洋上石炭積替に世界最大級の電動グラブクレーン

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洋上石炭積替に世界最大級の電動グラブクレーン
洋上石炭積替に世界最大級の電動グラブクレーン
株式会社相浦機械 石炭輸出量世界一を誇るインドネシア。石炭は
海上輸送で輸出されるが、石炭の積み出し港のな
かには大型船が入港できないところも多く、一旦
バージ(平底の船舶)で洋上まで運び、石炭積替
え船に搭載されたグラブクレーンで輸送船に積み
替えている。カリマンタン島沖では、こうした石
炭積替え船が多数稼働している。このグラブク
レーンの分野で長崎の造船関連の舶用機械技術が
活躍している。舶用機械メーカー・相浦機械(本
社:佐世保市)では、このほど、新たなニーズに
対応した製品を開発し、インドネシア向けに納入
した。
洋上での石炭積替え風景
従来の積み替え作業では、低カロリーまたは高
カロリーの石炭を積んだ1隻のバージから輸送船
への積替えを行っていたが、近年は世界的な景気
減速などによる石炭需要の低下傾向があることか
ら、付加価値を如何に高めるかが課題となってお
り、そのひとつの方策として低カロリー石炭と高
カロリー石炭のブレンドがある。
こうしたニーズに対応するため、同社では、石
炭の質が異なる2隻のバージから交互に積替えて
ブレンドができるような特殊な能力を有する世界
最大級の大型電動グラブクレーンを開発した。
今回製作納入した電動グラブクレーン
(30T×40M/R)
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プロジェクトへの参画から開発へ
同社はこの石炭積替え船向けに多数のグラブ専用クレーンを納めており、各海運会社から荷役
能力が高いとの好評価を受けていた。こうした背景から、新たな海運会社から同社に今回のプロ
ジェクトへの参画依頼があった。
石炭の輸出入を取り扱う商社の希望を輸送会社である船会社が受け、システムとして検討・商
談を進めていくなかで、同社が提案した「高カロリー石炭と低カロリー石炭のブレンド」、
「クレー
ン作業半径の大型化」、
「使用条件(荷役能力、耐久性等)を考慮したグラブ専用クレーンの使用」
が採用された。
製品の研究・開発を2012年3月から開始。開発にあたっては、クレーンの大きさがこれまでの
製作実績と異なり、工場サイズに合わない寸法・重量となったため、製作場所の天井クレーン能
力や製作定盤のサイズに合わせて分割方式を採用した。完成時には工場内から屋外への移動にも
苦労することとなった。
また、クレーン高さ・重量が大幅にアップするため、運転者が操作指令を行った際にクレーン
およびグラブバケットの応答性と電気制御の整合性を取るための制御システムを検討する等、研
究期間は約1年間を要した。
製品の特長
同社が開発したのは、クレーンの
作業半径(作業範囲)を従来の約1.5
倍にまで大きくしたものである。吊
り荷重30トン、作業半径40mとなっ
ており、一般の貨物船に搭載される
クレーンと比較してグラブ能力は
1.25倍、巻き上げ速度を4倍、旋回
速度を2倍とすることで、クレーン
ク レ ー ン 全 体 図
の作業半径と荷役能力の向上を図っ
た。このクレーンを搭載したバージの積替え能力は、1日4万トン以上という最大級となる。
また、このクレーンは熱帯地方の洋上という過酷な環境のもとで1日24時間、年間300日以上
の連続運転を行うことを要求される。そこで、耐久性を考慮し、完全電動(インバータ)式とし
て設計され、設計寿命も8年としている。
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その他の特長を挙げると、石炭の粉塵対策としてクレーン内部と外部が完全に遮断され、電気
機器もエアコンにより保護されるなど、運転員にとって操作性の良さと快適な環境を提供している。
また、石炭の比重や形状等により、グラブバケットの掴み量を常に最適に保つことができるほ
か、最大で1回に20㎥を掴めるよう、
グラブの開き角度や支持索の張力調
整によりグラブの沈み掴みを制御で
きるようにしており、通常の汎用ク
レーンと比較すると圧倒的な新技術
が組み込まれている。
グラブバケット掴み量調整
今後の期待
本電動グラブクレーンは、世界でもインバータ式電動クレーン技術を有する同社のみが提供で
きるという、オンリーワン技術で実現されたものであり、これまでの電動グラブクレーンの納入
実績(12隻)が評価され、採用に至ったものである。今後、鉄鉱石などの石炭以外のバラ荷につ
いても需要が見込まれることから、電動グラブクレーンやバージでのコンベヤ等を含めたシステ
ムの受注拡大が期待される。
(橋口 不二郎)
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