マクロ経済学 I

マクロ経済学 I
第2章
久松佳彰
GDPをどちらから見るか
• GDPは一国の総生産額(付加価値の合計)
でした。
– 生産(=供給)側から見る見方と
– 需要側から見る見方がある。
• 二つの見方はともに大事。
• 三面等価の原則から言うと、「生産=付加価
値」の見方と、「支出=需要」の見方。
図2-1
需要サイド
消費
政府支出
輸出入
GDP
投資
実
質
供給サイド
資本
労働
土地
技術
フロー循環図(総供給と総需要)
供給=生産
売上
販売された
財・サービ
ス
需要=支出
財・サービス
の市場
支出
•企業は売り手
•家計は買い手
購入された
財・サービス
家計
•財・サービスを購入し
•消費する
•生産要素を所有し
•販売する
企業
•財・サービスを生産し
•販売する
•生産要素を雇用し
•使用する
所得
生産へ
の投入
賃金・賃貸料
・利潤
生産要素市場
•家計は売り手
•企業は買い手
労働・土地
・資本
所得
= 財・サービスの
流れ
= お金の流れ
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総供給と総需要
財・サービス
(投資目的)
財・サービス
の市場
投資支出
財・サービス
売上
財・サービス
の流れ
財・サービス
(政府が使う)
財・サービス
(消費目的)
公共サービス
政府
法人税
家計
税金
賃金・地代・配当
生産への投入
消費支出
政府支出
公共サービス
企業
カネの流れ
所得
生産要素
の市場
労働・土地・資本
GDPを生産(=供給)側から見る
• GDPは一国の総生産額(付加価値の合計)
でした。
• GDPを生産側から見ると、、、
– 生産を行う為の要素(生産要素:factors of
production)に注目する。
– 労働、資本、土地(⇒フロー循環図)
– それから技術水準も大事
• 労働、資本、土地が大きければ、技術水準が
高ければ、GDPは大きいだろう。
GDPを需要側から見る
• 生産する能力があっても、需要(買い手)がな
ければ生産は行われないはず。
• 需要にも注目する必要がある。
• 需要は何から構成されるかというと、
– 消費
– 投資
– 政府支出
– 輸出(マイナス輸入)
• これらを合わせて総需要と呼ぶ。
総需要(Aggregate Demand)
• 総需要が大きければ、GDPも大きくなる。
現実のGDPがどう動くかは、
需要と供給の相互作用
によって決まる。
成長方程式:供給サイドから見た
GDP(37頁~)
• 日本の潜在成長力=2%
– 推計により1.3%~1.5%という結果もある。
• 潜在成長力=日本経済はどの程度のGDP
の成長(経済成長)をする実力があるか。
• どうやって計算(=推計)するの?
• 供給サイドの関係から求める。
成長方程式(Growth Equation)
• 経済成長率
=労働分配率×労働の増加率
+資本分配率×資本の増加率
• 労働が増えれば、経済の生産能力が上がっ
て経済は成長する。
• 資本が増えれば、経済の生産能力が上がっ
て経済は成長する。
労働の増加、資本の増加
• 労働の増加率は、人口構成を見ればよい。
女性の労働参加も考える必要がある。
• 資本の増加率を考えるときは、資本と投資の
関係を思い出す。
– 資本とは、ある一時点における生産設備・機械
– 投資とは、ある一期間における生産設備・機械の
購入(=増加)
「今期末の資本」-「前期末の資本」=今期の投資
成長方程式(Growth Equation)
• 経済成長率
=労働分配率×労働の増加率
+資本分配率×資本の増加率
• 分配率とは、生産要素が、その経済の生産
にどの程度貢献しているかを示している。
• 表2-1を参照(労働分配率=70%、資本分
配率=30%)。
成長方程式(Growth Equation)
• 労働と資本の分配率を、それぞれ70%と
30%とする。
• 次に、労働の成長率を1%、資本の成長率を
4%と仮定する。
• すると、成長方程式から、日本経済の潜在成
長率は、以下のように計算できる。
0.7×0.01+0.3×0.04=0.019(つまり1.9%)
成長方程式: 注意
• いま求めたのは、あくまでも潜在成長率で
あって、これが実現できるかはわかりません。
• 実現できるかは(つまり、実際の成長率にな
るかは)、十分な需要があるかどうかにか
かっています。
• ですから、需要からの見方も大事
経済成長と寄与度:需要サイドから見
たGDP(41頁~)
• 図2-2を見ると、需要のどの項目が全体で
どの割合を占めているか、そして、需要を大
きくしてきたのはどの項目かがわかる。
• より正確に理解するためには、寄与度という
概念が使われる。
• 最初の宿題を思い出してください。
需要項目別実質G D Pの推移
100%
80%
60%
40%
20%
0%
1970
1975
1980
1985
1990
1995
-20%
民間最終消費支出
政府最終消費支出
民間住宅
公的固定資本形成
民間企業設備
公的在庫品増加
民間在庫品増加
純輸出
2000
需要項目別実質G D Pの推移
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1994
民間最終
消費支出
1995
1996
民間住宅
民間企業
設備
1997
1998
民間在庫品増加
1999
2000
政府最終
消費支出
公的固定
資本形成
2001
2002
公的在庫品増加
2003
2004
財貨・
サービスの純輸出
寄与度
経済成長率
=消費シェア×消費の増加率
+投資シェア×投資の増加率
+政府支出のシェア×政府支出の増加率
+純輸出のシェア×純輸出の増加率
• 直感的には、需要の各項目の増加率の平均
• 上式を使って、GDPの予測もできる。
実質G D Pの寄与度の計算
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
-0.02
-0.04
1970
1975
民間最終消費支出
政府最終消費支出
1980
1985
民間住宅
公的固定資本形成
1990
民間企業設備
公的在庫品増加
1995
民間在庫品増加
純輸出
2000
実質G D Pの寄与度の計算
5%
4%
3%
2%
1%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
-1%
-2%
民間最終
消費支出
民間住宅
民間企業
設備
民間在庫品増加
政府最終
消費支出
公的固定
資本形成
公的在庫品増加
財貨・
サービスの純輸出
需要と供給:どちらがマクロ経済の動
きを決めるのか
• 需要サイドと供給サイドの違い
– 供給サイド: 長期的な動き
• 労働者の数、資本設備の規模、技術、土地は短期間
では変化しないから。
• 供給サイドは、経済成長を説明するのに適している。
– 需要サイド: 短期的な動き
• 消費や投資は、短期間で大きな変動をする。
• 供給サイドと需要サイドでは、時間的なス
ケールが違う。⇒ケインジアンと新古典派
供給がマクロ経済を決める:新古典派
の考え方
物価
垂直=物価の動きに
総供給曲線 関係なく、ある一定の
実質GDPを生産する
個別の財
の価格で
はなくて
経済全体
の物価
価格調整メカニズム
総需要が総供給より
大きく(小さく)なりそ
うな時は物価が上昇
する(下降する)
右下がり=物価が
高い(低い)と
総需要小(大)
総需要曲線
=物価の伸縮性
実質GDP
伸縮的な価格調整
• 新古典派は、もしどこかに需要と供給の
ギャップがあれば、それは価格の変化によっ
て調整されると考える。
• 個別市場レベル(労働市場や財・サービスの
個別市場など)で調整が起こる。
• マクロ経済全体でも総需要と総供給の調整
が起こる。
• 総供給は動けないので、総需要が物価の上
下によって調整する。
供給がマクロ経済を決める:新古典派
の考え方
需要サイド
消費
政府支出
GDP
投資
実
質
輸出入
伸縮的な価格調整
供給サイド
資本
労働
土地
技術
完全雇用
需要がマクロ経済を決める:ケインジ
アン的な世界
物価
物価の硬直性
総供給曲線
物価はすぐには調整しない
物価P
余剰生産力
=失業や
設備過剰
Y
総需要曲線
Y*
実質GDP
価格の硬直性
• 価格の硬直性により、消費や投資などの需
要が落ちたときに、企業もその需要水準に合
わせて低い生産をしようとする。
• それが、人々の所得を低下
• さらには、雇用にも悪影響
• つまりは、「需要の不足」が起きる。
• であれば、政府の介入により需要を増やす!
需要がマクロ経済を決める:ケインジ
アン的な考え方
需要サイド
消費
政府支出
輸出入
価格の硬直性
GDP
投資
実
質
供給サイド
資本
労働
土地
技術
不完全雇用
-2%
-4%
2000
1998
1996
1994
8%
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
実質G D P成長率
12%
10%
現在の日本の経済停滞
6%
4%
2%
0%
実質G D P成長率
4.0%
3.5%
3.0%
2.5%
2.0%
1.5%
1.0%
0.5%
0.0%
-0.5%
-1.0%
-1.5%
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2001年頃には、日本経済をどうする
のかと考えられていたか
• 過剰設備(低い稼働率)が見られている。
• 大量の失業者および「社内失業者」がいると
言われている。
• これは、供給水準が実際の水準より大きい。
• つまりは、需要不足の状況。
• ⇒ケインジアン的立場からは、需要拡大政策
が望ましい。
• ⇒供給側の構造改革を唱える人もいる。
2004年の現在には、日本経済をどの
ようにするのかと考えられているか
• 供給側の構造改革が必要
– 公共部門の改革
– 企業部門のより一層の改革
• 成長の安定軌道に載せる
• 成長余力をよりつける
第3章へ
• まずは演習問題をやってください。答を見ず
に解いてみて、自分で試してください。
• 第3章では、総需要についてもう少し深く学び
ます。
変化率という表し方(40頁)
• 変化率をとると比較が簡単・可能になる。
– 単位のとり方と独立になる。
• 例1:1ドル=120円が108円になった。
– これは(120-108)/120=10%の円高
• 例2:1ドル=360円が342円になった。
– これは(360-342)/360=5%の円高
• 例1のほうが円高の程度が大きい!
• 変化率でとるほうが正確。
Tea Time (42頁)
アジアの成長の神話と現実
• ポール・クルーグマンという経済学者
• 技術進歩を考慮した成長方程式
経済成長率
=労働分配率×労働増加率+資本分配率×
資本増加率+総要素生産性
• アジアの国は技術進歩(総要素生産性)が低
いので、成長は止まると論じた。
• 1997~98年のアジア危機
Tea Time (42頁)
アジアの成長の神話と現実
• アジアの成長の鈍化は、金融危機によるもの
であるので、彼の議論が正しいことは証明さ
れていない。
• アジアの国の技術進歩はかなりあるという研
究も最近発表されている。
参考文献:
ポール・クルーグマン/山岡洋一訳『クルーグ
マンの良い経済学悪い経済学』(日本経済新
聞社)第11章。
真水の経済学と塩水の経済学
(50頁)
• 経済学大学院の特徴。