第二回 中心力と角運動量保存則 物理学講義 I 2013 年 4 月 23 日 ✓ 前回のポイント ✏ • ある点の位置ベクトルとそこに働く力のベクトル積を力のモーメントといい、物体を回 転させる能力を現す。 ✒ 1 • 運動量のモーメントを角運動量といい、回転運動の勢いを現す。 ✑ 回転運動の法則 角運動量 L の成分、 Lx = m(yvz − zvy ) (1) Ly = m(zvx − xvz ) (2) Lz = m(xvy − yvx ) (3) のうち、Lz を時間微分してみよう。 dLz dt d (xvy − yvx ) dt dx dvy dy dvx = m( vy + x − vx − y ) dt dt dt dt = m(vx vy + xay − vy vx − yax ) = m (4) (5) (6) = x(may ) − y(max ) (7) = xFy − yFx = Nz (8) このように、Lz の時間微分は力のモーメントの z 成分 Nz に等しいことがわかる。同様にして、 Lx 、Ly の時間微分もそれぞれ力のモーメントの x、y 成分に等しいことが示される。これらをま とめて書くと Lx Nx d (9) Ly = Ny dt Lz Nz ⇒ dL dt = N (10) となる。このように、力のモーメントは角運動量の時間変化に等しいことがわかる。これを回転運 動の法則という。 1 ✓ ✏ 回転運動の法則 dL =N dt ✒ (11) ✑ 例題:単振り子の運動方程式を回転運動の法則から求めよ。 O θ l S F -mg 図 1: 点 O まわりにふれる振り子。 図 1 のおもり(質量 m)に働く力は、おもりに働く重力 −mg と糸の張力 S の合力 F であり、そ の大きさは F = −mg sin θ である。よってこの力の点 O まわりのモーメントは、N = −mgl sin θ となる。 おもりの角運動量 L は、角速度 ω(= dθ/dt) を用いて、 L = mlv = ml2 ω = ml2 dθ dt (12) となる。よって回転運動の法則から、 dL dt d2 θ ∴ 2 dt d2 θ = −mgl sin θ dt2 g g = − sin θ − θ l l = N ⇒ ml2 (13) (14) となる。ここで θ は微小な角度として近似を行った。 2 中心力 ある物体に作用する力の作用線が、常に一定の点 O と物体を結ぶ直線上にあり、その強さが点 O と物体の距離 r だけで決まるとき、この力のことを中心力という。例えば、距離 r を隔てて空間 におかれた電荷 qA と qB の間には 1 qA qB ˆr (15) f= 4π 0 r2 という力(クーロン力)が働く。ここで 0 は真空の誘電率、ˆ r は電荷 qA から qB に向かう単位ベ 2 qA r qB 図 2: クーロン力は中心力である。 クトルである。式(15)の形を見てもわかるように、クーロン力は電荷 qA と qB を結ぶ直線上に 働き、さらにその大きさは電荷の大きさが決まっているならば距離 r のみに依存して決まる。従っ てクーロン力は中心力と言える。他にも万有引力や図 1 のおもりの糸の張力も中心力である。この 中心力の性質について調べてみよう。 3 角運動量保存則 回転の中心 O の周りに等速円運動している質点を考えよう。このとき質点には中心力 S が働い ており、この中心力 S の力のモーメントは 0 になることがすぐにわかる。なぜなら、中心力 S の 力の作用線は回転の中心 O と質点を通るため、回転の中心 O から力の作用線までの距離が 0 にな るからである。よって、式(11)から dL =N dt ∴ L = const. (16) (17) となる。つまり、物体が中心力の作用を受けて運動する場合には、力の中心の周りの角運動量は一 定と言える。これを角運動量保存則という。これは中心力の持つ重要な性質の一つである。 L O p=mv r m 図 3: 中心力を受けて運動する質点。 次に、中心力の作用のみで運動する質点は、力の中心を含む平面上で運動することを明らかにし よう。図 3 のように点 O まわりを中心力のみを受けて回転する質点(質量 m)を考える。角運動 量の方向は、速度を v とすると、運動量 p = mv と位置 r で張られる平行四辺形に垂直な方向を 向いている。回転運動の法則より、 dL =N (18) dt となり、N = 0 であるから、dL/dt = 0 となる。すなわち角運動量の大きさも方向も変化しないと いうことになり、質点は角運動量 L に垂直な平面上を運動することになる。 3 ✓ 練習問題 ✏ 1. 力 F(r) = −kr の作用を受ける物体(質量 m)の運動を考える。次のことを示せ。 (a) この物体の軌道が楕円になること。 (b) 角運動量が一定であること。 2. 速度 v = (5.0m/s)i − (6.0m/s)k で運動している 3.0kg の粒子が x = 3.0m、y = 8.0m の 位置にある。i, k はそれぞれ x, y 方向の単位ベクトルである。このとき、(a) この粒子の 原点まわりの角運動量はいくらか。次にこの粒子を −(7.0N )i の力で引っ張るとき、(b) この粒子に働く原点まわりのトルクの大きさと方向を求めよ。また、(c) この粒子の角 運動量の時間変化率はいくらになるか。 ✒ 4 ✑ 面積速度 P’ v∆t d P S F O 図 4: 中心力を受けて運動する質点の面積速度は一定。 図 4 のように、質点が点 O からの中心力のみを受けて運動している状況を考える。とある時刻 での質点の位置と速度をそれぞれ P 、v とし、時間 ∆t 後に質点の位置は P の位置に移動すると する。線分 OP が単位時間の間に掃過する面積のことを面積速度という。この面積速度が角運動量 とどのように関係付けられるかを調べよう。 図 4 において三角形 OPP の面積を S とすれば、 S = v∆td/2 (19) となる。d は点 O から速度ベクトルを延長した直線までの距離である。質点の角運動量は、質点の 質量を m として、 L = mvd L ∴ vd = m (20) (21) となるので、これを式(19)に代入すれば S= L∆t 2m (22) となる。ここで、質点に中心力のみが働く場合、角運動量 L は一定値となるので、単位時間に線 分 OP が掃過する面積は L/2m で一定ということになる。 4 万有引力も中心力の一種であるが、後に紹介するように惑星は太陽を焦点とする楕円軌道上を運 動している。惑星が一番太陽に近いときには惑星の速度は速くなり、一番遠い時には遅くなる。こ れは面積速度が一定であるためである。 ✓ この回のまとめ ✏ • 角運動量の時間微分は力のモーメントに等しく、これを回転運動の法則という。 • 中心力が働く質点の角運動量は時間変化せず、質点は角運動量ベクトルを法線とする平 面上を運動する。 ✒ • 中心力が働く質点の面積速度は一定である。 5 ✑
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