口述Ⅰ- 1 屋内の階段昇降時に2本のポールを用いた際の心拍変動について 中村 あゆみ 1)岩月 宏泰 2),坂本 麻結 2) 1 東北メディカル学院,2 青森県立保健大学 キーワード; 階段昇降,ノルディックウォーキング,心拍変動 【はじめに】雪国では乗用車を持たない住民の冬期の買 物は歩行となるが,1 回当たりの運搬量は約5kg に及ぶ と言われている。 凍結した雪道を歩くための防寒服や靴, 靴用アタッチメントなど,その地域に根付いた用具はあ るが,重量物を持って滑りやすい路面を歩くことは変わ りない。2本のポールを用いた歩行はノルディックウォ ーキング(NW)と呼ばれ,両下肢への免荷,四点支持に よる歩行の安定性などの利点のため,高齢者,パーキン ソン病,変形性膝関節症などの運動療法としても採用さ れてきた。NW のエネルギー消費を検討した先行研究では ポールを使用しない場合に比べて,NW の方が両上肢の運 動のために運動強度が高まることが報告されている。し かし,これら報告の多くは,歩行時の路面が平地または 傾斜路に限られており,階段昇降についての研究は殆ど ない。今回,健常成人を対象に NW で階段昇降させた際の 心拍数変動と主観的身体疲労感から,NW の運動強度につ いて検討した。 【説明と同意】本研究の対象者には,青森県立保健大学 研究倫理委員会の指針に従って,予め研究の趣旨を説明 し,文書による同意を得た。また,実験中は被験者の転 落の危険性を回避するため,研究者が一緒に歩き,常に 後方から見守っていた。 【方法】対象は健常者 16 名(男性7名,女性9名,22.3 ±7.6 歳)であった。方法は1段の幅 31.5cm,高さ 18.0cm の屋内階段 72 段(4階相当)を5kg の砂袋を背負わせ て,ポールなし(FW)と NW の2条件で各被験者のペース で1回往復させた際の,上り及び下りの所要時間,心拍 変動及び各試行終了後の主観的身体疲労感を測定した。 NW で用いたポール(Leki 社製,重量は2本で 490g)の 長さは,身長の 0.63 倍とし,実験に入る前に各被験者が 実際に用いて微調節した。歩行時の心拍数は Polar RC800CX(Polar 社製)で連続記録し,PC ソフト(Polar ProTrainer 5)で解析した。主観的身体疲労感は筆者が 作成したもので,全身,上肢及び下肢別の3種類からな り,前者は0~10 の 12 段階(0:感じない,10:非常 に強い)で,後者は0~3の4段階(0:全く感じない, 3:強く感じる)であった。統計学検討は SPSS VER.16.0J を使用し,歩行条件の違いによる心拍数の比較には対応 のある t 検定を主観的身体疲労感の比較には Wilcoxon 検定を用いた。 【結果】1)階段上り:2条件の階段上りの所要時間は約 1.5 分であり,階段を上りきった際の心拍数は歩行前よ り,FW45.6±8.3%,NW56.8±10.2%の増加を認め,両 条件で有意な差を認めた。また,主観的身体疲労感は全 身が NW より FW で僅かに高値を示し,上肢では NW2.3± 0.5 点と FW より有意な高値を示したが, 下肢では2条件 で差を認めなかった。2)階段下り:2条件の階段下りの 所要時間は約1分であり,階段を下りきった際の心拍数 は歩行前より,FW10.3±0.3%,NW17.4±0.4%の増加と なり, NW が FW より有意な増加を認めた。また,主観的 身体疲労感では上肢で NW に有意な高値を認めた。 【考察】全被験者の NW による階段上り下りでは,一側足 の前進―ポールの振り出しー他側足の前進という3動作 で行っていた。このため,FW とは異なり,階段上りでは ポールを上方に突いて,体幹を上前方に引き上げるため の推進力として用い,三角筋,広背筋,上腕三頭筋と腹 筋群,下肢筋の腸腰筋,大腿四頭筋,前脛骨筋などの活 動が推測される。一方,階段の下りでは,ポールを下方 に突いて肩甲帯筋を中心に体重を支えて体幹の下前方へ の落下を減速させ,三角筋,広背筋,上腕三頭筋と脊柱 起立筋,下肢筋の大殿筋,大腿四頭筋,下腿三頭筋など の活動が推測された。NW の階段の上り下りは FW とは異 なり,前述した「ポールの振り出し―肩甲帯筋を中心と した体重支持」という動作が加わるために,心拍数の増 加を認めたと考えられる。Church TS ら(2002)は平地の 歩行で NW が FW より運動強度が増す理由として,ストラ イド長の増加に伴う重心移動が増すこと,上肢でポール を後方に押すことが推進力を高めることを挙げている。 しかし,本研究のように5kg の砂袋を背負わせて各被験 者の快適速度で階段昇降をさせた結果,NW では FW より も心拍数増加率が増したことから,前者の運動強度が高 まったと考えられる。今後は冬期の買物後の歩行を想定 し,屋外歩行時の心拍数変動から,雪道を安全で快適に 歩くための手段について検討していく予定である。 【結論】本研究の結果,2本のポールを用いた階段昇降 ではポールを使用しない時に比べ,運動強度が高まるこ とから,積雪期の中高年者の体力増進のための屋内での 運動種目となり得ると考えられた。 14
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