ホーングレンほか『マネジメント・アカウンティング』

高低点法・ビジュアルフィット法・最小自乗法

高低点法・ビジュアルフィット法・最小自乗法は過去のデータを用いる
・ 判断よりも確かな証拠(過去のデータ)に基づいている。
↓
工学的分析手法より客観的である
・ 1期間のコストと活動より多くの情報を利用
↓
勘定科目分析より客観的である

ただし、これら3つの方法では多くの過去のコストデータが必要となる
ので、勘定科目分析や工学的分析がコストビヘイビア測定の主要な
方法であることにかわりはない
1
問題点と注意事項

製品・サービス・技術・組織はグローバル競争の激化に応じて急速に
変化
・ 問題点
・ 十分な過去のデータを収集するまでに、データが陳腐化
・ 組織の変化→生産工程の変化→製品の変化
・ 注意事項
・ 予測しようとしている将来の環境は、データが得られた過去の
環境と同じままであるかどうか
・ 過去のデータには、分かっていれば無くせたはずの過去の不能
率が隠れていることにも注意
2
例示のための過去データ

高低点法、ビジュアルフィット法、最小二乗回帰法を説明するに当たっ
ては、前述のParkview Medical Centerの施設メンテナンス部門費の、
過去データを利用する
 以下の表は、施設メンテナンス部門費と19x8年度に提供した患者
日数について収集した月次データを示す
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
X)
Y) 患者日数(
施設メンテナンス部門費(
37,000 ㌦
23,000 ㌦
37,000 ㌦
47,000 ㌦
33,000 ㌦
39,000 ㌦
32,000 ㌦
33,000 ㌦
17,000 ㌦
18,000 ㌦
22,000 ㌦
20,000 ㌦
3,700
1,600
4,100
4,900
3,300
4,400
3,500
4,000
1,200
1,300
1,800
1,600
3
高低点法 HIGH-LOW METHDO

過去のコストデータから線形の原価関数を測定する3つの方法のうち
最も簡単
第1ステップ
・ 過去のデータの点をグラフ上にプロット
→ 高低点法では、最高の活動の点と最低の活動の点に着目
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
4
高低点法 (続き)
第2ステップ
・最高の活動の点と最低の活動の点を直線で結ぶ
注:どちらかの点の1つが「外れ値」であれば、次に高い次動点か次
に低い次動点を用いる
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
5
高低点法 (続き2)
第3ステップ
・先ほどの直線を、グラフの縦(Y)軸線まで伸ばす
→ このとき延長部分は、コストが正常操業圏外では線形でないか
もしれないことを示すために点線になっていることに注意
・直線とY軸が交差する点は、固定費の見積額をしめす
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

傾き:V
切片:F
45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
6
高低点法 (続き3)

高低点法で切片と傾きを知る最も明確な方法は、代数を利用する
月
最高:
4月
最低:
9月
差額

施設メンテナンス部門費(
Y) 患者日数(
X)
47,000 ㌦
17,000 ㌦
30,000 ㌦
4,900
1,200
3,700
傾き:1患者日当たりの変動費
=コストの変化量÷活動の変化量
=(47,000-17,000)÷(4,900-1,200)
=30,000÷3,700
=8.1081㌦
7
高低点法 (続き4)

切片:月間固定費(F)
=準変動費総額-変動費総額
X(高点):F=47,000-8.1081×4,900
=7,270㌦
X(低点):F=17,000-8.1081×1,200
=7,270㌦

従って、高低点法で測定した施設メンテナンス費関数は
Y=7,270㌦+(8.1081㌦×患者日数)
8
高低点法 (続き5)

高低点法の良い点・悪い点
・良い点:
・容易に利用できる
・コストドライバーの変化がどのように総コストを変化させるか容易
に説明できる
・悪い点:
・信頼性が低い
・データ点を多く収集しても、2期の原価実績を利用するので、非効
率な情報利用となる
9
ビジュアルフィット法

ビジュアルフィット法は
・ 利用可能な全てのデータを利用できる
・ 高低点法よりも信頼性が高い
10
ビジュアルフィット法 (続き)
第1ステップ
・利用可能な全ての点をプロットする
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
11
ビジュアルフィット法 (続き2)
第2ステップ
・目分量で直線を当てはめる
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
12
ビジュアルフィット法 (続き3)
第3ステップ
・ 直線をグラフの縦軸と交差するところまで伸ばす
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
F=10,000ドル
5,000
0
0
1,000
2,000 3,000 4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
13
ビジュアルフィット法 (続き4)
原価関数
・ Y=F+VX
(Y:総額 F:固定費 V:変動費 X:日数におけるコストドライバー活動)

・ F:固定費
グラフより F=10,000㌦
・ V:変動費
1:ある活動量(例えば1,000患者日)を選択
2:その活動量における総原価($17,000)を見る
3:変動費(=総コストー固定費)を活動量で割る
変動費=($17,000-$10,000)÷1,000患者日
=$7/患者日
14
ビジュアルフィット法 (続き5)
ビジュアルフィット法による線形の原価関数は
Y=$10,000/月+($7×患者日)
50,000
施設メンテナンス部門費(Y)

45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
患者日数(X)
5,000
6,000
15
ビジュアルフィット法 (続き6)

良い点・悪い点
・良い点
・ 全てのデータを利用できる
・ 簡単に行える
・ 最小自乗回帰が統計を用いて達成しようとすることの、よい手
始めとなる
・悪い点
・ 直線の配置、固定費、変動費の測定が主観的
→実務ではあまり利用されない
16
最小自乗回帰法

統計を用いて全てのデータに原価関数をフィットさせることにより、
客観的に原価関数を測定すること
単純回帰 simple regression
・ 原価関数の測定にあたり、1つのコストドライバーを利用すること
多重回帰 multiple regression
・ 1つのコストに複数のコストドライバーを利用する分析
17
最小自乗回帰法 (続き)

回帰分析は
・ 他の原価測定手法よりも信頼性の高いコストドライバーを
測定する
・ 原価見積の信頼性に関する重要な統計情報も得られる
↓
・分析担当者は、原価尺度の信頼性を評価し、最善のコストドラ
イバーを選択することができる
18
最小自乗回帰法 (続き)

決定係数R2
・ コストの変化のうち、どれだけがコストドライバーの変化によって
説明されるかを示す
→実際のコストをデータに対する原価関数の適合度を評価する
ため
・ コストドライバーをよく説明している場合ほどデータ点は直線に近
い
0<R2<1
・ R2が0の場合コストドライバーがコストを全く説明していない
・ R2が1の場合コストドライバーがコストを完全に説明している
19
最小自乗回帰法 (例示)

コストドライバーを患者日数とした場合
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
施設メンテナンス部門費(
Y) 患者日数(
X)
37,000 ㌦
23,000 ㌦
37,000 ㌦
47,000 ㌦
33,000 ㌦
39,000 ㌦
32,000 ㌦
33,000 ㌦
17,000 ㌦
18,000 ㌦
22,000 ㌦
20,000 ㌦
3,700
1,600
4,100
4,900
3,300
4,400
3,500
4,000
1,200
1,300
1,800
1,600
20
最小自乗回帰法 (例示)

第1ステップ
・ 考え得るコストドライバーのそれぞれに対してコストをプロットする
なぜか?
1:データが非線形の傾向であることが明らかになるかもしれない
2:「外れ値」の識別に役立つ(ストライキ期間や自然災害)
21
最小自乗回帰法 (例示)

表計算ソフトウェアにより、以下の数値を導ける
患者日数によって説明された施設メンテナンス部門費
回帰アウトプット
定数 constant
Yの推定値の標準誤差 standard error of Y estimate
R2
観察数 No. of observations
自由度 degrees of freedom
X係数 X coefficient
係数の標準誤差 standard error of coefficient
$9,329
$2,145,875
0,9546625
12
10
6,9506726
0.478994
22
最小自乗回帰法 (例示)


固定費の値は、「定数constant」や「切片intercept」と呼ばれる
→データより、固定費は$9,329/月
変動費の値は、「X係数」と呼ばれる
→データより、患者日当たり$6.9506726
23
最小自乗回帰法 (例示)


線形の原価関数は
施設メンテナンス部門費=$9,329/月+$6,951×患者日
すなわち
Y=$9,329/月+$6,951×患者日
決定係数R2は0.955があらわす意味
・ 患者日数が施設メンテナンス部門費を極めてよく説明している
・ 患者日数が施設メンテナンス部門費の変化の95.5%を説明
24
最小自乗回帰法 (例示2)

コストドライバーを病室の部屋代にした場合
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
施設メンテナンス部門費(
Y) 病院の部屋代(
X2)
37,000 ㌦
23,000 ㌦
37,000 ㌦
47,000 ㌦
33,000 ㌦
39,000 ㌦
32,000 ㌦
33,000 ㌦
17,000 ㌦
18,000 ㌦
22,000 ㌦
20,000 ㌦
2,983,000 ㌦
3,535,000 ㌦
3,766,000 ㌦
3,646,000 ㌦
3,767,000 ㌦
3,780,000 ㌦
3,823,000 ㌦
3,152,000 ㌦
3,625,000 ㌦
2,315,000 ㌦
2,347,000 ㌦
2,917,000 ㌦
25
最小自乗回帰法 (例示2)

表計算ソフトウェアにより、以下の数値を導ける
病院の部屋代によって説明された施設メンテナンス部門費
回帰アウトプット
定数 constant
-$8,627.01
Yの推定値の標準誤差 standard error of Y estimate
$7,045,371
R2
0,511284
観察数 No. of observations
12
自由度 degrees of freedom
10
X係数 X coefficient
0.011939
係数の標準誤差 standard error of coefficient
0.003691
26
最小自乗回帰法 (例示2)

R2の値が、0.511284より
→病院の部屋代を利用した原価関数は、患者日数を利用した原価関
数ほどは施設メンテナンス部門費に適合していない
27
各アプローチの整理


では最後に、各アプローチによる原価関数を比較する
 工学的分析
Y=10,000㌦+(5㌦×患者日数)
 勘定科目分析
Y=9,673㌦+(7.5㌦×患者日数)
 高低点法
Y=7,270㌦+(8.108㌦×患者日数)
 ビジュアルフィット法
Y=10,000㌦+(7㌦×患者日数)
 最小二乗回帰法
Y=9,329㌦+(6.951㌦×患者日数)
マネージャーは、どのアプローチによって測定された原価関数を信頼
すべきなのであろうか?
28
考察~勘定科目分析と回帰分析の比較

各方法間の結果の違いを検討する
 勘定科目分析と回帰分析を用いて、正常操業圏の境界に近い
1,000患者日と5,000患者日における、施設メンテナンス費総額を
予測してみることにする
29
予測結果
勘定科目分析
回帰分析
(
単位:
㌦)
差額
1,000患者日
固定費
変動費
7.5×1,000
6.951×1,000
予測総原価
9,673
9,329
344
17,173
6,951
16,280
549
893
9,673
9,329
344
34,755
44,084
2,745
3089
7,500
5,000患者日
固定費
変動費
7.5×5,000
6.951×5,000
予測総原価
37,500
47,173
30
結論

低い患者日水準ではどちらもほぼ同じ原価予測額となるが、高い患者
日水準になるにしたがって、予測額の差は増大する


マネージャーは、どちらの予測額を信頼するであろうか?
 回帰分析による原価測定値は、統計的分析という基礎がある
ことから、おそらく他の方法よりも信頼性が高い
従って、回帰分析による原価関数を基にした原価予測額の方を、
信頼するであろう
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53