日消外会議 25(10):2494∼ 2501,1992年 膵頭十 二指腸切除術後 の栄養学的検討 岐阜大学医学部第 1 外 科 山田 拓 飯田 辰 美 広 瀬 一 林 勝 知 田 辺 博 鬼 束 惇 義 膵 頭十 二 指腸切除術 (PD)術 後症例 14711お よび 胃切除術術後症例 14例において,栄 養学的 お よび免 疫学的検討 を行 った。%標 準体重 は PD術 後 お よび 胃切除術後症例 で正 常下限値,%上 腕筋部皮脂厚 は PD術 後症例 で は中等度 か ら高度 の低値 ,胃 切除術後症例 では軽度 か ら中等度 の低値 で あ った。赤 血 球 数, リンパ球比 は,PD術 後 症例 が 胃切 除術後症例 に比 べ 有 意 に低値 であ った 。総 ヨレステ ロールは, PD術 後症例 で低値 で あ った 。 レチ ノール結合蛋 白は,PD術 後症例 で著 明 に低値 で あ った 。総 ア ミノ 酸 は,PD術 後経過年数 が長 くな るほ ど回復 す るが,Fischer比 は低下す る傾 向がみ られた。免疫 グ ロ ブ リンは PD術 後 お よび 胃切 除術後症例 で高値 を,一方補体 は低値 を示す傾 向 がみ られた。ツベ ル ク リ ン反応 は PD術 後症例 の28.6%,胃 切 除術後症例 の35.7%が 陰性 で あ った。以上 よ り ,PD術 後 お よび 胃切除術後 の栄養障害 は,marasmus typeの 栄養障害 を示 す傾 向が示唆 され,PD術 後 に強 い傾 向を 認めた。 Key words: nutritional assesrnentafter pancreatoduodenectomy, malnutrition after pancreatoduodenectomy 絡 言 膵 頭 十 二 指 腸 切 除 術 pancreatoduodenectomy (以 下 PD)は ,1935年 に Whippleつが最初 の成功例 を報告 して以来約55年が経過 してい る。その後術 式 の工 夫 と, 術前 ・術後管理 の進歩 に よ り,最 近 では合併症 も少 な くな り,比 較的安全 な手術 とな って きて い る。 そ のた め PD術 後 長 期 生 存 例 も増 加 しつ つ あ り,現 在 そ の 論 じられ るよ うにな って きた.こ の点 quality of lifeが 1973年以来 当科 で施 行 した PD症 例 は56例で あ る. この うち現在 生存 中 で再 発 の ない14例を A群 と して 検討 した。現在 の年齢 は43∼75歳(平均64歳),術 後 の 経過年数 は 2カ 月 ∼14年 (平均4.8年)で あ った。 A群 中,術 後 5年 以上 の生存例 を A‐1群 とした。A‐ 1群は 5例 で あ り,そ の年齢 は43∼75歳 (平均64歳)で につ いては,PDで は,膵 お よび広範 囲の消化管 を切除 あ った.ま た ,術 後 5年 未満 の生存例 を A‐2群 とした。 A‐2群は 9例 で,53∼ 73歳 (平均63歳)で あ った。 原 疾 患 別 で は,A‐ 1群 は 十 二 指 腸 乳 頭 部 癌 3例 す るため,術 後 の消化 吸収障害 が 問題 となる。PD術 後 消化 吸収試験や ,膵 機能検査 を施行 した報告 は認 め ら (Stage 1 2例 二 指腸平滑筋腫 1例 , ,Stage I1 1 711),十 外 傷 性膵 破 裂 1例 ,A-2群 は 十 二 指 腸 乳 頭 部 癌 6例 れ る ものの,栄養 アセ ス メン トを行 った報告 は少 ない。 (Stage 1 5例 ,Stage I1 1例),膵 神経輪腫 1例 ,慢 性 膵 炎 (gr00ve pancreatitis) 1例 , 胆 襲癌 1例 (Stage そ こで PD術 後 にお け る消化 吸収障害 の原 因を究 明す るため,今 回,PD術 後症例 と,PDと 同様 に消化管再 建後輸入脚 を有 す るが際 を切 除 しない 胃切 除術 (Bil‐ lroth II法 )術後症例 に対 し栄 養学的検 討 を行 ったので 報告す る。 対 象 検索対象 を以下 の ご と くA,Bの 2群 に分類 した。 1)A群 <1992年 6月 17日受理>別 刷請求先 :山 田 拓 〒500 岐 阜市野一 色 4-6-1 岐 阜県立岐阜病院 胸部外科 I)で ,全 例 Child変 法 にて再建 した 。 なお,Stage分 類 は 「胆道癌取扱 い規約」分に従 った 。 A,1群 の 1例 は術前 よ り軽 度肝 障害,際 内分泌 障害 がみ られ ,術 後 も同様 の障害 を呈 し,イ ンス リンを使 用 して い る。 2)B群 A群 と同期 間 に 当 科 に て 施 行 した 胃切 除 術 (Bll― lroth II法)術後 症例 の うち,現 在生存 中で再発 のない 14例を無作為 の選択 し,こ れ を B群 として検討 した, 現在 の年齢 は42∼ 77歳 (平均61歳 ),術 後 の経過年 数 は 47(2495) 1992年 10月 Table 1 Characteristics of patients after PD and gastrectomy Group Subgroup N o o f patients A A-1 5 A-2 9 B Ages 麒 く of 3) e 子 提 鑑 輔 43Y-75Y ( 6 4 ±9 Y ) 2M∼ 14Y (4.8± 4.7Y) 43Y-75Y ( 6 3 ±7 Y ) 7Y∼14Y (10.6± 2.6Y) -73Y 531r‐ ( 6 3 ±7 Y ) 2M∼ 4Y (16± 1.lY) 4 2 Y ∼7 7 Y (61± 1lY) lY∼ 13Y (58± 4.3Y) No. of patients Diagnosis ca. of papilla of Vater 3 leiomyoma of duodenum injury of pancreas 1 1 ca. of papilla of Vater neurinoma of pancreas 6 groove pancreatitis 1 gallbladder ca. 1 B-1 7 43Y-77Y (64± 1lY) 6Y∼13Y (9.7± 23Y) early gastric ca. gastric ulcer B-2 7 42Y-74Y (57± 1lY) lY∼ 3Y (19± 0.6Y) early gastric ca. gastric ulcer 1 ca i carcinoma 'M=months Y=years を測定 した。 1∼ 13年 (平均5.8年 )で あ った。 B群 中,術 後 5年 以上 の生存例 を B‐1群 とした 。B,1 群 は 7例 で あ り,そ の年齢 は43∼ 75歳 (平均64歳 )で あ った。また,術 後 5年 未満 の生存例 を B‐2群 とした。 B‐2群 は42∼ 74歳 (平均 57歳 )で あ った。 5 ) 血中アミノ酸 採取 した血衆 を ピク リン酸処理 し,高 速液体 ク ロマ トグ ラフ ィー (日立 835型 装置)に て,分 岐鎖 ア ミノ酸 パ リン (Val), Pイ シ ン (Leu), イ ソP (BCAA)の 例,B‐ 2群 は早 期 胃癌 が 6例 ,胃 潰瘍 が 1例 で あ った チ ロシ ン イ シ ン (Ile),芳 香 族 ア ミノ酸 (AAA)の ニン ニ エ メチオ ン ェ ル ア ラ よび (Phe),お (Try), フ (Table l), (Met)を 原疾患別 では,B‐1群 は早期 胃癌 が 3例 ,胃 漬瘍 が 4 方 法 身体 計測値 として,%標 準体 重 (%IBW),%上 腕三 腕筋 囲 (%AMC)を 測定 頭筋部皮脂厚 (%TSF),%上 した .基 準値 として標準体重 は松木 の表 り,標 準 上 腕 三 頭筋部皮脂厚 は厚 生省 国民栄養調査表 り,標 準 上 腕 筋 囲 は佐藤 の値 ゆを用 いた 。 2)血 液 一 般検査 (Lym)を 血 球 (RBC),お よび リンパ 球 IgA,IgM,C3,C4を 測定 した。細胞 性免疫能 に関 して は, ツ ベ ル ク リン反応 (PPD)を 測定 した。 測定値 は,細 胞性免疫能検査 を除 き,平 均値 土標準 偏 差 で表 わ し,有 意差検定 は unpaired Student t‐test を使用 し,p<0.05を もって有意差 あ りとした。一 方, 2teStを 使 用 し,p< 細 胞 性 免疫能 検 査 に 関 して は χ 0.05を もって有意差 あ りとした. 測定 した。 結 3)血 液生化学的検査 酵 素法 にて総 ヨ レス テ P― ル (T‐chol),中 性脂 肪 (TC)を て IgG, 液 性 免疫 能 に 関 して は,nephelometerに 1)身 体計預J 白血 球 (WBC),赤 測定 した。 6)免 疫学的検査 ,屈 折法 にて総賃 白 (TP)を 測定 した 。 4)内 臓蛋 白 セル '― スアセ テ ー ト膜電気泳動法 にて アル ブ ミン て プ レアル ブ ミン (PA), (Alb)を ,nephelometerに トランス フ ェ リン (TO, レ チ ノール結合蛋 白 (RBP) 果 1)身 体 計測 %IBWは ,A群 が90.2± 11,3%,B群 が91.5± 6.4 と,そ の平均値 はいず れ も正常 の下限であ った。A,B A群 が 両 群 間 に 有 意 差 は 認 め な か った。%AMCと が91.3± 11.0%と ,と もに正常範 囲内 で あ ったが,A群 が B群 に比 べ 有意 (p<0.05)に 101.3± 15。9%,B群 低 値 で あ った。%TSFは A群 が59.2± 23.7%と 高 度 48(2496) 際頭十二 指腸切除術後 の栄養学的検討 酎g . 1 Nutritional parameters no肝口lrange lP(005 。 0 2 0 的 的 ︲ ︲ %TSF i normalrange 'Pく005 υuり 1 0 1拘 α 1∞ WBC 40 20 lA2 B Blは A alA-z B er&22 の低値,B群 A AlA2 B BlB2 A AlA2 B BlB2 A Arf,2 B BlB2 が78.6±28.7%と 中等度 の低値 であ った が,両 群 間 に有意差 は認め なか った。 経過年 数別 に比 較す る と,%IBWは A‐1群が87.4士 RBC Lym (%) 80 A片 10号 Fig. 2 Peripheral white blood cell count, red blood cell count, and percentage of lymphocltes in white blood cell count 。 岡2 %AMC %旧 W 日消外会誌 25巻 500 50 400 40 300 30 200 20 100 10 0 0- Aara2 Be!e2 A&1A-2BBrsz Fig. 3 Serum total cholesterol, triglyceride, and total protein 9.4%と 軽 度 の低値 で あ った。他 の 群 は正 常範 囲 内 に normtt range あ った ものの,い ず れ も正 常 下 限 の 数値 で あ った。% T―chol TG AMCは B‐ 2 群が8 6 . 9 ± 6 0 % と 軽 度 の 低 値 で あっ た。%TSFで は A‐1群が710± 14`6%,A‐2群が52.6± TP (9/dけ 25,4%,B‐1が85。 1±330%,B‐ 2群が72.2±21.9%と , いず れの群 で も低 値 で あ った 。 また,%IBWで A‐1群 が A‐2群 よ り低値 で あ った他 は,A‐2群が A‐1群 よ り, また B‐2群が B‐1群 よ り低値 で あ り,術 後経過 年 数 が 長 いほ ど低値 を示す傾 向 が認 め られた。し か し各群間 に統 計学的有意差 を認 め なか った (Fig.1). 2)血 液 一 般検査 WBCは A,B両 群 ともに正 常範 囲内で,両群間 に有 意 差 は 認 め な か った 。 RBCは A群 が406±45×104/ 1で ,A群 が B群 に比 べ 有意 ″1,B群 が445±44×104/″ で (p<0.05)に 低 値 あ った。 リ ン パ 球 数 は A群 が 33.3±7.3%,B群 が41.3±7.9%で ,A群 が B群 に比 し有意 (pく0.05)に 低値 で あ った. 経過年 数別 に比 較 す る と,WBCは 囲内であ った。RBCは いず れ も正常範 A-1群が399±34×104/μ l,B‐1 lで ,A‐ 1群 が B‐1群 に 比 べ 有 意 群 が444±11×104/μ (p<0.05)に 低 値 で あ った。 リン パ 球 数 も A‐1群 が 30.5±5。 4%,B‐ 1群が41.6±6.2%と ,と もに正常範 囲 内であったが,A‐ 1群が B・1群に比べ有意 (p<0.05) に低値であった (酎ど.2). 3)血 液生化学的検査 TP,TCは A,B両 群 ともに正常範囲内で あったが, T、cholは A群 が142±28mg/diと 低値であった.し か しいずれ も各群間に統計学的有意差 は認めなかった。 経過年数別 に比較す る と,A‐ 1群で T‐ch01が 142士 A alaa B Bi&2 0 A arA-2 B BiEa A anA-z B ste2 2 8 m g / d l と 低値 で あ ったが, 他 は正常範 囲内で, い ず れ も各群 間 に統 計 学 的 有 意 差 は 認 め な か った ( F i g . 3). 4)内 臓蛋 自 Albは A,B両 群 ともに正 常範 囲内であ り,両 群間 に有意差 は認 め なか った。PAは A,B両 群 ともに正 常 範 囲内で あった が,A群 が19,1±2.4mg/dl,B群 が 25.5±4`9mg/dlで,A群 が B群 に比べ有意(p<0.01) に低値 であった.Tfで は A群 は282±59mg/dlと正常 範 囲内 で あったが,B群 は360±67mg/dlと 高値 で あ り,B群 が A群 に比べ有意(p<0.01)に高値であった. RBPは A群 が2.4±0.6″ g/mlと 低値 で あった が,B 群 は3.6±1.0″ g/mlと 正常範囲内であ り,A群 が B群 に比べ有意 (p<0.01)に 低値 で あった.ま た A群 の RBPは 14例中13例 (93%)が 正常範囲 よ り低値 であっ ti. ブ 経過年 数別 に比 較 す る と, A i b は いずれ も正 常範 囲 内 で あ った。P A は いず れ も正常範 囲内であ ったが, A ‐ 1992年10月 49(2497) lin Fig。4-l Serum albu■ lin and prealbu■ Serum branched chain amino acids Fig.5-1 (valine, leucine,isoleucine) norma rdge . p<0.05 t P<0.01 印 中 ﹃ Fig.4-2 Serum transferrin and retinol-binding protein AarM A ^ ^rp A rp BB1e2 B &&1&2 B 1&2 A arA{ B BrE2 Fig. 5-2 Serum aromatic amino acids (tyrosine, phenylalanine)and methionine li nOrmalrange 'Pく005 申P(001 (mmoM) lmm° 叫L Phe (mmow) Met - 100 2群が261±54mg/dl,B-2群 が332±57mg/dlで ,A-2群 が B,2群 に比べ有意 (p<0.05)に 低値 で あった。Tfは A‐1群が321±46mg/dl,B‐ 1群が389±64mg/dl,B‐ 2群 が332±57ng/dlと いずれ も高値であった。また,A‐ 2 群 が B‐2群 に比 べ 有意 (p<0.05)に 低値 で あ った。 RBPは A‐1群 が2.3±0.4″g/ml,A‐ 2群 が2.5±0.7 ″g/mlと 低値であったが,B,1群 は36± 1.2μg/ml,BⅢ 2群は3.5±0.7″g/mlと 正常範囲内であった。また,A‐ 1群が B‐1群に比べ有意 (p<0.05)に 低値で,A‐ 2群 も A e1a,2 B &re2 A a,1a? B er&2 A a1a2 B ere2 Fig. 5-3 Fischer's ratio and serum total amino acids nomar cnge r P<0.05 Fischer's ratio total anlino acids B,2群 に比 べ有意 (p<0.05)に 低値であった (F七.4 -1, 2). 5)血 中 ア ミノ酸 A群 で は BCAAに お ヽヽて Valが 189±55nmo1/ ml,Leuが 97±26nmo1/mlと 低値で,AAAは 正常範 囲内であ った。Fischer比は3.1±0.9と,総 ア ミノ酸 は 486±116nlno1/mlと低値 で あった。B群 で は BCAA においては Ileが56±15nmo1/ml,Leuが 99±29nmo1/ Pheと もに高値 を示 したた め,Fischer比 が低値 で 総 mlと 低値で,AAAに おいては Pheが 63±21nmo1/mi と高値 で あった。Fischer比は A群 と同様 に低値 で い ア ミノ酸 は保 たれた.A-2群 では,BCAA,AAAの ミノ ずれ も低値 で あ り,総 ア 酸 も低値 で あ ったが,Fis― あったが,ア ミノ酸 は正常範囲内であった。 しか し, いずれ もA,B両 群間で有意差 は認 めなか った. 経過年数別 に比較す ると,A-1群 では,BCAAは Ile cher比 は正常 に保 たれ た。 B‐1群では,AAAは は高値 であったがほかは正常 に保 たれ,AAAは Tyr, Leuが 低 値 で,AAAは Ile, Pheが 高 値 で あ り,Fischer 比,総 ア ミノ酸 は低値 で あ った 。B-2群で は,Metが 高 値 で あ った ほかはいず れ も正常範 囲内 で あ った 。一 方, 際頭十二指腸切除術後 の栄養学的検討 A , 1 群は A , 2 群に比べ V a l , I l e , L e u , T y r , P h e , 総 ア ミノ酸 がそれぞれ有意 に低値 で あ り, P D 術 後経過年 は 数が長 いほ ど, 総 ア ミノ酸 は回復す るが F i s c h e r 比 1群 低下す るとい う所見が得 られた。また, A ‐1 群は B ‐ に比べ M e t , I l e , L e u , T y r が 有意 に高値 であ った。 A ‐2 群は B - 2 群に比 べ A A A の I l e , L e u が有意 に低値 で, 総 ア ミノ酸 も有意 に低値で あ った ( n g . 5 ‐1 , 2 , 3)。 日消外会誌 25巻 10号 Table 2 Number of patients who had negative response to tuberculin purified protein derivatives Group Nαofpぞ i渉 Subgroup N t t p ぞ 赫 A 4/14(28%) B 5/14(36%) A-1 A2 B-1 B-2 2/5(40%) 2/9(22%) 2/7(29%) 3/7(43%) 6)免 疫学的検査 液性免疫能 では,A群 では IgGが 1,747±322ng/di と高値を,C3が58.4±8.7mg/dlと低値を認め,ま た B 群で は IgGが 1,777±463mg/dl,IgAが 342±115mg/ dlと高値を認めたが,い ずれ において も各群間で統計 学的有意差 は認 めなか った。 経 過 年 数 別 に比 較 す る と,C3に お い て A‐1群が 56.9±6.6mg/dl,B‐ 1群が70.2±10.4mg/dlで,A‐1群 が B‐ 1群に比べ有意 (p<0,05)に低値であ った。C4に おいては A,1群が16.8±4.3mg/dl,A‐ 2群が24.5±3`7 mg/dlで ,A‐1群が A‐2群に比べ有意 (p<0.01)に 高 値であった (Fig.6-1,2). 細 胞 性 免 疫 能 で は,PPDに たが,い ずれ も両群 間 で有意意差 を認 め なか った。 経 過 年 数 別 に 比 較 す る と,A‐ 1群 は 5例 中 2例 (40.0%),A‐ 2群 は 9例 中 2例 (22.2%),B‐ 1群 は 7例 中 2例 (28.6%),B‐ 2群 は 7例 中 3例 (42.9%)が 陰 性 で あ ったが,い ず れ も各群 間 で有意差 を認 め なか っ た (Table 2). 考 察 PDの 手術成績 は 向上 し,術 後 長期 生存例 の増 加 と ともに,術 後遠隔期 におけ る病 態生理 に関 しての報告 l-1"。まず膵 内分泌機能 に関 しては, が増加 して きた。 て A群 で14例中 4例 (28.6%),B群 で14例中 5例 (35.7%)が 陰性で あっ 糖 尿 病 の 合 併 が 認 め られ な か った とす る も の か ―, 1 0 % か ら7 8 % に 認 めた とす る報 が る。 1 ゆ ら6 j め 告 あ . Fig. 6-1 Serum immunoglobulin また 膵 外 分 泌 機 能 を 含 め た 消 化 吸 収 試 験 に 関 して n試 は1 3 1 1 _ T r i o l e i験 にて, 1 3 % か ら7 8 % に 何 らかの消 1 0 。また最近 めた と報告 され てい る1 0 ∼ 化 吸収障害 を認 nomal range 行 わ れ る よ う に な った p a n c r e a t i c f u n c t i o diagnostant test(PFD)試 験 で も膵外分泌機能 の低下 が指捻 され て い るゆ距1免 疫能 に 関 して は, リ ンパ 球 igG 。 抑 仰 p m 数,natural killer(NK)活 性 の低下 が指摘 されてい る1の 。 この よ うに PD術 後遠 隔期生存症711に関す る報 告 がみ られ る ものの機能障害 に よる影響 の程度 は必ず しも一 定 していない。 かか る状態 においては栄養状態 を総合 的 に判 断す ることが重要 とな る。 A ^ra2 B B1s2 AAlp BBrP A aia2 Fig. 6-2 Serum complements B BrB2 従来,栄 養状態 の判定 は視診,触 診,体 童 の変動, 一 部 の血 液生化学的検査等 に よ り大 まかに しか 行われ ていなか ったが',Blackbumlつ や武藤 らつは人体 の構 成成分 を,骨 格筋,体 脂肪,内 臓蛋 白,血 衆蛋 白,皮 膚,骨 格 な どに区 分 してそ れ ぞ れ に 特 有 な パ ラ メー タ ーを設定 し, さ らにそれ らを総合的 に評価 す る こ と を提案 した。 東 口 ら1ゆは,悪 性腫瘍例38例 の PD症 例 において,術 が低 下 してい る と,栄 前 か ら%TSF,PA,Fischer比 養 アセ ス メン トに関 し報 告 してい る。 さらに,術 後遠 隔期 において34%に 脂肪肝 の発生 を認 め,脂 肪肝発生 1992年10月 51(2499) 例 では アル ブ ミン,末 梢 血 中 リンパ球 数 に低下 を認 め た と述 べ て い る。 後 の栄養 アセ ス メン トに関 して 1り は以前 に報告 したが ,今 回再発 の兆候 の認め られ な われわれ は,PD術 い PD症 例 お よび 胃切除術 (Blllroth II法 )術 後症例 で栄養学的,免 疫学的 に比 較検討 を行 った 。 身体計測 においては PD術 後,お よび 胃切除術後 の いず れ も%TSFに さらに も う 1つ の可能性 として Fischer比 低値 例 は全 例 RBPも 低値 で あ った こ とか ら質 白合成能 の低 下 に よる可能性 も否定 し きれ なか った。 ア ミノ酸分析 も栄養評価 の指標 として利用 されて い る,印 牧 ら29は低栄養状態 で総 ア ミノ酸 が低下す る と 報告 してい る。消化器術後 の ア ミノ酸 分析 の報告 は, 2い 平 川 ら の 胃切 除術 後 で の 報 告 が 認 め られ るのみ で の指 標 として用 い られ て お り体 蛋 白 は保 た れ て い る PD術 後 ではいまだ報告 を見 な い。今 回の結果 では,胃 切 除術 で は経過 を経 るに従 い ア ミノ酸 バ ランスが正 常 が,体 脂肪 は低 下す る とい う所見 が得 られた。 この原 化 を示す傾 向 が認 め られ るが,PDに 因 は従来報告 され てい る 胃切 除術,PD術 吸収 障害 1い1つと同様 の所 見 であ った。 期 にわた るほ ど,な ん らかの異化元進状態 がお こ り, 低 値 を認 めた .%TSFは 体脂 肪量 後 の脂肪 の 血 液学的検査 では PD術 後,胃 切除術後 ともに貧 血 を認 めた.PD術 後 と胃切 除術後 で 貧 血 の程度 を具体 的 に比 較 した報告 は認 めていないが,今 回の結果 では 貧 血 の程度 は PD術 後 が有意 に高度 で あ った。 また術 後遠隔期 に PD群 が 胃切 除群 と比較 し貧血 が強 く, リ ンパ球数 も低値 を示 した。 血 液生化学検査 で は 胃切除術,PD術 後 の T―cholは 11)が 低下す る と報告 されてい る。1い ,ゎれわれ の結果 で は PD術 後 5年 以上 生存 例 で T―cholは 正 常範 囲 よ り 低値 で あ った。TC,TPは 正常 に保 たれ ていた。また , 脂溶 性 ビタ ミンで あ る ビタ ミン Aは 低 値 が 予 想 され たが,予 想 に反 し比 較的保 たれ る傾 向を認 めた。 内臓蜜 白は,最近栄養評価 の指標 として重 要視 され, 各疾患 で測 定 され つつ あ る。D2い2り .Albに つい ての報 つ いては術直 は るが 告 な されてい ,Tf,PA,RBPに お いて は術後 長 ア ミノ酸 が組織 に動員 され低下 してい くことが伺われ 注 目された。PDに お いて は蛋 白質代 謝異常 もきた し てい る こ とが示唆 された 。 免疫学的 には,ま ず血 液 一 般検査 では末梢血 リンパ 球 数 が PD術 後 が 胃切 除術後 に比 べ 有意 に低値 で あ っ た。また血 清 グ ロブ リンは A群 で は IgGが ,B群 で は IgG,IgAが 高値 を示 したが ,補 体系 で は A群 で C3が 低値 を示 した。とくに A‐1群では C4も 低値 を示 した。 これ らの グ ロブ リンお よび補体系 の変化 は,低 栄養状 ∼2め 2つ . 態 で発 生す る とされて い る 一 般 に低 栄 養 状 態 は 蜜 白質 と エ ネ ル ギ ーの 欠 乏 protein energy malnutrition(PEM)と して理 解 され てい る。 この欠乏状態 は marasmus,kwashiorkor, marasmic kwashiorkorの 3群 に分類 されて い る3い 。 marasmusは 蛋 白 とエ ネルギ ーの両者 が欠乏 す る,い わ ゆ る飢餓 に起 因す る もので あ り,%IBW,%AMIは 後 の報告 は認 め る ものの,術 後遠 隔期 の報告 はない。 1020と報 され て Albは PD術 後 で正 常 に保 たれた 1分 告 い るが,自 験例 も同様 であ った。PD術 後,胃 切除術後 軽度,%TSFは 中等度 以上 に低下す るの に対 し,総 蛋 白,ア ル プ ミンな どの血築蛋 白お よび内臓蛋 白は比較 的保 たれ るが免疫能 は低下す る。1の 。身体 計測値,血 液 で 貧血 を きた してい る こ とは前述 したが,Tfは 貧血 に 生化学値 ,内 臓蛋 白,血 中 ア ミノ酸,免 疫学的検査 か て上 昇す るため,両 群 で高値 が予想 され るが,PD術 後 ら検討 した 今 回の結果 か らは PD術 後 お よび胃切 除術 で は予想 に反 し,正 常範 囲内 で あ った .こ の こ とか ら 後 の栄養障害 は,marasmus typeの 栄養障害 を示す傾 向 が示 唆 され,PD術 後 に強 い傾 向を認 めた 。 いずれ も PD術 後 では 胃切除術後 よ り低下 してい る もの と考 え られた。一 方,RBPは A群 で14例中13例(93%)と 高率 に低値 で あ った。レ チ ノー Tf,PA,RBPは ルは脂溶性 ビタ ミンとして腸管 か ら吸収 され,肝 実質 細胞 に取 り込 まれ ,こ こで RBPと 結合す る。結合後 血 RBP 中 に 分 泌 され た RBP・ レ チ ノール 結 合 物 質 〔 (holo)〕は さ らに プ レアル ブ ミン と結 合 し運 搬 され る2つ .RBPは ,レ チ ノール と結合 しな くては血 中 には 分泌 され ない ので,PD術 後 の RBP低 下 の原 因 とし て,脂 肪 の 吸収障害 を起 こし,脂 溶性 ビタ ミンで あ る ビタ ミン Aの 潜在的欠乏 に よる可 能 性 が示唆 された. 稿を終えるにあた り,御 校開を賜 りました岐阜大学第 1 内科学教室,武 藤泰敏教授,吉 田 景 講師に深謝 いた しま す。 なお,本論文の要 旨は第11回日本際切研究会,第35回日本 消化器外科学会,第12回東海臨床栄養研究会,第91回日本外 科学会総会 において発表 した。 文 献 1)Whipple AO,Parsons WB,Mullins CR: Treat‐ ment of carcinOma ofthe ampulla ofthe Vater. Ann Surg 102:763--779, 1935 2)日 本胆道外科研究会編 :胆道癌取扱 い規約.改 訂 際頭十二指腸切除術後の栄養学的検討 52(2500) 第 2 版 . 金 原 出版, 東 京, 1 9 8 6 3 ) 松 木 駿 : 肥 満 の 半」定 基 準. 日 医 師 会 誌 6 8 t 916--932, 1972 4)武 藤泰敏,吉 田 貴 1栄 養状態 の評価.内科 54: 209--214, 1984 5 ) 佐 藤 真 , 山 崎忠光 子栄養 アセ ス メン トと治療計 画一理 学 的 ア セ ス メ ン トー , M e d i c i n a 2 1 : 14--15, 1984 6)Fish JC,Smith LB,Williams RD: Digestive function aFter radical pancreaticOduo‐ denectomy Am J Surg l17:40-45, 1969 7)Salam A,Warren WD,Kalser M et ali Pan‐ creatoduodenectomy for trauma; Clinical and -672, 1972 metabolic studies Am Surg 175 t 663十 8 ) 中 山和道, 内 日立生, 友田信之 ほか 1 当 科 におけ る 解頭十 二指腸切除後 の再建法お よびそれ ら長期生 存 例 の 術 後 病 態 の 検 討. 日 消 外 会 誌 909--913, 1987 201 9)Warren Kヽ V,Cattell RB,Blackburn JP et ali A long‐tem appraisal of pancreaticoduodenal resection fOr peri‐ ampullary carcinoma Ann Surg 155! 653--662, 1962 1 0 ) 能 登 陸 , 斉藤洋一, 松野正紀 ほか ! 際 頭十二 指腸 切 除 後 の 病 態 に つ い て. 日 消 外 会 誌 1 0 i l15--121, 1977 1 1 ) 小 林重矩, 緒方峰夫, 村石信男 ほか ! 際 頭十 二 指腸 切除後病態 の検討. 日 消外会誌 1 0 : 1 3 5 - 1 4 1 , 1977 12)伊 藤俊哉,吉野 三 ,国中紀男 ほか !際 頭十 二指腸 切除後遠隔時 の際内外分泌機能 の変動.日 消外会 誌 10:142-148,1977 13)佐 々木誠,永川宅和,三輪晃一 ほか t陳 頭十 二指腸 切除術後 の諸問題.日 消外会誌 10!149-155, 1977 14)田 代征記,村 田悦男,今野俊光ほか !膵 頭十 二指腸 切除術後 の代謝,臨 外 35:513-519,1980 15)松 野正紀,今 村幹雄,武 田和憲 ほか i Child法 再建 による棒 頭十 二指腸切除術 一術後 の病態 と社会復 帰状況 につ いて一.日 消外会誌 20i904-908, 1987 1 6 ) 小 針雅男, 川 口信哉, 木村晴彦 ほか ! 棒 頭十 二指腸 Studies on Nutritional Assessment 日消外会議 25巻 10号 切除術後 の遠隔期 における病 態生理. 日 消外会誌 22 :2540--2543, 1989 17)Blackbum GL,Bristrian BR,Maini BS et al: Nutritional and metabolic as韓弱Inent of the hospitalized patient J Parent Ent Nutr l: 11--22, 1977 18)東 日高志,喜多豊志,水本龍 二 :膵 頭十二 指揚切除 術.消 外 11:475-482,1988 19)山 田 拓 ,渡辺 敬 ,千賀省始 ほか :際 顕十 二 指腸 切除術後症例 における栄 養 アセ ス メン トの検討. 輸液栄 ジャーナル 12i1539-1543,1990 20)山 崎芳郎,信友政明,井村腎治 ほか t栄 養評価指標 として rapid‐ t umover protein預 」 定 の意義.医 の あゆみ 124!892-895,1983 21)岡 田 正 ,官 井 潔 :栄 養 アセ スメン トとそ の パ ラメー ター.臨 病 35i359-364,1987 22)西 正 晴 i栄 養指標 としての rapid tumover pro‐ tein.医のあゆみ 1491277T279,1989 23)鈴 木 衛 ,羽生富士夫,中村光司 ほか :長 期生存例 か らみた陣頭十 二指腸切除術後 の消化管再建法 の 問題点.日 消外会誌 20:914-918,1987 24)金 井 正 光 :レ チ ノ イ ドの 基 礎 と臨 床 一 Retinol‐ binding proteinを中 ″ 心 に一 .臨 病 理 141 483--500, 1986 2 5 ) 印 牧俊樹, 西 正 晴, 出中英治 ほか t 血 衆 ア ミノ酸 と栄 養 ア セ ス メ ン ト. 栄 ア セ ス メ ン ト 3 1 136--139, 1986 2 6 ) 平 川博之, 新谷繁之, 柿木隆司 ほか : 胃 切除後患者 の血 清 ア ミノ酸 の 検 討. 栄 ア セ ス メ ン ト 3 ! 144--147, 1986 27)Chandra RK: ImmunOcompetence in under・ nutrition.J Pediatr 81 1 1194--1200, 1972 28)Sirisinha S,Robert S,Robert E et ali Comple‐ ment and C3 prOaCtivator levels in children、 vith calorie mainutrition and drect of diet・ protein、 ary treatment.Lancet i : 1016-1020, 1973 29)Neumann CG,Lawlor GJ,Stiehm ER et al! 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On the other hand, the percent of triceps skinfold was moderately or 53(250r) 1992年 10月 severelyrducted in the patientsafter PD with only slight or mderate reductionaftergastrectomy.The red blood cell count and percentof lymphocytesin the white blood@unt were significantly lower in the patients after PD than in thosereceivinggastrectomy.The total cholesterollevelsin the patients after PD were blow normal. The levels of serum retinol-binding protein were markdly low, and were significantly less after PD than after gastrectomy.For the plasmafree amino acids,the total amino acid levelstendedto return normal, but Fischer's ratio tendedto decrease,5 years postoperativelyin the patients who receivedPD. There was a tendencyfor the levelsof serumcomplementto decrease andthe levelsof serumimmunoglobulinto increasein the patientsafter PD. About 29%of the patients after PD and about 36%of the patients aftergastrectomyhad a negativeresponseto tuberculin purified protein derivative. In conclusion,the patients after PD and gastrectomyhad marasmustype malnutrition, which was moreseverein the patientsreceivingPD. Reprint requests: Taku Yamada Departmentof Thoracic Surgery,Gifu PrefecturalGifu Hospital 4&1 Noishiki, Gifu, 500JAPAN
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