積分を線積分を用いて容易に計算すること が出来てしまうのです。そういった面でも、ストークスの定理はグリーンの定理やガウスの定理とは ひと味違った意味で有用な定理、と言うことが出来るかもしれません。 (1) に関しては、やはりパラメータ u, v の動く範囲を 0 ≤ u ≤ 1, 1 ≤ v ≤ 1 にしてしまっている 人が多数でした。特に曲面のパラメータ表示の場合には、パラメータの動く範囲に注意する様にしま しょう。 (2) はレポート提出者の中には正解はいませんでした。多くの人が面積分をそのまま計算しようと 試みたようですが (むしろストークスの定理を用いた答案はありませんでした)、その際に回転放物面 のパラメータ表示 (特にパラメータの動く範囲) を間違えていた人が多数でした。良く復習しておき ましょう。 問題 12-2. ((1) の問題文が違っていました。大変申し訳ございませんでした) 5 (1) 定義通り計算すると gx rot(f grad g) = rot f gy gz ∂ ∂x f gx ∂ = ∂y × f gy f gz ∂ ∂z ∂ ∂ ∂y (f gz ) − ∂z (f gy ) ∂ ∂ = ∂z (f gx ) − ∂x (f gz ) ∂ ∂ (f gy ) − (f gx ) ∂x ∂y (fy gz + f gzy ) − (fz gy + f gyz ) = (fz gx + f gxz ) − (fx gz + f gzx ) (fx gy + f gyx ) − (fy gx + f gxy ) fy gz − fz gy = fz gy − fy gz fx gy − fy gx (積の微分法) となるが、最後のベクトルはまさに (grad f ) × (grad g) の計算結果そのものである*2 。 (2) 閉曲線 C が張る (向き付け可能な) 曲面*3 S とベクトル場 f grad g + ggrad f に対してストー クスの定理を用いると、 ∫ C (f grad g + ggrad f ) · dr ∫ = rot (f grad g + ggrad f ) · dS ∫S = {(grad f ) × (grad g) + (grad g) × (grad f )} · dS ((1) より) S =0 となる*4 。 【解説】 ストークスの定理を用いた積分公式の導出問題。世に数ある積分定理は基本的にはガウス の発散定理やストークスの定理から直接導き出されるものが多いです。今回の問題で出題したものも まさにそのタイプのもので、とにかく 「回転ベクトル場が 0 となるようなベクトル場 (渦なしのベ クトル場)」さえ構成してしまえばストークスの定理から簡単に閉曲線上の線積分が 0 となることが *2 ここでは 2 階偏導関数が連続な場合 gxy = gyx 等が成立することを用いました。 実際に、空間内の閉曲線に対して、それを境界とする様な 向き付け可能な 曲面が存在することが知られています (ザ イフェルト曲面 Seifert surface と呼ばれています)。 *4 最後の等式は a × b = −b × a を用いました *3 6 従います。今回は回転ベクトル場がそれぞれの勾配ベクトル場の外積となる様なベクトル場 f grad g と ggrad f を足しあわせることに拠って、外積の 反対称性 a × b = −b × a を用いて巧く rot (f grad g + ggrad f ) = 0 となるように工夫しています。こうなってしまえば、後は 「どうやって回転ベクトル場が 0 となる様なベクトル場を構成するか」のみが問題となり、回転ベク トル場が 0 となるベクトル場さえ作れてしまえばそのベクトル場に関しては「閉曲線での線積分は 常に 0」という公式が作れてしまうこととなります。ストークスの定理は、むしろ今回の問題の様に 回転ベクトル場が 0 となるベクトル場 に対して非常に応用がある定理であると言っても過言ではないでしょう。 何はともあれこの手の問題は、指示された通りに計算を行って積分定理を用いれば必ず答えに辿り 着くことが出来ますので、まだ手を付けていない人も是非チャレンジしてみて下さい!!! 7
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