電磁気学C

電磁気学C
Electromagnetics C
7/3講義分
電気双極子による電磁波の放射
山田 博仁
定期試験の日程について
アンケート途中結果
7/24(木)
希望
避けて欲しい
10
0
どちらでもOK
4
8/7(木)
5
8/1~8/5
1
1
遅延ポテンシャル
空間領域 V の中の電荷分布 re(x’, t’)または電流分布 ie(x’, t’)が、時間的に激しく
変動すると、周りの空間に電磁波が放射される。
x  (x, t)
その時、領域 V から離れた点 x での遅延ポテンシャルは、
A(x, t)
re ( x', t' )
1
3
 ( x, t ) 
d
x'
 (1)

V
4 0
x  x'
r
R = | x - x’|
0
i
(
x'
,
t'
)
3
e
A( x, t ) 
d
x'
 (2)

V
4
x  x'
re(x’, t’)
ie(x’, t’)
x  x'
O x’
 (3)
ここで、 t'  t 
V
c
で表された。
ただし、電荷や電流分布が存在しない場所は真空としている。
そこで、(1)式および(2)式の右辺の積分を実行すれば、電磁ポテンシャルが求まる。
しかし、多くの場合、この積分を解析的に実行することはできない。
そこで、静電場の時と同様に、電荷分布や電流分布が、原点 O の付近のごく限ら
⇒ 電気双極子近似
れた領域にのみ存在すると仮定して求めることにする。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
図に示す様に、電荷分布の存在する領域が、原点 O を中心とする半径 a の球内
に限られているとし、観測点 x の原点 O からの距離 r = |x| が r≫a の条件を満た
していると考えて、(1)式の被積分関数を x’/r のベキに展開する。
 (x) x
このとき、
 x  x' 
R  x  x'  r 2  2 x  x ' x '2  r 1  2 
 (4)
r


従って、
r
R = | x - x’|
1
1
1  x  x' 

 1  2 
 (5)
と近似できる。
R x  x' r 
r 
a
静電場の場合と違って、距離 Rは電荷分布 re(x’, t’)の中の
O x’
t’ にも含まれるので、これを展開して、

R
1
x  x'  
x  x' 

  r e  x' , t   r 
   r e  x' , t0 

c
c
r
cr





r ( x' , t0 ) x  x '
 r e ( x' , t0 )  e


t0
cr
r
ただしここで、
t0  t 
 (7 )
c


r e  x' , t 
 (6)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
(7)式の t0 は、原点 O から発信された電磁波が時刻 t に観測点 x に到達するた
めに、原点 O を出発しなければならない時刻を表している。
(5)式および(6)式を(1)式に代入し、a/r に関して1次までを考慮し、それ以上を無視
すると、
r e ( x', t' )
1
3
 ( x, t ) 
d
x'
4 0 V
x  x'
 1  x  x'  

r e ( x' , t0 ) x  x '

d x'  1  2   r e ( x' , t0 ) 

  
4 0 V
r
r

t
cr

0

 
1 1
1 x
3
3

r
(
x'
,
t
)
d
x'


x
'
r
(
x'
,
t
)
d
x'
e
0
e
0
3
4 0 r V
4 0 r V
1

3
r e ( x' , t0 ) 3
x

x
'
d x'  
2 V
4 0 cr
t0
と書かれる。
1
 (8)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
ここで、右辺第1項の
Qe   r e ( x' , t )d 3 x'
 (9)
V
は、領域 V 内に存在する全電荷量を表しており、伝導電流が V 内のみに存在する
ことから、V の内外への電流の出入が無いため、時間 t に依存しない一定値となる。
次に、右辺第2項の
p(t )   x'r e ( x' , t )d 3 x'
 (10)
V
は、広義の電気双極子モーメントである。
大田さんの教科書 p.21、式(2.38)参照
また、右辺第3項では

V
である。
x'
r e ( x' , t ) 3
d
d x' 
t
dt

V
x'r e ( x' , t )d 3 x' 
dp(t )
dt
 (11)
(9), (10), (11)式を用いると(8)式は、
 ( x, t ) 
と表される。
1 Qe
1 x  p(t0 )
1 x  p (t0 )



3
2
4 0 r 4 0
r
4 0 cr
ここで、 p (t )  dp(t ) dt である。
 (12)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
このように近似されたスカラー・ポテンシャルを、電気双極子近似におけるスカラー・
ポテンシャルという。
次に、(2)式のベクトル・ポテンシャルは R を r に置き換えることにより、
 1
 p (t0 )
A( x, t )  0  ie ( x' , t0 ) d 3 x'  0
 (13)
V
4 r
4 r
と近似される。
⇒
この式の導出は、各自でやってみて下さい。
このような電磁ポテンシャルに対する近似式(12), (13)を用いて、これを時間変数
t および空間変数 x で微分することにより、電磁場 E(x, t)および B(x, t)が求まる。
(12)式の右辺第1項は、点電荷 Qeのつくる静電場を与えるだけであるから、以下で
はこの項からの寄与は考慮する必要はない。まず第2項を x について微分すると、
 x  p(t0 ) p(t0 ) x   1 

 x



p
(
t
)

x

p
(
t
)



0
0  3
x r 3
r 3 x  x r 3 

x

 r
p (t ) 3x
 x  x  p (t0 )
 x 3 0  5 p(t0 )  x    
 (14)
3
r
r
 cr  r
となる。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
従って(14)式から、
 grad
である。
x  p(t0 )
p(t0 )
x ( x  p(t0 )) x ( x  p (t0 ))



3

3
3
5
r
r
r
cr 4
 (15)
次に(12)式の右辺第3項を x について微分すると、
 x  p (t0 ) p (t0 ) x 1
 1 x 




p
(
t
)

x
 2   2  p (t0 )
0
2
2
x cr
cr
x c
x  r  cr x
p x (t0 ) 2 x
x x  p(t0 )



p(t0 )  x 
 (16)
cr 2
c r4
cr cr 2
となるから、
 grad
x  p (t0 )
p (t0 )
x ( x  p (t0 )) x ( x  p(t0 ))



2

cr 2
cr 2
cr 4
c2r 3
 (17 )
また(13)式より、

 1
 1 
 1
A( x, t )
(t  r / c)
 0
p (t0 )   0
p (t0 )
  0 p(t0 )
t
4 r t
4 r t0
t
4 r
 (18)
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
そこで(15), (17), (18)式を以下の式に代入すると 電場 E(x, t)は、
A( x, t )
 grad ( x, t )
t
1  p(t0 ) 3 x ( x  p(t0 )) p (t0 ) 3 x ( x  p (t0 )) p(t0 ) x ( x  p(t0 )) 

 3 


 2 
5
2
4


4 0  r
r
cr
cr
cr
c 2r 3

E ( x, t )  
 (19)
で与えられる。
一方、磁場 B(x, t)は次のように計算される。
B( x, t )  rot A( x, t ) 
0
4
 x  p (t0 ) x  p(t0 ) 

3

r
cr 2 

⇒
 (20)
この式の導出も、各自でやってみて下さい。
電磁ポテンシャルの電気双極子近似
電気双極子近似における電磁場(19), (20)式とを、 p, p および p に比例する部分
に分割し、それぞれの部分の電磁場を E(0)と B(0), E(1)と B(1)および E(2)と B(2)で表
すと、それらは次式のように書き表される。
E ( 0 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) 3 x( x  p(t0 )) 
 3 


4 0  r
r5

B(0) ( x, t )  0
 (22)
1  p (t0 ) 3 x( x  p (t0 )) 



4 0  cr 2
cr 4

 p (t0 )  x
B (1) ( x, t )  0
4
r3
E (1) ( x, t ) 
E ( 2 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) x( x  p(t0 )) 
 2 


4 0  c r
c2r 3

B ( 2) ( x, t )  
 (21)
0 x  p(t0 )
4
cr 2
 (23)
 (24)
 (25)
 (26)
電磁場の物理的意味
ここで、これらの電磁場の物理的意味を考える。
電場 E(0)(x, t)は、電気双極子 p(t0)が観測点 x につくる電場
(何故なら、教科書 p.23 における電気双極子の作る静電場の式(2.45)から
容易に類推可能)
電場 E(1)(x, t)は、電荷分布の移動によってつくられる電気双極子にもとづく電場
磁場 B(1)(x, t)は

B ( x, t )  0
4
(1)

V
ie ( x' , t0 )d 3 x'  x
r3
 (27)
と書き直されるので、定常電流に対するBio-Savart の法則の観測点を遠方に
おいたときの近似式に他ならない。
電場 E(2)(x, t) および磁場 B(2)(x, t)が、遠方まで伝搬可能な電磁波
電磁場の物理的意味
今、電気双極子 p(t)が周期 T で振動しているとすると、それに伴って発生する電
磁波の波長は cT で与えられる。この時、(21)~(26)式の電磁場はだいたい次の
程度の大きさをもつことが分かる。
E(0) 
1
p
3
r
静電磁場
E (1)  cB (1) 
1 p
r 2 cT
誘導電磁場
E ( 2)  cB( 2) 
1 p
r (cT ) 2
放射電磁場
今、r≫cT の条件を満たしているとき、つまり、原点 O から観測点までの距離 r が
電磁波の波長 cT に比較して非常に大きいときを考える。このような領域を波動
域(wave zone)といい、この領域でも残るのは放射電磁場だけであることが分かる。
放射電磁場
波動域における電磁場の性質を調べる。波動域における電磁場は、
E ( 2 ) ( x, t ) 
1  p(t0 ) x( x  p(t0 )) 
 2 


4 0  c r
c2r 3

 x  p(t0 )
B ( 2) ( x, t )   0
4
cr 2
 (25)
E(2)(x,
 (26)
e
t)
x
B(2)(x, t)
(25)式を書き直すと、
p(t0 ) 
x ( x  p(t0 ))
2
( 2)

4

c
r
E
( x, t )
0
2
r
 (25' )
(25’)式を(26)式に代入し、 x×x = 0、また 00 = c-2 であ
ることを考慮すると、
1
B ( 2) ( x, t )  e  E ( 2) ( x, t )
c
O q
p(t0 )
 (28)
ここで、e = x/r であり、これは図に示すように、原点 O から観測点 x に向く
単位ベクトルを表している。従って、観測点 x における磁場 B(2)(x, t) は電
場E(2)(x, t) および e に直交していることが分かる。
放射電磁場
次に、p227 付録Aのベクトル公式 A  ( B  C )  B( A  C )  C ( A  B) を用いると、
x  ( x  p)  x( x  p)  r 2 p
 (29)
であるから、(25), (26)式より、
E ( 2 ) ( x, t )  cB ( 2) ( x, t ) 
x
 cB ( 2) ( x, t )  e
r
 (30)
が成立する。つまり、E(2)(x, t) は B(2)(x, t) および e と直交している。即ち、
E(2)(x, t), B(2)(x, t) および e は前のスライドの図にあるように、互いに直交して
おり、それらの関係は自由空間を伝わる電磁波における関係と同じである。
従って、 E(2)(x, t), と B(2)(x, t) によって作られるポインティング・ベクトル S(x, t)=
0-1E(2)(x, t) × B(2)(x, t) の方向は、e の方向に一致しているから、 e の方向に
電磁波は進行する。即ち、この電磁波は横波になっている。
また、これら電場と磁場の大きさの間には、E(2)(x, t) = cB(2)(x, t) の関係があり、
(25), (26)式で表される放射電磁場が自由空間を伝わる電磁波と全く同じ性質
を有することが分かる。