中心市街地で増加する分譲マンション

レポート
中心市街地で増加する分譲マンション
− 長崎市の事例を中心に −
はじめに
国土交通省によると、県内の住宅の新築着工戸数は、2011年から3年連続で増加した。14年は
4月の消費増税前の駆け込み需要の反動減に加え、資材価格の高騰や人材不足により建設コスト
が上昇していることなどが重なったことから、前年比マイナス5.7%となったが、15年は下げ止
まりつつある。
また、地価調査をみると、 図表1 長崎市 中心市街地の概要
県内の地価は商業地・住宅
地ともに5年連続で下落率
は縮小している。このうち、
長崎市内の地価は、車やバ
イクなどで通ることができ
ない狭い道路にしか接して
いない地点では下落が続い
ている一方、長崎駅周辺の
整備や県庁移転等の期待な
どから駅周辺や幹線道路沿
いの商業地の一部では上昇
傾向にあり、市内でも二極
化が進んでいる。
こうしたなか、住環境が
良好な市内中心部への回帰
の動きが続いており、好条
件のマンション開発がすす
んでいる。そこで本レポー
トでは、長崎市の中心市街
項 目
小売商店数(店)
小売業年間販売額(億円)
事業所数(箇所)
従業者数(人)
市全体
3,191
3,306
19,358
201,971
資料:2012年経済センサス、長崎市「中心市街地活性化基本計画」
地*(図表1)を例に増加する分譲マンションについて採り上げる。
20
ながさき経済 2015.12
中心市街地
1,024
1,275
6,132
64,536
割 合
32.1%
38.6%
31.7%
32.0%
レ ポ ー ト
Report
中心市街地で増加する分譲マンション
(*長崎市の面積40,651haのうち中心市街地は262haと約0.6%にすぎないが、2012年の経済センサスによると、中心市
街地には市内にある小売商店の32.1%が立地し、小売業年間販売額も市全体の38.6%を占めている。また、事業所数
では市内全体の31.7%が集中し、従業者の32.0%がこの地域で従事している。また、店舗面積が1万㎡を超える大型
商業施設10店舗のうち中心市街地には4店舗立地している。このほか、官公庁、公共施設、交通拠点などの都市機
能が集積している。)
需要面からみた分譲マンション
■増加する中心市街地の人口
長崎市では人口減少傾向が続いてお
図表2 地区別人口の推移
(指数 平成12年=100、合併町を除く)
140
小榊地区
り、旧長崎市内15支所のうち、増加し
ているのは住宅団地が整備された小榊、
中心市街地
130
三重地区
三重、東長崎の3地区に限られるが、
中心市街地のエリアをみると高い伸び
東長崎地区
120
北部本庁地区
東部本庁地区
を示している(図表2)。
この背景の一つには、地価の下落に
西浦上地区
110
南部本庁地区
伴って好条件のマンションが多く分譲
されたことが挙げられる。長崎市中心
日見地区
100
福田地区
西部本庁地区
市街地活性化基本計画では、1992年か
ら2013年までの市内の主な6地点の平
土井首地区
90
小ヶ倉地区
均地価、中心市街地での分譲マンショ
茂木地区
80
深堀地区
ン供給戸数と、その累計戸数(図表3)
式見地区
の推移を示している。それによると、
70
2000
地価が2004年にはピーク時の1/10程
度にまで下落したのに伴ってマンショ
ンの供給が増え、多い年では250戸程
4,000
数は2,734戸に上る。
3,000
また、2000年∼14年の分譲マンショ
2,500
7,307戸が分譲されたが、このうち中
心市街地では65棟、2,475戸と、棟数
では半数近く、全体の戸数のおよそ
09
12
15
(年)
図表3 分譲マンション供給戸数と地価の推移
3,500
こ の15年 間 で 長 崎 市 内 に は145棟、
06
資料:国勢調査、住民基本台帳、長崎市統計年鑑
度分譲されており、13年の累積供給戸
ンの販売状況(西広まとめ)をみると、
03
主要6地点の平均地価(千円/㎡)
各年度の分譲マンションの供給戸数(戸)
中心市街地での分譲マンションの累計戸数(戸)
3,490
2,734
2,237
2,077
2,000
1,506
1,500
1,477
917
1,000
500
0
2,370
32
1992
222
95
433
136
51
98
850
95
2001
484
244
04
資料:長崎市「中心市街地活性化基本計画」
389
153
07
396
84
10
361
224
13
(年)
ながさき経済 2015.12
21
図表4 長崎市中心市街地マンション地図
2000年
2006年
2012年
2001年
2007年
2013年
2002年
2008年
2014年
2003年
2009年
2004年
2010年
2005年
2011年
2015年
資料:西広
(注)2015年は5月末までのデータ
図表5 長崎市中心市街地でのマンションの販売状況
年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
供給戸数
214
125
213
213
207
261
126
94
139
145
136
202
215
118
67
34
総面積
16,987
10,285
16,992
18,268
17,325
20,493
8,618
6,992
10,429
11,052
11,317
16,390
16,607
9,266
4,874
2,316
資料:西広資料をもとに当社にて作成
(注)2015年は5月末までのデータ
22
ながさき経済 2015.12
総価格
731,285
395,820
675,530
730,910
669,940
742,954
335,746
286,101
416,586
455,650
449,520
642,880
647,880
401,480
218,916
108,580
累積
供給戸数
214
339
552
765
972
1,233
1,359
1,453
1,592
1,737
1,873
2,075
2,290
2,408
2,475
2,509
平均坪単価
(万円)
142
127
131
132
128
120
129
135
132
136
131
130
129
143
149
155
平均面積
(㎡)
79
82
80
86
84
79
68
74
75
76
83
81
77
79
73
68
平均価格
(万円)
3,417
3,167
3,172
3,432
3,236
2,847
2,665
3,044
2,997
3,142
3,305
3,183
3,013
3,402
3,267
3,194
初月販売
(戸)
166
84
90
70
156
93
56
39
49
81
55
143
103
87
42
30
初月販売率
(%)
77.6
67.2
42.3
32.9
75.4
35.6
44.4
41.5
35.3
55.9
40.4
70.8
47.9
73.7
62.7
88.2
レ ポ ー ト
Report
中心市街地で増加する分譲マンション
1/3を占め、長崎駅周辺や電車通り沿いなどのまちなかにマンションが立地している(図表4
_地図)。
また、中心市街地におけるマンションの販売開始月の販売率について2000年から14年までの推
移(図表5、西広調べ)をみると、2000年代初頭は7割台であったが、08年には35.3%にまで低
下し、その後は徐々に持ち直し、11年に70.8%となるなど、以後概ね高水準となっている。平均
坪単価をみても、12年に129万円と底を打ち、以降は上昇傾向にある。物件の平均価格は3千万
円前後であるが、立地や間取りによっては1千万円台のものから6千万円台のものまであり、幅
広い価格帯の物件が供給されていることがわかる。
■分譲マンションへの住み替えのきっかけ
「マンションへの住み替えのきっかけ」については、国土交通省が2014年度にまとめた『住宅
市場動向調査』の全国規模のデータが参考になる。これをみると、「住宅の立地環境が良かった
から」が59.8%と最も多く、「新築住宅だから」(57.5%)が小差で続いており、以下「マンショ
ンだから」(48.8%)、
「価格が適切だったから」(45.3%)
、
「住宅のデザイン・広さ・設備等が良かっ
たから」(42.9%)となっており、マンションの立地を重視していることがわかる。
また、60歳以上を対象としたものではあるが「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」
(2010年内閣府調べ)のうち、地域の不便な点を尋ねた回答をみると、上位を占めたのは「日常
の買い物」
(17.1%)
、「医院や病院への通院」
(12.5%)、「交通機関が使いにくい、整備されてい
ない」(11.7%)などであった。こうした住居に関して不便な点を解消するために、高齢世帯の
中心市街地への住み替えの需要は一定数あることがうかがわれる。
■分譲マンション購入前の居住地
中心市街地に立地する分譲マン
ションの居住者が、購入前にはどこ
に住んでいたのかを長崎市が13年1
月に調査した結果が図表6である。
これをみると、全体では「中心市街
地近傍」が35.3%と最も多く、以下
図表6 中心部新築分譲マンション居住者の入居前の居住地
従前住所
転入者数
(人)
転入者割合
(%)
364
272
78
140
178
1,032
35.3
26.4
7.6
13.6
17.2
100
中心市街地近傍
斜面市街地
郊外部
既存市街地以外
市外
合 計
転入者の年齢構成(%)
14歳以下 15∼64歳 65歳以上
24.3
71.2
5.5
14.3
72.4
13.2
12.8
75.6
11.5
11.4
74.3
14.3
11.2
77.5
11.2
15.6
74.1
10.3
資料:長崎市 2013年1月調査
「斜面市街地」
(26.4%)、「市外」(17.2%)、「既存市街地以外」
(13.6%)の順となっており、市
外や周辺地域から移住してきていることがうかがえる。
ながさき経済 2015.12
23
■単身世帯数の増加
国勢調査によると、中心市街地の世帯数は2000年の11.1千世帯から10年には14.7千世帯と10年
間で約3割増加し、なかでも単身世帯は5.0千世帯から7.9千世帯へ55.5%増も増加している。
供給面からみた分譲マンション
引き合いの多い分譲マンションは、間取りでは3LDKや4LDK、総面積は80㎡前後と、やや
手狭であるが費用総額は低めに設定されている。
地元業者によると、シニア層の2人暮らし向けの間取りでは1LDKもあり、地価の高い市街
地では販売価格が高くても引き合いは多いという。
また、勤労世帯では、マンションの購入時はやや手狭に感じられても、長期的なライフプラン
を考慮し、子育てが終わって家族構成が変わった後、壁を取り除くなど手を加えて、間取りを4
LDKから3LDKにリノベーションすることもできることから、それを視野に入れて購入するケー
スもみられる。
今後も、中心市街地の活性化に伴い、斜面市街地や郊外などから長崎駅周辺や電車通り沿いな
どのマンションへの住替え需要が見込まれるが、供給面を考えると、もともと斜面地が多く平坦
地が少ないという長崎市特有の地形から用地の取得が次第に困難になってきていることや、建設
費が上昇していることなども懸念材料となっている。
今後の見通し
14年4月の消費増税前に駆込み需要がみられたように、17年4月の消費増税前にも同様の駆け
込みの動きが考えられ、こうした需要を取り込もうと、マンション販売だけでなく、室内のリ
フォーム等についても、顧客から業者への引き合いがみられるようになっている。
■住みやすいまちづくりに向けた取組み
全国の地方都市において、市街地が郊外に拡がり、公共交通の維持が困難となったり、買い物
弱者が増加したりするなど、市民の日常生活を支えるまちの利便性の維持が徐々に困難となり、
まちの衰退につながることが懸念されている。
昨年8月、
「改正都市再生特別措置法」が施行され、まちの拠点に都市機能・住居を誘導する
ため「立地適正化計画」の策定を市町に促しており、それに沿って全国では、昨年末時点で62の
自治体が、住宅や病院、商業施設などを中心市街地に集め、効率的な行政サービスや地域活性化
24
ながさき経済 2015.12
レ ポ ー ト
Report
中心市街地で増加する分譲マンション
につなげようと取り組ん
図表7 中心市街地活性化基本計画の位置づけ
でいる(図表7)。この
うち九州は、久留米市、
飯塚市、行橋市、大村市、
熊本市、天草市、都城市、
鹿児島市の8都市となっ
ている。今後、政府は全
国で計画の策定自治体数
を20年までに150自治体
に広げることを目指して
資料:国土交通省
いる。
長崎市においても、今年3月、立地適正化計画のひとつである「中心市街地活性化基本計画」
が国から認定され、中心市街地のまちづくりをすすめていく上で、補助金や法令上の特別措置が
受けられるようになり、まちなかの賑わい再生のため、中心市街地の居住環境の向上についても
取り組んでいる。
このように法律的にも環境が整備されたことから、分譲マンションの供給面で中心市街地の用
地は少なくなりつつあるが、買い物、医療、交通などの便利性の良い“まちなか”へと回帰する
動きは今後も続くものと考えられる。
(泉 猛)
ながさき経済 2015.12
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