郷土の伝統音楽に親しもう

平成 23 年度授業力向上研修(小・中)
実践のまとめ(3学年
音楽)
平成23年11月18日(金)5校時
指導者 十日町市立水沢中学校
教 諭 矢野 伸治
1
題材名 「 郷 土 の 伝 統 音 楽 に 親 し も う 」
2
題材の目標
(1)郷土の民謡「天神囃子」に関心をもち、進んで表現、鑑賞する。
(関心・意欲・態度)
(2)地域ごとに違う民謡の歌い方の特徴を理解し、自分たちの演奏に生かそうとする。
(音楽的な感受と表現の工夫)
(3)
「天神囃子」の旋律を覚え、曲種に応じた発声で歌唱する。
(4)郷土の民謡の音楽的特徴や文化的背景を理解し、そのよさを味わう。
(表現の技能)
(鑑賞の能力)
3 題材と生徒
(1)題材について
本題材は、学習指導要領のA表現(1)ア「歌詞の内容や曲想を味わい、曲にふさわしい表現を
工夫して歌うこと。」、イ「曲種に応じた発声や言葉の特性を理解して、それらを生かして歌うこと。」、
B鑑賞(1)イ「音楽の特徴をその背景となる文化・歴史や他の芸術と関連づけて理解して、鑑賞
すること。」、ウ「我が国や郷土の伝統音楽及び諸外国の様々な音楽の特徴から音楽の多様性を理解
して、鑑賞すること。」を受けて設定した。
日本の伝統音楽のよさをより深く味わうには、学ぶ側にとってより身近で興味を喚起するような
出会いが不可欠である。
「郷土の民謡」という題材を取り上げることで、音楽がより生活に密着され
たものであることを間近にとらえ、生徒は自分たちの住む地域の音楽についてより深い関心をもっ
ていくのではないかと考える。伝承することの大切さを感じた上で、実際に歌い継がれている民謡
の表現に近づこうとする姿勢を育んでいきたい。
本題材の主となる教材として、この地域で数百年前より歌い継がれている祝い唄「天神囃子」を
取り上げる。産み字やコブシなどの歌い方や節回し、発声など、日本の伝統的な歌唱の特徴につい
て感じ取らせる。授業では地域の指導者による演奏と話、そして歌唱活動を交えながら、音楽の背
景にある歴史や文化についても学び、目標にせまっていきたい。
参考:「天神囃子」とは
妻有地方でずっと唄い継がれている祝い唄で、元々は稲作豊穣を祈願する神事唄であったと言われている。古来
より「大根種」「そばの種」「芋の種」はめでたいものの代表格とされ、各地の”天神囃子”の歌詞に登場する。
この三つの”キーワード”がもととなり、地域性も加味した多くの歌詞が次々と生まれた。したがって祝い事の
時は元より蔵開き,田打ち、田植え、建て前,水入れなどに唄われ歌詞も地域や唄われる席により異なる。
十日町地方の祝言では,まず最初に唄われるものは
~めでたいものは
花がさきそろうて
俵 かさなる
花がさきそろうて
俵 かさなる
大根種 大根種
実のやれば
実のやれば
そして色直しのときには、中の唄として
~だが子でござる
めめがよい
そばの種だやら角がある 人の子でする
種だやら角がある
人の子でする
が披露され、最後は膳あげといって
めめがよい
~八幡の森に宿とれば
宿とれば
宵には鐘がなる 夜明けに森の巣烏
鐘がなる 夜明けに
森の巣烏
でしめくくる仕来りになっている
出典:大島伊一著
魚沼の祝い歌
天神囃子
(2)生徒の実態 (男子8人、女子14人 計22人)
①和楽器の授業経験
1年次では箏と尺八の演奏鑑賞とともに、文化箏とバンブホン(プラスチック製の尺八)の楽器
体験を行った。いずれの楽器も基本的な演奏方法について触れた程度で、曲を演奏するにはいたっ
ていない。
②郷土の音楽の授業経験
1年次に全国の祭りの音楽、2年次に全国の民謡を取り上げ、映像で鑑賞をしている。民謡につ
いては仕事歌や祝い歌など、生活に密着したそれぞれの民謡の特徴について学習した。ただし自分
たちの住む地域に伝わる民謡については取り上げておらず、歌っていない。
クラスの半数以上を占める水沢小学校の出身の生徒については、小学4年時の総合的な学習の時
間に、地域の伝統芸能である「石場かちうた」「烏踊り」「天神囃子」の唄と踊りを地元の保存会の
協力を得て学んでいる。
<天神囃子についての生徒アンケート>
項 目
回答(3年2組22人)
・「天神囃子」を耳にしたことがありますか。
はい … 20人 /22人
・「天神囃子」を歌うことができますか。
はい …
2人 /22人
・「天神囃子」の歌詞のおおよその意味を知っていますか。
はい …
1人 /22人
・「天神囃子」がどういう場面で歌われているか知っていますか。
はい …
7人 /22人
「天神囃子」について知っていることは何ですか。
・めでたいとき、祝い事で歌う(2人)
・伝統芸能(3人)
・酒(2人)
・近所の人がよく歌っている
・踊りがある
4
題材展開の構想
(1)研究テーマ
郷土の伝統的な歌唱に親しみ、声の特徴や音楽文化を深く味わうことのできる生徒の育成
(2)テーマ設定の意図
新学習指導要領では、生徒の段階に応じてわが国や郷土の伝統音楽の指導の一層の充実がうたわ
れており、さらに伝統的な歌唱の指導の重視が加わった。教師側が地域の伝統音楽をリサーチし、
音楽の授業の中で効果的に取り上げることによって、生徒は「体験」
「学び」に留まることなく、
地域に住む一人として、伝統音楽に関心をもち、そのよさを感じ取り伝承してゆこうとする態度
を育むことができると考える。
(3)研究テーマに迫るために
①地域指導者による範唱とTT指導
生徒の興味関心を喚起するとともに、表現の仕方についてより具体的なイメージが持てるように
する。また、地域の歌われ方の実態を語ってもらうなど、音楽の背景について学ぶ場面を設ける。
②比較鑑賞による理解
地域ごとに節回しの異なる天神囃子を比較鑑賞することで、より音楽的な特徴を実感するととも
に、それぞれのよさを味わうことができるようにする。
(4)研究テーマ達成にかかわる評価
「ワークシート内の『天神囃子の音楽的な特徴』
『文化的な特徴』の表記において、それぞれ3観点
以上にわたって説明できる生徒の割合が、80%を超える。」
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題材の評価規準
関心・意欲・態度
音楽的な感受・表現の工夫
郷土の民謡「天神囃子」に 民謡の歌い方の特徴を感
関心をもち、進んで表現、 じ取り、自分たちの演奏
鑑賞しようとしている。
に生かそうとしている。
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表現の技能
鑑賞の能力
「天神囃子」の旋律を覚
え、曲種に応じた発声で
歌唱している。
郷土の民謡の音楽的特
徴や文化的背景を理解
し、そのよさを味わおう
としている。
指導計画(全3時間、本時3/3)
第一次(1時間)
時
ねらい・学習活動
評価の観点と方法
地域で歌い継がれている民謡について関心をもち、意欲的に学習しようとする態度をもつ。
・全国の民謡・郷土芸能の VTR を鑑賞し、音楽的な特徴について学習す
る。
・天神囃子の歌唱の VTR を鑑賞し、音楽的な特徴について学習する。
■祝い唄として天神囃子が場を盛り
立てていく様子を、意欲的に鑑賞
している。【観察】
天神囃子の歌詞の内容について理解を深める。
・天神囃子の歌詞の内容について学習する。
・天神囃子の大まかな旋律をとらえ、歌唱する。
■天神囃子の歌詞にこめられた思い
を理解することができる。【記述】
第二次(2時間)
天神囃子の旋律を歌唱する。
・グループに分かれ、天神囃子を歌唱練習する。
・プリントに感じ取ったり気づいたりした表現を書き込み共有する。
・音の抑揚をプリントに記入し、全員が声をそろえて歌えるように練習
する。
■曲の音楽的な特徴を感じ取り、自
分たちの歌唱に生かそうとしてい
る。【記述・観察】
天神囃子にふさわしい歌い方の特徴を理解し、歌唱で表現する。
本時2/2
・地域指導者の範唱を鑑賞し、演奏上のアドバイスを聞く。
■天神囃子の旋律を歌唱する技能を
・特徴的な演奏の仕方について、気付いたことをメモする。
身に付けている。【観察・聴取】
・グループごとに特徴的な歌い方を探り、地域指導者とともに歌唱する。
■演奏上の特徴を感じ取り、表現に
生かそうとしている。【観察・聴
天神囃子の相互発表をし、地域ごとの特徴のよさを味わう。
取・記述】
・感じ取った演奏上の特徴を生かしながら歌唱する。
・地域ごとに異なる天神囃子の聴き比べをする。
■地域ごとに異なる演奏の特徴につ
いて理解する。【記述】
地域指導者から伝統の継承について話を聞く。
・指導者からどのように演奏が継承されているかお話を聞く。
■天神囃子の文化的な特徴について
理解する。【記述】
7 本時の計画
(1)ねらい
・天神囃子にふさわしい歌い方の特徴と演奏上の特徴を理解する。
・天神囃子の歌い方を工夫して歌唱で表現する。
(2)展開の構想
①地域の唄い手によるTT指導
2名の地域指導者から範唱してもらった後、グループ練習で指導してもらう。表現の具体的なイ
メージを言葉による説明や唱歌を交えながら指導してもらい、自分たちの練習だけではイメージで
きなかった歌い方の特徴をつかめるようにする。指導では演奏の継承についても話してもらい、音
楽の文化的な側面について学びを深められるようにする。
②2地域の天神囃子の比較鑑賞
自分たちの住んでいる地域の天神囃子(十日町水沢地区)と、節回しの異なる天神囃子(十日町
下条地区)の2つのいずれかを練習し、互いに聴き合う。それぞれの音楽的な特徴をつかみ、それ
ぞれのよさを感じ取ることができるようにする。
(3)展開
時間(分)
学習活動
○教師の働きかけ ・予想される反応
(5)
○地域指導者を紹介する。
○2名の指導者が、「自分たちの住む地域
の唄い手」と、
「他地区で天神囃子の継
承がされている地域の唄い手」であるこ
とを説明する。
(5)
○自分たちが練習した天神囃子を唄う。
○緊張せず、のびのびと唄うよう促す。
□評価 ○支援・留意点
○2名の地域指導者による範唱を鑑賞する。 ○特徴を聴き取り、自分たちの歌い方に生
かせるようにする。
・プリントにメモを取る。
□演奏上の特徴を感じ
(20) ○2つのグループに分かれて練習する。
○具体的な音楽的特徴について、特に注目 取り、表現に生かそう
としている。【観察・
・それぞれの指導者から演奏上のアドバイス させる。
聴取・記述】
をもらいながら練習する。
・産字 ・間 ・強弱の変化
・音頭一同形式 ・コブシ 等
・唱歌を繰り返しながら練習する。
○裏声を使用せず、歌い
・特徴的な演奏の仕方について、気づいたこ ・発声の仕方にとまどう(女子)。
やすい音域で歌うよ
・歌いながら積極的にメモを取る。
とをプリントに記入する。
う促す。
・歌い方の微妙な違いを指導者に質問す
る。
(5)
○プリントに書いた特徴を、グループ内で
互いに共有させる。
○2つの天神囃子の具体的な違い・特徴を
理解させる。
・自信をもって発表する。
(5)
○練習した天神囃子を相互発表する。
(10)
○地域指導者から伝統の継承について話を ・メモを取りながら真剣に話を聞く。
聞く。
(5)
○ワークシートのまとめを記入する。
○歌の内容だけではな
く、文化的な側面につ
いて触れてもらうよ
う打ち合わせしてお
く。
○音楽的な特徴、文化的な特徴について、□地域ごとに異なる演
それぞれ学び取ったことを記述させる。 奏の特徴について理
解している。【記述】
(4)評価
・演奏上の特徴を感じ取り、表現に生かそうとしていたか。(音楽的な感受と表現の工夫)
・地域ごとに異なる演奏のそれぞれの特徴を理解することができたか。(鑑賞の能力)
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実践を振り返って
(1)授業の実際
①地域指導者の紹介
学区である水沢地区の指導者(水沢地区伝統芸能保存会)が2名、下条地区の指導者(下条天神
囃子保存会)が4名来校した。打ち合わせで、音頭取りと合いの手を入れる役に分かれて歌うこと
にしたため、急遽人員の追加変更をお願いした。
②自分たちが練習した天神囃子の歌唱
前時までに練習した天神囃子を地域指導者の前で披露した。数回に渡る練習では自信をもって
歌うことはできなかったようだが、過度の緊張による「あがり」もなく、地域指導者を前に真剣な
歌唱の態度が見られた。打ち合わせで、導入時に生徒の演奏と保存会の演奏の違いに圧倒させたい、
というこちらの願いを事前に伝えていたが、演奏に対し「(私たちが唄っている演奏とは)全然違い
ます」という水沢地区指導者の手厳しい感想があり、生徒も教師も苦笑いした。
③地域指導者による範唱の鑑賞
水沢地区の範唱では、音頭取りによる独唱から始まり、
周りが続きを一緒に唄う形式である。張りがあり、広い
音楽室の空間全体を響かせる音頭取りの発声に生徒は
早々に圧倒されていた。非拍節的な旋律やコブシなどの
装飾的な表現がはっきりと表れており、普段の授業で西
洋的な音楽を親しむ機会の多かった生徒にとっては、こ
ちらの思惑通りに伝統的な歌唱との「衝撃的な出会い」
水沢地区指導者による演奏の鑑賞
となったようである。
下条地区の天神囃子も音頭一同形式であるが、水沢地
区との大きな違いは音頭取りと周りが交互に唄い合うこ
とである。歌の掛け合いによっておめでたい席をはやし
たてる様子が見事に表現され、生徒もその特徴をよく感
じ取っていたようである。比較的拍節的なリズムや手拍
子、演奏後の決まり文句など、比較鑑賞をしたことによ
り、生徒は2つの違いと共通性からより具体的に演奏上
の特徴を感じ取ることができたようである。
下条地区指導者による演奏の鑑賞
「天神囃子の『音楽的』な特徴について、わかったこと」
<発声に関する記述>
・地声で歌う ・声に張りがあった
・高い音は、すごく威圧感がある
・1文字1文字はっきりと歌う
生徒ワークシート記述(一部)
・腹から声を出して歌っている
・裏声を使わずに高い声を出している
・すっごく太い声
<旋律や装飾的な表現に関する記述>
・ひとつひとつの歌詞をゆっくり唄う ・音(の高さ)の上下が激しく、波を打っている
・伸ばしが長く、その間の変化が多い ・伸ばしている音はなめらかに動く
・強弱がはっきりしている
・声の震えが特徴的 ・音に波がある ・コブシがきいている
・歌詞は全く違うが、2つの歌い方がほとんど同じように感じた
<演奏形式に関する記述>
・地域によって歌詞が異なる部分がある ・手拍子やかけ声を入るときがある
・歌を追いかけたりする ・音頭取りの後に続いて他の人が歌いだす
・音頭取りが歌ったあとに大勢で歌うのが水沢、みんなで歌うのが下条
・拍手を取り入れている
④2つのグループに分かれての練習
地域指導者による練習では、唱歌の繰り返しによる指導
をお願いした。非拍節的な長い旋律の多い天神囃子を区切
らずに覚えることが難しいと判断し、また時間の制約等も
考慮した結果、練習の方法については教師側の意向に沿っ
てもらった。また、全員が全ての節を唄って覚えられるよ
う、始めは音頭取りと周り(前唄と後唄)という分担を決
めずに練習するようお願いした。
当初の指導計画では、生徒が作成した手作りの楽譜を使
用して練習を行う予定であった。しかし作成が困難であっ
たため、教師側が楽譜を用意し、生徒が練習をしながら唄
い方のポイントを書き込んでいくという形をとった。
教師は各グループによる練習を回りながら、地域指導者
のアドバイスを板書したり、あらかじめ黒板に書いてあっ
た楽譜にコブシやアクセント的な表現の特徴をメモしたり
するなど、生徒の練習の支援に回った。
水沢地区の天神囃子の練習では、「声をよく張って唄う」
「高い音の唄い出しは、思い切って」「伸ばす音をしっか
りと」「声を転がすように(コブシをきかせて)唄う」な
どのアドバイスがあった。非拍節的な産字による長い節を
つかむことに戸惑っていたものの、真剣な表情でよくメモ
を取り、確実に唄えるように声を出して練習していた。
下条地区の練習では、「1字1字はっきり唄う」「自信を
もって唄うことが大事」などのアドバイスがあった。水沢
地区の天神囃子より節が若干長いため、覚えきれない節を
唱歌で何度も繰り返して唄う場面が多かった。自分たちが
練習してきた節との微妙な違いに若干惑っている様子だっ
たが、生徒は確実に唄を習得していった。
具体的な音楽の特徴については、「産み字」「間」「音頭一
同形式」などの用語を地域指導者の方々は用いていないと
いうことが事前打ち合わせで分かり、教師側から生徒に提
示することはしなかった。ただし「コブシ」については、
長い音を唄うときの声の揺れ(ヴィブラート的な表現)の
ことを指して用いるとのことであったため、練習の際に
簡単に説明した。
女声については、「裏声を使わず、唄いやすい音域で」
という指示に留めた。練習では男子と同じ音域に合わせて
地声で唄う女子生徒がほとんどであったが、裏声で歌って
しまう生徒、音程をつかめず周りと高さが3〜4度異なる
生徒が数名見られた。
下条地区天神囃子の練習
生徒によるワークシートの書き込み
⑤練習した天神囃子の相互発表
生徒のみによる演奏では正確に節をとらえることができず、双方のグループの発表において教
師や指導者が脇で補助的に唄う支援を行った。練習時間の制約もあり、音頭一同形式による音頭取
りと周りのかけ合いはほぼできなかったものの、水沢地区の天神囃子については、音頭取りの生徒
数名による唄い出しから始めることができた。
⑥地域指導者から伝統の継承について話を聞く
2つの地区それぞれの代表者から話をいただいた。事前打ち合わせでは天神囃子の文化的側面に
ついて触れてほしいという要望をし、特に唄の起源や伝わり方について話をしていただいた。起源
については諸説あるようで、指導内容として断言できなかった点はいくつかあったものの、ワーク
シートを見る限り、生徒が最後の話をよく聴き、古くから現在まで大切に歌い継がれていることに
ついて十分理解することができていたようである。
「天神囃子の『文化的』な特徴について、わかったこと」
生徒ワークシート記述(一部)
・十日町で一番古い民謡 ・620 年前頃の唄
・地域の祝い唄である ・結婚式や収穫が終わったとき、みんなで集まって唄っていた
・元々は労作のときに唄われてきたとされる
・歌詞の内容から、特に裕福な家に人が集まり、唄われていたと推測される
・信濃川など船に乗っているとき、船頭がお酒を飲む際に唄われていたとされる
・昔は親から子へと伝わってきていたが、最近では唄われなくなってきた
・地方によって唄い方がちがう 伝わり方がちがう
・天満宮に元々梅の花がたくさん咲いていたため、歌詞の中に「天神囃子の
あると推測される(下条地区)
梅の花」という言葉が
(2)研究テーマにかかわって
①評価にかかわる達成状況
・ワークシート内『天神囃子の音楽的な特徴』の表記が、3観点以上の生徒…68.2%(不達成)
4観点以上
:5人(22.7%)
3観点:10人(45.5%)
2観点:7人(31.8%)
・ワークシート内『天神囃子の文化的な特徴』の表記が、3観点以上の生徒…68.2%(不達成)
4観点以上
:4人(18.2%)
3観点:11人(50.0%)
2観点
:4人(18.2%)
1観点 0観点
:1人 :2人
(4.6%) (9.0%)
②指導の手立ての有効性について
・地域指導者による範唱とTT指導の有効性
圧倒的な声の張りによる指導者の範唱は、普段合唱等の授業において頭声的な発声で音程の調
和を求められてきた生徒にとっては、強烈なインパクトとして受け止められたことは間違いなく、
授業の導入の意欲づけ、ねらいの意識づけとして適していたと言える。
また、ゲストティーチャーによるTT指導についての有効性は間違いなかったが、授業を行う
にあたって、より綿密な打ち合わせと双方の指導者による共通理解をすることの必要性を感じた。
地域ごとの節回しの特徴や当日の歌い手の特徴の把握、天神囃子の教材性や本時のねらいの共通
理解、指導方法・手順の共通理解、前時までの取組と生徒の実態の共通理解、発声指導の必要性
の確認、分刻みでの展開の段取り・時間配分の確認、使用教室や教具等の確認、グループ練習の
際にアドバイスとして説明してもらう用語の確認、全体への話の際に押さえてもらうコンテクス
トの共通理解など、授業を行う前に十分打ち合わせをすることで、もっと生徒の学習の深化が図
れたのではと痛感したことが数多くあった。
・比較鑑賞による理解の有効性
地域ごとに節回しが異なり、それぞれに根付いている天神囃子を教材曲として取り上げるにあ
たって、演奏の聴き比べをすることでクローズアップされた音楽的な特徴を感じ取り、文化的な
要素を理解するよい手立てとなり得たことは、生徒のワークシート記述の結果によってほぼ実証
できた。鑑賞の対象が地域の歌い手による生の演奏としたことも、結果として効果的な手立てと
なったと推測できる。
しかし、
「比較鑑賞後にグループに分かれ、いずれか1つの地域の節回しを練習する」という展
開が果たして有効であったか、ということについては問題があった。鑑賞後の表現活動まで比較
の対象にしてしまったことで弊害を生んでしまった。演奏上の特徴がわずかに異なる2曲を分か
れて練習することで、生徒が獲得する理解の中身についてはグループによる差が生じてしまった
はずである。さらに、学区である地元の演奏とそうでない地区の演奏に分けて練習してしまった
ことも、学習内容に差を生んでしまっている。前時まで練習していた節回しと「よく似た」節を
練習するのと「あまり似ていない」節を練習するのとでは、理解の度合いが違ってくる。おそら
く頭の中で混乱してしまった下条地区のグループの生徒もいるはずである。授業を計画するにあ
たって、どこまで比較を用いるのかということについて視点が定めていなかったことが反省点で
ある。
(3)今後の課題
①地域人材の活用と事前検討の充実
郷土の音楽を取り扱うにあたって、地域に伝わる音楽・芸能の教材研究とともに地域人材の入念
なリサーチとコンタクトを取り合うことが、授業実践への第1歩である。また、TT授業を依頼す
る際には、事前に「何を」打ち合わせなければならないか、教師側が細かく用意していなければな
らない。今回の実践では、地域指導者との打ち合わせについては指導方法の確認やねらいの共通理
解など、多くの計画を手探りで行ってしまったことが反省点である。題材が替わると依頼する人材
も打ち合わせる内容も替わるため、マニュアル化は難しいかも知れないが、校外の指導者とのTT
授業そのものが授業者にとって大掛かりなものでなくなるよう、実践により経験を重ねつつ、隅々
に配慮された計画を作成するための研究を進めていきたい。
②鑑賞と表現の有効なスパイラルによる授業構築
日本の伝統的な歌唱に限らず、題材のねらいに迫るために鑑賞活動と表現活動を授業の中でどう
組み合わせるのかは、音楽の授業構築において基本的なポイントである。しかし今回の実践では、
鑑賞・表現の一体化ありきで授業を計画してしまったことで本来のねらいを見誤り、学習内容に差
を作るという初歩的な問題を生んでしまった。今後の授業実践では、2つの活動のバランスやタイ
ミングというような次元ではなく、ねらいに迫るための効果的な絡ませかたについて、徹底してこ
だわって授業を計画していきたい。