特 集 2 最新多列CTにおける心・血管撮影 256 slice CTを用いての冠動脈,頭部血管撮影 社会医療法人高清会高井病院 放射線科 井上 健 はじめに めには左冠動脈主幹部 (LMT) 分岐部レベルの上行大動 脈でCT値350HU以上が必要であるとされる.このた 当院では2008年12月にPhilips社製256 slice CT 「Brilliance め,CT値350HUを担保できるように造影剤注入方法を iCT (以下,iCT) 」 を導入した.iCTの代表的な特徴とし 決定している.以下に当院における造影方法を記す. ては,ガントリ回転速度は0.27秒の高速回転が可能に を使用し,注 高濃度造影剤 (イオメロン 350mgI/mL) ® なり,またX線管の出力は最大1,000mAまで向上した. 入時間を12秒に固定とし,基準ヨード (24.5mgI/kg/秒) 検出器は80mmと高範囲になり,Smart Focal Spot (ZFS) から注入速度,注入量を決定している.また,下限を と呼ばれる 2 軸の焦点電磁偏向機構を備え,2 倍のデ 3.0mL/秒,36mL,上限を5.0mL/秒,60mLとし,60kg ータ収 集 が 可能となった.これらの 技 術により64列 未満では50mLシリンジ,60kg以上では75mLシリンジ MDCTと比較し,広範囲を短時間かつ高画質に撮影が というようにシリンジを使い分けしている.また,生理 行えるようになった. 食塩水後押し注入は3.0mL/秒,30mLで行っている. 本稿では,iCTを用いての当院における冠動脈CT検 造影タイミングはbolus tracking法を用いて,LMT分 査の特徴と,Conventional scanを用いた頭部 3D-CTA 岐部レベルの下行大動脈に関心領域 (ROI) を設定しモ について紹介する. ニタリングする.閾値は100HUでAuto startの設定とし ている.上記の条件で行った造影効果の結果を図 1 に 当院での冠動脈CT検査 示す.90%以上の症例でCT値は350HUを上回る結果と なっており良好な造影効果を得られている. 2.高心拍への対応 当院は心臓血管センターが設立されており,虚血性 心疾患疑いの患者数が多く,冠動脈CT検査数が年々増 iCTのガントリ回転速度は0.27秒であり,ハーフ再構 加している.1 日に最大16例の検査を施行し,当日依頼 成によるRetrospective scanでの実効時間分解能は0.135 の検査にも対応している.これらを可能にしている理由 秒となる.さらに分割再構成で最短33.75ミリ秒の時間 として,b遮断薬を使用していないことが挙げられる.b 分解能が得られることにより高心拍患者にも十分対応 遮断薬を使用せず検査可能なのは,iCTの時間分解能が 可能である. 優れており,高心拍にも十分対応できることから,心拍 時間分解能の違いによる画質への影響を確認するた に依存せず診断可能な画像が得られるためである. めに心臓動態ファントムを用いてステント描出能の検 現在,冠動脈CT検査はSCCT (Society of Cardiovascular CT) ガイドラインでも推奨 されるように,b遮断薬により心拍数を低 下させて撮影を行う方法が多く用いられ (HU) 600 ている.しかし,b遮断薬投薬下の冠動脈 500 検査では患者の拘束時間の延長,薬剤投 400 リットも少なくない.また,当院では冠動 脈形態評価だけでなく心機能評価も必要と し,総合的な虚血性心疾患の診断を行うた めRetrospective scanで検査を行っている. 1.造影剤使用方法 冠動脈CTにおいては高濃度造影剤によ るボーラス注入を行うことが一般的であ り,被験者に依存せず安定した造影能が 必要である.また,良好な画像を得るた CT 値 薬による患者管理が必要になるなどデメ 300 n = 111 200 y = −0.7413x + 453.96 R2 = 0.01447 100 0 30 40 50 60 70 80(kg) 体重 図 1 上行大動脈における体重別造影効果 7 討を行った.Brilliance CT 64とiCTで, 撮 影 心 拍 数 を 変 化 させ 冠 動脈用ステントファン トムの撮影を行い対比 Cyoher 3.0 × 1.3mm Brilliance CT 64(0.42秒) CPR Brilliance iCT(0.27秒) Cross-sectional CPR Cross-sectional HR 60 bpm HR 60 bpm HR 70 bpm HR 70 bpm HR 80 bpm HR 80 bpm HR 95 bpm HR 95 bpm HR 100 bpm HR 100 bpm させた.撮影結果を図 2 に 示 す.Brilliance CT 64では,レゾナン スケースに近い心拍数 (HR) の70,95bpmにお いて,視覚的にステン トの 描 出 能 が 低 下し た.し かし,iCTで は 設定したいかなる心拍 数においても良好な描 出能が得られた.この 結果が示すようにモー ションアーチファクト が大幅に低減され,心 図 2 撮影心拍数の違いによるステントファントムの描出能 拍 に 依 存しな い 撮 影 が可能となった.以上 の結 果より,iCTの高 い時間分解能は,冠動 脈CT検 査 の ピ ットフ ォールであるモーショ ンアーチファクトの問 題を大きく改善できた といえる. さらに,iCTを用い た冠 動 脈CT検 査にお ける臨床での描出能の 検討を行った.本検討 はCurved planar reformation (CPR) 画像を用 いたモーションアーチ ファクトを対象とした Excellent Excellent Good Good すべて明瞭に見える 一部辺縁が不明瞭 Fair Fair Poor Poor 一部評価が難しい 評価困難 図 3 4 段階のスコアリングモデル 視覚評価である.視覚 評価群はExcellent,Good,Fair,Poorの 4 段階とし, 選択できる.Conventional scanは必要とする心位相の 診断可能域はExcellent,Goodとした (図 3) .息止め不 みに対しX線照射するため被ばく低減効果が高いが, 良症例,不整 脈 症例を除く218症例614枝を対象とし 適応となるのは心拍の安定している低心拍のみで,心 た.評価結果を図 4 に示す.低心拍域では非常に高い 機能評価が行えないデメリットもある.一方,Helical 評価を示しており,高心拍域においても評価は大きく scanは多位相のデータを収集しており,心機能評価も 低下することはなく,b遮断薬不使用下でも全検査の 可能である.また,Cardiac ECG Dose Modulationを使 約85%は診断が可能であった.この結果からも,iCTで 用することで被ばく低減が可能である.Cardiac ECG は前投薬としてb遮断薬の積極的な使用は必要ないと Dose Modulationは必要とする心位相のみに管電流を 言える.図 5 に臨床症例を呈示する.撮影心拍数は平 100%照射させ,それ以外の心位相には20%に低減す 均94bpmであったが,モーションアーチファクトの影響 ることで被ばく低減を行う.当院の検討によると本方 による画質低下は見られず良好な画像が得られた. 式による被ばく線量低減率は最大約45%であり,低心 3.被ばく低減機構 拍ほど低減率は高い.また,Cardiac ECG Dose Modu- 冠動脈撮影方式はHelicalとConventionalの 2 種類が lationを使用しても心機能解析は可能である. 8 最新多列CTにおける心・血管撮影 当院におけるConventional scanの 頭部 3D-CTA の形状を観察するのに有用であり,臨床的意義は非常 に大きい.もう 1 つの利点としては,高い分解能が得 られることである.また,三次元再構成が可能なため 検出器幅が80mmと高範囲になり,撮影領域が広く Helical scan同様にオーバーラップ再構成も可能である. なったことで,Conventional scanにおいての臨床上で 筆者らは,Conventional scanの分解能の検証するた の適応範囲が広がり,当院ではConventional scanを用 め,体軸方向の分解能を評価した.マイクロコインファ いて頭部 3D-CTAを施行している.頭部 3D-CTAにお ントムと櫛ファントム用いて,HelicalとConventionalで測 いてConventional scanを用いる利点の 1 つはサブトラ 定を行った.結果を図 6 に示す.測定点は陰極側と陽 クション処理の精度の良さである.Conventional scanで 極側にそれぞれ中心より 0mm,15mm,30mmにオフセ は,ヘリカルアーチファクトが発生しないのでその影響 ットさせ,FOV中心にて測定した.測定結果は0.625mm を受けず,単純マスク像と造影撮影時の管球軌道が同 × 128chを用いたConventionalではディテクターのZ軸方 一であるためサブトラクション処理の精度が上がり,頭 向での位置の違いによりやや分解能に異なりが見られ, 蓋底骨,クリップ,石灰化の除去が正確に行える.頭 陰極側での分解能がやや低下したが,0.5mm間隔の櫛フ 蓋底部の動脈瘤の精査では,サブトラクション処理を ァントムの認識は可能であり,Helicalとほぼ同等の分解 積極的に使用している.サブトラクション処理は,頭蓋 能を示した.ディテクターのZ軸方向での位置の違いに 底部分に存在する動脈瘤の抽出,瘤の大きさやネック よる分解能の変動は,ディテクターが広くなることによ り陰極側と陽極側とで実効焦点サ イズが異なり,分解能に差が生じ (%) 100 n=654 い体軸方向の分解能が求められる ことと,64列での撮影でも動脈瘤 80 精査の撮影範囲では 2∼3 回転で 60 撮影が行え,臨床上,問題なく使 用可能であることより,当院では敢 40 えて 検 出 器 の中 心 部 を 使 用し, 0.625mm × 64列での撮影を行って 20 0 たと考えられる.頭部CTAでは高 いる. 41∼ 46∼ 51∼ 56∼ 61∼ 66∼ 71∼ 76∼ 81∼ 86∼ 91∼ 96∼ 101∼106∼ (HR) 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105 110 Excellent Good Fair Poor 本方式で撮影を行った症例を呈 示する (図 7) .頭蓋底部のサブト ラクション処理が良好に行え,右 内頚動脈の動脈瘤も明瞭に描出で 図 4 当院における冠動脈CT検査の描出能 きた (図 8) . LAD 撮影条件 管電圧:120KV 管電流:800mAs コリメーション:0.625mm×128ch (ZFS) 回転速度:0.27秒/rot Pitch.f:0.16 再構成スライス厚:0.8mm/half overlap 再構成カーネル:CB 撮影時間:4.6秒 RCA LCX 造影剤注入条件 ® イオメロン 350mgI/mL 注入速度:4.2mL/秒,50mL (24.5mgI/kg/秒) 図 5 高心拍症例 (撮影時平均心拍数94bpm) 9 特 集 最新多列CTにおける心・血管撮影 Collimation 0.625 × 128 Helical scan FOV-center 櫛の間隔:0.5mm 特 集 slice 0.625mm FWHM 0.817mm Conventional scan Cathode(-) -30mm FWHM 0.936mm -15mm center +15mm 0.849mm 0.752mm 0.723mm Anode(+) +30mm 0.687mm 図 6 Conventional scan に おける体軸方向の分解 能 撮影条件 管電圧:120KV 管電流:350mAs コリメーション:0.625mm × 64ch (ZFS) 回転速度:0.75秒/rot 再構成スライス厚:0.67mm/half overlap 再構成カーネル: B 3DBP (ZFS) 撮影時間:8.05秒 造影剤注入条件 ® イオメロン 350mgI/mL 注入速度:4.2mL/秒 50mL (24.5mgI/kg/秒) 図 7 頭部 3D-CTA Conventional scanでの撮影条件 図 8 Conventional scan で 行った右内頚動脈瘤 最 後 に が行えるようになった.また,頭部 3D-CTAにおいて 本稿では256 slice CT「Brilliance iCT」の特徴とその を生かした有用性も高く検査の適応範囲は拡大してい はConventional scanに注目し,その撮影方式での特徴 臨床的有用性について述べた.CT装置の新しい技術 る.今後も当院ではさまざまな創意工夫を行い,あら により,冠動脈CT検査においては心拍に依存せず高 ゆる臨床領域において患者への貢献を高めていきた い描出能が得られ,より被験者の状態に合わせた検査 い. 10
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