商学研究入門 第15回 「研究のフロンティアからみた日本経済」 2014年1月14日 財政赤字のマクロ経済学 畑農鋭矢(はたの・としや) 財政破綻とは? 政府債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010. 財政危機説に対する異論・反論 1. 粗債務で見てはいけない。純債務。 2. 経済成長で解消できる。 3. 国債の金利は安定している。 政府資産(粗債務-純債務) /GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府純債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010. ドーマー条件とドーマー命題 ドーマー条件 • プライマリー財政赤字の対GDP比 b (一定) • 国債の金利 i ⇒利払い iBt 財政赤字(=債務の増加分) b Yt+iBt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) • bt(=Bt/Yt)の動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 (bYt+iBt)/Bt=b/bt+i • b/bt+i > r ⇒発散 b/bt+i ≦ r ⇒収束(or縮小) の政 増府 加債 率務 残 高 b/bt+i 経済成長率r >利子率iのケース H b/bt+i =r ⇒収束 r i L プライマリー収支が黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt の政 増府 加債 率務 残 高 b/bt+i 経済成長率r <利子率iのケース H b/bt+i >r ⇒発散 i r プライマリー収支がわずかに黒字⇒発散 プライマリー収支が大きく黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt ドーマー命題 • 前提 財政赤字の対GDP比 a(一定) GDPの成長率 r(一定) • t年の政府債務残高 Bt t年のGDP Yt 財政赤字(=債務の増加分) aYt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) • btの動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 aYt/Bt=a/bt • a/bt > r ⇒発散 a/bt ≦ r ⇒収束(or縮小) の政 増府 加債 率務 残 高 a/bt a/bt = r ⇒収束 H r L O 政府債務残高の対GDP比 bt 2つのドーマー定理 • 2つのドーマー定理 (DC)経済成長率が利子率を上回れば財政は 破綻しない (DT)国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合 であれば、財政は破綻しない。 • DCはドーマー条件とも呼ばれる • DTはDomar (1944)が示した ドーマー条件のルーツ • ルーツ論文 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょうせい)』第 34巻11号:4-18. 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」,荒憲治郎 ほか編『戦後経済政策論の争点』第13章,207-215. • 派生した論文 野口悠紀雄(1980b)「赤字財政の意味を考える」『税( ぎょうせい)』第35巻2号:4-16ページ. 望月正光(1981)「ドーマー公債負担論の再検討―公 債累積と財政破綻―」『経済と経済学(東京都立大学) 』第46号:143-157ページ. 誰がドーマー条件を広めたか • 修正ドーマーモデル ――(1984)「公債残高累増と我が国経済社 会(財政制度審議会)」『ファイナンス』(財務 省広報誌)19巻11号:31-37. • ドーマー定理(DT)の成立要件として利子率と 成長率の大小関係を指摘 =ドーマー条件(DC) • ドーマー条件の育ての親は大蔵省! 財政赤字の負担 国債を発行しない場合当初の所得は110 時点 家計A 家計B 政府 1 2 3 所得 110 0 - 税 10 0 - 可処分所得 100 0 - 消費 50 50 - 貯蓄 50 -50 - 所得 - 110 0 税 - 10 0 可処分所得 - 100 0 消費 - 50 50 貯蓄 - 50 -50 支出 10 10 10 税収 10 10 10 国債(赤字) 0 0 0 中立命題の考え方 時点 家計A 家計B 政府 1 2 3 所得 110 0 - 税 0 10 - 可処分所得 110 -10 - 消費 50 50 - 貯蓄 60 -60 - 所得 - 110 0 税 - 10 0 可処分所得 - 100 0 消費 - 50 50 貯蓄 - 50 -50 支出 10 10 10 税収 0 20 10 国債(赤字) 10 -10 0 世代間移転 時点 家計A 家計B 政府 1 2 3 所得 110 0 - 税 0 0 - 可処分所得 110 0 - 消費 55 55 - 貯蓄 55 -55 - 所得 - 110 0 税 - 20 0 可処分所得 - 90 0 消費 - 45 45 貯蓄 - 45 -45 支出 10 10 10 税収 0 20 10 国債(赤字) 10 -10 0 リカード=バローの中立命題 家計A 家計B 政府 時点1 時点2 時点3 所得 110 0 - 税 0 0 - 可処分所得 110 0 - 消費 50 50 - 貯蓄 60 -50 - 遺産 0 - 相続 - 10 10 所得 - 110 0 税 - 20 0 可処分所得 - 100 0 消費 - 50 50 貯蓄 - 50 -50 支出 10 10 10 税収 0 20 10 国債(赤字) 10 -10 0 0 中立命題と遺産動機 • 利他的遺産動機 中立命題成立の必要条件 • 戦略的遺産動機 介護などとの交換動機 • 偶発的(意図せざる)遺産 不確実性に備えた貯蓄が死亡によって 残存してしまうケース 中立命題の実証分析 • 中立命題の基本構造 現在 Yt-Tt=Ct+St 将来 Yt+1-Tt+1=Ct+1+St+1 • 中立命題の成否 アプローチ 伝統的 消費関数 基礎研究 Kormendi (1983) 中 立 命 題 の 成 否 異時点間 世代重複モデル 流動性制約 最適化モデル Blanchard (1985) Hayashi (1982) Aschauer (1985) ○ 本間他(1987), 井堀(1986),本 Ihori (1989), Ihori Hayashi (1982), 柴田・日高(1992) 井堀(1987) 間他(1986),長 et al. (2001) , 柴 峰(1987) 田・日高(1992) × 落合(1982), 本間(1996) 畑農(2009) 竹中・小川(1987),Jappelli and Pagano (1989) ,Campbell and Mankiw (1989, 1991), 畑農(2009) リカードの中立命題とバローの中立命題 • 誤った解説 • リカードの中立命題 世代交代のない場合 • バローの中立命題 世代交代のある場合 • しかし、公務員試験での出題あり
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