百鬼夜行の行く、人理修復 ID:104269

百鬼夜行の行く、人理修復
浜菊稀有
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
ぽっくりいったぬらりひょん︵ぬら孫︶がサーヴァントになってカ
ルデアに参戦するだけの話。
目 次 魑魅魍魎の主、顕現 │││││││││││││││││││
1
魑魅魍魎の主、顕現
ぬらりひょんは妖怪である。が、それでも寿命は存在した。
後数百年、否数十年の生命。言葉に表し、人の寿命と比べれば雲泥
の差であろうが千年を軽く生きる妖にとってその時間はまさに刹那
の如しだ。
妖の総大将、ぬらりひょんははるか五百年前、大阪城にてとある一
匹の妖怪と相決した。
実力、戦力、地理と、様々な観点からみてもその勝機は極わずかな
ことは明白な戦いだった。それこそまるで行く筋もの紐束の中から
デンジャラス・ゲーム
目的の一本を引き当てるかのごとく、一歩選択を誤れば即、死へと繋
がるような死 の 遊 戯の戦いだった。
・
・
・
・
だがしかし、ぬらりひょんはその幸運を見事に勝ち取った。勝ち
・
取ってみせた。また様々な要因が彼を生きさせた。
││││しかし、代償として心の臓を失った。
その後遺症は大きかった。寿命は大幅に縮み、たかが千年でその姿
は老人のごとく矮躯へと成り果て、体力の大部分を失った。
また、呪いにより妖との交配で子孫を作ることが不可能となり必然
的にぬらりひょんの子供は、また孫は混ざりものとなった。
一概に、それが悪いことであったというわけではない。だが妖の世
界において確かにそれは、デメリット足りえた。
││││まあ尤も、その呪いも孫の世代にて解呪されたのだが。
鵺
とある妖怪、羽衣狐のかけた呪縛はすでに解かれた。ぬらりひょん
の孫によって晴明は倒され、全国各地の妖怪の大一掃││││清浄は
防がれた。
その後は正に怒涛の日々だった。
しかしぬらりひょんは隠居した身だったが、それを見ているのは楽
しくて愉しくて、流石我が孫だと宣いながら││││やはり妖として
1
鵺
暴れられないというのは悔しかった。 晴明討伐の際、ぬらりひょんは己が出力を上げ、相対的に若返った。
妻
本 来 は 孫 の た め の 鵺 へ の 助 力 に す る つ も り だ っ た 切 り 札 も 使 っ た。
それにより奴良組は救われ、死の淵まで消耗したがなんの奇跡か珱姫
とも一時的に、夢現の刹那であったが、逢え、生き延び孫を見届ける
ことができるようになったのだ。
大円団。正に理想的だ。ぬらりひょんの孫は妖物にとっての救世
主となり、ぬらりひょんの創設した奴良組はさらなる繁栄と拡大を得
た。
が、やはり老いたとしても、ぬらりひょんはどこまで行ってもやは
り〝妖〟だった。そして妖としての本能が、かつての生き様を、興奮
を忘れられるはずもなかった。
だからこそぬらりひょんは死ぬ瞬間、泣きついてくる孫や己が百鬼
夜行らをかすれた視界におさめながらも、思ってしまった。
〝やっと死ねる〟││││と。
それは泣きついてくる孫らからしてみれば、侮蔑のようなものだろ
う。
だがそれでも、やはり妖怪して、かつて魑魅魍魎の主として京を馳
せたぬらりひょんからしてみれば、決して口には言えないことだが、
この世界はやはり生き心地が悪かった。
そんな気持ちがあったからか、ぬらりひょんは孫、奴良リクオの子
供、つまりは曾孫を見ることはついぞ叶わなかった。それが心残りと
いえば心残りであるが、やはり死ねるということはぬらりひょんに
とって、救いだったのだった。
▼▼▼▼
2
少年と少女がいた。
白い、まるで拘束具のような印象をうける服を纏う少年の名は藤丸
六花。このカルデアにおいての最後のマスターであり、人理防衛の要
である少年だ。
その隣に立つ、眼鏡をかけ白のジャケットを羽織った少女の名はマ
﹂
シュ・キリエライト。デミ・サーヴァントと呼ばれる、体内に英霊の
力を宿した少女である。
﹁先輩。準備はいいですか
﹁⋮⋮お、おっけー﹂
﹂
マシュ お楽しみ中のところ悪いけどそ
﹄
?
﹂
じゃあ始めてしまってくれ
﹁あ、ああ⋮⋮
﹃そうかい
﹄
﹁あ、ドクター。先輩は準備完了だそうです﹂
におり、通信を交えて六花たちに話しかけていた。
現在、ロマニは召喚サークルの設置されている部屋上部にある管制室
リーダー、ロマニ・アーキマンの声がどこからとも無く聴こえてくる。
今 や こ の カ ル デ ア の ト ッ プ へ と 大 出 世 を 果 た し た 医 療 ス タ ッ フ
ろそろ始めるけどいいかな
﹃あー、あー。藤丸君
の様子に言葉を返そうとした六花だったが。
みたいですね﹂と、呆れ声をだしながら嘆息している。そんなマシュ
ぐっとサムズアップする六花。それをマシュは﹁先輩はいつも通り
﹁む、武者震い、さ⋮⋮
﹁声が震えているのですが⋮⋮﹂
?
?
!
議なところで大胆不敵になる性格であるのことはこの場にいる全員
が知っているので誰も突っ込むことは無かった。
ちなみに彼らは現在第一特異点であるフランスを修復したばっか
3
!
?
少し引き腰気味な六花。まあ彼が無駄に用心深く、かといって不思
!
?
だったりする。既にサーヴァントも数騎いるのだが、現在は戦力補充
中であり、そして今に繋がっているという背景がある。
⋮⋮ 閑 話 休 題。ぽ い と 六 花 が 数 個 の 虹 色 の ト ゲ ト ゲ を 放 る。こ れ
はロマニ曰く高度な魔術触媒だそうで、その名も聖晶石という。綺麗
な放物線を描いたそれは召喚サークルの中で二回バウンドしてから、
まるで砂のように中に溶けていった。
そして始まる、英霊召喚。かつてアインツベルン、マキリ、遠坂ら
通称御三家によって冬木で執り行われていた聖杯戦争の召喚プログ
ラムをルーツとし、改造を加えたこれは元々簡略化されていた召喚儀
式を更に簡略化させていた。もはや呪文など必要ない代物であった
﹂と言いたくなるような事案だったが、マシュやロマニ、そし
りする。元一般人である六花からしてみれば﹁せめて一言くらいあっ
ても
﹂だとか﹁我
﹂だとか叫ぶわけにもいかず、
て生き残ったカルデアスタッフたちの目の前で﹁サモン
が呼び声に応じいでよ、サーヴァント
凄い魔力値だ
﹄
これはもしかしたらすごいのが来るかも
!
せ目の前の召喚サークルからは三重の金の輪が展開され、回転し、猛
﹂
﹂
烈な光を放っていたからだ。
﹁ま、眩しいです先輩⋮⋮
﹁ごめんそれは僕も一緒⋮⋮
!
つ、現れた。
しかし││││
⋮⋮⋮⋮え
﹂
?
きたっ
﹂
天高く巻き起こり、そして煙った召喚サークルにゆらりと人影が一
二人仲良く手を翳し、目を細める。やがて光は臨界点を迎えたのか
!
⋮⋮⋮⋮え
?
﹁⋮⋮
﹁やりましたね、先輩
!
!
4
今現在に至っていたりする。
﹃おっ
しれないよ藤丸君
!
すごいの、確かに来るかもしれない。そう六花は確かに思った。何
!
!
!
!
!
その人影を望み、喜びの声を上げるも次の瞬間二人の声は呆けたも
のとなる。だがそれも当然だ。なにせ煙の晴れた、確かに先程まで人
﹂
影が認められた召喚サークル内には人影一つ見当たらず、誰もいな
﹂
確かに先程は影が⋮⋮
かったのだから。
﹁そ、そんな
﹁ろ、ロマンっ、ヒルへ
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
こちらも既に補足している
・
・
確かにサーヴァントは召喚
・
・
・
・
・
二 人 と も 気 を つ け て まだサーヴ
﹄
!!
サシンであろうと六花は当たりをつけた。
﹂
!?
藤丸君、後ろだ
正確な位置は補足出来ますか
今やって││││ッ
﹄
無く、であるならば必然的に召喚されたのは︻気配遮断︼をもったア
はかなり殺風景な様相をしている。隠れられるところなどほとんど
二人は壁を背後に、あたりを見回す。召喚サークルのある召喚部屋
ている。
ら、いつでもサーヴァントを呼び出せるように令呪の起動準備に入っ
トとしての鎧を纏い、盾を構えた。六花もまたマシュの後に控えなが
その言葉に、二人の肩がが跳ね上がる。マシュはデミ・サーヴァン
ァントはその部屋の中にいる
!
されている。それはこちらで観測した霊力値で明らかだし、なにより
﹃こちらも状況は把握しているよ⋮⋮
!
!
!
!?
﹂
があり、人影どころか物一つなかった。
﹁敵影、補足出来ません⋮⋮
確かにそこに反応が⋮⋮
!
!?
ヒュ、と風を切る音が聞こえた。そして感じる、気配。
そして幻視する。死神の鎌を。
その場にしゃがみ、頭を下げる。
突っ込まれたかのような寒気を感じ取った。そして己が勘を頼りに、
ロマニが焦った様子で言う。その刹那、六花はまるで背中に氷柱を
﹃そんな馬鹿な
﹄
何一つ見当たらない。数メートル先には白いよくあるカルデアの壁
?
!?
5
!
!
﹁ドクター
﹃待って
!?
!
││││え と六花は反射的に振り向いていた。だがそこには
!
﹁ほぅ、今のを感じるか。思いの外やるのぅ、坊主﹂
聞こえてきた声は、何処か飄々とした声だった。だけど何処か浮世
離れしていて、不思議な渋みがある声だ。
視界を上げる。そこには妖しく煌めく一振りの日本刀を片手にキ
セルをふかす一人の男がいた。後頭部から金色に帯びた白髪と黒髪
が双重に重なりほぼ水平に伸びて先端が結われている特徴的な髪型
をしていて、服は青を基調とした和服を纏っている。また狐のような
﹂
動物の毛皮を襟巻にしていて、その男のシルエットを際立たせてい
た。
﹁先輩ッ
﹁おうおう、そういきり立つなって嬢ちゃん。ちょっとした悪戯みた
いなものじゃろうが﹂
﹁い、悪戯⋮⋮﹂
六花は反芻する。あれは確実に殺す気だった、と。
﹁なぁに青い顔してやがる。ほれっ、坊主。嬢ちゃんの前だ。さっさ
﹂
と立って男気見せんかい﹂
﹁うわっ、とと
シュ。雰囲気は完全に対極だ。
﹄
陰陽師か
サーヴァント君
﹂
なんじゃあ面妖な。お主は何者じゃ
﹃あのー⋮⋮そろそろいいかい
﹁⋮⋮ぬ
﹃いや、僕らは魔術師だよ﹄
﹁ほぅ魔術師、か。⋮⋮で、なんじゃそれは
﹂
?
?
なものだ﹄
⋮⋮。まあ、簡単な話西洋版の陰陽師⋮⋮いや呪術師かな
のよう
﹃えっ、と⋮⋮い、今は時間押してるから細かいところは後にするけど
?
?
?
愉 快 げ に 笑 う 男 と 疲 れ た 様 子 で ガ ッ ク リ と 肩 を 落 と す 六 花 と マ
た感じである。緊張が抜けた、とも言うのか。
程までの死と隣り合わせの雰囲気と今の落差に這う這うの体と言っ
襟首を捕まれ、ぐっと無理やり立ち上がらせる六花。二人とも、先
!?
?
6
!
?
﹂
ふむ。と男が唸る。そしてややあってから﹁おお、そういえば﹂と
ポンと手を打って。
﹁坊主。お前、名はなんという
﹁⋮⋮え、ぁ、⋮⋮えっと、僕は藤丸六花、です﹂
﹁六花か。良い名前じゃ。さて、であるならばワシも名乗らなければ
のぅ⋮⋮﹂
数秒、言葉を探すように目を積むる男。そして瞼を見開くと、ニヤ
ワシこそは悪名高き常夜を統べる魑魅魍魎の主、奴良組が
リと口元に笑みを浮かべて、言った。
﹁聞け
初代総大将、ぬらりひょん
﹂
7
?
特別じゃ、坊主。お前をワシのマスターとやらに認めてやろう
!
!
!