レ ポ ー ト Report 移住のワンストップ窓口 ― ながさき移住サポートセンター レポート 移住のワンストップ窓口 ― ながさき移住サポートセンター はじめに 日本各地で直面する人口減少による地域の持続・活性化に係る問題への解決策のひとつとして、 集中した人口を分散させる移住の取組みがなされている。 2014年11月に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、地方創生の取組みがスタートした。創 生法に基づき策定された国の総合戦略において、企業立地や人口の集中解消に向けて地方移転・ 移住が目標のひとつに掲げられ、移住促進に関する多数の支援策等が展開されている。 長崎では県と全21市町が協働して、人口減少対策として転職や住宅の専門家が移住までをワン ストップで支援する「ながさき移住サポートセンター」を、2016年4月に長崎と東京に開設して 移住促進業務を推進している。ここでは、その活動について紹介したい。 1. 「ながさき移住サポートセンター」の設立目的と特長 (1)設立目的:人材の確保 地方版総合戦略の本格的な推進に向けて、長崎県と21市町が協働して地方への人の流れを加速 し地域に必要な人材を確保するために設立したのが「ながさき移住サポートセンター(以下、サ ポートセンターという。)」である。サポートセンターでは、相談から移住・定住までワンストッ プで移住希望者を支援するとともに、移住促進につながる連携事業を展開していくことが主要な 業務となっている。 (2)特長 サポートセンターの特長として以下の点が挙げられる。 ①長崎県および全市町が負担金を拠出し協働運営を行う移住相談・推進体制は全国初の取組み となっている。 ②無料職業紹介事業による移住希望者と県内の仕事のマッチングを行っている。 ③仕事・住まい・暮らしやすさに関する情報発信を強化するとともに、県・市町・民間が連携 し、移住者の視点に立って移住検討段階から地域への定着まで途切れのない一貫した施策を 推進している。 ながさき経済 2017.3 7 2.サポートセンターの取組み サポートセンターの移住促進業務としては、以下のようなものが挙げられる。 (1)移住促進にかかる情報発信 ①「ながさき移住ナビ」(長崎県移住支援公式ホームページ)の運営 ・移住に関する居(暮らす) ・職(働く) ・住(住む)にかかる情報を掲載。移住までのサポー ト、移住相談会・企業面談会、移住先としての長崎県の魅力、移住相談窓口、各市町の移 住情報を掲載。 (例)各市町の移住情報(HP)には次のような事項等が掲載されている。 ・市町の移住情報 ・空き家バンクの情報 ・お試し住宅の情報(移住・定住に関心がある方への中長期型滞在施設の情報を掲載) ・助成制度の情報(住まいに関する助成、子育てに関する助成、起業・創業に関する助成、 就職・就業に関する助成、その他の助成を掲載) ②「ながさき移住倶楽部」の運営 「ながさき移住倶楽部」は、現在県外に居住していて長崎県への移住等に関心がある人に対し、 次のような各種割引やサービス等を提供する無料会員制度(登録料および会費は一切無料)で ある。「ながさき移住ナビ」の「移住までのサポート」から「ながさき移住倶楽部」のホームペー ジへ移動する。 ・移住に向けた様々な相談に対応 ・移住候補地である各市町の詳しい情報の提供 ・移住相談会の情報を先行案内 ・メールニュースを随時配信 ・情報冊子「ながさき移住のススメ」を進呈 ・会員証の提示による9大特典の提供 (ながさき移住倶楽部の会員証、HPより) 8 ながさき経済 2017.3 レ ポ ー ト Report 移住のワンストップ窓口 ― ながさき移住サポートセンター ながさき移住倶楽部会員の9大特典概要 会員証の提示による特典 サービス内容 レンタカー料金の割引 レンタル料金20%OFF(対象外車両有り) 宿泊施設での割引・サービス 宿泊料割引、サービスドリンク 等 引越料金の割引 引越基本料金等20%∼OFF シニア向け住宅での割引・各種サービス サービス付き高齢者向け住宅無料宿泊体験 等 住宅・リフォームローンの金利優遇 十八銀行の住宅ローン・リフォームローン金利優遇 リフォーム・新築工事費の割引 リフォーム・新築工事費10%OFF 不動産に関する仲介手数料の割引 仲介手数料の消費税部分の割引(賃貸は対象外業者有り) 自動車学校の割引・サービス 延長・補習教習料金 無料 経営コンサルタントのサービス 起業相談の初回面談無料 *協力会社・サービス詳細は、ながさき移住倶楽部のHPに掲載中。 〇「ながさき移住倶楽部」の会員数は増加傾向 2015年8月から長崎県地域づくり推進課が運営を始めた「ながさき移住倶楽部」の会員登 録数は、16年3月末までに282組計552人となった。その後、16年4月からはサポートセンター に移管され、運営体制が強化されたことから16年12月末の登録数は500組計1,012人にまで増 加している。 ③キャンピングカーによる「ラクラク移住先探し」の運営 軽自動車のキャンピングカーで県内を巡るこ とで、宿泊費や交通費を抑えることができるよ うにした長崎県独自のシステムが「ラクラク移 住先探し」である。実際の長崎県内での行程に ついては利用者の希望をもとに、サポートセン ターの担当者と地元の市役所や町役場の担当者 と調整のうえ行程表を作成する。この行程表を もとに該当地域の市役所・町役場の訪問や空き (ながさき移住ナビHPより) 家の見学、先輩移住者との意見交換などを行うこととなる。基本レンタル料は1日あたり8,000 円(税込み)で、移住先探しメニューにより3,000円まで値引きする制度もある。 *利用条件として、長崎県への移住に関心がある県外在住者で、移住先探しメニューのうち「移 住相談」を1回以上かつ「現地案内」(空き家の見学、求人企業等の見学等)を1箇所以上 利用することとなっており、レンタル期間は概ね1週間以内を想定。 *キャンピングカーの利用実績 2015年度(15年8月∼16年3月) 14組の利用(うち4組が移住) 2016年度(16年4月∼12月) 21組の利用(うち2組が移住) ながさき経済 2017.3 9 (2)移住希望者と仕事のマッチング サポートセンターでは、無料職業紹介業務を行っており、ハローワークの求人情報およびサ ポートセンターが独自に収集した長崎県内の企業や県内に事業所等のある企業の求人案内を移住 希望者(求職者)に紹介し、就職・転職までのサポートをきめ細かに行っている。 ①求職者向けサービス例 ・長崎県でのキャリアステップ(キャリアアップの道筋や基準・条件等)に関する相談、長 崎県での転職市場動向情報提供 ・キャリアの棚卸し支援(長崎県内の非公開の求人情報も踏まえながら、求職者のこれまで の経験からどのような可能性があるのか、アピールできるキャリアをどのように考えたら よいか等についてアドバイス) ・具体的な求人案件の紹介、求人企業への推薦 ・書類選考突破の支援(履歴書および職務経歴書の作成支援、アドバイス等) ・面接突破の支援(転職理由、志望動機、自己PRの伝え方や内容のアドバイス等) ・面接日程等の調整 ・退職交渉サポート(現職業の辞め方、手続き等のアドバイス) 等 ②求人企業向けサービス例 ・求人顕在化・求人要件設定(経営者等と面談し、現状どんな職種の求人が必要なのか、求 人要件をどうするか等についてアドバイス) ・マッチ度の高い求職者の推薦 ・面説日程等の調整 ・入社意思確認後から入社までのサポート 等 ③無料職業紹介事業の実績推移 2016年4∼6月2件、7∼9月6件、10∼12月11件の合計19名と4半期毎に実績は増加傾向 にある。 ④県内企業の掘り起こし状況 サポートセンターでは、外部人材を必要とする県内企業の掘り起こしを積極的に行っている。 2016年12月末での雇用先として推薦可能な企業は102社となっており、この他に以下の業務連 携先が保有する企業が多数ある。 サポートセンターにおいては、ハローワーク取扱求人に加えて、求人企業をサポートセンター 自ら開拓し、求職者へ推薦・提案する取組みに加え、サポートセンターと業務親和性の高い団 体(長崎プロフェッショナル人材戦力拠点、産業雇用安定センター長崎事務所)と職業紹介・ 採用支援事業の業務連携を行って、サポートセンターの就職・転職支援事業を推進している。 10 ながさき経済 2017.3 レ ポ ー ト Report 移住のワンストップ窓口 ― ながさき移住サポートセンター これにより、サポートセンター単独で賄うよりも企業へのアプローチがきめ細かくなり、求 職者に対するサービスレベルが向上している。 また、顕在求人(公募されている求人)のみならず、潜在求人(企業が公には募集していな い求人)へのアプローチを積極的に行うことで、県外では探せない求人の掘り起こしや企業と のマッチングに成功している(16年12月までの実績19名のうち、8名がサポートセンターから の提案による採用)。 (3)都市部での移住相談会・企業面談会の開催 ①移住相談会 長崎県へのUIターンに関心のある方を対象に、サポートセンターおよび各市町の担当者が 次のような相談に対応している。 ・長崎県への移住全般に関する相談 ・長崎県での就職・転職に関する相談 ・長崎県の住宅情報の提供 ・先輩移住者による移住体験談 *相談日により内容は異なることがあり、参加費は無料。 ②企業面談会 長崎県内企業への就職希望者向けに企業面談会を開催している。 企業面談会では、長崎県内の優良企業がブースを設け、企業の魅力や具体的な求人内容につ いて説明を行う。企業の担当者と直接話をすることで、求人票やホームページだけでは分から ない生の情報を得ることが可能となっている。 *参加企業については毎回変更し、参加費は無料。 移住相談会・企業面談会の開催スケジュールについては、ながさき移住ナビに掲載中。 (4)ミライカレッジながさき 長崎×女子 移住プロジェクトの開催 16年度に長崎県地域づくり推進課が企画実施した「ミライカレッジながさき 長崎×女子 移住 プロジェクト」については、17年度からはサポートセンターにおいてもフォローアップすること としている。 このプロジェクトは、東京、福岡在住の若い世代の女性(20∼30代、独身女性、シングルマ ザーなど)をターゲットにして情報発信を行うとともに、カフェイベントの開催およびイベント 参加者による長崎への移住体験ツアーの実施などにより長崎への移住を促進することを目的とし ている。 ながさき経済 2017.3 11 3.サポートセンターへの相談実績(長崎・東京)および長崎県への UIターン者数の実績推移等 (1)サポートセンター開設の2016年4月から11月の8カ月間で相談件数は1,736件となってお り、直近4カ月は250件前後で推移している。 ながさき移住サポートセンターへの相談件数(月次) (件) 300 263 250 248 257 258 10月 11月 226 200 183 150 168 133 100 50 0 2016年4月 5月 6月 7月 8月 9月 (ながさき移住サポートセンターの資料から当研究所で作成) (2)長崎県へのUIターン者数と県・市町への相談件数の推移 移住に関する県・市町等の窓口への相談件数は、14年度の781件から15年度1,965件、16年度は 10月までの7カ月間で2,220件と大幅に増加してきている。また、県・市町等の窓口を介したUIター ン者数は12年度の126人から15年度213人、16年度(10月まで)248人と増加してきている。 相談件数とUIターン者数の推移(長崎県) (件) (人) 2,500 300 2,220 相談件数 2,000 1,965 248 相 談 件 数 213 1,500 126 136 1,000 180 140 120 781 571 622 500 0 60 2012年度 13年度 14年度 15年度 *UIターン者数は県・市町等の窓口を介したもの *相談件数は県・市町等の窓口受付 (ながさき移住サポートセンターの資料から当研究所で作成) 12 ながさき経済 2017.3 240 16年度 (10月まで) 0 UIターン者数 UIターン者数 レ ポ ー ト Report 移住のワンストップ窓口 ― ながさき移住サポートセンター 4.サポートセンターにおける現状の課題等 現状の課題について、サポートセンターでは次の点を挙げている。 ① 県内外への認知度の更なる向上が必要 (相談件数も増加してきているが、更なる認知度の向上が必要。) ② 住まい探し支援の強化、充実(空き家バンク含む)が必要 ③ 「長崎で働く」支援の領域拡大(起業支援)が必要 (起業支援の強化が必要と考えている。) 5.課題を踏まえた今後の業務展開 サポートセンターでは、現状の課題を解決していくために、以下の事項等に取組んでいくとし ている。 ① 認知度向上については、サポートセンター開設を機にホームページの大幅リニューアルお よびフェイスブックの開設等で情報発信に努めており、ホームページでは15,000ビュー/月、 フェイスブックは440件を超えるフォローとなっている。今後もマスコミ/メディアに採り 上げられるような各種イベントを企画・実施し認知度向上を目指す。 ② 県外向けへの認知度向上策としては、2016年度に東京、大阪、福岡で開催した移住関連相 談会を、17年度は名古屋でも実施予定であり、また、県外での個別就職相談会についても17 年度は9回程度と大幅な開催数の増加を予定している。 ③ 各種相談会等についても、 「島暮らし希望者」等、ターゲットを明確にし、訴求力を高め たリアルイベントの開催を通して、県外在住者へのサポートセンターの認知度を上げ、利用 促進に努める。 ④ 県内向けについては、「子・孫ターン」等、県内在住の親、祖父母、知人等から県外居住 者へのUIターンを呼びかける企画を17年度も実施予定。 ⑤ 就職・転職支援については、UIターン希望者には「長崎県での就職・転職は可能である こと」、求人企業には「優秀なUIターン者の採用が可能であること」を更にアピールしながら、 県内へのUIターン就職・採用の機運を高めていく。 ⑥ 「長崎で働く」支援というテーマに対しては、今後は「起業」も強化していく(有人国境 離島新法のアピールを含む)。 ⑦ 今後、東京窓口を2名体制とし、よりきめ細かい支援と対応量の増加を図っていく。課題 である住まい探し支援の強化も含め、関連機関・団体との連携強化をしていく。 ながさき経済 2017.3 13 さいごに 人口減少の解決策として移住の取組みが各地で行われているが、移住促進による効果は次のよ うな事項等があり、地域の活性化につながるものと考える。 ①経済的効果 ・空き地、空き家等の有効活用(売買、賃貸の発生) ・新居の建築、リフォームに伴う建築業者への発注 ・建築資材や家財の地元購入 ・地域消費の増加 等 ②社会的効果 ・人口増加がもたらす活気 ・地域構成員の多様性 ・地域文化の継承 等 ③教育的効果 ・都市住民からの刺激による啓発 ・地域文化の向上 等 ④その他効果 ・異なった意識・価値観を有する者との付き合いによる住民意識の刺激、活 性化 ・都市住民への農林業、漁業や地方での生活への理解の普及 等 サポートセンターでは、無料職業紹介事業所としての機能を生かし、仕事や住まい、生活環境 などの相談に一体的に対応している。今後、サポートセンターの認知度が更に高まり、移住相談 が増加し長崎への移住者が増加することを期待したい。 (上村 秀明) (参考) ◎ながさき移住サポートセンター(長崎本部) 住 所 〒850−8570 長崎市江戸町2−13(長崎県庁本館2階) 電 話 095−894−3581(直通) 業務時間 平日(月∼金)午前9時∼17時(祝祭日、12/29∼1/3を除く) 「ながさき移住ナビ」のHPアドレス http://nagasaki-iju.jp/ ◎ながさき移住サポートセンター(東京窓口) 住 所 〒100−0006 東京都千代田区有楽町2−10−1 東京交通会館8階(NPO法人ふるさと回帰支援センター内) 電 話 080−7735−3852(直通) 業務時間 (水・木・金・土・日)午前10時∼18時 (祝祭日、8/11∼17、12/26∼1/4を除く) 14 ながさき経済 2017.3
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