予防通所介護における 運動器の機能向上プログラム NPO 介護予防研究会 理事長 佐藤 司 予防通所介護とは 要介護認定において要支援および要介護と判 定され、運動器の機能向上が必要と判断され たものに対し、主に予防通所介護の場を通じ て運動器の機能向上に関するサービスを提供 し、これにより自立した生活機能を維持し、要 介護状態に陥ることを予防します。 プログラム提供前の留意点 日頃の健康状態(持病の有無とその状態) バイタルサインの確認 その日の体調(問診) ①睡眠 よく眠れた・眠れなかった・眠い ②朝食 ( )時に食べた・食べていない ③体調 良い・普通・悪い ④痛み ない・ある(どこが)(どのよう) ⑤服薬 ない・飲んだ・飲んでいない ⑥生活の変化・気になる事 ない・ある ⑦血圧 ⑧脈拍 運動参加者に周知させること 運動直前の食事はさけること。 水分補給を十分に行うこと。 睡眠不足、体調不良の時には無理をしないこと。 身体に何らかの変調がある場合には、従事者 に伝えること(感冒、胸痛、頭痛、めまい、下痢 など)。 プログラム提供時の留意点 顔面蒼白 冷や汗 吐き気 嘔吐 脈拍・血圧 *自覚症状や他覚症状に基づく安全の確認 プログラム終了後の留意点 安静時に収縮期血圧180mmHg以上、また は拡張期血圧110mmHg以上である場合。 安静時脈拍数が110 拍以上、または40 拍 以下の場合。 いつもと異なる脈の不整がある場合。 その他、体調不良などの運動中の留意事項 に述べた自覚症状を訴える場合。 *必要に応じて医療機関に受信させる 包括的高齢者運動トレーニングの特徴 赤羽リハビリデイサービスの内覧 ①体力の諸要素を包括的に運動する 運動器の機能が低下している高齢者では、筋 力、バランス能力、柔軟性などの体力の諸要 素が独立して低下することは少ない。したがっ て、筋力のみに注目することなく、体力の諸要 素を包括的に向上させる必要がある。 ②個別のプログラムを提供する 高齢期の運動機能の特徴は、若年者に比較 して個人差が大きいことにある。対象者に個 別のプログラムを提供することは、効果を高め るだけでなく、安全性、自信を高めるためにも 重要である。 ③専門技術を有するチームワークで指導 要支援者や特定高齢者は、運動器の機能向 上に関するリスクを抱えている。そこで、運動 器の機能向上に精通し、運動内容や方法を適 宜変更できる専門技能を有する柔道整復師な どの機能訓練指導員や、介護福祉士などが チームで運動プログラムを実施する。 ④下肢の抗重力筋を鍛える 運動器の機能向上の目標である、生活機能 の向上を図るためには、立つ、座る、歩く、階 段を昇降するといった日常生活の基本的活動 に必要な筋群を中心に運動する。下腿三 頭 筋、大腿四頭筋、大殿筋などの抗重力筋がこ れにあたる。このほか転倒を予防するために は、前脛骨筋などの抗重力筋に拮抗する筋群 も対象に加える。 ⑤週2~3回、3カ月を目標 筋力をトレーニングするにあたっては、超回復 の原則による効果的な頻度は週2回から3回 で、週3回が最も効果的であると言われている。 超回復の原則・・・・筋力トレーニングを行うと、 筋肉を構成している“筋繊維”が断裂したり破 壊されたりする。その後、食事や適度な休息 によって筋繊維は修復され、破壊される前より もやや太くなる。こうした流れを超回復と呼ぶ。 超回復には、約48~72時間かかるとされて いる。 介護予防は評価で始まり評価で終える 体力測定 バランス、歩行能力等、高齢者の生活機能に関連の ある主な7項目について、トレーニングの初回と最終 回に測定し、身体機能の改善状況を把握する。 SF-36 健康関連QOL尺度のひとつで、健康状態を本人の視 点からとらえ評価するもので、36の項目からなり、8 つの下位尺度としてまとめられる。トレーニング開始 前と終了後に調査する。 体力測定の実施 測定項目各種目は、初回、最終回とも同じ者 が測定することを原則とする。 筋力、バランス機能、歩行能力、複合動作能 力の各体力要素を評価し、どの要素が低下し ているかを把握する。 種目 握力 下肢伸展筋力 開眼片足立ち 長座位体前屈 ファンクショナルリーチ Time up & go 5m最大歩行時間 1.握力‐‐‐上肢筋力 ①両足を開いて安定した基本的立位姿勢をとる。 ②握りは示指の近位指節間関節がほぼ垂直に なるように握り幅を調節する。 ③握力計の指針を外側にして、体に触れないよう に肩を軽く外転位にし、力いっぱい握らせる。 ④測定の際は、反対の手で押さえたり、手を振っ たりしないように注意する。 ⑤利き手あるいは強い方の手を2 回測定する。 2.下肢伸展筋力‐‐‐下肢筋力 ①椅子に座り膝が90°屈曲位になるように下腿 を下垂する。上肢は椅子の両端をつかむ。 ②筋力測定器を下腿下部前面にあて軽く力を入 れ、痛み、姿勢を確認する。 ③利き足(ボ-ルを蹴る足)あるいは強い方の足 の等尺性膝伸展筋力を3 秒間、2 回測定す る。 3.開眼片脚立ち時間‐‐静的バランス能力 ①両手は側方に軽くおろし、片足を床から離し、 次のいずれかの状態が発生するまでの時間 を測定する。 ②測定者は対象者の傍らに立ち、安全を確保す る。 ③測定時間は60 秒以内とし、2 回測定する。 ④教示は「目を開けたまま、この状態をできるだ け長く保ってください」に統一する。 4.長座位体前屈‐‐‐柔軟性 ①対象者は背筋を伸ばし、壁に背・尻をぴったり とつけ長座位姿勢をとる(開始姿勢)。 ②腕を前方に伸ばし手のひら中央付近が長座位 体前屈計の台の上に来るように測定機器を設 置する。 ③指針が0 点にあることを確認する。 ④対象者は両手を指針部から離さずにゆっくりと 前屈し、まっすぐ前方にできるだけ遠くまで測 定機器を滑らせる。このとき膝を曲げたり、股 関節を外旋しないように注意する。 5.ファンクショナルリーチ ①壁に体側を向けて立ち、両足を開いて安定し た基本的立位姿勢(開始姿勢)をとる。 ②手は軽く握り、両腕を90°挙上させる。その際、 体幹が回旋しないよう注意する。 ③肩の高さに挙げた拳の先端をマークし、壁に遠 い方の手をおろす。 ④拳は同じ高さを維持したまま、足も動かさずに できるだけ前方へ手を伸ばさせ、最長地点を マークする。この際、踵を上げて爪先立ちに なっても可とする。 6.Timed up & go テスト‐複合動作能力 ①椅子から立ち上がり3m 先の目印を折り返し、 再び椅子に座るまでの時間を計測する。 ②スタート肢位は椅子の背もたれに背中をつけ、 肘掛けに手を置いた姿勢とする。 ③回り方は被験者の自由とする。 ④教示は「できるだけ速く回ってください」に統一 する。 7.最大歩行時間‐‐歩行能力(測定区間5m) ①備路2m ずつ、測定区間5m の歩行路を教示 に従い歩いてもらう ②遊脚相にある足部が測定区間始まりのテープ を越えた時点から、測定区間終わりのテープ を遊脚相の足部が越えるまでの所要時間をス トップウォッチにて計測する ③ 教示は「いつも歩いているように歩いてくださ い」(最大歩行速度の場合は「できるだけ速く 歩いて下さい」)に統一する 体力測定結果様式 握力 5 4 Timed Up & Go 下肢伸展筋力 3 2 1 5m最大歩行速度 0 5m通常歩行速度 長座体前屈 開眼片足立ち ファンクショナルリーチ 各期におけるトレーニング概略 1回のトレーニング時間は90~100分間とす る。次に示した各期別のトレーニングに要する 時間を目安として、参加者の虚弱度によって は若干の増減が必要となる場合がある。 プログラム開始前後には十分な水分補給や 休憩をとることとし、種目の合間にも必要に応 じて随時水分を補給する。 全体のトレーニングの流れ 筋トレの標準的なプログラム頻度は、週2回程 度、3か月間継続して実施する。その期間を、 「フォーム習得やトレーニングに慣れるための 導入期」、「最適負荷を設定し筋力の強化を図 る維持期」、「負荷の調整を行い、筋力やバラ ンス能力及び日常生活動作の拡大を図る発 展期」の1か月ごと3期に分ける。 前期1か月・コンディショニング期間 ストレッチ、筋力トレーニングとも、基本となる トレーニングフォームを習得することが大切で ある。 筋力トレーニングに関しては、低負荷により、 フォーム、呼吸方法の習得に主眼をおく。 フォーム習得後の導入期の後半には、随時、 実施回数や負荷を増やし、軽運動を導入する。 中期1か月・筋力向上期間 維持期においては本格的にトレーニングを行っ ていく。 筋力トレーニングにおける負荷量を上げ、自覚 的運動強度によりそれぞれの適正負荷を定め るとともに、基本セット数を10回2~3セットとし、 基本種目の消化達成を目指す。 軽運動やバランス トレーニングを徐々に導入 し、包括的な筋力トレーニングに変換していくこ とが必要である。 後期1か月・機能的運動期間 発展期では維持期で獲得された筋力の強化 を推し進めるとともに、それぞれの身体機能 の状況を見ながら負荷量を調整する。 選択種目を取り入れた個別メニューを導入し、 負荷に応じた日常生活動作の機能向上を図 る。 疾患等を有する高齢者への対応 高齢者は関節・筋肉・靱帯などに疾患をもって いることが多く、これに伴い関節可動域制限、 筋力低下、疼痛が生じている場合がある。 これらを主な原因とした身体機能低下に着目 し、トレーニングプログラムを組み立てることに より、安全にトレーニングを推し進めることが 可能になる。 負荷の見極め 非マシン筋トレにおいても負荷を徐々に増加さ せることで筋力増強の優れた効果が得られる ため、維持期からは適正負荷で筋力トレーニ ングを実施することが望ましい。 適正負荷の設定は、高齢者に最大筋力(1 RM)を直接測定し、1RMの60~70%を負荷 とする方法以外に、自覚的運動強度(Borg指 数)を活用し、その結果、「楽である」から「や やきつい」の範囲にあたる運動強度を目安と して設定する。 自覚的運動強度(Borg指数) 非 常 に 楽 で あ る か な り 楽 で あ る ら く で あ る や や き つ い き つ い か な り き つ い 非 常 に き つ い 1回のトレーニングの流れ 基本はストレッチ、軽運動、バランス運動、筋 力トレーニング、クールダウンの順に行う。 各トレーニングの順番は、一般的に大筋群か ら小筋群、下肢から上肢の順番に行うのが良 いとされている。 作用筋を意識させる トレーニング時の見回りや観察の際に、作用 筋に軽く触れ(タッピング)、「○○の筋肉に効 いているのがわかりますか」などと声をかける。 何気なく運動を繰り返すのではなく、作用筋を しっかり意識しながら行うことによって、筋活動 量を上げることができる。 マシントレーニング ①レックプレス(リカンベント スクワット) 立ち上がりの筋力をアップ・下肢全体の強化する ②レッグエクステンション 大腿四頭筋、特に内側広筋の強化し、 膝関節の負担を軽減させる ③ローイング 円背の予防改善 広背筋・背柱起立筋の強化する ④ヒップアブダクション 歩くときや、片足立ちのふらつきを解消する 中殿筋を強化して、骨盤の安定を高める マシントレーニングの利点 体重を支える必要がないため、筋力の低い人 でもトレーニングが可能である。 座って行うため転倒による事故の危険が少ない。 個々の筋力が正しく評価できる。 負荷が正しく設定できる。 マシントレーニング指導の心得 不安感、恐怖感を取り除く。 「できない」ことを実感させない。 「だいじょうぶですか?」と必要以上に尋ねな い。 一度に多くの情報を与えすぎない。 初回の指導手順 使用筋群、目的などを説明する。 マシンを使わずに動作を行う。 マシンの乗り降りを説明し、手本を見せる。 マシンに乗せ、シートのポジションを設定して 記録する。 所定の負荷(初期負荷)に設定する。 一人で自信を持って行ってもらう 常に呼吸、動作、テンポ、表情をチェックする。 セット数に応じたトレーニング 1種目に対し、1セット当たり10回程度を2~3 セット行うことによって、筋力向上の効果が得 られる。しかし、3セットを開始当初から行うこ とは負担が大きいため、トレーニング導入期 は1~2セット、トレーニング維持期から発展 期には2~3セット行うことを原則とする。 コンテショニング期(1ヶ月) 低負荷、高反複筋力トレーニング期 ①筋力トレーニングの意義、方法、効果などを 学習する。 ②今後のトレーニングに使う筋や腱を鍛える。 ③フォーム、スピード、呼吸法を習得する。 ④軽い負荷で1セット(20~30)行い、使われる 筋肉に対する意識を高める。 ⑤マシンの安全な乗り降りを習得する。 ⑥運動への意欲、自信を高める。 筋力増強期(2ヶ月目) 高負荷、低反複筋力トレーニング期 ①1RMテスト、負荷見極めテストを行い、最適 負荷量を測定する。 ②筋力の向上を図る。 1RMテストの実際(リカンベントスクワット) 1RMとは1回しか反復できない重さを指し、そ の者にとっての最大負荷重量を指す 。 リカンベントスクワットについては、60~70% の負荷で、10回を1セットで最大3セット行う。 機能的トレーニング期 ①筋力増強期に機能的トレーニングを加える。 ②向上した筋力を日常生活でスムーズにする。 ③歩行時や振り向いたときなどのバランス ト レーニング、ステップトレーニング、階段の上り 下り、軽いジャンプなどの個別の運動フログラ ムを作成する。
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