講義スライド6

産業組織論 I
第 6 講: 独占市場の理論 その1
∼独占価格∼
三浦慎太郎
2015 年 5 月 19 日・25 日
神奈川大学
1
概要
⃝ 今回から不完全競争市場を分析する.
➢ 特に価格支配力を持つ企業を分析対象とする.
➢ 中でも完全な価格支配力を企業が持つ,独占を考察する.
⃝ 主なトピック
1. 独占とは?
2. 独占価格と非効率性
➢ 何故独占は禁止されているのか?
➜ 独占価格と過少供給.
➢ 企業が価格支配力を持ちやすい状況とは?
➜ ラーナー独占度.
➜ 需要の価格弾力性.
1. 独占とは?
3
独占とは?
⃝
.
➢ 市場で
が生産している状態.
.
言い換えると,企業間競争が
状態である.
➢ 一企業の供給量 = 市場全体への財の供給量.
➢ 市場への供給量の制御を通じて市場価格へ影響を与える!
➢
を持つと言う.
(
)
⃝ 比較:完全競争市場
➢ 非常に多くの企業が財を市場へ供給している.
言い換えると,企業間競争が
状態である.
➢ 各企業は市場価格へ全く影響を与えることが出来ない.
➢ 価格支配力ゼロ(プライス・テイカーの仮定)
4
⃝ 何故独占市場を考える必要があるのか?
➢ 特殊例を除いて独占市場は稀.何故稀なケースを考えるのか?
⃝ 独占市場を考察する理由:
1.
.
➢ 現実の会社は程度の差はあれ価格支配力を持つ.
➢ 価格支配力を持つ企業の行動の動機は?その帰結は?
2.
.
➢ 完全競争市場を分析する理由と近似.
3.
.
➢ 何故独占は法律で禁止されているのか?
5
⃝ そもそもどのような時に独占は発生するのか?
1.
が存在する状況.
➜ 生産量が多いほど 1 単位あたりの生産費用が小さくなる.
2.
が存在する状況.
➜ 多くの人が使っているほど自分が使った時の便益が大.
➜ 例:規格争い.
3. 法律による
がある状況.
➜ インフラ産業など,公的に認められた独占.
4. 生産に必要な技術が
によって保護されている状況.
➜
としての独占の許可.
6
2. 独占価格と非効率性
7
独占価格と非効率性
⃝ Q.「競争が全く無い場合,独占企業はどのように行動するのか?」
➢ A.「価格支配力により,
(完全競争市場と比べて)
」
(例) 電力会社の意思決定.
➢ 電力会社は
を選択する.
➜
.
➜ 完全競争市場と比較のため.
➜ 価格を選択するとしても結果は変わらない.
➢ 市場需要関数:D(p) = 70 − p,
費用関数:C(q) = 10q
➢ どの程度生産することが最適か?
8
⃝ 需要関数(関数)を逆向きに読んでみる.
p(価格)
➢ いつもの読み方:
➜
(縦軸から読む!)
40
D(p) = 70 p
0
30
q(消費量)
➜ 「価格が 40 ならば,市場全体で
30 単位分の電気が欲されている.
」
9
⃝ 需要関数(関数)を逆向きに読んでみる (続き).
p(価格)
40
P (q) = 70 q
0
30
q(消費量)
➢ 逆向きの読み方:
➜
(横軸から読む!)
➜ 「市場全体で 30 単位分の電気が欲
されている時,価格は 40.
」
➢ 電力会社の立場から眺めてみる: 「
.」
➜ 価格は生産量の関数と見なすことが出来る.
➜
と呼称.
10
p(価格)
40
P (q) = 70 q
0
30
q(消費量)
⃝
.
➢ 需要関数を
の形に変形することで導出できる.
➜ 需要関数: D(p) = 70 − p.
➱
.
➜ 「D(p) だけ生産した場合,市場価格は p となる.
」
➱ “D(p)”を “q”,“p”を “P (q)”と記号を変える.
➜ 逆需要関数:
.
11
⃝ 独占市場における限界収入.
➢ 完全競争市場とは異なり
.
(例) 30 単位生産すれば,価格 40 の下で全て売れてしまう.
➢ 総収入は 30 × 40 = 1200.
➢ 独占市場では,
.
➜ より多くの量を売るためには安くしないといけない.
➜ 仮に 1 単位増やした場合,価格が 1 下がるとする.
➜ 総収入は 31 × 39 = 1209.
➢ したがって限界収入は 1209 − 1200 = .
➢ 何故限界収入が市場価格 (40) と一致しないのか?
i. 生産量増加に伴う収入の増加分:
.
ii. 価格下落に伴う収入の減少分:
.
➜ 収入の最終的変化は 40 − 31 = 9.
➜ 完全競争市場では
だった.(プライステイカー)
12
p 価格
(
)
50
Pq
30
( ) = 70
MR
0
20
q
q 消費量
(
)
⃝ 独占市場における限界収入 (続き).
➢ ii. の効果のため,一般的に
➜ 完全競争市場では ii. の効果なし.
➜
.
➢ 限界収入曲線は逆需要曲線の
位置する.
13
p 価格
(
)
50
Pq
30
( ) = 70
MR
0
20
q
q 消費量
(
)
⃝ 独占市場における限界収入 (続き).
➢ 収入関数: R(q) =
= (70−q)q =
.
➢ 限界収入は
で与えられる.
➜ R′(q) = −2q + 70 ≡ M R(q).
➜ 限界収入関数:
.
➢ 逆需要曲線よりも傾きが急 ➱ 下側に位置.
14
p(価格)
40
M
E
A
10
MR
0
30
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場における利潤最大化.
➢ 完全競争市場同様,
➜ 限界収入関数:
➜ 限界費用関数:
➜ 両者が一致するのは上図の 点.
の水準で決定.
.
.
➢ 生産量 q ∗ の下で利潤が最大化される:
➜
.
15
p(価格)
40
M
E
A
10
MR
0
30
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場における利潤最大化 (続き).
➢ 利潤を最大化するため独占企業は 30 生産する.
➢ 生産量 30 に設定される価格は?
➜ 需要量が 30 となる水準で市場が決定 ➱ 逆需要関数.
➜
(上図 点)
➜ 独占企業の供給量の下での価格を
と呼称.
16
⃝ 独占市場における利潤最大化 (続き).
➢ 利潤最大化の一階条件を用いて解く.
➜ 利潤関数: “収入関数 − 費用関数”で定義.
π(q) = R(q) − C(q) = P (q)q − C(q)
= −q 2 + 70q − 10q =
. (1)
➜ q ∗ の下での利潤関数の傾きはゼロ:
.
(2)
⇒
➜ 独占価格は P (30) = 70 − 30 = 40.
17
p(価格)
40
M
E
A
10
MR
0
30
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 完全競争市場との比較.価格は需給の一致で決定.
➢ 価格は需給の一致で決定.上図の 点.
➜ 均衡価格が
で均衡量が
.
➢ 独占市場では
➜
となる!
18
p(価格)
40
M
E
A
10
MR
0
30
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占企業の利潤.
➢ 比較: 完全競争市場 (均衡価格 10, 取引量 60) の利潤. ➜ 総収入:
➜ 総費用:
➜ 利潤:
.
.
.
19
p(価格)
40
M
E
A
10
MR
0
30
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占企業の利潤 (続き)
➢ 独占市場では独占価格が 40 で,取引量が 30.
➜ 総収入:
.
➜ 総費用:
.
➜ 利潤:
.
(グラフ斜線部)
➜
20
p(価格)
B
C
M
D
A
0
F
30
E
MR
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場の社会余剰.
➢ 比較: 完全競争市場の社会余剰.
➜ 生産者余剰:
.
➜ 消費者余剰:
.
(グラフ斜線部)
➜ 社会余剰:
.
(グラフ斜線部)
➱ 社会余剰が最大化された状態.
.
21
p(価格)
B
C
M
D
A
0
F
30
E
MR
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場の社会余剰 (続き)
➢ 独占市場における社会余剰を求める.
➜ 生産者余剰:
.
(グラフ斜線部)
➜ 消費者余剰: 三角形 BCM の面積.
➜ 社会余剰: 四角形 BM AD の面積.
➜ 三角形 M EA の面積分死加重が発生.非効率!
22
p(価格)
B
C
M
D
A
0
F
30
E
MR
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場の社会余剰 (続き)
➢ 独占市場における社会余剰を求める.
➜ 生産者余剰: 四角形 CM AD の面積.
➜ 消費者余剰:
.
(グラフ斜線部)
➜ 社会余剰: 四角形 BM AD の面積.
➜ 三角形 M EA の面積分死加重が発生.非効率!
23
p(価格)
B
C
M
D
A
0
F
30
E
MR
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場の社会余剰 (続き)
➢ 独占市場における社会余剰を求める.
➜ 生産者余剰: 四角形 CM AD の面積.
➜ 消費者余剰: 三角形 BCM の面積.
➜ 社会余剰:
.
(グラフ斜線部)
➜ 三角形 M EA の面積分死加重が発生.非効率!
24
p(価格)
B
C
M
D
A
0
F
30
E
MR
60
MC
P (q) = 70 q
q(消費量)
⃝ 独占市場の社会余剰 (続き)
➢ 独占市場における社会余剰を求める.
➜ 生産者余剰: 四角形 CM AD の面積.
➜ 消費者余剰: 三角形 BCM の面積.
➜ 社会余剰: 四角形 BM AD の面積.
➜
死加重 (斜線部) が発生.
!
25
⃝ Q.「どのような時に独占企業は強い市場支配力を持つのか?」
➢ A.「
ほど強い市場支配力を持つ.
」
⃝
.
定義 1
ラーナー独占度
ラーナー独占度 L は以下で与えられる:
L≡
=
.
(3)
➢ 市場支配力の程度を測る尺度.
➢ ラーナー独占度は
を表す.
➜ 「価格のうち何パーセントが儲けの部分であるか?」を表わす.
➜ ラーナー独占度が大きいほど
市場支配力を持つと見なす.
26
(例) 電力市場の独占
➢ 逆市場需要関数: P (q) = 70 − q .
➢ 費用関数: C(q) = 10q .
➢ 独占価格は 40 で,取引量は 30.
⃝ 独占価格の下での電力会社のラーナー独占度は.
➢ 独占価格が 40,限界費用が 10:
.
(4)
➢ 即ち,価格の 75% が独占企業の利益となる!
27
⃝
.
➢ 価格変化に対して需要がどの程度敏感に反応するかを表す.
定義 2
需要の価格弾力性
以下のように定義した ϵ を需要の価格弾力性と呼称する:
ϵ≡−
∆q/q
=
=−
∆p/p
.
(5)
➢ q, p:需要量,並びに価格.
➢ ∆q, ∆p:需要量の変化量,並びに価格の変化量.
➢ 「
時に
」を表す.
28
⃝ 需要の価格弾力性の性質:
1. ϵ は最小で 0,最大で +∞ の値をとる.
2. ϵ の値が大きいほど,
する.
➢ 少しの価格変化で需要量が大きく変化する.
3. ϵ > 1 の時,
「需要は
である」と言う.
➢ 逆に ϵ < 1 の時は「需要は
である」と言う.
⃝ 弾力性の大きな財: 価格変化が需要量に
を与える財.
➢ 例: 海外旅行やブランド商品等のぜいたく品.
⃝ 弾力性の小さな財:価格変化が需要量に
➢ 例: 主食や電気などの生活必需品.
財.
29
⃝ ラーナー独占度と需要の価格弾力性.
定理 1 ラーナー独占度 L は需要の価格弾力性 ϵ の逆数と同じ:
L=
=
.
(6)
⃝ 定理 1 より次の結論が導かれる.
➢ 価格弾力性が小(ただし ϵ ≥ 1)ならラーナー独占度は .
➢ ラーナー独占度が大きいほど
市場支配力を持つ.
➜
.
➜ 需要量の減少が僅かならば,価格を遠慮なく上げよう!
⃝ (例) 電力市場の独占.
➢ 独占価格下でのラーナー独占度: L = 3/4.
➢ 独占価格下での電力需要の価格弾力性: ϵ = 1/L =
.
30
応用
⃝ 原油価格の高騰と価格転嫁(神取ミクロ p.294-297)
➢ 原油価格の高騰に伴い,以下のような議論が行われる:
➜ 「コスト上昇のツケを消費者に回すことが出来るのは誰?」
➢ マスコミ・ネット上での大多数の意見:
➜ 「大企業は価格支配力があるので,ツケを消費者に回す」
➜ 「競争に晒されているので,中小企業は価格転嫁できない」
➢ 少数の意見(『読売新聞』 北海道版):
➜ 「中小企業は激しい競争に晒されており,余力がない」
➜ 「そのため小売価格に転嫁せざるを得ない」
➢ どちらも “もっともらしい”常識的議論.
➜ ただし両者は正反対の意見.
➜ どちらが筋の通った理屈か?
31
⃝ 原油価格の高騰と価格転嫁(続き)
➢ ガソリンの需要関数: D(p) = 200 − p.
➢ ガソリンスタンドの限界費用:
➜ 親会社から仕入れる際の卸値と解釈する.
➜ 卸値を 80 円/リッターと仮定する.⇒ 限界費用 = 80.
➢ 原油価格の高騰で卸値が 20 円上がると仮定する.
➢ 完全競争市場と独占市場のケースで比較.
32
p(価格)
100
E
MC
0
E
80
0
100
120
0
MC
D(p) = 200 p
q(消費量)
⃝ 中小のガソリンスタンドによる完全競争市場的状況.
➢ 完全競争市場では,
.
➜ 値上がり ⇒ E から E ′ へ均衡の変更.
➜ 均衡価格は 80 円から 100 円に上昇.
➢ 値上がりは 100% 価格に反映される!
➢
33
p(価格)
M
150
140
100
80
0
A
0
M
MC
0
0
A
50 60
MC
D(p) = 200 p
q(消費量)
⃝ ガソリンスタンドを大企業が所有している独占市場的状況.
➢ 独占価格は,
で決定.
➜ 独占価格の上昇: 140 ⇒ 150 円.
➜ 卸値の上昇は 20 円だが,価格上昇は 10 円.
➢ 値上がりは 50% 価格に反映される!
➢
34
まとめ
⃝ 独占市場とは一企業が
を持つ状況である.
⃝ 独占市場が発生する主な理由は,
・
・
など.
⃝ 独占市場では,
価格以下となる.そのため財の
⃝
ため限界収入は
が起こる.
結果,死荷重が発生して社会余剰が下がる.
⃝ 独占企業の市場支配力は
⃝ 財の
・
で測る.
時に独占企業は強い市場支配力を持つ.
35