2011年1 月11日 財務省財務総合政策研究所「特別研究官セミナー」

商学研究入門 第15回
「研究のフロンティアからみた日本経済」
2014年1月17日
財政赤字のマクロ経済学
畑農鋭矢(はたの・としや)
財政は破綻するのか?
政府債務/GDP
出所:OECD Economic Outlook 2010.
財政危機説に対する異論・反論
1. 粗債務で見てはいけない。純債務。
2. 経済成長で解消できる。
3. 国債の金利は安定している。
政府資産/GDP
出所:OECD Economic Outlook 2010.
政府純債務/GDP
出所:OECD Economic Outlook 2010.
ドーマー定理(命題)
~財政は破綻しない?
ドーマー定理とは?
• 証券投資用語辞典
ドーマーの定理とは
• (ドーマー定理①)
1940年代にドーマー教授によって提唱された。
それによると、経済成長率が利子率を上回れ
ば財政は破綻しない。
ドーマー定理の異なる説明
• 橋本徹ほか(2002)『基本財政学[第4版]』
毎年の国債発行がGDPの一定割合にとどまる
ならば、国債残高の対GDP比率は一定の値に
収束し、財政破綻は生じない。
(第7章、159ページ)
• 林宜嗣(2005)『基礎コース 財政学 第2版』
公債発行額の伸びがGDPの伸びと同じである
なら、国債残高の対GDP比率や利払費のシェア
は一定の値に収束し、財政破綻は生じない。
(第3章、53ページ)。
ドーマー教授の説
• Domar, Evsey D., (1944) “The Burden of the
Debt and the National Income,” American
Economic Review, 34(4), pp.798-827.
(E.D.ドーマー[宇野健吾訳](1959)『経済成
長の理論』東洋経済新報社.)
• (ドーマー定理②)
国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合であ
れば、国債残高の対GDP比は一定の値に収
束し、財政破綻は生じない。
二つのドーマー定理
• ドーマー定理① ⇒ドーマー条件
(プライマリーバランスの赤字がGDPの一定
割合のとき)、経済成長率が利子率を上回れ
ば財政は破綻しない。
• ドーマー定理②
国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合であ
れば、国債残高の対GDP比は一定の値に収
束し、財政破綻は生じない。
ドーマー条件のルーツ探索1
• ドーマー条件
海外文献に”Domar Condition”は存在しない
• 文献検索すると・・・
i. 望月正光(1981)「ドーマー公債負担論の再
検討―公債累積と財政破綻―」『経済と経済
学(東京都立大学)』第46号:143-157ページ.
ii. 米原淳七郎(1981)「財政赤字と公債負担―
ドーマー理論再考―」『広島大学経済論叢』
第4巻3号:105-118ページ.
ドーマー条件のルーツ探索2
• 望月(1981)から見つかる文献
i. 米原淳七郎(1977)『地方財政学』有斐閣.
ii. 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」
,荒憲治郎・伊藤善市・倉林義正・佐藤隆三
・宮沢健一編『戦後経済政策論の争点』第
13章:207-215ページ.
iii. 野口悠紀雄(1980a)『財政危機の構造』東
洋経済新報社.
ドーマー条件のルーツ探索3
• 米原(1981)から見つかる文献
i. 野口悠紀雄(1980b)「赤字財政の意味を考
える」『税(ぎょうせい)』第35巻2号:4-16ペー
ジ.
• 野口(1980b)から見つかる文献
i. 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょう
せい)』第34巻11号:4-18ページ.
ドーマー条件のルーツ
• 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょう
せい)』第34巻11号:4-18ページ.
• 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」,
荒憲治郎・伊藤善市・倉林義正・佐藤隆三・
宮沢健一編『戦後経済政策論の争点』第13
章,207-215ページ.
• 結論
「ドーマー条件」の呼称は「米原・荒 条件」に
改めるべき
誰がドーマー条件を広めたか
• これまで挙げた文献はドーマー条件の内容を
記しているが、「ドーマー条件」の呼称を用い
ていない!
• 誰が「ドーマー条件」と名付けたのか?
• 最古のテキスト・・・
本間正明編(1990)『ゼミナール現代財政入
門』(初版)日本経済新聞社.
犯人捜し
• 検索すると・・・
i. 岩田一政(1990)「中長期財政政策運営とマ
クロ経済」『フィナンシャル・レビュー』:21-38
ページ(該当箇所は24ページ).
ii. 植田和男(1986)「経常収支と為替レート」『
金融研究』(日本銀行金融研究所)5巻1号:
11-27ページ(該当箇所は19ページ).
iii. 木下信行(1986)「財政危機の現状と要因」
,深尾光洋編『日本の財政・金融問題』第1
章(該当箇所は22-24ページ).
大蔵省(財務省)?
• 参議院会議録情報「第101回国会 大蔵委員
会 第20号(1984年6月19日)
「修正ドーマー理論」の記述
• 修正ドーマーモデル
――(1984)「公債残高累増と我が国経済社
会(財政制度審議会)」『ファイナンス』(財務
省広報誌)19巻11号:31-37.
• ドーマー条件の育ての親は大蔵省!
現在ではドーマー条件に否定的
財政赤字の負担~中立命題
国債を発行しない場合当初の所得は110
時点
家計A
家計B
政府
1
2
3
所得
110
0
-
税
10
0
-
可処分所得
100
0
-
消費
50
50
-
貯蓄
50
-50
-
所得
-
110
0
税
-
10
0
可処分所得
-
100
0
消費
-
50
50
貯蓄
-
50
-50
支出
10
10
10
税収
10
10
10
国債(赤字)
0
0
0
中立命題の考え方
時点
家計A
家計B
政府
1
2
3
所得
110
0
-
税
0
10
-
可処分所得
110
-10
-
消費
50
50
-
貯蓄
60
-60
-
所得
-
110
0
税
-
10
0
可処分所得
-
100
0
消費
-
50
50
貯蓄
-
50
-50
支出
10
10
10
税収
0
20
10
国債(赤字)
10
-10
0
世代間移転
時点
家計A
家計B
政府
1
2
3
所得
110
0
-
税
0
0
-
可処分所得
110
0
-
消費
55
55
-
貯蓄
55
-55
-
所得
-
110
0
税
-
20
0
可処分所得
-
90
0
消費
-
45
45
貯蓄
-
45
-45
支出
10
10
10
税収
0
20
10
国債(赤字)
10
-10
0
リカード=バローの中立命題
家計A
家計B
政府
時点1
時点2
時点3
所得
110
0
-
税
0
0
-
可処分所得
110
0
-
消費
50
50
-
貯蓄
60
-50
-
遺産
0
-
相続
-
10
10
所得
-
110
0
税
-
20
0
可処分所得
-
100
0
消費
-
50
50
貯蓄
-
50
-50
支出
10
10
10
税収
0
20
10
国債(赤字)
10
-10
0
0
中立命題と遺産動機
• 利他的遺産動機
中立命題成立の必要条件
• 戦略的遺産動機
介護などとの交換動機
• 偶発的(意図せざる)遺産
不確実性に備えた貯蓄が死亡によって
残存してしまうケース
中立命題の実証分析
• 中立命題の基本構造
現在 Yt-Tt=Ct+St
将来 Yt+1-Tt+1=Ct+1+St+1
• 中立命題の成否
アプローチ 伝統的
消費関数
基礎研究 Kormendi
(1983)
中
立
命
題
の
成
否
異時点間
世代重複モデル 流動性制約
最適化モデル
Blanchard (1985) Hayashi (1982)
Aschauer
(1985)
○
本間他(1987), 井堀(1986),本 Ihori (1989), Ihori Hayashi (1982), 柴田・日高(1992)
井堀(1987)
間他(1986),長 et al. (2001) , 柴
峰(1987)
田・日高(1992)
×
落合(1982),
本間(1996)
畑農(2009)
竹中・小川(1987),Jappelli and
Pagano (1989) ,Campbell and
Mankiw (1989, 1991), 畑農(2009)
リカードの中立命題とバローの中立命題
• リカードとバローの違い
• リカードの中立命題
世代交代のない場合
• バローの中立命題
世代交代のある場合
リカードの中立命題は2つある
• リカードの主著『経済学および課税の原理』
世代交代のないケースの記述
• 「Funding System」(公債制度論)
「金額はいくらでもいいのだが、かりに二万ポンドを所有して
いる人に年額五〇ポンドを永久に支払いつづけることと、一
〇〇〇ポンドの租税を一度に支払うのとは負担としては同額
だと信じさせるのは難しいであろう。彼は、年額五〇ポンドが
子孫によって支払われるのであり彼が支払うのではないであ
ろう、という漠然とした考えをもつのである。しかし、もし彼が
その財産を息子に残し、しかもその財産とともに永久的な租
税をも残すとすれば、彼がこの租税負担付きの二万ポンドを
息子に残すことと、租税負担なしの一万九〇〇〇ポンドを残
すことにどんな違いがあるというのであろう?」(磯村隆文訳
「公債制度論」『リカードウ全集Ⅳ 後期論文集』雄松堂出版
,227-228ページ.)
中立命題に関する誤った理解
• 以下のような理解は誤り
リカードの中立命題=世代交代のない場合
バローの中立命題=世代交代のある場合
• しかし、公務員試験での出題あり