CHEMOTHERAPY

CHEMOTHERAPY
VOL17NO.2
259
猩紅 熱 に 対 す るDoxycyclineの
柳
下
徳
治療成績
雄
都立駒込病院
小
野
泰
治
佐野厚生病院
は
じ め
第1表
に
(MIC)
Doxycycline(Vibramycin)はOxytetracyclineよ
り
・
合成 され た α一6-Deoxyoxy-tetracyclineで,新
しい 広
抗 生 物 質 で あ る。 従 来 のTC系
0。05
の諸 点 が挙 げ られ て い る。
0.1
中濃 度 は 急 速 に 上 昇 し,高 濃 度 に維 持 され るの
0.2
3.13
倍 以上 に達 した 。4)副
作 用 は ほ とん どな く,Fanconi
6.25
3
症 候群 発生 の 可能 性 も まず な い。
12.5
25。0
た成 績 で は,い ず れ も良 好 で あつ た と い う1)。
50.0
こに 報 告 す る 。
DOTC:Doxycycline
感受性 テス ト
が,さ
らに次 の検 討 を行 なつ た。
のDoxycy・
保菌者 の咽頭溶連菌に対す るDOTCの 効果
略 記)に 対 す る感受 性 は,第1
について
表 の如 くで あ つ た。
す な わ ち,DOTCに
OL:01eandomycin
PC:Penici11in
試験管 内における溶連菌の本剤に対す る
・cline(以下,DOTCと
100.0
唯
⊥
1
今 回,わ れ わ れ は,本 剤 を 狸 紅 熱 に用 い て,そ の 治 効
最 近 狸 紅 熱 患者 よ り分 離 した 溶 連 菌50株
9臼 2
そ して,こ れ ま で に 各 種 の 感 染 症 に試 験 的 に用 い られ
・
を 検討 す る機 会 を 得 た の で,こ
n6
-
1.56
9μ
り々
.3)組 織 移 行 が良 好 で,動 物 実 験 で 組 織 濃 度 はTCの5
璽⊥
0.78
轟
b
口投 与 で 吸 収 が 良 好 で,食 事 に よ り妨 げ られ な い 。
AU
1▲
0。39
少 量 投 与 で 充 分 な効 果 が み られ る。2)経
6◎
1
,1日1回
PC
0.02
薬 剤 に 比 して
ワ響
一
で
OL
9μ
1)血
DOTC
98
ハ﹂
優 れ た 特長 と して は,次
mcg/ml
血U
-▲
範 囲TC系
溶連菌 の薬剤感受性
対 す る溶 連 菌 の 感 受 性 は,オ
ア ン ドマ イ シ ンな み で,ペ
レ
ニ シ リンや エ リス ロマ イ シ ン
、
に比 較 す る と,数 段 感 受 性 が低 く,TCと
同様に耐性菌
もそ う と う高 率 に み られ た 。
紅 熱 の98%を
占めるアンギー
一ナ狸 紅 熱 で は,
咽頭 扁 桃 に そ の 病 巣 を形 成 して い る。 そ して急 性 期 は も
ち ろん の こ と,咽 頭 症 状 の消 失 した後 も,自 然 経 過 に委
ζの成 績 は,高 度 耐 性 菌 を別 と して も,溶 連 菌 感 染 症
'に対 す る本 剤 の 効 果 を,あ ま り期 待 させ な い か も知 れ な
い。 しか し,わ れ わ れ の 経 験2)に よれ ば,あ
周 知 の よ うに,狸 紅 熱 の病 原 は溶 血性 連 鎖球 菌(溶 連
菌)で,狸
る薬 剤 の 試
験管 内効 果 は 相 似 で な い ことが 多 い。
す なわ ち,試 験 管 内 で は優 れ た効 果 を示 す サ ル フ ァ剤
せ れ ば1カ 月 余 り も存 在 して い る ことが 多 い。
この 咽頭 に 保 菌 状 態 の溶 連 菌 に 対 して,ど の程 度 の 効
果 を示 す か を,ま ず 検 討 した。
方 法 は 体 重20∼30kgの
小 児5例
に,DOTC100mg
を1回 内 服 さ せ,内 服 直 後 と 内服 後2時 間 毎 に 扁 桃 外 面
が,咽 頭 溶 連 菌 に 対 して は効 果 が 少 な く,ま た,ペ ニ シ
の粘 液 を採 取 して,5%の
リン 同様 に薬 剤 感 受 性 の 高 い エ リス ロ マ イ シ ンが 治療 後
培 養 し,溶 連 菌 の 消 長 を 追 求 した 。
脱 繊 維 人 血 液 寒 天 平 板 へ塗 抹
の 再 排 菌 率 が高 く,感 受 性 の低 い オ レア ン ドマ イ シ ンが
そ の結 果 は 第1図 の 如 くで あ る。 す な わ ち,咽 頭 の粘
ペ ニ シ リン と 同程 度 の再 排 菌 率 を 示 して い る の で あ る。
液 中 の溶 連 菌 は,内 服 後4時 間 まで は ほ とん ど影 響 を受
そ こでDOTCに
け な い が,そ の 後 は 急速 に 減 少 し,6∼10時
対 す る溶 連 菌 の 感 受 性 は 高 く は な い
間 後 に 陰転
CHEMOTHERAPY
260
第2表
咽 頭 保 菌 溶 連 菌 に 対す る ドキ シサ イ ク リ ン100
mg内 服 の影 響
症年
溶 逗 薗の
コ ロニー
一
の救
例
体
号令
〃
効
〃
〃
〃
〃
有効
〃
〃
19 %
耐
"
無
〃
34%
効
〃
4
1
ρ0
1
ー
-ゐ
Qゾ RV
1
1
1
慶U
9甜
赤 ・腫 脹 ・疹 痛 な ど)で
只V 2
・咽
轟δ
検 討 の 対 象 に と りあ げ た狸 紅 熱 の 臨 床 症 状 は,熱
〃
症 状 の 回 復 に 要 した 日数
11日12日13日14日15日1&呈
︽U
1
させ た 。
著
〃
(治 療 例 数:21)
ハ0
つ5日 問 内服
〃
定
貯%
与 薬 開 始後,諸
熱 転 槌 化
常
陰 消 正
頭
下 菌 疹 咽
与 薬 方 法=DOTCを1日1回100mgず
頭 溶 連 菌 ・発 疹 ・咽 頭 所 見(発
第3表
与薬開始
後 の 日数
小 児 で あ る。'
〃
判
〃
29kgの
鴻ノ
果
〃
効果について
対 象:発 病 以 来,何 ら特 殊 治 療 を 受 け て い な い ア ン ギ
ー ナ 狸 紅 熱 患 者21例 で,年 令 は4∼9才,体
重 は16∼
〃
効
感
急性期の臨床症状 に対す るDOTCの
〃
陰転
せず
1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 5 7 6 6 7
とが 推 量 され た。 そ こで 次 の 検 討 を 試 み た。
〃
1 1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 4 5 6
る こ とが 判 り,臨 床 諸 症 状 に 対 す る効 果 を期 待 し得 る こ
5
頭 溶 連 菌 を抑 え得
3
の 与 薬 で,咽
2
な く と も 感 受 性 菌 で あ れ ば,
2
DOTCは100mg1回
対 す る感 受 性 は
1
あ ま り高 くな い が,少
連 菌 のDOTCに
〃
1
以 上 の結 果 か ら,溶
〆ノ
1
受性菌であつた。
〃
1
mcg/mlのDOTC感
上 の
の溶 連 菌 は0。39∼1。56
1
の 溶 連 菌 は100mcg/ml以
〃
1
の1例
性 菌 で あ り,他 の4例
〃
1
そ して,こ
DOTC耐
ノノ
1
れた。
間
〃
1
中1例 は,終 始,多 数 の溶 連 菌 が検 出 さ
1日1回
100mg5日
1
しか し,5例
中4例 で あ つ た 。
量
1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 3 2 2 4 5 5 5 5 8
した も のが5例
薬
治 療期 間
8 3 2 2 6 7 0 7 9 4 3 7 9 0 1 0 6 7 8 6 7
1 2 2 2 1 1 2 1 2 2 2 1 1 2 2 2 2 1 1 1 2
24
服 葉 猿 の経 過時 間
♂ ♂ ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♂ ♀♂ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♀ ♂
2468】Ol214
5 7 7 6 4 5 6 4 9 7 6 5 5 4 5 6 8 5 5 4 9
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
十
重㎏
番
十
DOTCの
与
性
分 離 菌 の感 受 性
D O T C に対 す る
第1図
MAR.1969
1
陰 転せ
ず7
1
4
あ る。 そ して 特 に下 熱 効 果 と咽 頭 溶 連 菌 の陰 転 化 に注 目
第4表DOTC感
した 。
治療 成 績 を 一 覧 表 と して示 せ ば,第2表
り,取 り ま と めて 示 せ ば第3表
の 如 くで あ
与薬開始後 の 日数
で あ る。
これ らの 表 か ら判 る こと は,著 効 が み られ た症 例 と,
ほ と ん ど無 効 で,自 然 経 過 と変 らな い症 例 と に2分 さ れ
る こ と,ま た,こ
れ を 分離 溶連 菌 のDOTC感
し合 わ せ て み る と,前 者 はDOTC感
DOTC耐
受 性 菌,後
受 性 と照
下
熱
み れ ば,第4表
PC
者は
受 性 菌 に よ る13例 の下 熱 効 果 と 菌 陰
転 化 を,ペ ニ シ リン 治療 を 施 した症 例 の 効 果 と比 較 して
で あ る。 ペ ニ シ リン注 射 治 療 群 に は及 ば
1日
213
D・TC内 服}・S%152%i8%
服128
55
17
注 引52
43
5
内
D・TC醐
性 菌 に よ る症 例 で あ る。
次 にDOTC感
受 性 狸 紅 熱 の 治 療 効果 とペ ニ シ
リ ン治 療 群 との 比 較
菌 陰転 化
PC
・6%1・6%i8%
内 劇78
注
射
18
79
21
4
VOL. 17 NO. 2
CHEMOTHERAPY
な い が,ペ ニ シ リン 内服 治 療 群 に 匹敵 す る治 療 成 績 で あ
る。
261
ころ・ 感 受性 菌 で あ れ ば 顕 著 な 影 響 を 認 め た の で,急 性
期 の 狸 紅 熱 患 者21例
DOTC感
DOTC感
有 効19%,無
受 性 菌 によ る症 例 の 再 排 菌 と再 発 熱 率
治 療終 了 後 に再 排 菌 を み た率 を算 出 す る と26.6%で
み た 率 は19・0%で
療 後 の 再 発熱(微
効47%
成 績 を得 た。 そ して,狸 紅 熱 に
対 す る療 法 の 効 果 は,そ
受 性 溶 連 菌 に よ る13症 例 に つ い て,DOTC
つ た 。 同 様 にDOTC治
に試 用 した 。 そ の結 果,著
効34%の
の 患者 の溶 連 菌 がDOTCに
耐
性 で あ るか 否 か に よつ て,明 瞭 に左 右 され る こ とを 知 つ
あ
熱 を 含 む)を
あつ た。 この数 値 は ペ ニ シ リン療 法
た。
近 年,狸 紅 熱 よ り分 離 され る溶 連 菌 のTC系
す る耐 性 は30%を
薬剤に関
越 して い るの で2》,狸紅 熱 の 治療 薬 と
群 の そ れ に 比 較 す れ ば,優 れ た値 で あ り,エ リス ロマ イ シ
してDOTCを
ン,オ レア ン ドマ イ シ ンな ど と比 肩 す る値 で あ るが2),
性 菌 に よ る狸 紅 熱 に は 著 効率 が 高 い こ と,治 療 後 の再 排
13例 とい う少 数 例 につ い て の成 績 で あ る の で,参 考 に
菌 や再 発 熱 が少 な い ら しい こ とは 注 目に価 した(こ の こ
とど め,更 に 例 数 を 重 ね て か ら結 論 を 出 した い 。
と は,組 織 内濃 度 が従 来 のTCに
わ れ るDOTCが,複
副 作 用 につ い て
21例 の うち,内
あつ た が,狸 紅 熱 の 初 期 は,病 気 そ の もの の 症 状 と し
40%あ
受
比 較 して5倍 以 上 と い
雑 な構 造 を もつ 扁桃 を 病 巣 とす る
本 病 に特 に有 利 な の で は あ る ま い か)。
服 後 間 もな く 嘔 吐 を み た もの が2例
て,強 い食 欲 不 振 が あ り,嘔 気
無 選 択 に 用 い る こ とは で きな い が,感
ま た,1H1回
少 量 の 内服 で すむ 本 剤 は,使 用 上 す こ
ぶ る便 利 で あつ た。
嘔 吐 を み る こ と も20∼
る3)。従 が つ て,DOTCの
主
副 作 用 と して 嘔 吐 し
要
文
献
た もの か否 か不 明 で あ る。 しか し,こ の2症 例 で は 数 時
1)Vibramycin(Doxycycline)文
間 お い て 次回 の食 後 に再 内服 させ,以 後 は異 常 な く内 服
ザ ーK.K.学 術 部 編
2)狸 紅 熱 研 究 班 業 績 集:狸 紅 熱 の 診 断,特 に 類 似疾
を つ づ け る こ とが で きた 。
お
溶 連 菌 のDOTCに
わ
り
患 との 鑑 別 お よ び 各 種 抗 生 剤 療 法 との 比較 に 関す
る研 究 。 昭41
3)柳
下,岡 島:戦 後20年 間 の 狸紅 熱 の臨 床 的観 察 。
に
対 す る感 受 性 は あ ま り 高 く な い
が,保 菌 の状 態 に あ る咽 頭 溶 連 菌 にDOTCを
THERAPEUTIC
EFFECT
献 集:台 糖 フ ァイ
第40回
日本 伝 染病 学 会 総 会発 表
昭41
試み たと
OF
DOXYCYCLINE
UPON
SCARLET
FEVER
TOKUO YANAGISHITA
Komagome Metropolitan
Hospital
TAIJI ONO
Sano Kosei Hospital
The sensitivity of hemolytic streptococci to doxycycline (DOTC) was tested with a result as shown
in Table 1, indicating that they were not so sensitive to the antibiotic.
Unexpectedly, however, when
the antibiotic was administered orally to patients carrying hemolytic streptococci in their pharynges, the
positive culture turned into negative as early as 6 to 10 hours after the administration,
provided that
the cocci were sensitive to tetracycline (TC).
Then, oral application of DOTC was attempted in a daily single dose of 100 mg for 5 days to patients
(children) with scarlet fever at acute phase. It was found that the therapeutic effect of DOTC upon
scarlet fever depended upon whether the cocci carried by the patient were sensitive or resistant to TC.
Although DOTC should not be administered without selection to all patients with scarlet fever in
view of the fact that the TC resistant hemolytic streptococci constitute more than 30% of recent isolates from patients in Japan, it should be noted that the antibiotic exerts marked effects on patients
infected with sensitive cocci and that the return of positive culture and febrile recurrence were rarely
encountered. In addition,
convenience for its use.
oral daily administration
of DOTC only in a small single dose provides much