財政収支と持続可能性 財政学(財政学B) 第9回 畑農鋭矢 1 財政収支の見方 • 政府の予算制約 政府支出+利払い=政府収入+国債新規発行 ( 支 出 ) ( 収 入 ) • 財政収支=政府収入-(政府支出+利払い) • 財政赤字=財政収支の赤字 =国債新規発行 • 基礎的財政収支=政府収入-政府支出 (利払いを除いた赤字) プライマリー財政収支とも言う 貯蓄投資バランス • 政府支出の分解 政府支出=政府消費+政府投資 • 政府貯蓄=政府収入-政府消費-利払い • 財政収支 =政府収入-政府消費-政府投資-利払い =政府貯蓄-政府投資 • 財政収支とは貯蓄投資バランスのこと 国債の発行 • 建設国債・四条国債 社会資本整備のための公債発行 • 特例国債・赤字国債 単年度立法 将来世代への負担の先送りを懸念 • 市中消化の原則 日銀(日本銀行)引き受けの禁止 各種統計における「債務残高」 出所:財務省HP「日本の財政を考える」 国債・借入金残高(2011年3月末) 区 分 内国債 普通国債 長期国債(10年以上) 中期国債(2年から5年) 短期国債(1年以下) 財政投融資特別会計国債 長期国債(10年以上) 中期国債(2年から5年) 交付国債 出資・拠出国債 株式会社日本政策投資銀行危機対応業務国債 日本高速道路保有・債務返済機構債券承継国債 借入金 長期(1年超) 短期(1年以下) 政府短期証券 合 計 前 期 末 前年度末に対 (平成22年12月末) する増減(△) 金 額 に対する増減(△) 7,585,690 47,610 380,800 6,363,117 81,559 423,400 4,043,679 50,305 312,134 1,926,315 36,513 154,383 393,123 △5,259 △43,117 1,181,918 △31,792 △40,336 1,007,888 5,145 △14,360 174,030 △17,432 △45,480 3,673 6 △823 16,230 △2,163 △1,441 13,500 7,254 550,058 △502 △14,005 196,916 △3,504 △14,005 353,142 3,002 1,107,847 4,977 47,566 9,243,596 52,084 414,361 出所:財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」 政府債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010. 債務・赤字指標の見方 • ストック(債務)とフロー(財政赤字) 今期のストック =1期前のストック+今期のフロー • 粗債務vs純債務 資産⇒借金と相殺できる? 純債務=粗債務-資産 • 隠れ借金:国鉄の債務問題 • 公的年金給付の将来負担 政府純債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010. 暗黙の債務(1999年度、兆円) 公的部門 一般政府 公的企業 中央 政府 資産総額 地方 政府 社会 保険 基金 公的 金融 機関 公的 非金融 法人企業 2,274.2 891.3 220.9 434.5 235.9 1,382.9 1,214.7 168.2 1,646.9 406.1 113.2 58.9 233.9 1,240.8 1,213.8 27.1 627.2 485.2 107.7 375.5 2.0 142.0 0.9 141.1 425.8 326.7 82.2 243.1 1.4 99.1 0.7 98.4 負債総額 2,421.9 1,101.2 651.4 195.6 254.2 1,320.7 1,184.8 135.9 公債残 498.3 420.6 369.9 50.7 0.0 77.7 27.7 50.1 52.6 46.6 12.6 33.9 0.1 6.0 0.2 5.7 424.4 424.4 155.8 36.8 231.8 - - - -209.9 -430.5 238.9 -18.3 62.2 29.9 32.3 金融資産 非金融資産 有形固定資産 退職金債務 年金債務 正味資産 -147.7 資料:内閣府『経済財政白書』平成13年度版. 政府債務の発散と収束 発散 GDP 債 務 / 収束 時間 ドーマー定理(命題) • 前提 財政赤字の対GDP比 a(一定) GDPの成長率 r(一定) • t年の政府債務残高 Bt t年のGDP Yt 財政赤字(=債務の増加分) aYt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) • btの動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 aYt/Bt=a/bt • a/bt > r ⇒発散 a/bt ≦ r ⇒収束(or縮小) の政 増府 加債 率務 残 高 a/bt a/bt = r ⇒収束 H r L O 政府債務残高の対GDP比 bt ドーマー条件 (拡張されたドーマー命題) • プライマリー財政赤字の対GDP比 b (一定) • 国債の利子率 i ⇒利払い iBt 財政赤字(=債務の増加分) b Yt+iBt 政府債務残高の対GDP比 bt(=Bt/Yt) • bt(=Bt/Yt)の動きは? 分母Yt 増加率 r(一定) 分子Bt 増加率 (bYt+iBt)/Bt=b/bt+i • b/bt+i > r ⇒発散 b/bt+i ≦ r ⇒収束(or縮小) の政 増府 加債 率務 残 高 b/bt+i 経済成長率r >利子率iのケース H b/bt+i =r ⇒収束 r i L プライマリー収支が黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt の政 増府 加債 率務 残 高 b/bt+i 経済成長率r <利子率iのケース H b/bt+i >r ⇒発散 i r プライマリー収支がわずかに黒字⇒発散 プライマリー収支が大きく黒字⇒縮小 O 政府債務残高の対GDP比 bt 経済成長率と利子率 25 GDP成長率 20 国債利回り GDP成長率-国債利回り 15 % 10 5 0 -5 1965 1970 1975 1980 1985 年 1990 1995 2000 2005 日本の財政は危機的か? • 反対意見(危機的でない) ①日本の政府規模は相対的に小さく、国民負担上昇 の余地が依然として大きい(返済能力が高い)。 ②民間の貯蓄残高が莫大で、財政にまわせる余剰 資金が潤沢にある。 ③以上の傍証として国債利回りが上昇していない。 • 賛成意見(危機的である) ①今後の社会保障負担が莫大である。 ②政治的に増税が受け入れられにくい。 ③既得権益により財政赤字が生じやすい。 財政再建をめぐる論争 • 経済成長 ドーマー条件:経済成長率>利子率 経済成長率の引き上げを重視 名目成長率=実質成長率+インフレ率 金融政策によるインフレ進行でもOK? • 増税 経済成長率<利子率 プライマリーバランスの改善を重視 景気への悪影響をどのように考えるか?
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