NAFTA 再交渉、メキシコ経済は悪循環から逃れ

リサーチ TODAY
2017 年 2 月 23 日
NAFTA 再交渉、メキシコ経済は悪循環から逃れられるか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
トランプ大統領は選挙の公約通りNAFTA見直しを宣言し、メキシコは正式に再交渉に向けた国内手続き
を開始した。正式な交渉開始は5月以降の見込みだが、両国の交渉姿勢の隔たりは大きい。関税見直しは
米国内にも慎重論があるが、交渉の重要なカードとして自動車等について議論される可能性がある。「Buy
American」の観点から原産地規則、政府調達が再交渉の主戦場になると見込まれる。みずほ総合研究所
は、NAFTA再交渉がメキシコに与える影響に関するリポートを発表している1。メキシコの生産・輸出拠点と
しての優位性は、関税・原産地規則、労働・環境規制、為替相場、メキシコ政府の対応策と共に、米国の法
人税改革の行方にも大きく左右される。また、こうした状況下、ペソ安によるインフレ圧力から中央銀行が利
上げを余儀なくされる悪循環に陥る不安があり、メキシコ経済は逆風が強まる状況にある。今後も、米国の
法人税改革の行方や関税・原産地規則等の変更に留意が必要だ。下記の図表は、参加国のNAFTA再交
渉に関する基本方針を示す。米国が既存の協定内容の広範な見直しを主張するなか、メキシコは新規分
野の追加を主眼とし、両国の交渉姿勢に大きなかい離があることが分かる。
■図表:参加国のNAFTA再交渉に関する基本方針
NAFTA再交渉は最優先課題。あらゆる議題が再交渉の対象
米国
再交渉の結果が米労働者にとって公正な取引とならなかった場合には脱退の意
図を通知
2015年TPA法(貿易促進権限法)に基づき、協定内容の変更について議会承認を
得る場合は、90日前に議会への書面通知が必要(未済)
通商と移民・安全保障問題を一体として議論
メキシコ
自由化(関税・輸入割当の撤廃)を維持。通信、エネルギー、電子商取引などを含
む現代に見合ったものにすべき
再交渉の結果が現状以下になるなら、とどまる意味はなく、脱退の他に選択肢は
ない
正式な手続き開始を宣言(2月1日)。90日間の国内企業との協議を経て、5月に交
渉入りする方針
貿易交渉についての議論にオープンであることが重要
カナダ
カナダは米国の最大の輸出相手である点を強調
(資料)各種報道よりみずほ総合研究所作成
トランプ政権の保護主義的な通商・移民政策は、メキシコ経済の大きなマイナス要因となっている。次ペー
ジの図表は、メキシコの成長率とインフレ率予想を示す。メキシコ中銀の調査によれば、米国大統領選挙以
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2017 年 2 月 23 日
降、メキシコの成長率予想は急速に下方修正され、今年1月の調査では1.5%にまで低下した。一方、ペソ安
やガソリン値上げ等でインフレ圧力が急速に高まっている。この結果、メキシコ中銀は2月9日に追加利上げ
を余儀なくされた。メキシコは景気減速懸念にも関わらず、利上げに追い込まれる悪循環状況にある。
■図表:メキシコ実質GDP・インフレ率予想
(前年比、%)
5.5
5.3
5.0
実質GDP(2017年)
実質GDP(2018年)
消費者物価(2017年)
消費者物価(2018年)
4.5
4.0
3.9
3.5
3.0
2.5
2.2
2.0
1.5
1.5
1.0
15/11
16/1
16/3
16/5
16/7
16/9
16/11
17/1
(年/月)
(資料)メキシコ中央銀行よりみずほ総合研究所作成
下記の図表はメキシコのペソ/ドルレートと外貨準備の推移を示すが、ペソ安が続く状況にある。メキシコ
は1994年のテキーラショックとされた通貨危機の反省に立って資金流出に対する備えを強化し、外貨準備
の水準は2016年末で1,765億ドルと、IMFの弾力的信用枠(870億ドル)を合わせ、現時点では十分な流動
性を有している。ただし、米国のさじ加減でメキシコの動向が左右される状況は変わらない。今後もペソ安
からくる資本流出状況には注視が必要だろう。
■図表:メキシコのペソ/ドルレートと外貨準備推移
2,000
(億ドル)
(ペソ/ドル)
10
12
1,750
14
1,500
16
1,250
18
外貨準備
ペソ/ドル(右逆目盛)
1,000
750
20
22
ペソ安
▼
500
08
2008
09
10
11
12
13
14
15
16
17
24
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
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西川珠子 「動き出す NAFTA 再交渉とメキシコ」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2017 年 2 月 10 日)
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