身体活動量からみた一般高齢者に対する運動教室の効果

第48回日本理学療法学術大会(名古屋)
P-B生活-078
身体活動量からみた一般高齢者に対する運動教室の効果
田中健一朗 1,2), 田中 貴子 2), 朝井 政治 2,3), 髻谷 満 5), 俵 祐一 2,4), 陶山 和晃 2,3),
平川 沙紀 6), 千住 秀明 2)
1)
特別養護老人ホーム恵珠苑 機能訓練室 , 2)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 ,
医療法人保善会 田上病院リハビリテーション科 , 4)済生会長崎病院リハビリテーション部 ,
5)
長崎大学産学官連携戦略本部 , 6)特別養護老人ホーム恵珠苑 デイサービス室
3)
key words 一般高齢者・身体活動量・運動教室
【はじめに、目的】
我が国における高齢化は世界に類をみないスピードで進んでおり、国立社会保障・人口研究所によると 2013 年の高齢
化率は約 25%、2050 年には約 40%になると示されている。その高齢化社会の中で平均寿命と健康寿命の乖離が問題となっ
ており、健康寿命の改善が必要とされている。そこで、近年では運動教室が全国的に行われており、その介入効果も開眼片
足立ち、椅子起立時間、Timed up & Go Test(以下 TUG)など、運動機能の改善などが報告されている。しかし、運動機能
の改善に加え身体活動量の改善を検討した報告はない。本研究の目的は、歩数計による身体活動量ならびに運動機能の評
価により、健康な一般高齢者に対する運動教室の効果を検討することである。 【方法】
長崎市の委託事業として平成 22 年 5 月から平成 23 年 5 月までの 1 年間、運動教室に継続して参加可能であった女性の
一般高齢者 38 名のうち、データの欠損があった者を除く 27 名(平均年齢 : 75.8 ± 5.2 歳)を分析対象とした。評価項目は、
平成 22 年と平成 23 年 5 月時点における 1)身体活動量、2)握力、3)開眼片足立ち、4)椅子起立時間、5)TUG、6)1 年間に
おける転倒の有無を後方視的に調査した。なお、身体活動量は歩数計を使用した毎日の記録から、一日あたりの平均歩数
を算出した値とした。運動教室の内容は、ストレッチ、筋力トレーニング、立位バランス訓練を中心に 1 回 60 分。介入頻
度は月 2 回である。さらに、年に 2 回の体力測定後に対象者に測定結果を用い、理学療法士が口頭にて散歩を促し、筋力ト
レーニング、
バランス訓練などの運動指導を行った。統計処理は、介入前後の比較をWilcoxonの符号付き順位和検定を用い、
統計ソフトには PASW Ver.18 を使用し危険率は 5%未満とした。
【倫理的配慮、説明と同意】
対象者には事前に口頭ならび書面にて本研究の目的および趣旨を説明し、十分な理解を確認した後に同意を得た。
【結果】
平成 22 年の各評価項目の結果は、身体活動量:6651.1 ± 1599 歩 / 日、握力:18.5 ± 4.2kg、開眼片足立ち:25.8 ± 20.8 秒、
椅子起立時間:7.23 ± 2.7 秒、
TUG:6.7 ± 1.9 秒であり、平成 23 年では、身体活動量:6182.7 ± 1791 歩/日、握力:17.6 ± 4.5kg、
開眼片足立ち:32.0 ± 23.7 秒、椅子起立時間:6.73 ± 2.3 秒、TUG:6.3 ± 1.1 秒であった。さらに、1 年間で転倒を経験し
たものは 7 名(28.6%)
、転倒がなかったものは 20 名(71.3%)であった。運動教室介入前後で開眼片足立ち(p=0.04)
、椅子
起立時間(p=0.04)
、TUG(p=0.02)にて有意な改善が認められたが、身体活動量は有意に低下していた(p=0.001)。
【考察】
一般高齢者を対象とした本運動教室の介入効果は、運動機能の評価項目においては先行研究と同様の結果であった。ま
た、転倒発生率も過去の報告によると 1 年間の発生率は 65 歳以上の高齢者で 20-30%と報告されており、本研究において
も類似した結果となった。身体活動量においては平成 22 年国民健康・栄養調査結果の概要による 70 歳以上の女性におけ
る 1 日平均歩数の 3872 歩と比較すると高かったが、前後の比較では有意に低下していた。よって、本運動教室は身体活動
量の向上に至るまでの効果は不十分であることが明らかとなった。これまでの運動指導は口頭のみ行っていたため行動変
容に至らず、身体活動量を維持・改善することができなかったのではないかと考えられた。そこで今後の運動教室では歩
数計の結果を用い、個人に合わせた歩数の目標値を設定した散歩を必須のメニューとして組み込み、身体活動量を維持、
向上していく必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
一般高齢者に対する運動教室の介入効果を歩数計による身体活動量で検証した研究はなく、本研究は運動教室の効果を
身体活動量から検証する研究の一資料になるものと考えられる。