木造軸組の限界耐力計算

木造住宅・建築物の
限界耐力計算による耐震設計
同書第5章より
・木造建物の耐震設計に関する用語
・限界耐力計算の概要(フローチャート)
・地盤と地震動(加速度応答スペクトル、Gs値)
・目標とする耐震性能(損傷限界・安全限界)
・応答計算(エクセルシート計算、応答計算シート)
・設計検討事項(柱脚部、通し柱、転倒、ねじれ)
・耐震診断(現地調査と概略図面、構造計算)
・耐震改修設計(耐震補強と制震補強)
・チェックリストとレビュー
樫原・河村「木造住宅の耐震設計」
(技報堂出版)2007年
木造建物の耐震設計に関する用語
木造建物の設計ルート
建築基準法・同施行令(2000年6月施行)
限界耐力計算による木造軸組の耐震設計
木造軸組の特性
架構平面図
断面図
耐震要素
復元力特性
応
答
計
算
地盤と地震動
目標とする耐震性能
建設地
設計クライテリア
(判定条件)
加速度応答
スペクトル
損傷限界
安全限界
軸組を一質点系に縮約して
応答スペクトルを用いた等価線形解析
(荷重増分法または変位増分法)
一質点系(有効質量・代表高さ・代表変位)
の最大応答変位を算出
性能評価
一質点系の応答変位から各
階の応答変位を求め、設計
クライテリアに対する確認
(詳細フロー図)
木造軸組の特性
架構平面図
断面図
地盤と地震動
建物重量・階高
建設地
耐震要素の
復元力特性
データ
耐震要素の選定
応答計算
通りごとに復元力特性
を計算して集計
木造軸組を等価な
一質点系に置換
階・方向別に復元力
特性を計算して集計
応答スペクトルを用
いた等価線形解析
耐力・等価周期・
減衰定数の算出
応答計算シート
最大応答変形角
復元力特性
目標とする
耐震性能
増幅率(Gs)の算出
Gsマップ
(地域)
精算法
(ボーリングデータ)
略算法
(地盤種別)
加速度応答スペクトル
損傷限界
判定基準
安全限界
耐震安全性の判定
Gsマップ
データ
限界耐力計算による応答値の計算
力
地震動の入力(加速度応答スペクトル)
応答値
耐力係数 CB
建物の復元力特性
δ
m
入力加速度 α
H
Q
等価剛性
固有周期 Te
α:Fh,Gs,Teに依存
R
層間変形角 R
Te:m,CBに依存
変形
エクセルシートによる応答計算
解析モデル:荷重(質量)と階高
復元力特性
一質点系への縮約:変形モード算出
(変位増分法)
稀に発生する地震に対する応答値
極く稀に発生する地震に対する応答値
一質点系の応答図示
二質点系への応答分配
2階建て木造住宅の計算モデル
階高と質量の求め方が計算のポイント
δ2
代表変位
m2
m1
K2
δ1
K1
m2:2階の上半分、屋根の質量
m1:1階の上半分、2階床、2階下半分の質量
有効質量
H2
H1
2階の層間変形角 = (δ2-δ1)/H2
1階の層間変形角 = δ1/H1
代表高さ
変形角
平屋モデル(簡易計算手法)
m2
m1
変位
Q2
1階上部以上
の質量
Q1
1階の階高
H1
平屋モデルの適用条件
(G=重力加速度)
変形角
木造建物の耐震設計フロー
(簡易計算手法)
2階以上を剛体として平
屋として扱えば、限界耐
力計算が簡易にできる
木造建物の構法分類
(部分的)
耐震性能評価(限界耐力計算)が可能な構法
木造軸組の復元力特性(前提条件)
せん断変形卓越型(平行四辺形)の変形モード
木造軸組の復元力特性(スリップ型)
応答変位
質点重量
m・g
構造階高
H
復元力特性
層間変形角
R
戻りは初期
剛性に平行
初期剛性
等価剛性
(実験)履歴特性
(解析)
履歴特性モデル
履歴エネルギー ΔW = △OAB面積の2倍
ポテンシャルエネルギー W = △OAA'の面積
木造軸組の復元力特性(紡錘形)
粘性系ダンパー
は紡錘形の履歴特性
Q(kN)
等価剛性
復元力特性
A
O
A'
R(rad)
(解析)履歴特性モデル
履歴エネルギー ΔW = 履歴ループ内の面積
ポテンシャルエネルギー W = △OAA'の面積
耐震性能に関する指標
木造軸組
復元力特性
耐力係数
等価周期
減衰定数
質量(重量)・構造階高
m, (m・g), H
耐力・等価剛性・履歴エネルギー
ポテンシャルエネルギー
Q, Ke, W, ΔW
建物全体の復元力特性の求め方
耐震要素を持つ軸組
軸組の復元力特性
耐震要素を足し合わせて軸組へ
Q1,h1
軸組を足し合わせて建物へ
架構
Q
Q2,h2
土壁
Q3,h3
筋かい
耐力
Q1+Q2+Q3+Q4
加算
R
小壁
Q4,h4
R
建物の復元力特性
(階別・方向別)
耐震要素の基本耐力表
減衰定数の求め方(変位に応じて変わる)
減衰定数 h の定義
履歴エネルギー ΔW = 履歴特性モデルで囲まれる面積
ポテンシャルエネルギー W = △OAA'の面積
Q(kN)
A
等価剛性
O
R(rad)
A'
1 同じ形の履歴特性を持つ軸組の場合の加算
各軸組の復元力特性を加算して全体の復元力特性から上式で減衰定数を求める
2 異なる形の履歴特性を持つ軸組の場合の加算
ある変位における各軸組の
耐力と減衰定数をそれぞれ
Q1,h1,・・・で表すと
傾斜復元力特性(社寺建築)
Q0 = P × b/h
傾斜復元力モデル
傾斜復元力特性
傾斜復元力の成立条件
柱頭の回転(斗栱)+柱脚の回転(礎石条件)
地震動の特性
・設計用の地震動は建築基準法・施
行令・同告示にもとづき設定する
・地震動の大きさ(加速度レベル)
は地盤の固さ(Gs値)に応じて変
化する
・建物に入る加速度は建物の固有周
期、減衰定数に応じて変化する(加
速度応答スペクトル)
・建物の受ける地震力は、
質量 入力(応答)加速度
注)応答値を大きく左右するGs値
(表層地盤増幅率)の求め方について
は各種の方法があり、建設地に即した
慎重かつ総合的な判断を要する。
2階建て木造住宅の倒壊(Eディフェンス)
2005.11 Eディフェンスの公開実験
木造建物の地震被害
地震被害の類型
損傷
1階傾斜
2階傾斜
1階崩壊
小屋組以外崩壊
滑りもしくは
柱脚部の浮き上がり
倒壊
限界耐力計算で検証可能な被害
(部材の被害を含む)
転倒
別途検討が必要な被害
木造軸組(耐震)要素の復元力特性
耐力
耐力は大きいが変形能力の小さい軸組
(筋かいや面材が主な耐震要素)
(金物部材
接合部の破壊)
小破
1/120
1/60
倒壊
耐力は小さいが変形能力の大きな軸組
(土壁や貫が主な耐震要素)
倒壊
(小壁柱の折損)
中破
大破
1/30
1/20
層間変形角
1/15
木造建物の耐震設計クライテリア
耐力 Q
安全限界1
損傷限界
変形能力の小さい軸組構法
小破
0
安全限界2
中破
伝統的な耐震要素
からなる軸組構法
大破
層間変形角 R
1/120
1/60
安全ゾーン
1/30
1/20
条件付き安全ゾーン
1/15
危険ゾーン
応答計算シート(簡易計算手法)
付き
条件 全
安
ン
ゾー
安全限界に対する応答計算式
ただし Te
0.64 sec
耐震設計および耐震診断における留意事項
(1) 地盤と基礎と柱脚部
(2) 木材の強度と部材の検討
(3) 通し柱(大黒柱)曲げ耐力の検討
(4) 柱脚部の浮き上がりと滑りの検討
(5) ねじれの検討と床の剛性
(6) 隣接家屋との衝突検討
伝統的な木造軸組の基礎2(礎石建ち)
基礎に関する注意事項
・礎石と柱の摩擦係数は0.6∼0.9
・礎石の上面は平坦であること
・礎石の幅に余裕があること
柱脚部に関する注意事項
・根がらみや大引で連結されていること
(両方向とも)
・注脚部の回転変形を拘束しないこと
礎石上の柱が振動している状況
(東大寺南大門)
木材の老朽化について
西岡常一・小原二郎「法隆寺を支えた木」(NHKブックス)より
ヒノキなどの針葉樹は伐採後の200年ほどは強度が上昇す
る。経年変化による木材の強度低下を招く原因は、吸湿に
よる水分の増大、害虫や菌による腐食である
木造住宅における部材の仕口
摩擦とめり込みを利用した一般的な仕様
短ほぞの軽微な金物
長ほぞ
短ほぞ
長ほぞの鼻栓と込み栓
大黒柱・通し柱・小壁付き柱の
曲げ強度検討
2階と屋根は質量と見なす
δ
m
水平耐力は1階のみ
を考慮する
R
H
質点の高さは1階の
階高とする。
通し柱(大黒柱)の場合、2階を剛体として1階の架構の
みがせん断変形すると仮定すれば、柱脚がピンとして、
柱頭部の曲げモーメントは撓角法の基本式より次式で表
せる
H
R
Q
M = 3EKR
柱の浮き上がりと転倒の検討
M2
m2
δ
H
2
H2
m1
M1
Nc
Na
Nb
m
H
H1
H
1
R
Q
一質点系の振動モデル
A
C
B
礎石建ち形式(基礎に緊結していない)では、
限界変形時に柱脚部の浮き上がりが発生しないように限界耐力を低減
石場建ち基礎における柱脚部の「滑り」検討
M2
δ
H2
H
m・g
M1
Nc
Na
Nb
m
M0
R
H1
Q
一質点系の振動モデル
A
B
C
慣性力Q=CB・m・g < 摩擦力S=μ・m・g
→ CB < μ
剛床仮定の可否
剛な軸組(変形小)
柔な軸組(変形大)
床の剛性が小さ
いと、軸組の変
形差が生じる
水平力を受ける軸組群はその剛性に応じて変形量に差が生じる。しかし床が剛で
あれば軸組間で応力の再配分が起こり、建物は一体となって振動する。このとき
の軸組間の剛性差が建物に「ねじれ」を生じさせる原因となる。
床の剛性が軸組の剛性より大きいとき、「剛床仮定」が成立すると見なせる。
木造建物の耐震性判定(耐震診断)のプロセス
木造建物の耐震診断フロー
(簡易計算手法)
耐震診断
現地調査・ヒアリング
チェックリスト
地盤種別(Gs)
建物簡略図(平面・軸組)
重量(m・g)・構造階高(H)
耐震診断で平屋条件を満
足しない場合、1階部分
にとっては安全側である
が、2階部分にとっては
危険側の判定となる
耐震要素の抽出
耐震要素の復元力特性算出
軸組の復元力特性(階・方向別)
建物の復元力特性(Q・W・h)
平屋 or 2階建て
2階建て
平屋条件をチェック
平屋
簡易法による応答計算
(応答計算シート)
設計検討事項
耐震判定
NO
OK
終了
耐震改修設計
現地調査チェックリスト
木造建物の耐震改
修設計フロー
(簡易計算手法)
耐震改修設計
建物簡略図(平面・軸組)
重量(m・g)・構造階高(H)
耐震要素の選定・増設
耐震要素の復元力特性算出
軸組の復元力特性(階・方向別)
建物の復元力特性(Q・W・h)
平屋として扱える
条件を満足するよ
うに、まず2階部分
の補強を行ってか
ら簡易計算に進む
平屋 or 2階建て
平屋
2階建て
平屋条件
NO
YES
2階部分の耐
震要素を増設
簡易法による応答計算
(応答計算シート)
設計検討事項
耐震判定
OK
終了
NO
限界耐力計算チェックリスト
耐震性能評価総括表