第一席 一瞬を味わう 松村 美緒

第一席
一瞬を味わう
千葉大学三年(千葉県)
松村 美緒
デジタルカメラやスマートフォンの普及により、誰でも簡単にき
れいな写真が撮影できるようになった。スマートフォンのアプリを
る人はあまり見かけなかったと思う。茶道の場においては、多くの
人が目の前にあるものを、ファインダー越しではなくそのまま受け
取っている。
食べ物は食べるとなくなってしまうが、写真を撮って手元におい
ておくことで、何度でも詳細な姿を見ることができる。撮影した写
真を後から眺め、あの時はこうだったああだった、と思い出すのも
楽しみの一つだろう。しかし写真を撮る間にも、出来立てや食べご
ろの料理は冷めていき、楽しい時間はどんどん流れていってしまう。
撮影すればその姿を恒久的に保存することができるが、その瞬間の
とも多く、ラーメンや焼肉、ケーキやカキ氷など日常の食べ物を撮
人かいる。撮った写真はツイッターなどのSNSにアップされるこ
にも食事に行くと、食べ始める前にまず写真を撮る、という人が何
る。わたしが最近興味を持っているのは食べ物の写真で、友人の中
と思う。その場限りのおもてなしは、印画紙やメモリではなく、も
ているお客様が一体となって作り出すその場の雰囲気を堪能したい
具、お部屋の様子、亭主や半東といった主催者だけでなく、参加し
からずある。けれどそれよりも、そのときのお菓子やお抹茶、お道
わたしにとって茶道は、そういった一瞬の様子を大切にするもの
である。もちろんいいと思ったものを写真に残したい気持ちも少な
様子は見逃してしまうのではないかと思う。
影した写真は、配置や効果を工夫したおしゃれなものや、色合いが
てなされた人の記憶にのみ残るのである。
使えば、撮った写真を加工したり、文字を入れたりすることもでき
鮮やかでおいしそうなものなど、さまざまなものがあり鑑賞者の目
を楽しませてくれる。
わたしは大学から茶道を始め、まだまだ経験は浅いが、日々のお
稽古のときや他の大学の茶道部が開くお茶会に足を運んだときなど、
少ない経験の中でも印象深いものごとに多く出会ったと思う。見た
目にもおいしいお菓子や美しく点てられたお抹茶、季節に合わせた
お道具、お稽古を積んだ亭主と半東の立派な所作などを見て、素敵
だな、と感じる場面は多くあった。けれどそういうものに出会った
ときに、カメラやスマートフォンを取り出して写真に収めようとす