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国際経済学
(11)リスクと金融仲介
丹野忠晋
跡見学園女子大学マネジメント学部
2011年1月24日
復習1
 今得たお金を将来のために取っておく
行為を貯蓄という
 単利は預けた元本に毎期利子が付く
 複利は前の期の元利合計に利子が付く
 割引現在価値とは将来の金額を現在の
金額で評価した場合の金額
2011/1/24
国際経済学11
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復習2
 利子率の上昇は来年の消費に比べ今年
の消費は不利になる
 利子率が上昇すると借り入れによる消
費は難しくなる.
インフレーションとは複数の財の全般的
な上昇.
 インフレ率とは物価の上昇率を表す

2011/1/24
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3
復習3
 将来の消費を考えるには将来の価格と
利子率の両方を考えねばならない.
 実質利子率は今年の消費を控えて貯蓄
したならば,来年どれだけ消費が増え
るかを表す
 日本は現在利子率が低いがデフレなの
で実質利子率は他の先進国と比べ高い
2011/1/24
国際経済学11
4
今日学ぶこと
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
リスク
投資
収益とリスクのトレードオフ
リスクと保険
金融仲介と決済
貨幣の機能
大きく変動する資産価格
分散投資
2011/1/24
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実質利子率の決まり方
この札束をあげるが使っちゃ行けません
 金額ではなく消費量が重要
 実質利子率が資金の価格

同じ名目利子率でもインフレ率が違えば将
来得られる財の数量が異なる
 実質利子率3%の方が2%よりも貯蓄に有利
 3%の方がたくさん貯蓄するだろう
 貯蓄(saving)とは収入のうち消費しなかった
残り.資金の供給曲線が貯蓄曲線になる

2011/1/24
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実質利子率 (%)
貯蓄曲線と実質利子率
貯蓄曲線は右上がり
になる
5
貯蓄曲線
(円)
500兆
2011/1/24
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投資は資金需要を表す
例1:企業は工場を建てたり,機械設備を設
置する
 例2:政府は道路や港湾施設を建設
 例3:個人は教育に投資をする
 投資 (investment) は将来の利益を増加させる
ために現在の資金を投じる活動

現在のお金を支出するが手持ちがない場合
には借り入れをする
 借り入れの価格が実質利子率

2011/1/24
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投資は資金需要を表す
現在の財を諦めて将来の財を増やす活動な
ので実質で考える
 名目ではない

実質利子率が高ければ,それに見合う投資
計画でなければ投資の元を取れない
 投資曲線は右下がりの曲線になる

2011/1/24
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実質利子率 (%)
投資曲線と実質利子率
投資曲線は右下がり
になる
6
投資曲線
(円)
300兆
2011/1/24
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実質利子率 (%)
均衡実質利子率
5
貯蓄曲線
実質利子率は貯蓄曲
線と投資曲線の交点
で決まる
投資曲線
(円)
500兆
2011/1/24
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実質利子率 (%)
現在の実質利子率
貯蓄曲線
r
r*
日本の実質利子率は
+1.4% で低いが他先進
国はマイナス.貯蓄超過
の状態.
投資曲線
(円)
2011/1/24
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一般均衡と部分均衡分析
物価の変動で資金の需給が変わる
 財市場と資本市場は互いに関連している


すべての市場を視野に入れた研究が一般均
衡分析

注目する市場のみを考えるのが部分均衡分
析
難しさを避けるために資本市場に焦点を当
てる
 一定の物価水準は名目利子率として分析

2011/1/24
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名目利子率 (%)
物価一定の名目利子率
貯蓄曲線
5
投資曲線
(円)
500兆
2011/1/24
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リスク
資金を調達する問題以外にも投資にはリス
クという問題がある
 リスクとは将来が不確実なので発生
 例1:真央がスケート場を経営.寒さが厳しけ
れば儲かる.暖冬ならば客が来ない
 例2:石川遼がゴルフ場を経営.暖冬ならばお
客がたくさん来る.厳冬ならば儲からない


時間が経てばこの冬は寒いか暖かいかは分
かる
2011/1/24
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リスク/2

将来のことは誰も分からない
生命保険,損害保険,公的年金制度がある
ように普通人々はリスクを避ける
 世界の状態:寒い冬,暖冬
 それに確率を付与.同じ割合で起こるなら
寒い冬は 50% の確率,暖冬は 50%


世界の状態とそれに付与される確率で不確
実性を表現する
2011/1/24
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リスク/3

例1:
寒い時の真央スケート場の利益が 100 万円.
暖冬の利益 20 万円.
 確率 0.5 で 100 万円,確率 0.5 で 50 万円

確実な高い収益と低いリスクが望ましいと
はリスク回避的という

不確実性の下で将来の収益はどう表現され
るか?
2011/1/24
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期待収益
確率と投資収益の金額が分かればその期待
値を求める事ができる.
 期待収益= 状態 1 の確率×状態1 の収益+状
態 2 の確率×状態 2 の収益
 例1:
期待収益 =寒い冬の確率×寒い冬の収益+
暖冬の確率×暖冬の収益
= 1/2 *100+1/2 *20
=50+10=60

2011/1/24
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期待収益/2
例 2 :石川遼のゴルフ場,寒い冬の収益は
10 万円,暖冬の収益は 80 万円.
期待収益=寒い冬の確率×寒い冬の収益+
暖冬の確率×暖冬の収益
= 1/2 *10+1/2 *80
=5+40=45
 真央のスケート場の期待収益 60 >石川遼の
ゴルフ場の期待収益 45
 真央スケート場の方が投資として望ましい

2011/1/24
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リスクと散らばり

例 3:イチローは今川焼き屋を経営:寒い冬
の収益は 120 万円,暖冬の収益は 0 円
期待収益=寒い冬の確率×寒い冬の収益+
暖冬の確率×暖冬の収益
= 1/2 *120+1/2 *0 =60+0
=60
 真央のスケート場の期待収益 60と同じ


しかし,イチローの方が収益の散らばり具
合が大きい
2011/1/24
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収益(円)
120
両者の
期待値
は同じ
100
赤は真
央の収
益
緑はイチ
ローの収
益
60
20
収益(円)
A
0
2011/1/24
20
60
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100
120
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リスクと散らばり/2
イチローの方が高い方と低い方に散らばる
 散らばりが小さいほど望ましい
 この散らばり具合は数学的には分散で表す

低いリスクと高い収益率はトレードオフの
関係
 ハイリスク・ハイリターン
高い収益のためには高いリスクを負担しな
ければならない
 問い サイコロの出る目の期待値を求めよ

2011/1/24
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リスクと保険/1
多額の出費が伴う大型プロジェクトを数多
くの人々の出資で賄う
 一人が出資~失敗したら大損害
 多数の人々~出資者の個々の損害は小さい

多数の人々が出資することで大きなリスク
を分散できる
 死んだら悲しく所得も失われる


生命保険は被保険者が死んだら保険金が支
払われる.契約者は毎期保険料を支払う
2011/1/24
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リスクと保険/2

世界の状態:大黒柱の死
残された人は保険金を得る.保険会社は保険金
を支払う必要
 遺族の悲しさを遺族と保険会社に分散している

実際は保険に加入している人々の保険料から保
険金が支払われる
 不幸はたまに起こる.多数の人々でそれを分散
 人々が不幸を分け合ってその被害を和らげる
 生命保険は悪い状態にかける一種のギャンブル

2011/1/24
国際経済学11
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金融仲介

貸出する人の資金 → 借り入れする人の資金
多額の資金のやり取りでは貯蓄の資金を現
金化して借金する人に渡すことは稀
 盗難の危険,保管の手間,数える手間
 借金する人の銀行口座に振り込まれる
 銀行が仲介:債権者 → 銀行 → 債務者
 例4:真央がスケート場を建設予定.真央が
イチロー銀行から金を借りる.石川遼建設
にスケート場建設の代金一億円を支払う

2011/1/24
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金融仲介/2

預金者(債権者)資金→銀行→債務者→支出先

金額が多額になればなるほど銀行間の決済
機能を用いる
真央はイチロー銀行から一億円借りて石川
遼建設の銀行口座へその代金を振り込む
 真央は毎月一定額をイチロー銀行へ返済
 債権者 ←利子1 イチロー銀行 ←利子2真央
 利子の差額(利子2-利子1)が銀行の儲け
 銀行は資金を集めて借り手に貸し出す

2011/1/24
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金融仲介/3

資金余剰主体(債権者)から資金不足主体(債務
者)へ資金を提供するのが金融仲介
石川遼もイチロー銀行に口座を持っていた
とする
 真央の負債額=遼の預金増加
 銀行は現金を必要としない
 真央の返済から預金者へ利子を払っていく
◆問い 遼はナカタ銀行から金を借りて三井不
動産のマンション購入.債権者と債務者?

2011/1/24
国際経済学11
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金融仲介/4
真央が利用している銀行と石川遼建設が利
用している銀行が異なる場合は?
 銀行間の決済システムが取引を完了させる
 真央はイチロー銀行を利用
 石川遼はナカタ銀行を利用

反対にナカタ銀行からイチロー銀行へ送金
する人もいる
 同日,ミキ(ナカタ銀)はマツイ(イチロー銀)
に二億円送金

2011/1/24
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多数の人々の送金
真央から遼
一億円
イチロー
銀行
ナカタ
銀行
二億円
ミキからマツイ
2011/1/24
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日本銀行の役割
イチロー銀行とナカタ銀行の双方向で多く
の人々が送金を行っている
 実際の送金はその差額を振り込む
2億円-1億円=1億円

各銀行は日本銀行に口座を持っていてその
差額を各銀行の口座の振り替えで決済する
 日本銀行における

 イチロー銀行の預金の一億円増加
 ナカタ銀行の預金の一億円減少
2011/1/24
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日本銀行の役割/2
日本銀行
イチロー銀口座
移動
一億円
ナカタ銀口座
一億円
一億円
イチロー
銀行
ナカタ
銀行
中央銀行である日本銀行は銀行の銀行
 銀行はある一定の現金を保有している
 足りなくなれば日銀の預金を現金化する

2011/1/24
国際経済学11
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リーマンショックの原因
多くの銀行のネットワークが決済システム形成
 2008年9月に米国の投資銀行リーマン・ブラザ
ーズの破綻が引き金となってリーマン・ショッ
クと呼ばれる金融危機が発生


一つの金融機関が破綻すると支払不能が他の金
融機関へ波及する
ドミノ倒
し的に
混乱が
連鎖
2011/1/24
跡見銀行へ支払う一億
円が振り込まれない!
一億円
跡見
銀行
イチロー
銀行
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支払
不能
一億円
ナカタ
銀行
経
営
破
綻
32
貨幣の機能
預金も貨幣の機能を持っている
 貨幣の機能とは何だろうか?

1.
一般的交換手段~財やサービスをそれと交
換にいつでも手に入れられる
2.
価値の尺度~異なった財の交換を共通の円
単位で表示する
3.
価値の保蔵手段~将来の必要のために購買
力を蓄えておく
紙幣や現金は貨幣の一部

2011/1/24
国際経済学11
33
資産価格はなぜ変動が大きいのか
資産は将来売却することを予定している
 人々は将来に関して様々な予想を立てる
1. 来年のインフレ率
2. 将来の収益やその確率
 様々な予想を期待形成という
 現在の状態が将来も続く(適応的期待)
 利用可能なデータから期待を形成(合理的)


新薬開発などの企業の売り上げが増加する
ニュースから株価が上昇
2011/1/24
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34
バブル


資産価格の大きな変動は期待形成に依存
バブルは過剰な期待から発生 新薬開発の
株式価格
ニュース
供給曲線
P
新しい需要
曲線
P*
需要曲線
2011/1/24
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数量
35
分散投資の勧め
全ての卵を同じバスケットに入れてはならない
 イチローは野球用品を販売する企画を立案
 世界の状態:野球ブーム,ブーム起こらず
 野球ブームは 50% の確率,ブーム起こらずは
50%の確率
 例5:ブームの時のイチローの利益が 100 万円.ブ
ーム起こらずの利益 20 万円
 例1:寒い時の真央スケート場の利益が 100 万円.
暖冬の利益 20 万円.

2011/1/24
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分散投資の勧め/2

寒い冬になるかどうかは野球ブームが起こるか
どうかに影響されないとする(独立事象)
寒い冬と野球ブームが独立な事象の場合,真央
とイチローの会社両方に分散投資した方が良い
 両方の会社で20万円利益になってしまう確率
0.5 × 0.5 = 0.25
 最悪の状態になる確率が50%から 25%に落ちた


真央の会社に集中投資するのではなく真央とイ
チローの会社に分散した場合
2011/1/24
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分散投資の勧め/3
世界の状態は4通り:(寒い冬,野球ブーム),
(寒い冬,ブーム無し), (暖冬,野球ブーム),
(暖冬,ブーム無し),
 それぞれの確率は25%
 期待収益は真央の会社の期待収益の二倍
0.25*(100+100)+0.25*(100+20)+0.25*(20+100)+0.25
*(20+20)=50+30+30+10=120
 真央とイチローの会社の株を1単位ずつ買った
方が最悪の事態を免れる

2011/1/24
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復習1
貯蓄とは収入のうち消費しなかった残り
 投資曲線は右下がりの曲線になる
 リスクとは将来が不確実なので発生

世界の状態とそれに付与される確率で不確
実性を表現する
 期待収益= 状態 1 の確率×状態1 の収益+状
態 2 の確率×状態 2 の収益
 散らばりが小さいほど望ましい

2011/1/24
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復習2
低いリスクと高い収益率はトレードオフの
関係
 生命保険は多数の人々で不幸を分散
 多額の資金移動は銀行の決済機能を用いる

一つの金融機関が破綻すると支払不能が他
の金融機関へ波及する
 貨幣の機能は一般的交換手段,価値の尺度,
価値の保蔵手段
 卵を全て同じバスケットに入れない

2011/1/24
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40
宿題
テキストp.545問題1
 第19章「開放経済のマクロ経済学」を読む

2011/1/24
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