日本心理学会第68回大会ワークショップ 社会精神生理学への招待 ―ストレス・感情と社会的要因との関係― 心理的ストレスに対する心臓血管反応 ー認知的評価の導入ー 日本大学大学院理工学研究科 山田クリス孝介 2004/9/13 関西大学 人間工学 人間と機械のインタラクション 心理的ストレス “メンタルワークロード” • ストレスを人間工学分野で取り扱う際の名称(青木, 1997) • 作業に関わる精神的な要因の総称(大須賀, 1998) • ISO 10075, JIS Z 8502 – 精神的負荷:外部から人間に対して作用を及ぼし,かつ, 精神的効果を与える評価可能な影響の全体 – 精神的負担:精神的負荷によって個々の人の内部に直 ちに起こる効果(長期にわたる影響ではない)であって, 各人の対処様式を含み,個人の習慣及びそのときの事 前条件に依存するもの 問題点 • 精神的作業負荷と精神的作業負担とのメカニズム は十分に明らかにされていない(芳賀,2001) – 適切な作業負担指標の選択を示した指針もない • メンタルワークロードの評価指標に唯一無二のも のは存在しない • 従来の研究では「ストレス‐ストレイン」モデルが用 いられてきた(青木,1997;芳賀,2001) – メンタルワークロードの多様性を説明するには不十分 社会的要因 メンタルワークロードが取り扱われる文脈 • • • • プラント,航空管制,原子力発電所などでの監視 飛行機や船舶の操縦,自動車や鉄道の運転 ソフトウェア開発 ATM,自動券売機 何らかの認知的な作業事態を想定 評価的状況下に置かれる 機械を介しての他者との関わり このように, • ストレス-ストレインモデルが用いられている現状 • メンタルワークロードが取り扱われる文脈 …を考えると 認知的評価 社会的要因 積極的に取り入れよう! 挑戦・脅威評価モデル Blascovichグループ(1993, 1996, 1997, 2000) • 挑戦評価(要求<資源) – 心臓活動の増大,血管収縮の減少 • 脅威評価(要求>評価) – 主に血管収縮の増大 挑戦 脅威 □心臓 ■血管 先行研究 Tomaka, Blascovich, Kelsey, & Leitten (1993) Journal of Personality and Social Psychology, 65, 248-260. Tomaka, Blascovich, Kibler, & Ernst (1997) Journal of Personality and Social Psychology, 73, 63-72. 実験パラダイム 認知的評価 安静(10~15min) 課題説明 課題 主観的ストレス • 認知的評価は,課題説明の直後でかつ課題の直前 に測定する • 課題は暗算(連続減算) Tomaka, Blascovich, et al. (1993) Tomaka, Blascovich, et al. (1997) 生理反応パターン 挑戦:心臓↑↑+血管↓ 脅威:心臓↑+血管↑ 主観的ストレス報告 脅威 > 挑戦 パフォーマンス(試行数,正答数) 挑戦 > 脅威 目的 • メンタルワークロード研究に認知的評価と社会的要 因を組み入れ,精神生理学的アプローチによりメン タルワークロードを測定・評価する • 挑戦・脅威評価モデルの適応可能性を検討する 従来まで取り上げられてこなかったメンタル ワークロードの多様性を説明可能に 方法 • 被験者: – 男子大学生・大学院生28名(21-26歳) • 課題:暗算(口答) – 一定時間に与えられた4桁の数字を連続的に減算 – 難易度を3つ設定 • 手続き 安静① 課題(1) 安静② 課題(2) 安静③ 課題(3) 10min 4min 4min 4min 4min 4min 認知的評価 主観的ストレス 主観的指標 • 認知的評価比=要求/資源 – 要求:まったく脅威でない(1)~非常に脅威である(7) – 資源:まったく対処できない(1)~十分に対処できる(7) • 主観的ストレス – まったくストレスでなかった(1)~非常にストレスだった(7) • 主観的課題困難度 – まったく難しくなかった(1)~非常に難しかった(7) 生理的指標 • 血圧,心電図,インピーダンス・カーディオグラフ パフォーマンス • 課題努力:1分間あたりの回答数 • 課題成績:1分間あたりの正答数 グループ分割法 • 認知的評価比=要求/資源 – 値が大きいほど脅威評価 – 値が小さいほど挑戦評価 • 中央値分割 評価比<中央値 評価比>中央値 挑戦評価グループ 脅威評価グループ 結果(1) • 主観的ストレス 6 5 4 3 2 1 0 Easy Moderate Difficult – 挑戦グループよりも脅威グループのほ うが高い • 回答率 – 両グループとも困難度が増すにつれて 回答率が減る • 誤答率 – 困難度Easyにおいて誤答率が少ない 主観的ストレス 30 25 20 15 10 5 0 2 1.5 1 0.5 0 Easy Moderate Difficult 回答率(回/min) Easy Moderate Difficult 誤答率(回/min) Threat Challenge 結果(2) Threat Challenge Tn:課題の時間(1分) bpm 20 bpm 15 15 10 10 5 5 0 T1 T2 T3 T4 T1 easy bpm 0 T2 T3 T4 moderate 20 15 困難度ごとに分析: HRにおいて,挑戦群の T1が他のTより高かった 10 5 0 T1 T2 T3 difficult T4 考察 • 課題困難度が上がるにつれて回答数が減少し,挑 戦評価グループよりも脅威評価グループのほうが 主観的ストレスが高かった 認知的評価の効果が示された • HRの結果 課題困難度が中程度のときに挑戦評価グ ループが課題開始直後に高い心臓反応を 生起した可能性が示唆される 問題点 • 主観的には認知的評価の効果が示されたが,先行 研究のような生理反応との対応はみられなかった 課題設定 評価的状況の程度 • 認知的評価の測定が課題を行う直前 再評価の可能性 努力
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