保険数理学特論ⅢA リスク理論1(第3回) 保険料計算原理

保険数理学特論ⅢA
リスク理論1(第4回)
リスク選好
保険制度を支える原理と法則
大阪大学大学院
金融保険教育研究センター
2015年5月25日
大塚忠義
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講義資料
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から各自事前にダウンロードしてください
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リスク回避
人間は目の前に損失の可能性があるときは、
利益の現象よりリスクの回避を優先する
リスク中立な価格、給付反対給付の原則に
基づく価格より高い費用を支払ってもリスク
の回避を優先する
この差額をリスクプレミアムという
問題はどの程度までリスクプレミアムを支払
うことを許容するか
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純保険料
収支相等の原則
等号が成立することを仮定して次のように
表わすことができる
N×P=m×Z
給付反対給付均等の原則
給付と反対給付は等価であるべき、つま
り保険金支払総額と保険料収入総額は同
値であるべき
P=Z×m/n= Z×w
w: 事故発生確率
営業保険料
営業保険料=純保険料+付加保険料
・純保険料:保障の対価として必要な保
険料
・営業保険料:契約者が実際に支払う保
険料
・付加保険料:保険業務の維持・管理に
充てる保険料:事業費相当分とされるが
それだけとは限らない。付加は上乗せと
いう意味合い
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リスク回避に関する質問
自分は一定の収入(月80万円)があり、
配偶者と2人の就学児童がいる
豊中の3LDK(5千万円)のマンションを
購入。 住宅ローンを含め、月の平均経
費は60万円
なお、家計の管理者はあなたとする。
次の保険のうちどれに加入するか
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リスク回避に関する質問
1.火災保険
2.家財保険
3.自動車保険(任意保険)
4.自分の生命保険
5.自分の医療保険
6.配偶者の生命保険
7.配偶者の医療保険
8.こども保険
9.自分の個人年金
10.配偶者の個人年金
7
リスク回避に関する質問
自分が加入するとした保険それぞれにつ
いて、月の保険料をいくらまでなら支払う
か?
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リスク回避に関する質問
毎月の収入と支出の差額である20万の
使い方を振り分けよ
1.貯金
2.損害保険
3.生命保険
4.自分の小遣い
リスクの移転にどの程度のコストを負担
することができるか
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リスクの嗜好に関する質問(1)
コインを投げて表なら100円貰い、裏な
ら100円払う
コインを投げて表なら200円貰い、裏な
ら100円払う
5億円を狙って宝くじを3千円買う(ただし
期待払戻率は60%)
1千万円相当の家を持っている。火事で
全焼する確率は1/1万
2千円払って火災保険に加入する
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リスクの嗜好に関する質問(2)
1.預金:100万円預けて満期150万円
2.株式:100万円の元手で50%の確率
で成功
2-1.成功したら200万円失敗したら100
万円
2-2.成功したら300万円失敗したら0
どれを選びますか?
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リスクの嗜好に関する質問(3)
1.預金:100万円預けて満期150万円
2.株式:100万円の元手で10%の確率
で成功
成功したら1500万円失敗したら0
どれを選びますか?
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リスクの嗜好に関する質問(4)
1.預金:100万円預けて満期150万円
2.株式:100万円の元手で10%の確率
で成功
成功したら2000万円失敗したら0
どれを選びますか?
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プロスペクト理論
質問1:
選択肢A:100万円が無条件で手に入る
選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円
が手に入るが、裏が出たら何も手に入らな
い
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プロスペクト理論
質問2:
あなたは200万円の負債を抱えているものと
する
選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、
負債総額が100万円となる
選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが
全額免除されるが、裏が出たら負債総額は
変わらない
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プロスペクト理論
質問3:
あなたは今後1年間に100万円の損失を抱
える恐れがある(発生確率は不明)
選択肢A:何もしない
選択肢B:大学に10万円支払えば、損失が
発生したときに大学がその債務を弁済してく
れる
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アニマルスピリット
一般的には、質問1では堅実性の高い「選択肢A」
を選ぶ人の方が圧倒的に多い
質問2も両者の期待値は100万円と同額である。し
かし、質問1で「選択肢A」を選んだほぼすべての
人が、質問2ではギャンブル性の高い「選択肢B」
を選ぶことが立証された
この一連の結果が意味することは、人間は目の
前に利益があると、利益が手に入らないというリ
スクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損
失そのものを回避しようとする傾向があるというこ
とである。
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行動経済学
金融工学に心理学の視点をいれて経済行動を
説明する
アニマルスピリット:リスクに対して、人は原始の
生存本能に基づき行動する傾向がある
つまり、人は金融工学理論にあるように合理的
な投資判断をするわけではなく、損失を嫌がる
本能が合理的な行動にゆがみを与える
カーネマン:2002年、『プロスペクト理論』により
ノーベル経済学賞を受賞
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期待効用原理
不確実性を持つ対象の選択では、期待
値の大小ではなく、「効用」の期待値の大
小によって選好が決まる
保険購入の際の判断要因は、十分な情
報によって既知となる純保険料の大小で
はなく保険購入によって得ることができる
効用の大小によって選好が決まる
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期待効用関数
E(u(x)):効用の期待値
効用関数u(x)>0
一般に、E(u(x))>E(X)
顧客が選考し、購入の判断を行う価格
営業保険料= E(u(x))=E(X)+L
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金融工学
リスク、ボラティリティ、相関の考えをもとに
最適の株式投資を行うための理論として
始まる
株が博打から数学的理論へ
ハリー・マーコビッツ: 1990年、『ポート
フォリオ理論』によりノーベル経済学賞を受
賞
オプション・プライシング
⇒証券化商品へと発展
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休憩
休憩
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保険技術的条件
「収支相当の原則」「大数の法則」
を成立させるための条件を備えて
いること
•対象リスクの測定値に関する信頼性
•リスクが保険の対象とできる性格を有
している
保険制度を支える原則と法則
収支相当の原則
損失を被るかもしれない n人から保険料P
を集め、 n人のうち実際に損失を被ったm
人に対してその資金をすべて保険金Zとし
て過不足なく支払うことである
大数の法則
偶然発生の事象は観測数が多くなるほど
実際の結果が予想の結果に近づく
収支相当の原則(1)
等号が成立することを仮定して次のように
表わすことができる
N×P=m×Z
給付反対給付均等の原則
給付と反対給付は等価であるべき、つま
り保険金支払総額と保険料収入総額は同
値であるべき
P=Z×m/n= Z×w
w: 事故発生確率
収支相当の原則(2)
この式からわかること
-支払うべき純保険料は事故発生確率の
大きさに依存する。
‐保険者にプールされた資金の総額は将
来の保険金支払合計額の予想と等しくな
るべきである
収支相当の原則(3)
•200万円の新車1000台の購入者が
車両保険に加入
•事故があったら必ず全壊すると仮定
•統計調査より事故確率は3/1000
P=Z×w=200万×3/1000=6,000円
しかし、実際にはある年は4台の事故別
の年は1台も事故が起こらないかもしれ
ない。
大数の法則(1)
大数の法則:観測平均 と真の平均(確
率)pの関係を示したもの
lim P( X  p  c)  0
n 
観測平均と真の平均の乖離が任意の常
数cより大きくなる確率は、観測数が無限
大になれば、ゼロに収束する
一般的には真の平均(母平均)はμで表
すが、確率を示すためpとしている
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大数の法則(2)
偶然発生の事象は観測数が多くなるほど
実際の結果が真の結果に近づく
(実際の結果÷観測数)は発生確率に近
づく
大標本で観測された平均は母集団の真の
平均(母平均)とみなしてよい
プールは大きい方がよい
未知の母平均を知るためにはどの程度の
標本数、モデルを作成すればよいか?
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大数の法則(3)
正確なコイントスイング(確率は0.5)
すべて表の確率は
1回:0.5
10回:0.00098
0.5の10乗
50回: 0.00000000000000089
0.5の50乗
大数の法則(4)
正確なコイントス(確率は0.5)
ちょうど半分表が出る確率は
10回投げて表が5回:0.25
100回投げて表が50回:0.080,49回:
0.079,48回:0.073,47回:0.067・・
47-53回表が出る確率:0.518
中心極限定理(1)
大数の法則より一般化された理論
近代統計学の基盤をなす定理
母集団分布が何であれ、母平均、母分散
が存在すれば Sn  X1   X n の確率
分布はnが十分に大きいとき、概ね正規
分布に従う
二項分布の場合 Sn : B(n, p) : N (np, npq)
pq
X : N ( p, )
n
中心極限定理(2)
厳密に表すとnを無限大にすると次のよう
になる
b
S n  n
1
lim P(a 
 b)  
e
a
n 
n
2
x2

2
dx
正規分布
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バリューアットリスク(VaR)
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実務に用いる死亡率
標準生命表2007
標準責任準備金計算のための死亡率
(大蔵省告示第48号)
死亡保険用
年金開始後用
第三分野(医療保険用)
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