保険数理学特論ⅢA リスク理論1(第3回) 保険料計算原理

保険数理学特論ⅢA
リスク理論1(第6回)
付加保険料、
リスクと収益
大阪大学大学院
金融保険教育研究センター
2015年6月22日
大塚忠義
1
用語の確認
・純保険料:保障の対価として必要な保
険料
・営業保険料:契約者が実際に支払う保
険料
・付加保険料:保険業務の維持・管理に
充てる保険料:事業費相当分とされるが
それだけとは限らない。付加は上乗せと
いう意味合い
営業保険料=純保険料+付加保険料
2
付加保険料
営業保険料=純保険料+付加保険料
Px  Px  c
Px  (1  k ) Px
3
付加保険料体系
α-β-γ方式:日本の多くの保険会社が
採用している方式
名称
記号
発生時期
対象
予定新契約費
α
新契約時
保険金比例
予定集金費
β
保険料払込期間
保険料比例
予定維持費
γ
保険料払込期間
保険金比例
払済後予定維持費
γ'
保険料払込満了後、一時払
保険金比例
4
付加保険料例
1995年の国内生保の標準的な付加保
険料率
名称
記号
水準
対象
予定新契約費
α
対千 25円
保険金比例
予定集金費
β
3%
保険料比例
予定維持費
γ
対千 2.40円
保険金比例
払済後予定維持費
γ'
対千 1.00円
保険金比例
現在(2006年以後)は予定事業費率は
認可事項でなくなった:標準は存在しな
い:公表されない
5
営業保険料
Pxa x:m  Ax     Pxa x:m   a x:m   (ax  ax:m )
Px 
Ax     a x:m   (ax  ax:m )
(12)

Px

(1   )a x:m
Ax     a x:m   (ax  ax:m )
(12)
12(1   )a (12)
x:m
(12)

Px
 Ax     ax
6
予定事業費(1)
予定新契約費:新契約の獲得に要
する費用:代理店手数料、営業職
員の報酬、営業拠点の経費、診査
費用、新契約事務コスト、広告宣伝
費⇒多くは新契約時に使用するコ
スト
7
予定事業費(2)
予定維持費・予定集金費:保険契
約の維持管理に要する費用:人件
費、物件費、保険料収納にかかる
諸費用
8
予定事業費(3)
新契約費:多くは契約締結時に使用
する:契約時に全額使用する構造
になっている
募集手数料体系との整合性
手数料は、例えば
死亡S対万:150円
9
予定事業費(4)
維持費・集金費:今ではこのような区分
けは現実的ではない:どちらも契約の
維持管理コスト
かっては担当者が個別に訪問して保険
料を集金した(集金手数料の発生)
払込満了後、一時払の維持費は、払込
中の半分程度:集金費ゼロ
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予定事業費(5)
営業保険料の水準と新契約費(=募集
手数料)の水準は不可分
死亡率、利率は適正水準が分かりやす
い
事業費、特に新契約費は保険会社の
恣意による部分が大きい
規制当局、消費者団体が気にする点
11
予定事業費(6)
視点は、
1.付加率(=予定事業費/営業保険
料):どの程度が適正か?20, 50%?
2. 保険種類間、年齢・期間のバランス
3. 支出構造との整合性
4. 予定事業費収入と支出事業費の関
係:支出<収入?
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その他の付加保険料
ポリシー・フィー
保険契約1件当たりのコスト
Px(12) 
(ax  ax:m )
Ax     a (12)


x:m
12(1   )a x:m
(12)

ε:1000円
高額契約に有利で、小口に不利
日本では高額割引のほうが多く用いら
れている
13
その他の付加保険料
ポリシー・フィー
保険契約1件当たりのコスト:事業費支
出との対応関係は良い
維持費の支出構造は、保険料や保険
金に比例するものは多くない
トランザクションコスト:1件当たりXX円
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その他の付加保険料
団体保険、共済
Px  (1  k ) Px
Simple is best
15
新契約費の留意点
1.手数料水準との関係
募集組織への動機づけ
新契約の大きさと対象
S建て:若年齢中心の販売、死亡保障
重視
P建て:高年齢を対象の販売
2.解約返戻金との関係
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保険料の分解(1)
P  vqxt 1 (1  tV )  (v tV  t 1V )
第1項:危険保険料:当該保険年度中の
保険金支払いに充当する部分
第2項:蓄積保険料:当該保険年度中は
使用せずに責任準備金の積み増しに使
用する部分
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保険料の分解(2)
P  vqx t 1 (1  tV )  (v tV  t 1V ) 

a x:m
  Px  
P1  vqx t 1 (1  tV )  (v tV  t 1V )     Px  
P2  vqx t 1 (1  tV )  (v tV  t 1V )   Px  
平準純保険料式に対し、初年度に新契
約費をすべて使用するためには蓄積保険
料をへらす⇒責任準備金積立額を減少さ
せる
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過去法による保険料積立金と保険料の関係
ファクラーの再帰式
V  P  vqxt 1  vpxt 1 tV
t 1
被保険者のために積み立てた金額を計
算式で表わしている
個々の契約に対して値を計算できる
P ' (vqx     Px   )  vpx 1V 



V

P
'

(
vq




P
t 1
x  t 1
x   )  vp x t 1 tV
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休憩
休憩
20
リスク回避に関する質問
自分は中堅規模の保険会社のリスク管
理担当役員である
長期的に自社を破綻させないための方
針を5つ提示せよ
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リスク回避に関する質問
そのうち、
価格設定
保障内容
市場競争に係る項目について説明せよ
会社がつぶれないための商品価格の水
準は???
高ければよいというものではない!!
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収益に関する質問
自分は中堅規模の保険会社の収益管
理担当役員である
保険会社の収益のどこから、またはどの
ようなプロセスで生まれるか考えてみてく
ださい
収益の源泉となる項目を3つ以上あげよ
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収益に関する質問
会社の収益は、保険料の予定率と実績
率との差によって生じる。これらは死亡差、
利差、事業費の差に区分できる
それぞれどの項目の大小に依存するか
1.総資産
2.収入保険料
3.保有契約高
4.新契約高
5.保有契約件数
6.新契約件数
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収益に関する質問
発生した収益の使い道は何が適当か?
1.株主への配当
2.保険契約者への配当
3.従業員へのボーナス
4.役員へのボーナス
5.会社の留保(使わない)
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収益に関する質問
今年度は、100億円の収益が生まれる
見込みである。
それぞれにいくらずつ配分するか?
1.株主への配当
2.保険契約者への配当
3.従業員へのボーナス
4.役員へのボーナス
5.会社の留保(使わない)
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コーポレートファイナンスの基礎
起業するには資金が必要
自己資本+借入金
事業を拡大するにも資金が必要
自己資本+利益準備金+借入金
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コーポレートファイナンスの基礎
起業するには資金が必要
自己資本:株式:返済の不要な資金:事
業の失敗によりゼロのなることもある
負債:借入金または社債:返済の必要の
ある他人資本
事業が破たんしたら負債を返済し、残金
を株主に分配
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コーポレートファイナンスの質問(1)
あなたは、有用なソフトウェアを開発した
絶対に売れるという確信がある
1. A社からすべての権利を1千万円で買
い取るという申し出があった
2. もし会社を作るなら資金を提供すると
親から申しであった
あなたはどうする?
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合理的な回答は
会社を作った場合に想定される収入の現
価は?
=投下した自己資本に対する利益率?
1千万円を超えているか?
その場合の現価率はいくらにすべきか?
無リスク金利+リスクプレミアム
通常10~15%は最低でもほしい
それとも息子を信じるか?
30
コーポレートファイナンスの基礎
起業するには資金が必要
株式:会社の利益を受け取る:会社の経
営権を持つ:事業が失敗するとゼロ
社債:一定の利息を得る:無リスク金利+
リスクプレミアム
リスク:株式>社債
利益:株式>社債
リスクプレミアム:株式>社債
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コーポレートファイナンスの基礎
リスクの分散
株式を多くに人に持ってもらう:自己資本
の増加:典型例は株式の上場=不特定
多数の人が株式を保有=経営権が分散
上場企業における
利益の留保:事業拡大への投資:収益期
待の増加:株価の上昇
利益の分配:株主配当の増加:株式保有
の魅力の拡大
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コーポレートファイナンスの基礎
必要資本に対し自己資本ではなく借入金
で賄う:自己資本の増加を抑制し、借入
金の割合を増やす:株主利益率(ROE)が
向上
レバレッジ(てこ)効果:利益率の向上+リ
スクの拡大
もちろん、どちらの手段でも投下資本に対
する成果(利益)は同じという前提
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コーポレートファイナンスの質問(2)
ソフトウェア製造会社を作るには、1千万円
必要である
①あなたの自己資金200万円②銀行は融
資すると言っている③親は出資OK④友人
も数人出資し、事業に参加するといってい
る
あなたの会社の自己資本の割合、自己資
本の構成はどうしますか
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MM理論
アメリカのフランコ・モディリアーニとマートン・
ミラーが1958年に提唱した、資本構造におけ
る近代的思考の基礎、完全な市場の下で企
業が資金調達を行うときには、資金調達方
法の組み合わせ方を変えても企業価値は変
化しないという定理である。モディリアーニ=
ミラーの定理(Modigliani-Miller theorem)、
資本構造の無効性原理(capital structure
irrelevance principle)とも呼ばれる。
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コーポレートファイナンスの質問(3)
あなたは、株主のどの程度の配当を約束し
ますか
参考
1年定期預金 0.025%
3か月国債 0.1%
10年国債 0.8%
AAA格企業の5年社債 0.9%
銀行借入金利:6.0%
消費者金融:16.0%
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自己資本のコスト
あなたは、株主のどの程度の配当を約束し
ますか
無リスク金利+リスクプレミアム
リスク
経営経験なし、事業実績なし、市場はなし
セールス経験なし、知名度ゼロ
プラス点
新製品の感触はよい、銀行融資確約
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コーポレートファイナンスの質問(4)
会社はだれのもの?
あなたは、有用なソフトウェアを開発・製
造・販売する会社を設立し、社長に就任
1. 社長であるあなた
2. 株主であるあなたの親、友人
3. 開発に協力し、役員になった友人
4. 会社設立に協力した従業員
5. その後入社した従業員(正規・非正規)
6. 資金を提供した銀行
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コーポレートガバナンス(企業統治)
企業の持ち主は間違いなく、「株主」
しかし、影響力の大きな会社の方針を「株
主」の意向だけでは決めるのは無理
そもそも大会社の株主の数は多く、少数の
意向では動けない
そうなると実質的な意思決定者は
経営者? オーナー一族? 銀行?労働
組合?
経営者・・従業員出身、株主、社長の親族、
銀行からの出向、役所からの天下り
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コーポレートガバナンス(企業統治)
ステークホルダー:その団体と直接、間接に
利害を持つ関係者
株主
従業員(正規・非正規)
取引先
顧客
債権者(金融機関、仕入先)
国、地方公共団体(納税先)
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コーポレートガバナンス(企業統治)
マネジメント(運営):首脳部で決定された
方策を実行するための方策
内部統制(内部管理・監督):その運営状況
をいかに管理・監督するか
監査:企業のシステムが健全に機能してい
るかを審査する(内部監査と外部監査に別
れる)
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コーポレートガバナンス(企業統治)
プリンシパル=エージェンシー理論
雇い主と被用者の利害は一致しない
株主と経営者の利害は一致しない
ティッシュ配りのアルバイトの目的は宣伝し
ている商品の販売ではない
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保険会社のリスクと収益
保険会社の業務は他者のリスクを引き
受けること
リスクの引き受けに際して、価格にリス
クマージンを加える=保守性の加味
リスク・マージン=プロフィット・マージン
保守性=収益性
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保険会社のリスクと収益
保険会社の業務は他者のリスクを引き
受けること
リスクの引き受けに際して、価格にリス
クマージンを加える=保守性の加味
リスク・マージン=プロフィット・マージン
保守性=収益性
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伝統的な保険料の計算原理
- 科学的生命保険事業の基礎
・「収支相等の原則」と「大数の法則」を基に確立
・年齢別の予定死亡率と予定利率により平準式
保険料を算出
・ 250年間不変
- 収支相等の原則
収入する保険料総額と支出する保険金および
諸経費の総額とが相等しくなるように保険料を定
める
45
45
収支相等の原則
損失を被るかもしれないn人から保険料Pを集
め、n人のうち実際に損失を被ったr人に対してそ
の資金をすべて保険金Zとして過不足なく支払う
ことである
nP  rZ
給付反対給付の原則
r
P  Z ωZ
n
大数の法則によりnが十分に大きいときωは損
失の発生率となる
46
46
保険料の十分性
- 約款で定める給付の支払を保険期間にわたっ
て保険料の収入によって賄えること
- 保険料は保証されており変更することができな
い
- 予定死亡率、予定利率、予定事業費率のそれ
ぞれ保守的に設定される
- 保守部分は
保険団体の損失に備えるマージン かつ
保険会社の利益の源泉
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保険会社のリスクと収益
保険料率:事故発生の確率×損害額
事故発生確率=事故発生の期待値
期待値以下となる確率:50%
期待値+2σとなる確率:95%
95%の確率で収益が生まれる
残り5%で利益が消え
もっと少ない会社で会社が消える
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予定死亡率の十分性
qx  qx  2σx
qx
:X歳の標本死亡率
2σx:X歳の死亡率の標準偏差の2倍
予定利率の十分性
-合理的導出式は存在しない
- 90年代には予定利率と運用利回りは接近し、
逆転もみられる➭逆ザヤの要因
-金利の自由化以後は決定論的な手法では、金利
リスクの管理は困難
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国債の利率と予定利率の推移
9.00
8.00
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
1972
1975
1980
1985
1990
1995
国債
国債は、10年新発債応募者利回りの年間平均である。(財務省HPより)
2000
2005
2010
2013
新たな保険料計算原理の要件
- 競争力のある保険料の提供 かつ
- 必要な保守性の確保
計算過程で保守額が明示的に把握できる計
算原理
保守額=利益額
- 利益を支出の一部とみなして相等を図る
- 利率の適正な保守部分を導出する理論
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公正保険料(1)
十分に知識・情報を持った数多くの消費
者と 十分な数の保険会社が存在する完
全に競争的な市場において、通常の保険
契約締結に用いられる保険料
=公正保険料
=期待保険金+期待利益
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公正保険料(1)
公正な期待保険金
最も起こりうると考えられる死亡率、利率を基
に算出する保険料
i.e. 保守部分を含まない保険料
: 最良推定保険料と名付ける
期待利益
保険会社に投資した資本に対する公正な利益
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期待利益(1)
期待利益=必要資本×資本コスト率
必要資本
保険事業を安定的に営むための資本
➭想定を超える保険事故による損失に対し、破
綻確率を低める
: 目標ソルベンシーマージン比率(SM比率)を
維持できる自己資本額
54
期待利益(2)
目標SM比率:経営者、株主、契約者が許容す
る破綻確率
(株主)資本コスト:ハードルレート
無リスク金利+リスクを考慮して(株主が)期待
する利益率
➭経営者が株主に対して約束するROEを活用
55
Question?
お疲れ様でした
56